Column/Interview

はじめに:
PRKS9では2022年の日本のHIPHOPを彩った作品を、NEW TIDE部門と全部門の2回に分けて発表する。発表作品数は各部門15作品、計30作品。今回はNEW TIDEの発表となる。

NEW TIDEは乱暴に言ってしまえば新人を対象とした部門だ。厳密には「新人」だけを対象にするものではないが(対象条件は後述)、まだ作品数の多くない、今後の活躍が期待されるアーティストを取り上げるものとなる。全部門については、NEW TIDE対象のアーティスト以外の全員が対象となっている。

こうして部門を2つに分ける理由は、ひとえに多くの素晴らしい作品を多くのリスナーに届けたいとの思いからだ。素晴らしい才能たちが新たに登場する中、年間ベストを選出する段になって、枠の都合で彼らの席が有名アーティストとの食い合いで減ることは避けたい。かと言って主要なアーティストの作品を削り取るのも、その年の大きな流れを切り取るにあたって画竜点睛を欠く。その為両者が打ち消し合わないよう、両部門を分け、15作品ずつを紹介する形としたものだ。なおこれは重要なことだが、NEW TIDEと全対象の両部門は上下関係にあるものではない。人によっては全部門のどの作品よりも刺激的なNEW TIDE作品だって多数あるに違いない。2021年にフレッシュな刺激を与えてくれた、珠玉の15作品に改めて感謝を。まだ聴いていないものがあれば是非この機会に触れて欲しい。なお、ランキングではないので、紹介順は順位を意味しない。

NEW TIDE対象:
配信ストア上でリリース済の作品が1stフルアルバム or 3枚目以下のEPのアーティストが対象。
(EPの定義は4曲以上8曲未満の楽曲集とする)
ただし同年内に2枚以上のアルバムをリリースしている場合や、過去に習作的なEPを数多くリリースしているが今回の作品が明らかにキャリアで重要な位置付けにある場合など、作品リリースペースが早くても実質的にNEW TIDE対象が望ましいと思われる場合は定性的に判断している。

選出アーティストプレイリスト:

ODE TRASH 『ヒーローコア』

Hyperpopが2020年に日本でも浸透し始め、2021年にはフレッシュなアーティストがこぞってHyperpopで己を表現する最盛期を迎えた。翻って2022年になるともはや飽和状態というか、Hyperpopに乗ることそれ自体は陳腐化リスクすら孕む状態になりつつあったと言える。無論「Hyperpopそのものがもう終わり」ということではなく、「乗った上で何を表現するのか」がかなり問われるレッドオーシャン化した。そんな状況にあって、本作はHyperpopに乗る必然性を、新鮮な解釈の基に提示して見せた素晴らしい作品だ。2作目のEPとなる本作で、ODE TRASHは「全員救うためのEP」として自らをヒーローに設定。HyperpopやGlitchを組み込みつつ、本人曰く要は「アニソン的なヴァイブス」を重視し作り上げた。結果として本作は、ODE TRASHがアニメ世界のヒーローとしてハイテンションにみんなを救う、その世界の土台としてHyperpopが機能し得るという、アルバムコンセプトとそのサウンドの意味が見事に組み合わさった作品となっている。冒頭の”テラテラ”はその世界観の導入として素晴らしい曲だし(今年のベストシングルのひとつでは?)、中盤の”シャイニングブレード”に至っては「ヒーローxアニソンxHyperpop」の図式が暴走し、ユーロビートの世界まで突入している。2022年のHyperpopを捉え直した批評性ある作品として楽しむも良し、純粋にアガるノリの作品として楽しむも良し。

Watson『FR FR』

2022年に一気にブレイクしたHIPHOPアーティストはWatsonを置いて他にいないだろう。2021年にリリースした『Pose 1』『thin gold chain』が今年になってじわじわとリスナーに浸透。手前味噌ながらPRKS9でのインタビュー、新興YouTubeチャンネル・03-Performanceへの出演、03-Performance自体のヒット…各要素が3-4月頃に集中して起こり、一気にシーンの耳目を集める存在となった。その只中、3月23日にリリースされた本作こそが、まさにWatsonのキャリアにおける分水嶺となる作品だ。ミックステープとして放たれた本作は、単純に彼のラップスキルの変遷パッケージした内容としても機能。”DOROBO”が明らかに『thin gold chain』以前の性質・ラップスタイルであるのに対し、”break bad”は本作以降顕著になった、UK Drillに対応する声質、フロウになったWatsonだ。過去と現在のスタイルがひとつの作品で混じり合いながらも、どちらの曲もMVとしてきっちりヒットしているあたりはさすが。「先輩庇ってももらえない約束のお金」(“DOROBO”), 「冷たい飯食うでも 熱いこと言う見ろ」(“break bad”)を始め、ワードプレイを駆使したリリックのユニークさ、それを裏打ちする実は相当に硬いライミングスキルについては今更触れる必要もないだろう。既に多くの同業者のリリックスタイルに影響を与えており、シーンにおいて完全に新たなリリックトレンドが始まりつつある。2023年の躍進も既に確約された存在。徳島からのニュースターがどこまで行くのか楽しみだ。

e5『Fairy egg』

嚩、ponikaとのクルー・Dr. Anonを脱退するなどキャリアにおけるひとつの選択があった2022年のe5。2人体制となったDr. Anon, e5, 結果的にはどちらも素晴らしい作品をリリースしてくれた1年となり、シーンにとって幸運だった。2nd EPとなる本作は、ポップで無邪気な遊び心があった前作と打って変わり、より自身の心象風景を具現化するような作品に仕上がった。それに伴い、客演も野崎りこん(彼のアルバムも素晴らしかった)のみに限定。かなり思索に耽ったであろう、e5の世界に必要最低限の要素だけで構成されている。その野崎りこんが参加した”Sea of memory”は、e5のソロ曲としてシングル版もリリースされているが、このシングル版、アルバム版が共に素晴らしい。儚げにスピットされる「どうせどうせで息を繋ぐ 愛せ愛せであの子が泣く 後世後世で他の宇宙 見つけ出して会うなんて笑える」、そんな世界観があまりに美しい。2022年を代表する名曲のひとつだろう。落ちるところまで落ちようとする”嫌”など、ダウナーな心情をよりストレートに歌った楽曲も存在する一方、そのストレスを音楽的な才能で昇華しきった”ITANJI”などどれも面白い。多感な心象風景と、それを見事な作品に組み上げてしまうセンス、スキルが同居している恐ろしさ。これをひとりで作り上げてしまえる才能はそういないのではないか。そのセンスは既に昨年の比にならない注目を集めつつあり、年末にはSpada, ascii, 釈迦坊主, e5という意外な繋がりでの楽曲も発表。2023年の更なる躍進にも期待が掛かる。

CFN MALIK『CAME FROM NOTHIN』

既に2023年の話をしてしまうと、横須賀勢の活躍はもはや既定路線だろう。横浜、相模原、湘南、川崎と各フッドに分化が根付く神奈川県だが、CFN MALIKや本作にも客演するJellyyabashiらが、新たに地図を書き加えることになりそうだ。アトランタにもルーツを持つCFN MALIKは、そのバックグラウンドを色濃く受け継ぐHIPHOPを本作で展開。これまた地元仲間のTeeKayが大半のビートを手掛ける中、音数少なくオーセンティック、かつトリッピンなアトランタ式HIPHOPを貫徹する。ネタ使いがニヤリとくる”KICKIN HARD”がMV化もあって名刺代わりだが、続く”Got 2 Go”のダウナーでソリッドな仕上げあたりが真骨頂という感じも。神奈川の勢力図にあっていそうでいなかった直輸入感。こういうのは単発で目立つより、仲間と共に一勢力として面で攻めることでポジションが確立しやすい部分もあると思われ、その意味でも日本のシーンにひとつ新たな色が加わる契機かもしれない。このストイックでざらついたスタイルが日本のリスナーにどこまで受け入れられるか。横須賀勢の2023年の躍進は、何かを図る試金石になるかもしれない。

BHS Svve『ouroboros』

過去にyng muto nyng名義でも活動、EDWARD(我)とのジョイントEPなどもリリースしていた北海道のアーティストの、改名後初となるソロアルバム。本作の前から”Inferno”, “Closed-β feat. Lilniina”など素晴らしいシングルを連発していただけにコアヘッズがアルバムを待望していた存在だったが、蓋を開けてみればシングル群は一切アルバムに含まず、それでいて期待値を大幅に上回る素晴らしい作品となった(“Inferno”のみスクリュード版が収録)。客演には同郷のCVLTEからaviel kaeiやWhite Mask Skinのほか、e5が参加。とにかく客演陣の丁寧な使い方が素晴らしい。aviel kaeiはイントロにあたる”Ultimaxxx Chimera”から”Survive 4 U”の冒頭まで、1.3曲分くらい使って世界観を整えた上で仕事をさせてもらっており、さすがの迫力。ラストの”Search Engine”に参加したe5に至っては、彼女の得意な痛みと憂鬱、癒しと怒りが同居する世界を存分に発揮出来るフィールドを用意されている。いきおい彼女の仕事も素晴らしく、間違いなく名曲と言える出来に仕上がっている。他方で曲によっては小細工なしでBHS Svveがラップスキルで勝負を挑んでいるものもあり、その意味で”CPU Overload-過負荷-“や”BUSTDOWN011″などのストレートな楽曲も楽しい。2022年末には2ndアルバム『MMO』もリリースし、その制作ペースが勢いづいたことを感じさせる。何かひとつでもきっかけがあれば、2023年中のトップティア入りは間違いない存在だ。

FreekoyaBoiii&DNE『Talk Like Dat』

一気に勢いを増す福岡シーンより、メインエンジンであるクルー・PGSの二枚看板がEPをリリース。PGSは本人たちも「誰が所属してるのかよく分からない」大型コレクティブだが、本作やFreekoyaBoiii, DNE, J-BACKらメンバーが2022年にリリースした作品を聴けば、その実力は十分に伺えるだろう。ヒットを連発するFreekoyaBoiii&Yvngboi Pも含め、とにかく面白い作品の多かったPGS周辺だが、本作はその中でも彼らの原初的なルーツが垣間見える面白さがある。明らかに1990-2000年代のCash Money RecordsやGangsta Rapの音像を踏襲しており、その上で2人のバッドマナーHIPHOPが炸裂する内容となっている。このあたりはLil’YukichiやKaworuMFといった、「その手の信頼筋」の仕事が光る。5曲のコンパクトサイズの中で見事にY2Kリバイバル的なコンセプトを仕上げきっており、ラフファイトなラップスタイルと裏腹に、実は徹底的に無駄が削ぎ落されたアーティファクトだ。FreekoyaBoiii&Yvngboi Pが2021年にリリースした傑作のデラックス版『F’s Uppp 2 Deluxe』をド派手に打ち上げて耳目を集めたが、あちらが足し算的、マーケティング的に打って出た大作だったとすれば、本作は彼らのラップがどんな筋肉で出来ているのか、その姿を最もありのまま曝け出した作品。今後PGSを語る上では外せないEPだ。

7『7-11』

2021年より”マリファナ”、”SEX”とストレートすぎるシングル曲をリリースしてきた和歌山のMCの1st EP。アーティストネームも曲名もとにかくストレート(a.k.a. 検索泣かせ)だが、そのやりすぎなくらいの割り切りが、かえって特異な世界観を生んでいるラッパーでもある。本人いわくJ-Pop的な影響も多分にあるというメロディラインや局所的にキラキラに彩られたリリックが印象的な一方、大半のリリックで描かれるのは殺伐とした世界。”罰ゲーム feat. 炒炒”の「笑いあえるってとても幸せなこと、それを君に教えてもらったんだよ」と始まるHOOKの次に、いきなりヴァースが「ポケットに突っ込んでるマリファナ!!!!」と始まる歪さというか、終始にこやかだが目だけ笑ってないヤンキーと話してるときのような漠然とした緊張感・ひずみが、エンタメとして音楽にパッケージされている。その世界観をギリギリのバランスで成立させるべく、和歌山のプロデューサー・Homunculu$も奮迅。やりすぎな大ネタで作る”7色の小さな世界”や、一転デトロイトスタイルの”SEVEN ELEVEN (freestyle)”で無理くりアルバムをソリッドに締め切るあたりなど、さすがの仕事ぶり。7とHomunculu$の組み合わせが相性良いだけに、2023年にどのような発展形を見せてくれるのか、今から楽しみな存在。

hxpe trash『HXPE OR TRASH』

2022年も各メンバーが躍進を続け、遂にクルーとしてのアルバム制作もアナウンスされたXgang(クロスジヒトリ)。2022年もORIGAMIや₩, GNB AAlucarD, Yvng Patra, HAKU FiFTYらもそれぞれ素晴らしい作品をリリースしたが、ハイライトはhxpe trashの1st EPリリースだろう。クルーの一員でありながらも一時期戦線離脱していたが、本作をもって見事にカムバック。”ALL IS MINE feat. FORCE PAIN”など、休止前にリリースしていたシングルも素晴らしかっただけに、その勢いを殺さず本作が成り立っているのは嬉しい限り。クルーで唯一名古屋を拠点に動く若武者の、パンチライン巧者としての才能が存分に詰め込まれている。冒頭”LUCIFER”から「俺は生まれてこの方神を信じない、あの日賽銭箱に投げた5円玉が今を作ったと思うか?」など絶好調。Xgangの御旗でもあるTrap Metal然としたシャウトラップをルーツに持ちながらも、繊細なリリシズムと、それを聴かせるだけの小回りの利くラップスキルが随所で光る。盟友・FORCE PAINを招いた本作ハイライトとなる”三日月”でまさかの漢 “漢流の極論” (2005年)が引用されるなど、意外な仕掛けもバッチリ。hxpe trashのように叫べてリリックも刺せてラップの小回りも聴く、ユーティリティプレイヤーが大型クルーにいることは非常に大事な要素。このタイミングでの帰還を改めて祝いたい。

16『ツキトタイヨウ』

何度目かの最盛期を迎えた福岡のシーンにおいて、やや異なる文脈で登場した大集団・Deep Leaf。本作は同クルーから、16がソロ作品として放ったデビューアルバムだ。ANARCHYが率いるレーベル・THE NEVER SURRENDERS初の単独アーティストの作品として一定の責任を負う中で、見事にレーベルのクオリティを示して見せた。YENTOWNのDJ JAMが全曲をプロデュースする中、冒頭の”Alice in Wonderland”の幻想的なビートとHOOKの時点で期待に応えてくれている。客演としてDeep Leafも”for you”で駆け付けてくれているが、ここでもHOOKを担当とする16が一番目立つ仕様になっているのは、16のソロアルバムとして成立させるための丁寧なディレクションを感じさせる。ANARCHYは実際、16の「言葉の伝え方」についてかなり綿密にコミュニケーションしたらしく、作詞欄にも全曲ANARCHYの名前がクレジットされている。他にも”通知”や”逆さまの地球”、”月と太陽”など、言葉とメロディが…やはりHOOKを起点として印象的な楽曲が多い。Billie Eilishと「孤独」において共鳴するという16。それを詩とメロディで具現化する能力を備えた存在であり、ヴァースはもちろん、これから良質なHOOKメイカーとしての活躍も期待したいところ。

LeMu『LeMu TAPE』

FreekoyaBoiii&DNEに続き、こちらも盛り上がり続ける福岡からのニューカマー。冷静なラップで曲の全体を作るP¥TAとHappyの2人に、筋肉しか付いてないようなフィジカルラップで曲の外形を好き放題変えてしまうWill。このバランス感が織り成す緊張感がとにかく刺激的なクルーだ。2022年始に活動を始めたばかりだが、3人で初の楽曲”JAPANESE NINJA”を夏にリリースすると、Dex Filmzから公開されたMVとの合わせ技でいきなりバイラルヒット。このMVを見るだけでも3人のフォーメーションと、それゆえの魅力がよく分かる内容となっている。加えて03-Performanceから公開された”New Comer”も、(P¥TAとWillの2人参加ではあるが)同様の魅力と、彼らのライフスタイルが見えるワヤ感が伝わる映像に。従って、Dex Filmzと03-Performanceという、映像面でHIPHOPシーンを支えるチャンネルの力が上手くリスナーに伝わっての躍進とも言える。但し、この2曲の知名度が抜けている感はあるものの、実質LeMu初の曲であるという”Chusin”や、HappyのワンフレーズHOOKも強烈な”American Bus”など、アンダーグラウンド然としたダーティスタイルな楽曲の魅力も記しておきたい。既にクルーとしても、各ソロとしても2023年のプロジェクトが多数動き出しているようで、2023年中の躍進は間違いない。

Lypi Child『Love’s Asleep』

2022年のモスト・アンダーレイテッド枠のひとつ。2021年にHohzkiとのジョイントEPで登場した兵庫の19歳は、本作においてきっちりその実力を示して見せた。「別にHIPHOP」に拘ってないと話すLypi Childは、その言葉のバックグラウンドを感じさせるように、歌とラップを自由に行きかうことで、本作においてその才能を示している。”Nol limit”のようなオーセンティックなTrapを中盤に仕込む一方で、”Put up With Me”や”Drink juice”, “Nap”のように、Emo Rapのルーツを示す楽曲に印象的なメロディラインが多く、彼の特性を引き出している。その才能が意外な形で爆発するのが”Airplane”で、ここでは前述のメロディラインなどを最大限に活用すると共に、土台となるビートにHIPHOPファンが唸るネタをチョイス。恐らく無意識とは思うが、見事に過去と現在を繋ぐことで、SUMMITの上を飛ぼうとしている。既にCIRCUS OSAKAでのイベント・e.n.aでPeterparker69やLillie, kegønといった然るべき面々と共演するなど、気付いている地元のオーガナイザーが彼に適切なグラウンドを用意しているのは安心材料。あとはシーンが彼にどのように気付き、それを糧にLypi Childがどう羽ばたいていくか。マルチなスキルがあるだけに、良いプロデューサー/レーベルが色んな道をを示せば一気に跳ねる気もする、そんな存在。

大神『Prototype』

今年のベストプロデューサーはどう考えてもYamie ZimmerとKoshyだろう。後者がSANTAWAORLDVIEWやBFN TOKYODRILLとHIPHOPのフロントラインを押し広げる活動に熱心だったとすれば、Yamie Zimmerは横浜勢やXgnagの₩ら、アンダーグラウンドの才能を引き出すためにユニークなビートをこしらえ続けた1年だった。本作はその中でも、特に印象的なYamie Zimmerワークスが詰まった作品としてプッシュしたい。横浜勢でも大神とJ.Octoberという、まとまった音源が待ち望まれた2人が復活してくれた2022年。本作は大神のソロ曲を”Get Off”と”The Key”の2曲に絞っているが、明らかにこの2曲のノリだけ、客演を呼んだ他の曲と異なっている(制作時期の違い?)。それ以外の4曲こそが大神もYamie Zimmerも本領発揮で、特にヤミジマの引き算式のビートの面白さはSANTAWORLDVIEWを迎えた”Increase”, $MOKE OGとの”J&G”あたりで爆発。ビートのユニークネスでもって、ラッパー達のリリックとフロウも意識的に練り上げられる相乗効果が発揮されている(手癖で流す程度のラップじゃ秒でめくれてしまうのだろう)。Yamie Zimmerの周りの横浜勢は全員イケてる中、SANTAWAORLDVIEWやLeon Fanourakis以外の面々もポツポツとまとまった作品が出るようになってファンにはありがたい限り。J.Octoberの方は(Yamie Zimmerも参加しつつ)Noconocoのプロデュースがこれまた素晴らしいなど、ラッパーもプロデューサーも潤沢な同地。ぜひ2023年も刺激的な作品を期待したい。

Bonbero『Bandit』

夜猫族としての動きやラップスタア誕生への出演などで知名度を増すヤングスターも、まだ2枚目のEPリリースにつきNEW TIDEカテゴリにランクイン。前作は自主リリースだったが、方々での活躍あってリードシングルを含む本作は名門レーベル・Mary Joy Recordingsのディールに収まった。結果としてこれからのシーンを狙う存在に相応しい後方支援を受けた、隅々までリッチな作りになっており、舞台負けしない実力を披露しきった作品と言えるだろう。神は細部に宿る精神でMixやレコーディング環境の整い方を伺わせるものの、プロデュース陣はあくまで見知ったasciiやTAXONがメイン、客演はなしという強気仕様。それでも冒頭の”Bandit”や”Swervin”など、きっちり仕上げてくるあたりはさすが。地味にサッカーへの拘りというワードチョイスの微妙な偏り、ひいては縛りが、却ってリリックセンスに転嫁されているあたりも面白い。なおBonberoは各所でWatsonへのプロップスを表明しており、イベントでも共演。両者のリリックスタイルの因果関係等は計りようもないし本旨でもないが、2人のラッパーが共にユニークなワードプレイでブレイクしつつあるのは、今後の日本のシーンのトレンドを見据える上でも興味深いポイントだ。

AssToro『assimilation』

SoundCloud発、次にブレイクするアーティスト達を総覧出来る重要作。客演参加しているokudakun, e5, 8, inuは、いずれも界隈で今後の躍進が確実視されている面々。最小限の参加人数にして、2022年のSoundCloudシーンが持つ可能性を見事に切り取っている。なによりAssToro自身もそのひとりな訳で、いきおい彼らのフレッシュな感性がここにコンパイルされた見事な内容になっている。AssToroソロ曲としてもきっちりラップスキルを示す”act”や、逆にHyperpopとHIPHOPの間をメロディセンスで見事に架橋して見せる”初秋”, “Embrace me”など見事な楽曲が揃う。他方で個性立ちまくりの客演陣との楽曲においては、彼らの得意なフィールドを用意した上で見事にAssToro自身も目立って振り幅の広さを見せる。inuらしいビートスイッチが炸裂する”moonlightや”(ビートスイッチがプロデューサータグレベルに機能するのは彼くらいでは?)、これまた8らしいEmo Rapの延長戦を戦わせる”Missing luv”など、HIPHOPの概念を拡張することで生まれた才能たちの躍動を耳で感じることが出来る。2022年時点でのユースシーンを1枚の作品で示した、後年貴重なアーカイブとしても機能する作品だ。ちなみに8は2023年こそはSpotifyやApple Musicに音源投下してもらえると、リスナーとしては大変ありがたいところ。

kasane vavzed『Red』

AssToroのアルバムがSoundCloudからシーンの水面に浮上しつつある面々をウェルメイドに整理した作品だったとすれば、kasane vavzedの30曲入り100分のこの1stアルバムは、現在のSoundCloudの混沌をそのまま有料ストリーミングサービスのフィールドに持ち込んで見せた作品と言えるかもしれない。15人以上の客演が参加し、中にはBHS SvveやXENOといった、多少サンクラシーンを見知った方なら押さえている名前もあるが、他方で初めて耳にするアーティストも多い。他方でサンクラのアビスを閉じ込めたような構成の割に単体のアルバムとしてのまとまりが良いのは、ひとえにkasane vavzedのプロデュース力の賜物だろう。ボカロPとしての側面も持ち、オルタナティブロック、シューゲイザー、テクノ、イーサリアルと多面的な嗜好からHIPHOPに染み出してきた彼らしい、HIPHOPの外郭をプログレッシブに拡げようとする試みに溢れている。リリース後、PRKS9で取り上げるのはもちろん、先鋭的なメディアがこぞってプレイリストインを含めピックアップしていた本作だが、リストインする楽曲がメディア毎にバラバラだったのも興味深い。それだけカラーを一にしながら各曲のクオリティが高いことの証左だろう。MVを公開した”Flavin'”を聴くだけでも、その先進的な試みの面白さは伝わるはず。2023年は2ndアルバムに向けて動くとのことで、この1stアルバムを踏まえてどのような積み上げが為されるのか、今から楽しみにしたい。

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2023/01/03
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