Column/Interview

はじめに:
PRKS9では2021年の日本のHIPHOPを彩った作品を、NEW TIDE部門と全作品を対象とする部門(全対象部門)の2回に分けて発表する。発表作品数は各部門15作品、計30作品。今回は全対象部門の発表となる。全対象部門は、NEW TIDE対象のアーティスト以外の全員が対象となっている。

こうして部門を2つに分ける理由は、ひとえに多くの素晴らしい作品を多くのリスナーに届けたいとの思いからだ。素晴らしい才能たちが新たに登場する中、年間ベストを選出する段になって、枠の都合で彼らの席が有名アーティストとの食い合いで減ることは避けたい。かと言って主要なアーティストの作品を削り取るのも、その年の大きな流れを切り取るにあたって画竜点睛を欠く。その為両者が打ち消し合わないよう、両部門を分け、15作品ずつを紹介する形としたものだ。なおこれは重要なことだが、NEW TIDEと全対象の両部門は上下関係にあるものではない。またランキングではないので、ALBUM OF THE YEARに選出する1作を除いて、紹介順や各作品の付番は順位を意味しない

▶NEW TIDEに選出したベスト15作品はこちら

対象基準:
これまでに(今回発表のものを含め)2枚以上のアルバムを発表している or 4枚以上のEPを発表しているアーティストの作品。ジョイント名義のものは、両アーティストを合わせ目安として2枚以上のフルアルバムが出ていればこちらクルーからのソロ作の場合、クルー作品も過去作としてカウントし判断する。
(EPの定義は4曲以上8曲未満の楽曲集とする)
ただし初の作品ではあるものの、これまでに客演などで実質的な知名度を積み上げているアーティストの作品など、実質的にNEW TIDEではなく全対象が望ましいと思われる場合は定性的に判断している。

選出アーティストプレイリスト:

01 SILENT KILLA JOINT & dhrma『DAWN』

インタビュー

HIPHOPは何をドライブするのか。その答えが全て詰まった作品。淡路島出身のMCは約3年間の懲役ののち、「これが1stアルバムである」として本作を作り上げた。そこには服役中にアップデートした考え方、錆付かすことなく維持したラップスキル、実感した人の弱さと温かさ…彼が3年間大切に積み上げたものが惜しみなく投入されている。その所信表明の舞台に向け、彼の服役中から本作に向け準備を進めていたのが兵庫県加古川市のビートメイカー・dhrma。昨年最も活躍したビートメイカーの1人である彼が、ひときわ気合を入れて本作に臨んだことは明白。とにかく冒頭の”DAWN [intro]”で一発目のくぐもったキックが鳴った瞬間に誰でも気付くはずだ。「このビートメイカーはヤバい」と。このゾーンに入ったdhrmaがアルバムの質を数段階引き上げた。SILENT KILLA JOINT自身も「dhrmaのビートがヤバい」と、数曲のリリックで思いが漏れ出している(マスタリングを手掛けた塩田浩の功績も大きい)。当然よれたSILENT KILLA JOINTのラップもスモーキーで、こんなにローテンションなアンチバビロンものもないというくらい低血圧な”Smoke Mo”, 様々な思いが去来する中でメロディアスに仕上げた”Monday loop”(Kzyboostの仕事もさすが)など好曲が並ぶ。客演陣も絞りつつ効果的な配置。特にBES, MILES WORD, rkemishiが並び立った”FALLIN'”は、クレジットを見て期待する仕上がりズバリだろう。手癖でなく、自分のストラグルの為に絞り出した12曲。その全てにベストなビートが配置された、2021年のBoom Bapでも稀有な仕上がりだ。

02 KM『EVERYTHING INSIDE』

インタビュー

日本のHIPHOPの歴史の中でも、プロデューサー名義のアルバムとして屈指の作品。田我流、(sic)boyらとの共作を始めとした活躍の中で独自のビート観を確立。「ミクスチャーラップから受けた影響も隠さないで良い」とリミッターを解除、自分のレースを走ることを意識した結果、今やクレジットがなくとも「これはKMのビート」とリスナーが直感出来る。本作はそんな鋭敏な進化を遂げたKMのサウンドが14曲パッケージされている訳で、これが面白くない訳がない。序盤の”MYPPL feat. Daichi Yamamoto”や”Filter feat. JJJ & Campanella”までの盛り上げで既に素晴らしいが、”Distortion feat. 田我流”あたりからKMらしいディストーションや展開が加速。間違いなく今年を代表する名曲である”Stay feat. LEX”や、”What Is Love feat. Kvi Baba”あたりでその作家性が爆発する。恐ろしいのは、このKMの作家性の発露が、そのままラッパーたちの感情やラップを底上げする要素として機能していることだ。もちろんそうなるよう努めるのがプロデューサーの本来的な役割とは言え、実際にここまで高次元に成立させてしまうと感嘆するしかない。主にUKダンスミュージックのビート観を昇華したと思しき”Every Time feat. HNC & MANON”から”Nova feat. NTsKi”あたりまでの流れ、我が子へのメッセージをKM自身がマイクを握って伝える表題曲など全編隙なし。紛うことなき、2021年を代表する傑作だろう。

03 自動式『MALUS』

インタビュー

ゆるふわギャングのうち、NENEとRyugo Ishidaは2021年も客演やJODY, SHINKAN1000といったサイドプロジェクトで大活躍。だが、プロデューサーであるAutomaticがオルターエゴ・自動式として尖りに尖ったこのアルバムをリリースしていたことは見逃してはならない。フィジカルなアーティストでなくボーカロイドに歌を担わせた本作。日本のプロデューサーとしての独自性を求め、自動式はブルーオーシャンを目指した。出来上がったものは、HIPHOPを手掛けてきたこれまでのベースとなるサウンドの上に、ボカロ、ポップス、バンドサウンド、ドラムンベースなど、多種多様な音が混じり合った未知の世界だ。その上にボーカロイド・flowerの無機質な歌声が乗ることで、生的な存在・文脈からほとんど解き放たれた楽曲たちが躍動する。「HIPHOPという社会の外へ」を明確に意識したという本作は、安易なジャンル分けを拒み、確かに偉大な第一歩を踏み出している。1曲の中でまさに多様なビート観が展開する”GENE”や、HOOKのキャッチーさが癖になる”LUCY”など素晴らしい曲だらけ。2021年にこのような鋭敏な取り組みがあった。その事実を残すことの重要性においては、Tohji, Loota, Brodinski『KUUGA』と本作の2トップかも。

04 JNKMN『GOOD JUNKEE』

インタビュー

YENTOWNのリーダーの2作目は、前作『JNKMN NOW』(2020年2月)のリリースから数か月後には既に完成していたという。YENTOWNからDJ JAMとU-LEEの2人をプロデュースの軸に据え、「俺が伝えたいことはXXXXいっぱい欲しいってこと」をキーメッセージに17曲が並び立つ。これを基軸に、共に1%所属となったLeon FanourakisとSANTAWORLDVIEWを迎えた”あれも”, 歌詞を書くのが禁止のスタジオでフリースタイルで歌い上げた”U Can’t”, 「回すときの治安を守る」為の1曲である”PUFF PUFF PASS”など、ストーナーラップを突き詰めた内容が並ぶ。各曲でJNKMNらしいユーモアと、それを下支えする渋味がバランスを取れている。この傾向はラストの”GOOD JUNKEE”まで一貫しており、抜けの良いHOOKとバックコーラスで多幸感溢れるままアルバムは幕を閉じる。他方で享楽的なノリに振り切り過ぎないよう、”JNKMN NOW”のようにグランジ全開な直系のカッコ良さを突き刺すものから、ストーナー物でもプラトーな状態が退廃的な”UP”など、色彩も豊か。ストリートの色合いを濃く感じつつも、実は誰がどの角度から聴いても楽しめる、非常に開けたテイストのアルバムだ。

05 JP THE WAVY『WAVY TAPE 2 (DELUXE)』

ワイルドスピードシリーズ最新作への楽曲提供、モンスターエナジーとのスポンサー契約、TikTokへのCM曲提供など、とにかく露出の絶えなかったJP THE WAVY。3月に『WAVY TAPE 2』をリリースし、みんなが忘れ掛けてきた9月にこのDeluxe版を撃ち込んで引き戻すなど、とにかく商業的に正解を打つのが上手い。Deluxe版に持ち帰ったご褒美も気鋭のプロデューサー・Pulp.K製のビートにOnly UとYoung Cocoを迎えた”Pick N Choose (Remix)”や原曲のBenjazzyの代わりにLeon Fanourakissが参加した”Jet Lag (Remix)”など、曲のクオリティはもちろん、JP THE WAVYのリンクマンとしての巧みさも光る。ただやはり”WAVEBODY (Remix)”の威力が凄まじい。なんといってもLEXが吠えまくっており、後に続く\ellow Bucksがなんならちょっと引いた感じでヴァースを始めるあたりまで含めて完璧(その後のクールな盛り返しもさすが)。とにかく気持ち良いくらいビッグプロジェクトらしいビッグプロジェクト。あとはシーンとしてこういう気前の良いアルバムが年に数発、出来れば数十発くらいドカンと出る景気になればもう最高。

06 S-kaine『The Era of Drawing』

大阪の若武者は2021年もとにかく止まらなかった。ソロでのEP/アルバムは本作を含めて5枚、それ以外にシングルやサイドプロジェクトの参加、客演…。とりわけ賑やかだった2021年の大阪シーンだが、主だった作品が届いてみれば、大抵はS-kaineの低く唸るようなフロウが聴こえてきた気がする。そんな邁進する1年にあって、本作は明らかにキャリアのターニングポイントとして仕上げてきたであろう作品だ。プロデューサーには日本のBoom Bapシーンの重要人物が勢ぞろい。福岡からDJ GQ, 広島から1Co.INR, 海外からRasKassやEdo.Gの作品で知られるKULYA。関西ルーツの面々もdhrmaやMONEY JAH, GRADIS NICEと抜かりない(CD版限定でMASS-HOLEも参加)。地力のあるMCのもとにスキルドな面々が揃った以上、全曲隙なし。全編ド渋でヘッズがドカ喰いする特濃仕上げだが、まずはMV化された”Digital Knock”に触れない訳にはいかない。インダストリアルロックを再構築して、その上に何故かストリングスが合わさったような不思議なビートで、見たことのない世界観が現出している。改めてdhrmaの才能を垣間見た思いだ。その他もS-kaineのビートメイカー名義・Judaによる”残党2021″, Money Jah御大にセルフタイトルを任せたその名も”S-kaine”など、いま出来ることを120%やり切った力作。

07 LEX『LOGIC』

前作『LiFE』(2020年)が豪華な客演陣とウェルメイドな仕立てにより「LEX」というブランドをきっちり一段上のフェーズまで押し上げた作品だったとすれば、本作にはそこで見えた景色への喜びがハッキリと見て取れる。”GOLD”での決意表明が冒頭にあるのも当然意図的だろう。そしてこのステージまで連れてくるのは、主にいつもの仲間たち。Saru jr.Foolとの”NASA”, Hezronとの”Venus”など、超常的な「ここではない空間」で仲間を呼び込んで、とりわけ喜びが爆発しているのも偶然ではない。そうして自分の今の位置への喜びを噛み締め、決意を新たにすると共に、「愛」が加わることによって本作におけるLEXの要素が出揃う。これまた地元組・Shark kidとのRageものである”LASER”はもちろん、Kenayeboiとの”ちょーステキ”もLEXらしい愛の発露。かと思えば”Without You”や”ARE WE STILL FRIENDS?”のように、最近のSoundCloud音源で聴かせるような70-80年代ポップス、あるいはダンクラの流れを汲んだ歌モノでの展開も見せてきて色褪せない。そしてこれまでの全ての要素を組み合わせて最後にスパークする”MUSIC”は特に素晴らしく、ここにLEXのこれまでと、恐らくこれからの道筋も詰まっている。きっちり”なんでも言っちゃって”を大ヒットさせるなどさすがの覇道を行くLEXだが、それだけの説得力を持った、非常に方向が明確なアルバムだ。

08 FreekoyaBoiii & Yvngboi P『F’s Uppp2』

HIPHOPのバッドマナーを全部取りした怪作。共にアルバムと言うよりストリートミックステープ然とした作品を量産する、福岡で活動するYvngboi P, Freekoyaboiii。2人によるジョイントEP第2弾は、USのギャングスタラップ文化を匂いもそのままに持ち込んだ1作だ。Chicago Drillド直球な”4 Money”やモロに例のシャウトまで入ってくる”Dope Game”など、オマージュも随所に感じられる全5曲。それが単なる憧憬のレベルにとどまっていないのは、ひとえに2人のラップスキルというか、やさぐれたヴァイブスによるものだろう。”On Gang”のMVの大半が薄暗いキッチンスペースで進行するあたりなど含め、作品全体に漂うローコストゆえの殺伐さは、そのままシカゴやメンフィスまで地続きだ。どの曲を切り取っても嘘偽りのない、ゆるくて危険なやさぐれ感が蔓延。ひとつのラップ作品として抜群の魅力を持ったEPであることはもちろんのこと、こうしたサウンドを日本に持ち込んで高いレベルに昇華するアーティストは少ないことからも、今後も注目したい存在だ。

09 MONJU『Proof of Magnetic Field』

約13年ぶりの新作は、その磁場が存在することを証明した。2008年にリリースされた前作『Black de.ep』は’00年代後半~’10年代のBoom Bapのあり方を指し示した1作だったが、今回のカムバック作をもって、リスナーは13年経ってもそのコンパスが有効だったと気付くことになる。Mr.PUG, ISSUGI, 仙人掌のラップが13年間尖り続けているのはもちろんのこと、16FLIPのビートも更なる研鑽を積んだ代物。イントロを抜けた冒頭曲”In the night”は明らかに’00年代後半のMONJUをオーバーラップさせるスタイルの1曲であり、雄弁な前作越えの宣言とも受け取れる。その後、リードMV化された”Ear to street”で格の違いを見せつけた辺りで本作の完成度を確信したリスナーも多いはず。複合的なパーカッションととにかく景気の良いコーラスに乗せて3者のストイックなラップが紡がれ、映像には太いボトムスが踊りスケボーが舞う。魅力的に細分化された現代のHIPHOPだが、1丁目1番地の真ん中しか歩かないことの魅力を示した作品だろう。”Ear to street”の熱気を心地良く冷ますインスト”beats”も気が利いてるし、SICK TEAMライクなビート観を持ち込んだミニマルな”13 DEALS”など、好きな人に好きな料理がきっちり届けられる。名店はいつ訪れても名店だ。

10 Only U『POPCORN』

横浜出身のMCの2021年は、これまで以上に「俺ら」を意識させる動きが目立った。ローカルコミュニティはもちろん、仲間の中でも特に心を許せる相手との結託感。それはLEX, Yung sticky womとの『COSMO WORLD』やHezronとの『WANTED』といったEPで結実。身近な存在に視点を絞る中で投下された『POPCORN』は、身の回りと自身の内面を掘り下げる、焦点として非常にコンパクトな1作となった。その姿勢は10週連続シングルリリースなど、「外に出る」姿勢を明確にしてドロップした前作『Infinitys(Deluxe)』(2020年)から、ボリュームが半分になっている(22曲→11曲)ことにも伺える。その分各曲の輪郭はより明確になり、Only Uの魅力が詰まった好作に仕上がった。特に”12345! feat. Young Coco”や”NANTOKANARU!! feat. Tim Pepperoni”など、いつになく前掛かりなフロウでスピットしていく楽曲は新鮮だ。気鋭の高校生プロデューサー・10PMとの”フタリ”や”当たり前 feat. LEX”など、一転落ち着いた語りも展開として効果的。特に後者で客演するLEXのヴァースは刺激的。19歳でこんな大人びたリリック、どうやったら生まれてくるの?

11 Bain『SurrealRhythm』

インタビュー

BaindaliとしてLEX, Only Uらと共演してきた愛知県出身のMCは、改名後初のアルバムとなる本作で、閉塞感から脱せない2021年の夏を鮮やかに解放してくれた。アルバムのテーマとして超現実主義を掛け合わせ、現代のユース層に「好きにやろう」とメッセージを投げ掛ける。PRKS9のインタビューでも語っていた通り、初めて自分ではなく他人に向けてメッセージを発したことと、図らずも晴れやかなオルタナロック/サーフロック調のビートが並んだことで、本作はリスナーの意識をしばし心地良く夏に漂わせてくれる。HOOKのテンポがとにかくキャッチーな”EASTSIDE GIRL”や、ある種のトリップ感を湛えた”MOLLY”, リードカットされた”Deja Vu”など、聴けば大抵の人には刺さるような普遍的な魅力を備えた楽曲が並ぶ。中でも特筆すべきは”Trauma”だろう。唯一の客演として新鋭・e5を迎えたこの曲は、ここまで記してきた魅力の全てを統合した上でe5がアクセントとして作用。短い出番ながら曲の魅力をもう一段階引き上げる仕事はさすがだ。いつ聴いても変わらぬ抜けの良い心地良さを持ったアルバムであり、是非触れて欲しいところ。一方で時節柄、「2021年の夏」というこの瞬間にモメンタムを与えた作品であったことも、リアルタイムでしか書き得ないレビューとして記しておきたい。

12 SATOH 『Skyrocket』

LINNA FIGとkyazmの2人が指し示した道筋はあまりにヴィヴィッドだった。わずか4曲9分。Hyperpop的アプローチを推し進めた小ぶりな本作に、コロナ禍を脱却出来ない2021年の空気、その中での「居場所がないユース層」が抱えるマインドが音楽として見事に昇華されている。部屋や路上、電車の中に閉じ込められながら何かを探す”Big Man”などは特にその傾向が顕著な例だろう。同曲の「車窓をなぞる指で名前を書いてる 君も見てないで俺のとこに来て」というラインなど、なんてこの状況を美しく描くんだろうと感動する。ギターを全面に押し出したサウンドで前のめりな加速を見せつつ、どうにも上手くいかないメンタルがリリックとしてバックスピンする。これはNEW TIDEに選出したAdachi Keito & coxcs『SCENES SEEN BY YOUTH』とも通底するところがあり、2021年の文化史としても重要な部分だろう。但し最後の”Fuse”に至ってこのマインドは「俺らでも出来る」とバックスピンから純回転にシフトする。それだけに同曲の解放感は素晴らしい。「未だにモスキート音が聴こえる」俺らでやってやろうぜとLINNAが語る、ユニークかつ感動的なHOOKを大団円なビートが後押しする。この曲は既に(SATOH主催のパーティーである)FLAG周りのリスナーの間ではアンセム化しつつあるが、それに留まらず、彼らの同世代全てを巻き込むパワーすら持っているのではないか。間違いなく2021年だからこそ生まれた名曲であり、EPの着地としても完璧だ。最高。

13 YOU THE ROCK★ 『WILL NEVER DIE』

インタビュー

2021年最高の熱量を持った作品のひとつ。冒頭の”TAKE YOU AND ME BACK TODAY”を聴いても分かる通り、あまりに多くのストーリーを背負った作品となった。11年ぶりに届いたユウちゃんDA兄貴の新作は、積もり積もった話を、17曲掛けてひとつひとつ紐解いていく。これまでのアルバムでも様々なキャラクターを見せてくれたYOU THE ROCK★だが、本作ほど真正面を向いて真摯にリスナーに語り続けたアルバムは初めてではないか。”ON FIRE MORE LOUD ACTION”に込められたカロリーなんて一度で受け止められるものではない。とにかく17曲それぞれにこれまでのストーリーが詰まっている為、各曲単体で語ってもアルバムの全体像を語り得ないのだが、キャリア初期の切羽詰まった時期のストーリーを語る”GO AROUND”, ラストの”PARTY OVER HERE”の「祭りの締め」感など聴きどころのある曲は尽きない。「誰が語るか」、文脈が重要となるHIPHOP文化において、2021年の作品で最もその効果を発揮した1作だろう。

14 Neibiss 『Sample Preface』

兵庫県神戸市を中心に活動する2人組・NeibissがWarner Music Japanのインハウスレーベル・+809から放った2ndアルバム。ビートメイカー/DJ/MC・ratiffとMC・hyunis1000の2人、あるいは彼らの所属するコレクティブ・Nerd Space Programはとにかくフレッシュな動きが目立った。話が逸れてしまうものの、同コレクティブの一員であるnessも、ソロや別ユニット・DaXxとして素晴らしい作品を届けてくれたことはここで記しておきたい。そんな活発な1年にあって、Neibissの2ndアルバムもとにかくオーセンティックなラップアルバムの楽しさに溢れている。ratiffのビートは間違いなくRIP SLYMEやスチャダラパーに通ずることが本人らからも明言されており、穏やかで楽しげなテンションが全編を覆う。その中にグリッチやTrap, 最新トレンドが隠し味として作用している。同時にhyunis1000はXXXTentacionらからの影響を公言しており、これらが混じり合うことで安易な系統化を拒むオリジナリティを獲得している。シングルカットされた”Sports Resort”や、とりわけアッパー寄りな”NERD STANDING HIGH”などはその傾向が特に強く、いきおい本作の中でも特に魅力的。図らずも90年代から現代に至るまでのHIPHOPの各要素を昇華する内燃機関を持つに至ったユニットであり、幅広い人気を獲得しつつあるのも納得だ。特にFUNKY GRAMMER UNITのノリなどが好きなリスナーなら必聴。

ALBUM of the YEAR:
Tohji, Loota & Brodinski『KUUGA』

明確にHIPHOPの外殻を打ち破ろうとする試みを続けてきたTohjiとLoota。Mura MasaのREMIXも含む”Oreo”あたりは一体どこまでスタイルシフトするのか戸惑ったリスナーも多かったようだが、一連の流れはフランスのプロデューサー・Brodinskiとの本作で見事に新次元のHIPHOPとして結実した。

強めのリヴァーブで強制的に世界観を構築していく”Aegu”を入口に、TohjiとLootaの婉曲表現での和と性の描写が一貫して続く。但し同時に、その裏ではいかに「声」を楽器の一部として作用させるか、音としての試みも絶え間なく続けられている。TohjiとLootaのファルセットを多用するラップスタイルはもちろんのこと。ラップの語尾がそのままビートの一部に組み入れられることで展開していく”Yodaka”や、ドラムス以外のトラックを2人の声で構築し、バイレファンキのリズムでグルーヴを増幅する”Oni”が名曲に仕上がったのは必然とすら言える。これは3者のコンセプトの認識統一と、綿密な芸術的計算の成果であり、安易に「天才」や「才能」などの言葉と結び付けるべきものではないだろう。続く”Iron D**k”や”Errday”に至るまでこの試み、及びその革新性は寸断することなく、新たなHIPHOP体験と共に本作は15分の旅路を終える。

その年の最優秀アルバムが大きく「時代性の反映」と「楽曲としてのクオリティ」の掛け合わせで決まるものだとすれば、本作を2021年のベストに位置付けるのは適当ではないかもしれない。なぜならこのアルバムが見据えているものは今年以降の世界だからだ。本作が2022年以降の新たな基軸となるのか、誰も行き着かない極北として孤高に存在するのか、不確定の未来に干渉しようとする勝負。その意味で本作に「2021年」の象徴を背負わせ、この年に繋ぎ止めるのは無粋な気もしたのだが、かと言って捨て置くにはあまりにその存在は大きい。アートにおけるオリジナルの程度が「現在からの飛距離」だとするならば、今後「オリジナルであること」を考えるアーティストは、否応なしに本作が叩き出した飛距離との勝負になる。その意味ではやはり分水嶺となった1作だろう。

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2022/01/22
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