Column/Interview

WDsoundsは2004年に設立された東京のレーベル。オーナーの澤田政嗣はハードコアバンド・PAYBACK BOYSのヴォーカリスト名義のLil MERCY, あるいはラッパー名義のJ.COLUMBUSとしての活動でも知られる。この多面的な顔を持つレーベルオーナーのもと、WDsoundsはハードコアパンク、ヒップホップ、MIX CDなど様々な音源をリリースしてきた。約20年の長きに渡り東京の地下を掘り起こしてきた偉大なレーベルがリリースした名作は数知れない。今回は、筆者が選んだWDsounds並びに関連レーベルからリリースされた音源をいくつか紹介したい。
Text by リョーシ (https://twitter.com/ryoc417)

INGLORIOUS BASTARDS 『INGLORIOUS LP

本作はレーベルとしてはPresidents Heightsからリリースされたものの、WDsoundsとは切っても切れない非常に重要な作品のためピックアップ。CIAZOO, MEDULLA, RAMB CAMP, ACE aka 少年A, BOOTYらがメンバーとして名を連ねるInglorious Bastards(作品への参加は無いがROCKASENもメンバー)は、2011年時点では先を行きすぎていたのかもしれない。筆者も当時聴いて「何者なのか分からない。でもヤバい」と感じたことを覚えているし、この唐突に表れる大集団こそHIPHOPの持つ大きな魅力の一つだと思う。10年経った現在でも色褪せることなく異端の輝きを放ち続ける男たちの世界を是非体感してほしい。
「戦わなきゃだめらしい 俺たちが正しいってことを分からせるには」

TONOSAPIENS 『PRESIDENTS HEIGHTS

CIAZOOのTONOSAPIENSによるソロ作は、現在のWDsoundsを語る上で決して避けては通れない作品だ。それは参加メンバーを見れば明らかだろう。先に紹介したInglorious Bastardsのメンバーや、D.U.O. Tokyo, YUKSTA-ILL, KING104, KNZZ, SPERB, RUMI, YAS I AM, MUTA, そしてYOUNG MASON。各地の仲間たちとTONOSAPIENSの作る「Bird Funk」の世界に身を委ねてみては如何だろうか。スペーシーな浮遊感とアゲにヤられること間違いなし。

YAS I AM 『LIVE THE LIFE』

北海道で長く活動するMCの初ソロアルバムは地元の仲間たちと作り上げられた。決して派手さは無いが鈍く光るいぶし銀のアルバムで、「これぞまさにHIPHOPだ!」と膝を打ちたくなる。HIPHOPの核をしっかり捉えた教科書のような1枚。過去の素晴らしい音楽をただの焼き直しではなく現代版にアップデートして提示することの大切さを思い知らされる。DJ YO-HEIとのタッグ作”THE JOINT”も併せてチェックして欲しい。

FEBB 『THE SEASON』

FEBBの作品は全てチェック推奨だが、WDsoundsからリリースされた1stアルバムはまさにクラシックと呼ぶに相応しい1枚。ラップ、トラック、アートワークどれを取っても非の打ち所がない完璧な作品。これは完全に私見だが、今後『THE SEASON』を超える日本のHIPHOP作品が出てくることを筆者は想像出来ない。そう思わされるほど隙が無い。かつてCURREN$Yなどを手掛けたBRIAN CIDによるマスタリングも素晴らしい。是非CDやレコードなどフィジカルでも手に取って、より良い音で聴いてみて欲しい。これが日本のHIPHOPの一つの到達点。断言出来る。

ERA 『3 WORDS MY WORLD』

WDsoundsのオーナー・J.Columbusと共にハードコアパンクバンド・WIZ OWN BLISSのボーカルを務めていたERAの1stアルバムは、自身が所属するD.U.O. Tokyoの仲間と共にGolby SoundやSeminishukei, Presidents Heightsのバックアップを受けてWDsoundsからリリースされた。レイドバックしたようなメロウでサイケデリックなトラックと、街の風景を切り取って描写したようなERAのラップは究極のフッドミュージックとして成立。日本のHIPHOPにおいても大きなマイルストーンだったように感じる。日常において、時にはアゲて、時には寄り添ってくれる。そんな音楽。

STRUGGLE FOR PRIDE 『WE STRUGGLE FOR ALL OUR PRIDE』

東京を代表するハードコアパンクバンド・STRUGGLE FOR PRIDE待望の実に12年ぶりとなる2ndアルバムはAWDR/LR2とWDsoundsからの共同リリース。多くのアーティスト達と共に作り上げられた本作は、まさに「東京」を体現したかのような内容。愛と怒りに満ちている。BUSHMINDやDJ HIGHSCHOOLのトラック、カヒミ・カリィによるBILLY JOELのカバー、下北沢からDRUNK BIRDSのナンバー、FEBBのラップ。そしてDISC2にはECDのシャウトから始まるSFPのライブ。全てを包み込んだ紛れもないハードコアパンクのアルバム。筆者にとっても、多くの人にとっても大切なこの1枚を是非聴いてほしい。

GRIM TALKERS 『GRIM TALKERS』


サンプラーアーティスト・BLAHMUZIKとノイズアーティスト・Guilty C.によるユニットの初作品。WDsoundsとGSR!から2013年に共同リリースされた。本作は轟音のノイズが鳴り響くアヴァンギャルドな楽曲も収録されているものの、そこにはビートも鳴り、アンビエントミュージックとしても機能する心地良さがある。筆者も初めて聴いたノイズミュージックがこの作品だったが、今でも忘れ難い名作である。両者の鳴らす音の洪水と向き合ってみれば、確実に素晴らしい音楽体験が待っている。

D.O.D. 『Digital Dope Bombing Arrests』

正直に白状すると、筆者にはこの作品を上手く説明できるだけの知識と語彙力が無い。ただ、これほどまでに異質な作品を紹介しないわけにはいかない。BUSHMIND, DJ PK, TONOにより構成される「PARTYを終わらせない男達の集団」(オフィシャルレビューより抜粋)のEPはとにかく「速い悪い危ない」の三拍子。HIPHOP, TECHNO, GABBA, ACID, HARDCOREなどのジャンルを飲み込んだコレを聴いて、とにかく踊り狂うこと推奨。

CRACKS BROTHERS 『STRAIGHT RAWLIN’ EP』

本作以前にADAMS CAMPのREMIXアルバムで初めてのヴァースを蹴っていたものの、FEBBがラッパーとして本格的に頭角を現したのは本作だろう。FEBBは当時(多分)17歳。SPERBが2011年に立ち上げたCRACKS BROTHERSから届けられたこのEPで、FEBBのラップは既にズバ抜けたセンスを見せつける。FEBBが作るトラックも当時の若さからは想像できないほど完成されており、SPERBと共に新たな東京のHIPHOPの始まりを高らかに宣言した、今回の中でも最重要クラスの作品。

V.A 『5014COMPMOSTWANTED』

WDsounds初のコンピレーションアルバムは、当時MEGA-GやRUMI, 仙人掌などの作品リリースで話題を集めていたクラウドファンディング型のアルバムリリース企画・Creative Platformのシリーズとしてリリースされた。そのプロジェクト開始時にアナウンスされた楽曲はMONJU vs BBH “SPACE BROTHERS”というWDsoundsにしかなし得ない3on3だった。筆者も当時これでもかというくらいアガった仕上がりだったのを覚えている。BBHの3人が紡ぐサイケデリックなトラックにMONJUのソリッドなラップという組み合わせに興奮を禁じ得ない。他にもalled (BLYY)のトラックにCENJUやCAMPY & HEMPY, AYATOLLAHのトラックに仙人掌、MASS-HOLEのトラックにB.D.など、他では起こり得ない化学反応の数々。そして、のちにリリースされたREMIX版のアルバムではtofubeatsやBLAHMUZIK, RAMZAなど錚々たるメンツがリミキサーとして参加している。こちらもまたとんでもない作品だ。WDsoundsだけが実現し得る組み合わせの妙を是非体験して欲しい。

DJ HOLIDAY 『TUNES FOR RUDE BOY VINNIE 2』

Mix CDというフォーマットは素晴らしいカルチャーだと個人的に思う。DJだけでなくMCやハードコアバンドのメンバーが普段聴いている音楽や好きな音楽を詰め込んだCDには、そのMixを作った人の人柄や個性が見えてくる。そして個人的には、好きなアーティストの好きな音楽を知ることが出来るというのは、リスナーによるアーティストの追体験として凄く嬉しいことだ。SFPのボーカルであるDJ HOLIDAYのセレクトする音楽たちは間違いなくgood music。更にそこにはメロウネスだけではなくタフネスが同居する。だから心地良さの中にも、どこかヒリヒリとした緊張感を感じる。WDsoundsだけでなくSeminishukei, MidNightMeal, RC Slumといった他の名門レーベルも大切にしている、Mix CDというカルチャーを是非体感して欲しい。

WOLF24 『PRESIDENTS’ WOLF』


HUNGRY TOWNのWOLF24による初めてリリースされたMix CDは、個人的にとても思い入れの深い作品だ。それというのも、現在は閉店してしまった池袋BEDで奇数月に開催されていたイベント・New Decadeで初めてWOLF24のDJを聴いた時、本当に素晴らしくてMixの発売を心待ちにしていたから。遂に発売された本作も、内容は期待通り。温かく心地良いラヴァーズやダブが詰め込まれたオールシーズンフィットするコチラは、是非一家に1枚欲しいところ。

いかがだろうか。今回紹介した作品以外にも、WDsoundsからリリースされたものや、WDsoundsのサポートを受けて制作されたものの中に名作は多数ある。また本記事では紹介しなかったが、Seminshukei, MidNightMeal, RC Slum, DOGEAR RECORDSなどの関連作品もWDsoundsとは縁深いものばかりなので是非チェックして欲しい。拙文ではあるが、このテキストが読者にとってWDsoundsの世界に触れるきっかけになれば幸いだ。

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2022/03/20
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