Column/Interview

はじめに:
PRKS9では2022年の日本のHIPHOPを彩った作品を、NEW TIDE部門と全作品を対象とする部門(全対象部門)の2回に分けて発表する。発表作品数は各部門15作品、計30作品。今回は全対象部門の発表となる。全対象部門は、NEW TIDE対象のアーティスト以外の全員が対象となっている。

こうして部門を2つに分ける理由は、ひとえに多くの素晴らしい作品を多くのリスナーに届けたいとの思いからだ。素晴らしい才能たちが新たに登場する中、年間ベストを選出する段になって、枠の都合で彼らの席が有名アーティストとの食い合いで減ることは避けたい。かと言って主要なアーティストの作品を削り取るのも、その年の大きな流れを切り取るにあたって画竜点睛を欠く。その為両者が打ち消し合わないよう、両部門を分け、15作品ずつを紹介する形としたものだ。なおこれは重要なことだが、NEW TIDEと全対象の両部門は上下関係にあるものではない。またランキングではないので、ALBUM OF THE YEARに選出する1作を除いて、紹介順などは順位を意味しない。

▶NEW TIDEに選出したベスト15作品はこちら

対象基準:
これまでに(今回発表のものを含め)2枚以上のアルバムを発表している or 4枚以上のEPを発表しているアーティストの作品。ジョイント名義のものは、両アーティストを合わせ目安として2枚以上のフルアルバムが出ていればこちらクルーからのソロ作の場合、クルー作品も過去作としてカウントし判断する。
(EPの定義は4曲以上8曲未満の楽曲集とする)
ただし初の作品ではあるものの、これまでに客演などで実質的な知名度を積み上げているアーティストの作品など、実質的にNEW TIDEではなく全対象が望ましいと思われる場合は定性的に判断している。

選出アーティストプレイリスト:

Colte & Gerardparman 『PERFECT ZOMBIES』

eydenのデビューEPやサイプレス上野とロベルト吉野の新作といった話題で始まった2022年1月にあって、その初速でシーンを勢い付けた快作。20歳を迎えたラッパー・ColteとビートメイカーのGerardparman。共に北九州の両者によるタッグ作は、UK Drillや2000年代回帰といった、その後の2022年の動向を既に凝縮した面白みに溢れている。冒頭曲の”ZOMBIE PLAY”からしてセンスのあるネタ使いで始まり、以降もGerardparmanのセンスが冴え渡る。”Club Talk”などは繰り返されるビートチェンジがラッパーのセンスに挑戦する仕上がりだが、Colteと客演の9forが共に軽やかに乗りこなす。この曲然り、アルバムのコンセプトが極限までシンプルなのも奏功。「ひたすらセルフボーストと草ネタ」と割り切ることでアルバムの走力は最後まで落ちず、聴き手をビートとラップの絡みに集中させてくれる。課題を限定したことは9for以外の客演陣にもポジティブな効果をもたらしている。2022年の活躍が際立ったT-STONEとの”Ring”での仕事は、ライムのあえての外しどころまで含め完璧。ベゲfastman人からYoung MaconとMaijiを迎えた”We are the MELO”に至ってはアルバムテーマとベゲの得意領域が完全にマッチしており悪いはずもなく。メンフィス調の”MY ROOM”や、ラストのレゲトンとDrillを組み込んだような”Net enough”まで含め、音のバラエティとリリックの一貫性がとにかく楽しく聴きやすい。正月明けの耳に「今年のHIPHOPも楽しくなる」と確信させてくれた、2022年の推進剤。

T-STONE『Type-1 Diabetes』

ここ最近のHIPHOPシーンにおいて顕著な2000年代HIPHOPへの回帰/オマージュに加え、現在の四国地方 a.k.a. 4th Coast勢力の面白さを同時にパッケージした、サイズも中身も贅沢なビッグアルバム。前者の意味合いではHOOKとヴァースのシームレスな展開が奏功したメロディアスな”Grow Up”などソロ曲でも存在感を示す。中でもZEEBRAを客演に呼んでまさかの”結婚の理想と現実” (ZEEBRA『BASED ON A TRUE STORY』(2000年)収録)を2022年時点の現状で再演する”DonDaDa”はあらゆる意味で重要だろう。本作の文脈的な意味合いとしてはもちろん、昨今色々あったZEEBRAの心情がフットプリントとして楽曲に残った意義も大きい。とはいえY2Kリバイバルの要素は本作において重要な背骨でありつつも、Deluxe版において強化されたのは明らかに四国推しの側面だ。T-STONEへのリスペクトを兼ねてから公言していたWatsonとの”STAR”のド真ん中感も頼もしいし、”IDNFF”ではG:nt & Riinという、四国のEmo Rap勢筆頭の2人に即したフィールドを用意。SKRYUとの”YOLO四国”においては、導入のSKITから丁寧に繋いだ上で、曲の持つ自覚的なチャラさに対し、作品的に丁寧な繋ぎを仕掛けているなど随所でバランス感も光る。2000年代回帰と四国シーンの提示、両面を23歳のアーティストがやり切ってしまうことに対する頼もしさ。Disryら偉大なパイセンも牽引する四国シーンを再提示して見せた好作だろう。様々な形態で暗躍し続けるGergio Blaise Givvnがフルプロデュースクレジットされているのもポイントだ。

ジャパニーズマゲニーズ『TRIP MASTER2』

JAGGLAと孫GONGによるユニークかつハードコアなデュオの2作目。清々しいくらい自分に正直なHIPHOPが味わえる、関西の気が良くて程よくヤカラなHIPHOPだ。とにかく「いかに巻くか」だけを突き詰めるところからラップが始まるストーナースタイル。そのテーマからの派生形としてバッキンザデイものやメロウチューンが混じる、クサを前提として成り立つ仕様となっている。CHOUJIとの”2021″などでも、これまでの半生をメロディアスに振り返るスタートを見せながら、気を抜くとすぐ「ファック大麻取締法」などの欲望に忠実なワードが飛び込んでくる。それだけで15曲60分のアルバムが仕上がってしまうのだから、その熱量、すなわちカロリーたるや凄まじい。参加する客演陣も同じ価値観を共有(意味深)する面々が揃うが、実はレーベルやクルー、あるいは出身地単位で参加曲を丁寧に仕分けており、何気に各人がベストパフォーマンスを出せる配慮が為されている。17人もの外部参加がありながらごった煮感がなく、かつジャパニーズマゲニーズがしっかり主軸に立っているあたりのバランス感は、鷹揚なラップスタイルとは裏腹に、実は職人気質な仕事ぶりを感じさせる。神戸から阿修羅MICとSNEEZEを招いた”Blue Berry”, 大阪のKoh, JASSとの”Up To The Sky”など客演が光る楽曲も多い。要はジャパニーズマゲニーズのアルバムとして成立しつつ、日本のストーナーラップの勢力図が一覧出来るアルバムとしても機能している。その意味で、実は2022年のアーカイブとして、しっかり15曲使ってやる意味のある作品でもある。日本でもオマージュを捧げる頻度が飛躍的に増えてきたDIPSET賛歌”Smoke Like a Dipset”などでY2Kリバイバルの流れも取り込んでおり、パワースタイルの裏で実は様々な要素を上手く取り込んでいる作品。

ShowyRENZO『2022』

2020年頃よりKAMISU GANGやShowyの形態で既に名を上げていたShowyRENZO。それこそ昨年時点でSEEDAやBLAISE, Awichといった数世代上のアーティストとも共演済であり、ソロアルバムも2作をリリースしていた。しかしラップスタア誕生への出演を機に知名度が上がった中、2022年早々に放たれたこの3rdアルバムこそが、多くのリスナーにとっての名刺代わりとなったことだろう。相方のShowyVICTORと併せ、とにかく時流をセンス良く切り取ることに長けたその才能が光る好作となった。”Sonic”や”Jimmy Choo”といったUSの文脈を上手く切り取った楽曲が揃うすぐ横で、”がんばれ/小っちゃい部屋”のような、日本のアニメ文化を組み込んだポップな仕事までソツなくこなすあたりはさすが(ちなみに”がんばれ”は、一時期SoundCloudにロングバージョンがあった気もする。記憶違い?)。LEXやHezron, ShowyVICTORといった同世代の客演陣との足並みも揃っており、ミックステープ的な位置付けも多かった過去作から、明確にアルバムとしてのクオリティは上がった。

TWIGY『RAP ATTACK』

YOU THE ROCK☆とO.N.O然りill-bosstinoとdj honda然り、ここ数年のベテラン勢の盛り上がりには北海道の地が重要な役目を果たしているが、TWIGYの本格復帰作もまた、北海道のdj hondaのスタジオに籠って作り上げた強靭なアルバムに。「ラップで何がどこまでやれるか見せる」ことを突き詰めた本作のコンセプトは、そのままTWIGYのラッパーとしてのスタミナを計る圧力となって跳ね返ってくる訳だが、見事に己との勝負に打ち勝って見せたアルバムだ。冒頭の”CIRCUS”やリードシングル”RAPATTACK”あたりの迫力はMICROPHONE PAGER第2章の頃に近いラップスタイルで、かつハードコアに攻め切ってくれたことにありがたみすら感じる。他方で言いたいことが詰まりに詰まっている”D.I.S”や、”WOKE AF”ではTOKONA-XやD.L, febbといった面々へのシャウトアウト、それに裏打ちされた想いなども含まれており、自分事の勝負ではなく、シーンを俯瞰する立場になったからこその面白みも感じられる。ラストの”CLASSIC feat. Zeebra/RINO”でも期待通りの仕上げを(3人とも)見せてくれるし、リスナーがいま求めるTWIGY(&ベテラン勢)の姿に100%応えきってくれた作品ではないか。齢50を超えて逃げも隠れもせず、己のラップスキルのみで2022年を戦ってくれたことに感謝したい。

ID『B1』

シカゴハウスやUKガラージの大胆な導入という意味では年末にもSUMMER SUNOWMANのKVVGLVによる『Saped Canvas』という素晴らしい作品があったが、それと双璧を成すのがIDの実質2ndアルバムとなる本作だ(2019年リリースの『INSTANT DOPE 10000ft』を1stアルバムとしてカウント)。そもそも2021年3月にリリースした”Gangsta Walk”からしてリードシングルとして期待を煽るにパーフェクトな出来だった訳で、反面そのハードルを越えるため、アルバムリリースまで相応の準備期間を費やしたことも納得。自身のクリエイティブチーム・National hot Lineとの綿密な作業も各所で伺われる。”Gangsta Walk”とそれをアッパーに再構成したような”Fortune”の流れも綺麗だし、”o3″と”stance”の繋ぎに至っては完全にクラブ仕様のシームレスな繋ぎを意識しており、これが曲調と相まって非常に心地良い。それは本作がクラブハウスでの空気感をパッケージすることに意識的なことと無関係ではない。アルバムが進むごとにヴァーチャルなクラブもその顔を変えるさまは見事。とかく四つ打ちに振った前半戦が強烈なのでここがピックアップされがちだが、オーセンティックなTrapに流れる”DIP!”以降や、なんなら”UP”のようなネオBoom Bapまでひとつの作品で違和感なく収まっている凄まじさ。KVGGLV『Saped Canvas』やe5 “Mine”を持ち出すことで更に明らかになる通り、日本のHIPHOPは独自の文脈で2022年にハウスビートの勃興に到達した。USでBeyonceを横目で眺めて走っていたからでなく、日本のシーンとして独立して相応の速度が出た訳で、そのことは、もっともっと日本の音楽業界から称賛されるべきことだと思う。

BONSAI RECORDS『BONSAI RAGGA』

大阪の老舗名門レーベルが放った、特殊な磁場を形成する大阪のBoom Bapシーンを理解する為の重要作。大阪Boom Bapの特徴はレゲエのDNAを(いわゆるラガホップとも異なるバランス感で)受け継いだところにある。それは現在最前線で人気を誇るTEN’S UNIQUEに至るまで続いている訳だが、本作はそのDNAに焦点を当て、過去曲を中心にレゲエREMIXした試み。レーベルの首謀・DJ AKが近年の曲を中心にピックアップし、これでもかと大ネタを大盤振る舞いしてコテコテのラガ仕様に仕立てあげている。これが驚くほど元曲と相性が良く、オリジナルと錯覚するほど。影響の多寡はあれど、大阪Boom Bapのスタイルの奥底に、レゲエのDNAがしっかり刻まれていることを再確認出来る。SALAMULAIとC-L-C (ex. Coe-La-Canth)による”Still 58″やSOMAJI “Head bang”, そしてTEN’S UNIQUE “Dash feat. BEAR B”などは、彼らのラップの中のラガフレイヴァな部分が上手く香り立つ形に調理されており見事。他にも茂千代、Hr. Sticko, YOSHIDA-Kといったベテラン勢から、1LAW, JAMS ONEといった新鋭までが垣根なく参加し全体で良いバイブスを醸成しているのも大阪シーン的で心地良い。この磁場の魅力は常々伝えているところではあるが、日本で最もオリジナルかつ特殊なHIPHOPの形が根付いた地域ではないだろうか。本作はそのルーツと面白みを伝える作品としても最適かもしれない。

Tohji『t-mix』

前年のLoota, Brodinskiとの傑作『KUUGA』がPRKS9が2021年に選ぶALBUM of the YEARとなったTohjiだが、2022年も全く別方向で素晴らしい作品を届けてくれた。自分が育った何もない郊外の高速を、「爆音で浜崎あゆみを鳴らす車が駆け抜けていく」光景をひとつのインスピレーションとして制作された本作(但しその影響だけではないことも本人は付言している)。特にユーロビート/トランスの空気を浜崎あゆみ作品に全注入した『ayu-mi-x』シリーズのバイブスをそこかしこに感じさせる作風は、Y2Kリバイバルとトレンドの更新を容易に両立させてしまった。その意味でMechatokとの”ULTRA RARE”やbanboxとの”Super Ocean Man”あたりがヒットするのは物凄く分かるというか、ヒットを数字面で下支えしたのは間違いなくユース層であろう一方、(しっかりTohjiをチェックしているような)口うるさい30代リスナーのエモーションもバッチリ刺激し回収してしまうあたりにこのアーティストの懐の深さが見える。終盤のセルフプロデュースの”ねるねるねるね”, Mechatokとの”UFO”ではきっちりここ最近のアンビエントシフトな自身の位置を再提示するなど、「ayu-mi-xオマージュ」みたいな安易なカテゴライズから徹底してはみ出すあたりもTohjiらしい。本作はミクステシリーズの第1弾との位置づけ。リスナーとしては、ぜひ2023年に第2弾が聴けることを期待したいところ。

AFJB『AFJB』

正直本作がALBUM of the YEARでも全然良い、素晴らしい傑作。奈良発3人組ロックバンド・Age Factoryとクリエイティブクルー・Creative Drug Storeに所属、Rave Racersも主宰するJUBEEによる超新星爆発的なユニットだ。元々Dragon AshやTHE MAD CAPSULE MARKETSへのリスペクトを公言するJUBEEや、HIPHOP畑でのプロデュースワークも多岐に渡る西口直人/nerdwitchkomugichanも擁するAge Factory, そしてAge Factory “AXL”へのJUBEEの客演参加など、布石はあちこちにあった両者。本作はこれまた2000年代リバイバルを強く意識させる作品となっており、意図的に前述のミクスチャーバンドたちの影響を全面に押し出し、その上でAFJBとしてのオリジナルを獲得しようとする、非常に勇気の必要な試みをやり切っている(だから彼らの1曲ごとの挑戦には感動がある)。”DENGEKI feat. kZm”でJUBEEの第一声が響いた瞬間にもう勝負は決まった感すらあるカッコ良さ。その後も、もうこれは誰が聴いてもDragon Ashの偉業にチャレンジしていると分かる”Bad Morning”や、往年のハードミクスチャーにチャレンジする”GOD”, “SCKOOL”など、オマージュとオリジナルのせめぎ合いがとにかく熱い曲が満載。要はAFJB単騎で2000年代のバンドたち全部に戦いを挑んでいるようなもので、彼らのミクスチャーに対する想いがこれでもかと伝わってくる。トレンドは一切無視したと公言する潔さや良し。これが刺さる人間にきちんと届くことがとにかく大切な作品。

SANTAWORLDVIEW『I’M THE ONE』

冒頭の”REQUIEM”でKoshyのプロデューサータグがいきなり3度繰り返されることに象徴される通り、2022年におけるベストプロデューサー2人・Yammie ZimerとKoshyのうち後者の貢献を代表する作品がこれだ。1%と契約しての初作となるこのアルバムで、SANTAWORLDVIEWは明確にUSの最前線と同じ速度で走って見せた。本作の核となるデトロイトシーンのHIPHOPの踏襲はSANTAWORLDVIEWではなくKoshyが持ち込んだもので、実はSANTAWORLDVIEWは全く追っていなかったのだとか。鋭敏なビートメイカー(あるいはたまたま出会ったビート)にインスパイアされラッパーが一気に最前線に立つというのはかねてよりHIPHOPにおいてよくある事象だが、本作においては両者の相性がバッチリ。代表的なのはやはり”DMT”。この曲の切れ味が本作のすべてを表していると言っても良い。ここから”I’M THE ONE”, “TRAPUSSY”, “I DO feat. Only U”くらいまでの前半戦の迫力は、特に楽しく勢いが途切れない。そこから徐々にスロウダウンさせていき、様々な面で刺激を貰ったというHIBRID ENTERTAINMENTからLYTOを招いた”CHASE”で締めるまでの流れも構成としてプロフェッショナル。オープンなアーティストスタンスと裏腹に、SANTAWORLDVIEWが如何にアルバムという作品形態、そしてHIPHOPに対し真摯か伝わる好作だろう。

CHICO CARLITO『Sandra’s Son』

元々良いラッパーだったが、フリースタイルダンジョンでの脚光、それゆえの不安定な時期などを乗り越えマイクを握り直した2ndアルバムは素晴らしい内容に。2017年に1stアルバム『Carlito’s Way』をリリースしてから5年ぶりとなる本作。そもそも2018年のillmore “Compass feat. CHICO CARLITO”の時点で不安定な環境と心情、それをラップの魅力として仕上げきる力量を見せていた訳で、そんなステータスから本作を完成させるまでに要した気力と苦労は察するに余りある。それだけにやり切った本作はラッパーとして数段レベルアップした内容に仕上がっており、克己心、コミュニティへの意識、家族への想いが上滑りではない、力強いリリックで表現されている。冒頭の”23時30分”はいわゆるillmore “Compass”的なところからの心情を丹念に拾い上げており胸が締め付けられる。ゆえに次の”Ryukyu Style feat. CHOUJI & 柊人”で不安を振り切って地元を上げに行く流れが感動的になる、構造的な整理も効いている。逆に終盤でこのあたりの心象風景をあえて振り返る構成も見事で、ラスト2曲の”Never Go Back”, “Sandra’s Son”がきっちり本作のハイライトになっている。この2曲についてはもうとにかく聴いてくれというか、CHICO CARLITOの想いを曲以外で記してスポイルするのは申し訳なく思う。名曲。HIPHOPは往々にして文脈に根差した魅力を放つが、本作はその典型だろう。戻ってきたCHICO CARLITOが嘘偽りなく、丹念に言葉を紡ぐことでしか成し得ない音楽が完成している。カムバック作としてアルバム形態にする意味のある作品だ。本作以降の楽曲も客演仕事を含めてどれも素晴らしく、このキャリア層のラッパーではいま最も注目すべき存在ですらある。

Awich『Queendom』

メジャー移籍後初のフルアルバムは「Awichとは誰か」を総覧出来る力作となった。元々『Partition』(2020年)の時点でメジャー移籍が成功であることを端的に示して見せたAwich。本作は前作で理解したメジャーの力学とストリートのそれをフルに掛け合わせた内容となっている。”口に出して”, “どれにしようかな”, “GILA GILA”といったリードシングル群が軒並みバイラルヒットするあたりもさすがだし、前者2曲が比較的なライトなノリであった中、MVとして次に”Queendom”を公開して本作がどうやってここに或るのかをズシンと示すあたり、ヘッズの心を捉える展開戦略的な上手さも目立った。そうした音楽やマーケット面での攻め方、双方合わせた戦力として今のシーンを誰が治めているのかをきっちり示して見せたと言える。”Follow Me”のような歌モノもきっちり挟みつつ、自身の楽曲のオマージュにも位置付けられる”Revenge”といったメロディアスな楽曲が並ぶ。かと思えばその後きっちり”Link Up feat. KEIJU, ¥ellow Bucks”でストリートアンセムを狙うなど、など持ち球の数も幅広くスキがない。個人的には”やっちまいな”の客演仕事でひとりだけ隠すことないヤカラ感をメジャー作品にぶっこんで来たANARCHYに拍手。

ゆるふわギャング『GAMA』

実に4年ぶりとなる3rdアルバムは、このグループにおけるAutomaticの重要性が改めて示された気もする。前作『Mars Ice House II』以降もRyan Hemsworthとの『CIRCUS CIRCUS』(2019年)や、ヘンタイカメラ、YOU THE ROCK☆との『GOA』(2020年)、そしてSALU, NORIKIYO, estra, KOYANMUSICとのクルー・SHINKAN1000など予測出来ない動きを続け、その度にフレッシュな驚きをもたらしてくれたゆるふわギャング。今回もナカコーとの”Step”のビートを完璧にラップのグルーヴと調和させるあたりは近年のトランス界隈での研鑽が実ったものにも思えるし、逆にU-LEEが手掛けた”Yng Yang”, EstraとKOYANMUSICの共作である”MADRASS NIGHT PART 2 feat. 鎮座DOPENESS”(SHINKAN1000の作品からの続編)あたりのハードな顔を覗かせるゆるふわも、ここ数年の活動とリンク。その意味でRyugo Ishida x NENEの4年の軌跡はきっちり作品にパッケージされており、いきおいあとはここにAutomaticが何を上積み出来るかという話になる訳だが、そこはさすがの手腕。2021年にHIPHOPプロデューサーのありざまを再定義する傑作『MALUS』を放った彼のもとで、2MCのラップが輝いている。ナカコーとの”Step”に続く”E-CAN-Z”, “Moeru”は完全にギアの上げ方を心得た俯瞰的な視点が光るし、インタールード”Talking GAMA”を挟んで一気にEstraやU-LEEらが一気にハーコーサイドに傾けた”LAV”~”MADRASS NIGHT PART 2″の流れを受け継いでは”Drug”でテンションとタフネスを持続させたまま中盤パートを締め、続く間奏”Interlude –Everest-“にきっちり繋ぐ。その後の公判パートはきっちり2MCのテンションもスロウダウンさせながらパーティーを終わりに近づけ”Let’s Go”のあえてオーセンティックなTrapで自身の仕事を終え、アルバムを締め括るHOLLY製の扇情的な”Tomodachi”に手綱を渡す。NENEとRyugo Ishidaの時点で十分に魅力的なクルーだが、やはりAutomaticがガッツリ入ると強度が数倍跳ね上がる。このクルーの底力を示した19曲だ。

妖水『壺 盅』

2021年時のL X I T V I名義から妖水に名を変えた2ndフルアルバム。なお現在は更に名義を変え、六道妖水として活動している。とにかくTrillLen時代から考えるとコンスタントに作品が出てるだけでありがたい訳で、本作の3か月後にも3rdアルバム『牙 牢 兒 咼』をリリースしている。1stアルバム『聖 霊 愚 幽』(2021年)の頃から日本の情景にPhonkをベースとしたホラーコア要素を注入するのがとにかくフレッシュなアーティストだが、前作が「日本における不安な風景」を時代性を特定せず描ききっていたのに対し、本作舞台の現代性を強く想起させる内容になった(それはこのアートワークや”咀嚼蝕旋律”などでのチップビート要素からも察せられる)。こうした要素が凝縮されたのが”家畜人ヤプー”だ。妖水らしい批評性をリリックに連ねながら、普通の団地の情景が一気に不気味に変換される。冒頭の謎の声ネタの語りも導入として完璧。続く”鈍ら裂傷”以降はさらに空間が歪んでいき、カウベルの鳴り方もバグったテンションになっていくさまがスリリング。そのままアルバムの最後まで一気に駆け抜けるので、聴き終わった後は割と精神的に独特な状態まで達することさえ出来る、場合によっては危険なアルバムに仕上がった。あまりにアンダーレイテッドな現行シーンでの扱いはいかがなものかと毎度ながら思うアーティスト。冒頭の”パターン形成”のMVを見るだけでもその才能は分かるはずだ…と思ったら現在非公開になっていた。それもまた妖水から目が離せない理由のひとつ。

ALBUM of the YEAR:
¥ellow Bucks 『Ride 4 Life (Deluxe)』

地元をレップするMCはいる。特定の時代のHIPHOPスタイルをレップするMCもいる。しかし、両者の点と点を結び、その上で現代的なアップデートを果たして見せることが出来たならどうだろう。それもレジェンドと仲間を同時に起用しながら、だ。それが出来ているのが本作であり、既にこの時点で¥ellow Bucksは満点だ。近年続く2000年代への回帰現象はHIPHOPにおいても同様で、KMの2021年の傑作『EVERYTHING INSIDE』や、今年ならAFJB『AFJB』なども明確にこの線上にある。両者が2000年代のミクスチャーシーンというジャンル軸で切り取った素晴らしい作品であったのに対し、¥ellow Bucksは地域軸でそれを示して見せた。2000年代の東海HIPHOP, 別名エリア052。現在「ヤングトウカイテイオー」を名乗る¥ellow Bucksだが、そのあざなの大元こそはTOKONA-Xであり、彼が活動していたのが「052」のシーンだった。本作は¥ellow Bucksが、そのあざなを自身に冠し、逮捕も経ながら見事な成功を果たした今だからこそ作ることの出来る、見事な凱旋アルバムになっている。DJ PMXやDJ RYOWといった2000年代からの重鎮に加え、自身のチーム・ToTheTopGangから参加したTeeとSLICKを含む、全プロデューサーが全力で052サウンドをオマージュ&アップデート。当時の西海岸スタイルを独自のブレンドで再解釈した052サウンドが、なんなら”In Da Club”に象徴されるように、TeeとSLICKにこそ色濃く伝わっているのがまた面白い。客演陣もMaRiやJP THE WAVYといった盟友はもちろん、CITY-ACEやSOCKS, Kalasy Nikoffといった地元のパイセンもブレンド。Two-JやMoNa a.k.a. SadGirlまで駆けつける贅沢ぶりだ。偉大な名古屋のOG・Mr. OZの”O Five Two”からメロディとビートを、そして”G.U.N ~GANXSTAZ UNUSEFULL NACK~”からリリックをオマージュした”You Made Me”などは歴史と今を繋げて、最高峰のMCが現代に再提示する形としてあまりに見事。「あの頃」と「いま」を、HIPHOPを通じて最大限に音と文脈で繋げて見せる。これは30年以上の歴史と、シーンを培ってきた先人たち、そしてその末に登場した誇り高きニュースター、この三拍子が揃うことで初めて可能になる奇跡だ。外堀を完璧に仕立てることにより、エリア052はここに見事再興された。頼もしい帝王を迎えて。

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2023/01/22
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