Column/Interview

PRKS9ではちょうど1年前となる2022年3月14日に、当時『FR FR』のリリースを翌週に控えていたWatsonにインタビューを実施した。既に”DOROBO”のMVや03-Performanceでの”シェンロン”のパフォーマンスを始め、そのリリックのフレッシュさから各所で話題になり始めていたWatson。その当然の帰結かのように、それからの1年間でWatsonは全く別の場所に登って行った。3月28日現在、”18K”のMVは117万再生、”reoccurring dream”のMVに至っては311万再生を記録。各地でのイベントにも毎週のように登場、客演すれば強烈なヴァースで話題になるなど、特に2022年後半からは日本で最も勢いあるラッパーとなっている。たった1年で環境の変わったWatson。前回のインタビューと比べたとき、本人の心境や周りの状況はどう変わったのか。前回のインタビュアーを務めたLilPri, そしてPRKS9から遼 the CPを交えて話を聞いた。

Lil Pri:
2022年3月にインタビューしてからもう1年ですか。あの頃は色々な野心を語って頂きましたが、それから1年の間に全く景色も変わったと思います。夢の実現度でいうといまどれくらいですか?

Watson:
まだまだ50%くらいですね。もっとやらなあかんなと思ってます。ちょっと名前出てきからも、常に「ここで止まったらそのまま終わってまうな」って思いがあります。今の良い状態…みんなが見てくれてる状態を維持すること自体もこれまでなかったプレッシャーとしてありますし。

遼 the CP:
今の状態だからこそのプレッシャーがある?

Watson:
そうですね、まだまだここで頑張らなあかんなって、新しいプレッシャーは感じますよ。どこまでいっても満足してへんからこそやとは思いますけどね。漫画とかでもよく見るじゃないですか、ちょっと成功したら慢心してそのまま落ちていって…みたいな。自分がそうなったら寂しいなって思いはありますし、これはこれで大変ですよ。

Lil Pri:
前回のインタビューのときは「1日に2曲作ってる」ってエピソードもありました。ライブも客演もどんどん増えてきたいま、制作状況はどんなふうになりましたか?

Watson:
前は毎日作ってましたけど、今はライブのときはインプットやって振り切ってます。ちゃんとその場を盛り上げる、自分が楽しむことに全力で。その結果がまた歌詞に還ってきたりもするんで。曲作りのときにライブでの景色がバーッて出てきて歌詞になったりするんですよ。今は忙しくなりましたけど、週に1-2日とかは制作にも時間を使えてるんで。歌詞自体はどこにおっても書けるように最近なりましたね。

その辺は経験と、自分の良いとこちゃうかなって思ってます。経験積んでくれば制作時間も確保出来るようになりますし、自分は「ほんまにあったことを自分なりの解釈で歌う」ってスタンスやから、地方のイベントで何かあればそれを書けるっていう。でも同時に、それでも歌詞が同じような感じになってきたらどうしようっては考えてます。そうならないようになんかあるんか、それはずっと考えてます。

Lil Pri:
スキルも『18k』の頃と比べると更に進化してるから、もう何とでも出来るような気もしますけどね。

遼 the CP:
スキルについては意識して積み上げたものと無意識に上がってたもの、どっちが大きいですか?

Watson:
意識して変わった部分は…あんまないかもしれないっすね(笑) 意識せん中でも気付いたらカッコ良くハメれるようになってた感じです。場数かもしんないすけど、特に「これをこうハメたらカッコ良い」とか、なんか理論的に理解してやってる訳ではなくて。

でも、常にチャレンジしてるからかもしれないですね。俺はUKとかUSのラップを聴くときも、ぶっちゃけ英語は分かんないんですよ。それはそうなんで、リズムとか発声の部分を集中して聴いてます。それで最初は自分には合わへんと思うようなものでも「ああ、こうやって発声してるんや」って理解して挑戦してみるとか。その辺のチャレンジは常にしてます。そこはちょっと意識してやってたかもしれません。

Lil Pri:
SATORU “Drill Flow feat. Watson”でのフロウとかほんと凄いですもんね。

Watson:
あれはまさに、ハマったから使ってる感じかもしれないですね。あんまUK Drillでダダダッていくフロウの人、あんまいなくないですか?それでやってみた感じですね。でも、最近は、ちょっとメロウなハメ方もええかなって思ってきてます。

Lil Pri:
前回のインタビューで、UK Drillだけをやってくと言うよりは、今のフロウはそこにハマるからやってるって話もありましたもんね。

Watson:
そうですね、やっぱりハメやすいし作りやすいので。単純ですけど、カッコ良い曲が出来たら嬉しいじゃないですか。今だって曲作ってたらイマイチなのが出来ることも全然あるんですよ。そんな中でUK Drillやと良い曲が出来やすい、っていうのは続ける理由になります。

遼 the CP:
去年どんどんブレイクしていく中で、どの辺で「俺かなりキてるな」って気付いたタイミングとかありましたか?

Watson:
いやー、それは徐々にですね。徐々に徐々に上がってきてるなって感覚で。でも、一番自信が付いたのは、自分がずっと聴いてたようなラッパーの人らからラップを褒められるようになった時でしたね。前回のインタビューのときも言ってましたけど、それまでは周りの友達が褒めてくれるくらいで…それも嬉しいんですけど、そりゃ友達やから褒めてくれるよなくらいやったんで。今は…別に誰が言ってくれたとかは言わないですけど、結構言ってもらえるようになって、それが自信にはなってますね。

でも…逆に言うとちょっと謙虚さが抜けてきたかもしんないですね。良くも悪くも「自分のラップが良いのはそりゃそうやろ」みたいに思う部分も最近は出てきたんで、ちょっと気を付けてるっす。

遼 the CP:
昔と過去のスキル差という話で言えば、『Pose1』の頃のMVとかはいま非公開ですもんね。

Watson:
スキルのフェーズが変わったっていうのもありますし、やっぱ自分で見れない…もう嫌って思っちゃうんで、消しちゃいましたね。

遼 the CP:
暮らしぶりとかどう変わりました?

Watson:
それはマジで変わりましたよ。楽できるようになったし、ちょうど昨日ベンツ買いました。納車はまだ先なんですけど、ベンツのAMGですね。ちょうど車が壊れちゃったタイミングやって、何買うかな思ってたら「ベンツ買えるやん」みたいな。そのとき「あ、ほんまにこうなるんや」って思いました。こういうのを思い描いてきて頑張ってきましたけど、今ならみんなに言えますね、「お前らも買えるんやぞ!」って。

でも、やっぱさっきも言った通り不安はありますからね。ポンといった奴はポンと落ちるんちゃうかなとかいうプレッシャーはやっぱりあって…でも「俺はそうならへん、そういうタイプちゃう」っていう自信も同時にあるんですけどね。それだけやってきたと思ってるし。

Lil Pri:
安定はしてない、動き続けなきゃいけない職業ではありますもんね。

Watson:
でも、もちろんライブもありますけど、曲を作り続けてさえいれば大丈夫やって思いはありますね。それがなんでなんかは上手く言えないんですけど…やることやってればちゃんと付いてくると思えるというか。それで言うと曲もかなり溜まってるんで、聴かせたいのもいっぱいありますね。でも、気楽にいきますよ。最近は気分が乗ってるときに作る曲ほど良い曲になるっていうのも分かってきた。感情や実際にあったことをそのまま歌うタイプやから、そういうテンションに引っ張られて良いのが出来るみたいな。だから制作も、前みたいにとにかく毎日作る、みたいなステージから、良い状態のときにちゃんと作るみたいな方向になってます。もちろん毎日とにかく作ることで出来上がる良い曲もあるんですけどね。

Lil Pri:
毎日作り続けた積み上げがあってこそ、そういう「良い状態のときに作り切る」みたいなやり方が出来るようになるんですもんね、きっと。

Watson:
そうですね。それでちゃんとやり続ければベンツ買えるようになるわけで。俺の場合昔なら「田舎のガキがベンツ買ってやる」みたいなリリックを歌ってたのが、そのまま次は「ベンツ買ったぞ」ってリリックで歌えるようになるのが、結構強いポイントやなとも思います。でも、金の不安がなくなったらなくなったなりのペインが出てきたってのはありますけどね。

遼 the CP:
成功ゆえのペイン…どんなものですか?

Watson:
ファンが家の前で出待ちしてるとか…いや、そういうのは全然かわいいんで良いんですけど。うーん…あんまり詳しくは言えないんで曲聴いてくれたらそれも全部言ってますんで、曲聴いてください(笑) でも、要はなんでも「金目当てなんちゃうか」みたいな疑念が出てくるみたいなことですね。色んな人がいきなり来るようになってきて、信用出来るんか出来へんのかとか…あんま言われへんけど、そんな感じのペインですね。

あとは曲でも言ったりしてますけど、家族に会えんくなってきたこととかもですね。金を送って少しは贅沢してもらってるんやけど、逆に全然会う時間がないみたいな。正直言えば、俺自身は会えんでも寂しいみたいな感情はまだ全然ないんですけど、一般的な考えではやっぱペインのひとつでもあるやろなって。

遼 the CP:
ご家族の話で言うと、前回のインタビューでは「おかんはまだ認めてくれてないけど最近ちょっと態度も変わってきた、ラップでおかんに楽させたいですね」という主旨の話もありました。そのあたりはいまいかがですか?

Watson:
まだ家とか車を買えるレベルの贅沢はさせれてないんで、まだまだ道半ばやなって感じですね。でも最近は逆に「仕送りまだ?」って聞かれるようになりました(笑) まだってなに?みたいな(笑)

Lil Pri:
でもそれは、逆に言えば仕事としてのラップを信用してくれたからってのはありますよね。

Watson:
そうですね。だから「仕事しろって言われてたけどいま親より稼いでる金」的なリリックも曲に出てきたりしますけど、その辺は自信が付いたからこそかなって。おかんも、地元で騒がれたりして知るようになったんやと思いますよ。

Lil Pri:
徳島の地元ではかなりWatsonさんの名前が知られてきている?

Watson:
そうですね…弟の学校でめっちゃ聴かれてるとか。地元で子供からみんな聴くみたいな感じにはなってますね。でも、そうなったけど…全然これからなんで。気は抜けてないですね。逆にプレッシャーになってくる部分もあるし…街歩いとっても「この人ら俺のこと知っとるんちゃうか」って常に見られてる気がするというか。それこそ歯医者とか病院行ったときに「この人が俺のこと知ってたら嫌やな」みたいな…知ってる人に虫歯とか見られたないじゃないですか。その意味でも気が抜けんくなってきて、昼飯でもなんでも、ひとりで外に行けんようになってきましたね。

遼 the CP:
色んなプレッシャーがありつつもステージが変わった中、今の目標とかはあったりするんですか?

Watson:
色々ありますけど、外国を見据えたいなって思ってますね…タイとか、日本文化に一定馴染があるところとかで。あとは、次にミックステープじゃなくてフルアルバムが出る予定なんですけど、それを機にワンマンライブはしたいなと思ってます。

Lil Pri:
アルバム、来ましたね。それで言うと、これまでWatsonさんはひとりでインデペンデントに動く形ですが、どこかのレーベルとか、そういうところに行く可能性はあるんですか?

Watson:
自分がどっかに入るっていうよりは、いま自分のレーベル的なん立ち上げるかって動いてます。それこそ地元の(“Young Gun feat. Watson”などで共演してきた)Lucyとかと…。俺、徳島の地元にスタジオ立てたんですよ。そこで地元の子らとかが通ってるんで、その子らと一緒に上がっていきたいなって。まだ誰とやるかとかは全然決めてないですけど。

俺はここまでは自分で来れちゃったんで、ここから先を人に任せても、これまでの収益とかから誰にどんくらい抜かれてるかとか、全部わかっちゃうんで。それなら自分で回した方がええんかなって、今は思ってます。もちろん、デカいとことかに入れば、みんなで協力して何か大きいこと出来るとか、そういうのはあるんかもしれないですね。

Lil Pri:
それで言うと、こないだインスタで「(KOWICHIの主宰レーベルである)SELF MADE in 札幌!」みたいなこと書いてませんでしたっけ?

Watson:
あれは全然その場のノリです(笑) 俺が札幌の空港におったらたまたまKOWICHIさんもおってお互い「これからどこ行くん?」みたいな。KOWICHIさんがそれをインスタに上げてくれはったんで、自分も載せさせて頂いて。何か協力して動いてるとかではないですね。

Lil Pri:
いまは「チームWatson」を作るべく動くと。まだ全然決めてないと思いますが、地元の仲間で言うと例えば誰がいらっしゃるんですか?

Watson:
いっぱいいますけど、これまでも一緒にやってきてるsmileyとか、まだ一緒に曲やったことないけどLrving (lil irving)くんとか。みんな同い年くらいですね。あと大阪からも、マネジメント周りのこと含めてふたりくらい来てくれたり。年下とかも全然歓迎ですけど…でもやっぱ怖いって気持ちは分かるんで、無理に来いとかないです。やっぱ怖いじゃないですか、徳島で、ラップに懸けてやるぞって決意してくるの。でもそのスタジオを好きに使ってもらえたらみたいな。自分はこれまでの環境とか慣れもあるんで宅録でやることが多いんですけど、気分を変えるためにスタジオも結構行ったりとかしますね。

遼 the CP:
さっき話に出たアルバムは、現時点で明らかに出来る情報ってありますか?

Watson:
言える範囲では…何月に出るかは調整して決めます。プロデュースは全部Koshyくんがやってくれてます。客演は…これは言えないすね、良い感じなんで楽しみにしてて下さい。「え、この人とやるんや!」みたいな人もいるんで、待ってて下さい。

遼 the CP:
最近共演が多いYoung zettonさんとはどんな感じですか?

Watson:
やっぱゼットンくんは関西いるんで合うタイミングは中々ないんですけど。でも一緒にライブ出ることもあれば、最近出来てへんけどお互い会ったときにガッて制作したり、って感じですね。『BRIGHT FUTURE』(2023年)とかは京都おるときに2日で作りました。正確にはあとから2曲くらいは作り変えたりしましたけど。

Lil Pri:
おふたりの曲で言うと、”2023″のHOOKとかヤバいですよね。さっきも話した、”ASOBI (REMIX)”以降の、最近のカマしモードで。

Watson:
あれカッコ良いですよね、自分も好きっす。でも…今年は逆にちょっと出しすぎたかなって感じもありますね。溜まってたもんを2023年にポンポン出してきてるんで。アルバムの出すタイミング含め、ちゃんと考えてやっていきたいですね。

Lil Pri:
アルバムをKoshyさんと作る、っていうのはもう、これまでの経験から彼しかいないって感じだったんですか?

Watson:
あくまでビートは他の方のを使ったりもしてるんですけど、トータルプロデュースをやってくれてる感じですね。そういうとこでも組める面白さとして、Koshyくんとのプロジェクトとしてやってます。あとはリリースのタイミングとか情報の出し方とか、そういう部分の…フィクサー的なことも一部やってくれたりもします。まずはシングルから出してMVも公開して…待ってて下さい。あとはアルバムとは別にも色々仕掛けてて、03-Performanceとかからも色々出たりする予定です。

Lil Pri:
最近Watsonさんぽいラップが増えてきた印象もありますが、いかがですか?

Watson:
あー、確かにおるっすね。でも、全然ありやと思います。俺も最初は誰かの真似から始めましたし、そこから自分のオリジナルを作れるかやと思うんで。ちょっと前は真似されると嫌やなって時期もありましたけど、今では俺がオリジナルやってみんなも分かってるんで、そういうのもなくなりました。自分がパイオニア的な感じでおるっていうのも、ほんまにそんなことになるんやっていう良い驚きはありますね。

逆にそういうタイプのラッパーが増えてきたことで、俺も自分のラップを際立たせなあかんなってなってます。前までは使ってたかもしれんような表現とかも、「あかんこんなん誰でも言えるわ」みたいに没にすることも多くなりました。ひとつ道を拓いたことで、逆に考えることも多くなった気はしますね。

Lil Pri:
去年はラップスタア誕生も応募してましたが、今回のラップスタアにはそもそも応募してない?

Watson:
してないです。単純に忙しくなったんで、中途半端なもん出して「なんで出てん」って言われるようなことになるくらいやったら、いま目の前のことに集中しよって感じですね。応募しなかったこと自体にそこまでの意味はないです。番組自体はめっちゃ楽しんで見てますよ。

Lil Pri:
このインタビュー時点ではサイファー審査の結果が出たところですが、気になるラッパーとかいます?

Watson:
ラップスタア関係なく、前から気になって聴いてるのは7ちゃんですね。ラップスタアでもやっぱカッコ良いっすね。(7とタッグを組んでいるプロデューサーの)Homunculu$さんのビートもめっちゃ好きなんで。ラップスタアで言うと7推しですかね。でもそれ以外もほんまレベル高くて、「すご」みたいな、毎回思いますよ。自分も頑張らなあかんなって思わされます。

Lil Pri:
交流関係も広くなっていく中で、最近特に仲が深まったアーティストなどいますか?

Watson:
Choppa CaponeとRK Bene Babyとかはもちろんやし…あとペドロくん(Pedro the God Son)とかも、名古屋行ったらいつもめっちゃよくしてくれます。でも、ほんとみなさん会ったらよくしてくれます、ありがたいっす。

逆に純粋なファンの子とかもいてくれてて、そういう子のこととかも覚えるようになってきました。実はこれから出る曲ではリリックにも出てきたりしますね。喜んでくれたらええかなみたいな(笑) 純粋なファンの方はほんとにありがたいっすね。

Lil Pri:
最近の曲で「これは特によく出来たな」みたいなのはありますか?

Watson:
いや、あるんですけど…まだ出てない曲なんですよね。常にそうなんですけど、自分にとってもう出た曲は大事なんですけど、同時に既に古い曲でもあるんで。だから大体まだ出てない曲が一番ヤバいみたいな感じですし、自分の中ではそれでいいと思ってます。

でもあえて言うなら、”18k”と”DOROBO”は自分の中で沁みた曲ではありますね。「こんなん他に誰が歌えんねん」みたいな。でも、自分の中ではヤバいと思ってましたけど、当時はそれが世の中的にどう評価されるんかは分かってなかった。でも結果的にはバチーンいきましたね。自分の中で出来た時の衝撃って意味では印象的です。でも、今はそれを超えると思える曲がたくさんあるんで。まだまだいけると思います。

遼 the CP:
ありがとうございました。

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2023/03/28
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