Column/Interview

その年史が積み上がるほど歴史の記述はシンプルになる。何十年分の歴史を決まった分量に収められるよう、歴史の背骨を構成する要素以外はこそぎ落とされていく。HIPHOPも同様だ。黎明期にして黄金期とも言われる1990年代、まだ「近世」と言える2010年代の発掘・アーカイブ作業を横目に、2000年代における日本のHIPHOP史はその半端な時間的距離から、ほとんど誰の手にも触れられてこなかったのではないか。
日本のHIPHOPには2000年代があり、そこには確かに数多くの名作があった。これは新たにこの10年間の遺構を保存し口伝する、終わらない歴史保存作業だ。2000年代のこれまであまり触れられることのなかった名作たちを、いま一度紐解いていく。

故・DEV-LARGEが設立した偉大なポッセ・EL DORADOに所属していた、Mr.POW(FUSION CORE)と、彼らと近しい関係にあったRICEの2人から成るPRIMERの最初にして最後のアルバム。2002年11月25日リリース。

LUNCH TIME SPEAXやOSUMI(BIG-O), SUIKENらを擁した偉大なクルー・EL DORADOの中でも、後期参入組のFUSION COREは異彩を放ったクルーだ。今回紹介するMr.POWと相方MCのIQ, DJ ANAから成る3人組は、その一歩踏み外したようなフロウと、そこから放たれるパンチラインが特徴的。リスナーのリズムをズラしてからインパクトあるリリックのカウンターを綺麗に決めるトリックスターであり、数々の楽曲で功績を残した。特にクルーとしてのアルバム『SEX APPEAL』(2001年)は、ディープなビートとディープなリリックが絡み合う、HIPHOP最深部の魅力を汲み上げた名作。他のアンダーグラウンド作品で素潜りを繰り返したのちにやっと辿り着くような、深海域にしかない何かが詰まっている。Primerの片割れであるRICEもこの『SEX APPEAL』に客演。元はNIPPSの名作”GOD BIRD”のシングル版にのみシークレット収録されたマイクリレー”YUSHA feat. K-BOMB, RICE”で音源デビュー。異様に粘度の高いMr.POWやIQのラップを、キレの良い高音ボイスで綺麗にカッティングしてくれる存在だ。ソロアルバムの『POWER OF HEAT』(2004年)はEL DORADO勢が大挙して駆けつけた上にDEV-LARGE御大も素晴らしいHOOKを放つ、これまた00年代が誇る(そして隠れた)名作でもある。

つまり今回のPrimerは『SEX APPEAL』でその粘性と切れ味のバランス感を証明した2人が丸々組んで作った作品ということであり、従ってラップのバランスはすこぶる良い。参加したプロデューサーもこれまで縁深い関係にあった面々が中心。この『Primania』は当時「意外にも傑作な作品」として挙げられることがお買った印象もあるのだが、実は結果を証明した方程式をEPサイズで再錬成した、非常に誠実な試みで為された作品だ。

…というのは骨組を分解して語って見せる、ある種無粋な解説かもしれない。勇猛な”Unite With Primer”から上ネタがとにかく景気の良い”Primania”からして、基本はとにかく「アガる」仕様の傑作だ。Mr.POWのヴァースでのっけから「君の取り付く島ナッシン」「気持ちダミアン、顔は聖母マリア」とパンチラインを乱射して始まる通り、基本は付いてこれる奴を試す勝負。ただ、ひと薙ぎで選別を終えたあとは硬質なビートが特徴的な”Dirty Clone”や、DJ NALによるビートと感傷的なリリックがハマる”Orange”など、意外なほどの幅広さを見せる。RICEはもちろんのこと、FUSION COREも実は”サクラサク”などメロディアスな楽曲も得意とするグループ。毎度パンチラインでのパワープレイで意識を持っていかれたあとで、すかさずこうした曲を差し込んでくるあたりは本作に限らず彼らの巧い部分だ。

他にもI-DeA製の勇猛サイドな”Prime Suspect”や、これまた振り幅を見せる軽やかな”Switch Off feat.IQ∞”など、全曲素晴らしい全7曲。I-DeAはこの後、DEV-LARGEとK DUB SHINEのビーフを流れを受けて注目が高まった傑作『self-expression』(2004年)をリリースするが、同作にもFUSION COREとRICEはそれぞれ呼ばれ、共に素晴らしい楽曲を残している。この時期のFUSION CORE / RICEは、他にもGEEK(DJ TAIKI)『CONTINUATION』(2004年)でのこれまた素晴らしい客演、ZEEBRAの実弟・Sphere Of Influence, Grappluzらとのレーベル・NEW DEALでの活動など、とにかく精力的に動き、どれも素晴らしい作品を残した。当時は特に議論に上がらなかったが、彼らのような一種ファニーなパンチラインによるリリック強度と、HIPHOPに誠実なハードビートとの掛け合わせをバランス良く成立させて見せたこの作業は、当時散見された「ただファニーでコミカルなラップ」との境目を丁寧に選り分けた偉業だったかもしれない。

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2022/03/28
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作品情報:

Tracklist:
1.Unite With Primer (Prod. DJ NAL)
2.Primania (Prod. MAKI the MAGIC)
3.Dirty Clone (Prod. DJ ANA)
4.Prime Suspect (Prod. I-DeA)
5.Orange (Prod. DJ NAL)
6.Switch Off feat. IQ∞ (Prod. KZA)
7.Finally the Time Has Come (Prod. DJ NAL)

Artist: Primer
Title: Primania
Label:blues interactions, inc.
2002年11月25日リリース

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