Column/Interview

「最高のラップスキルと深き感性を引き連れて復活を遂げた」
大阪を拠点に活動し、名門レーベル・LOWHIGHWHO?(以降LHW?と記載)初期より唯一無二のラップで名を馳せるMC・YAMANE。このフレーズは2015年4月にフリーダウンロード作品『I LOVE YOU』リリースをもって彼の音楽活動復帰がアナウンスされた後、同年10月にLHW?よりリリースされたベストアルバム『帰り道 (YAMANE BEST 2006-2015)』の紹介文を締めくくったものだ。

LHW?主催のParanel曰く「過去のすべてを網羅してここをターニングポイントにしては」と意気込んだベストアルバムの発売から6年が経った2021年。志を共にする仲間たちとの数々の音源制作、アンダーグラウンドのライブ活動を経て「最高のラップスキルと深き感性」は他の追随を許さない域へと到達した。その1つの証明ともいえる作品が、同年ビートメイカー・NATALとリリースした『ENISHI』である。
NATALによる「ドープ」を体現したビート上で、路上の心象風景をしたためた底知れないリリックを、全ての感情を込めて吐き出す圧巻のラップ。たった5曲ながら濃密極まりない音楽体験。今回はここに至るまでの軌跡について、メールインタビュー形式で話を伺った。本記事に先駆けて公開された同作品収録曲”NAKARISHIKA”のMVはもとより、『ENISHI』の理解に向けた一助となれば幸いである。
 なお、今回のインタビューをきっかけに、YAMANEをはじめ本作に深く関わるMCたちによって製作された音源を、フリーダウンロード形式にて公開する。いずれも本作の背景に関してインタビューでは意図して語られなかった部分もラップされた重厚なマイクリレーだ。すなわち、今回のインタビューと当該音源、”NAKARISHIKA”のMVの視聴により『ENISHI』で描かれた「本当の情景」が浮かび上がってくるだろう。必ずチェックして欲しい。

登場する主なアーティスト(順不同): Jinmenusagi, ELOQ, BOWC, DOPE ON PLASTIC MC’S, KEMURI-KURAGE, JUMBO, JhaRe鉄, KOJOE, NATAL, Tha Jointz

Interviewed by よう (https://twitter.com/crazy_korn)

─YAMANEさんはTOP SHELF→LHW?所属の流れでご活躍される最中、一度は牧師として活動されるべく音楽活動から身を引かれましたが、その背景を教えて下さい。僕自身は2014年Moment JoonがTwitter上で巻き起こした #FightclubJP で、JinmenusagiさんがYAMANEさんとELOQさんの名前を出したことで、初めてお二人を知り、そして同時にYAMANEさんが引退なさっていたことを知りました。その後、2015年に『I LOVE YOU』で復帰された時まで、どのような心境や環境の変化があったんでしょうか。

YAMANE:
活動休止自体は呼吸器官の病気によるものでしたが、当時亡くなられた方のご遺体を車で迎えに行く「足持ち」という仕事をしており、その関連で教会に従事しようとLHW?から引退を発表させて頂きました。音楽からはかけ離れた生活をしておりました。丁度その頃友達から「ライターやってて捕まったあとで牧師になった奴がおるから一回会ってみいひん?」と言われて紹介されたのがBOWCでした。病気が奇跡的に回復し、みるみると制作意欲が沸いたので早速『I LOVE YOU』というミックステープの製作に取り掛かりました。テーマは「愛とは」です。BOWCの力添えが無かったら出来上がりませんでした。自分の中で大きなきっかけとなった大切な作品です。

─2015年での活動復帰後、変名であるENAMAY名義で『PUBLIC ENAMAY』を発表されましたが、本作の背景や別名義にした理由、タイトルの意図について教えて下さい。この作品を聴いた時に驚かされたのが、どす黒いビートチョイスや客演陣との化学反応はもちろん、ストリート活動に身を投じる者達の声にならないような内側の絶叫と、YAMANEさんの人生の軌跡が融合したようなリリシズムでした。特に強烈だったのが”NO.160”です。最新作『ENISHI』から振り返ると、このとき既にYAMANEさんは本作に繋がる出会いをされていたのではと感じます。

YAMANE:
たとえ名前が逆さになっても不変であり、何人にも決して奪い取ることが出来ないものとは何かを表現しました。また自分自身を公共に晒すという意味合いも兼ねて、音楽性は全く違いますがPublic Enemyをサンプリングしました。

“NO.160”はBOWCの実際の体験談です。FIGHT CLUBで鼓舞してくれたJINにコンタクトを取り”BEFORE DAWN”を作りました。今なお、自分の中で最高の曲です。

─『PUBLIC ENAMAY』以降、YAMANEさんは徹底して現場にて活動をなさっていたように感じます。僕自身は、YAMANEさんを現場にて初めてお見かけしたのが2019年5月、DJ Tipくん(HRKT)が主催した「Small BOX The Live!!」(*シークレットゲスト参加)でしたが、「RAGGA中島」など他のイベントでも見かけていたのがELOQさん、KEMURI-KURAGEさんとのILL JOINT 2089でした。ELOQさんが『独白』 Remixの最優秀作品のインタビューにて、ILL JOINT 2089はYAMANEさんが掲げたムーヴメントと仰っていました。かつてM4でYAMANE, ELOQ, そしてQ-SKILLと活動されて以降、KEMURI-KURAGEさんとの結成に至った経緯、そしてこれからの活動について教えて下さい。

YAMANE:
ILLJOINT2089はMOBBで、主な活動内容は音源製作です。KEMURI-KURAGEは俺の師匠であるDOPE ON PLASTIC MC’S(Q-SKILL, IDE STINK MIER)のレコードを2枚持ってる時点で仲間になりました。街中にいてもめっちゃ目立つので、見かけたら声をかけてあげてください。ラップが上手いのが特徴で、ペペロンチーノを非常に上手に作ります。

KEMURI-KURAGE (代表作: JinMak “From The Basement (feat. ELOQ, TA-TI, KEMURI-KURAGE & 安穏)”)

─YAMANEさんが新作『ENISHI』に至るまでに、音源に関する動きを3つされていたと思います。1つ目がHOT CONNEXION CREWのメンバーであり、今回のEPにも参加されているJUMBOさんとのテープアルバム『RESTORATION』。テープアルバムの内容はレゲエのバイブスも感じられる新鮮なものでした。活動のきっかけはどのようなものでしたか。

YAMANE:
きっかけは梅田のタワレコにCDを買いに行ったらJUMBOがカセットテープを聴きながら歩いていたので「久しぶりす!」て声をかけたあと、「いま良いビートがあるから是非スピットして欲しい」と依頼をして、その日にレコーディングをしたのが始まりですね。のちにDJ MARUGREENが加わり、現場力を高めました。また西中島や高槻のDUKE BARでライブをしたいです。

2つ目がTha JointzのメンバーであるJhaRe鉄さんを中心に、YAMANEさん、HOT CONNEXION CREWのJUMANGさん、NAJIMIさん(ex.074BROS)、MAKさんとのクルー・Conflict Within’での動きです。Soundcloudでは”COLDSUMMER(2020)”をはじめ、前向きになれる力強いマイクリレーがアップされています。JhaRe鉄さんのEPである『未確認Styler』ではYAMANEさんも全面的に参加されています。こうしたSoundcloudの楽曲やTha Jointz名義のポッセカット”NewDay Remix”の制作経緯はどのようなものでしたか。

YAMANE:
ジャリから”NEWDAY REMIX”をこのメンバーで行いたいとの旨の連絡があり製作に至りました。それぞれのクルーから同い年が集まった“CF”を作って、そのままの勢いでジャリのEPへと繋げました。

─3つ目がKOJOEさんとの出会いではないでしょうか。昨年度の『HALFTIME』収録曲である”House of $icksteen feat. KID PENSEUR , JASS & YAMANE (Prod. CHIN THE ASIA)”で客演もされていますが、彼が2年大阪に住まれていた時期そのものより、かねてよりKOJOEさんと深く交流したTha Jointzを通じて出会われたのでしょうか。

YAMANE:
KOJOE氏の来阪はもともと(Tha Jointzの)JASSが筆頭に暗々裏に進めていたと思います。大阪の某スタジオでレコーディングを重ねている姿が印象的です。以前からそのスタジオへ足を運ぶ機会があったので挨拶にいったところ、その場でCHIN THA ASIA氏のビートを流して下さりました。KOJOE氏からは音楽に限らず人として沢山教わりました。

─新作『ENISHI』はNATALとタッグを組み、盟友であるELOQさんも全面的に参加されています。非常にドープなラップスキルと、これまでの作品にない圧すら感じられるフロウで表現されたリリシズム、ウェットでほの暗い路地裏や歓楽街を想起させるリアルな空気を吸い込んだビート。その相乗効果が、聴く者が普段見ないような別世界と繋げるような感触を生んでいるように感じます。『PUBLIC ENAMAY』とはまた違う感触の非常に濃密な世界が込められたEPだと思いますが、制作のきっかけや表現の目標とされたことについて伺えますでしょうか。

YAMANE:
当時次々と作品を生み出すKOJOE氏の後ろでひたすらビートを作っていたのがNATALでして、俺らも今年中にEP出してしまおうや!と意気込み、完成を目指しました。

タイトルにもあるように、本作は人や音楽を繋ぐ「縁」がYAMANEさんの視点を通じて表現されているように首尾一貫して感じられました。本作の制作を通じて感じられたYAMANEさんにとっての「縁」とはどのようなものでしょうか。

YAMANE:
元々孤独な人間なので人と関わるのが苦手ですし、コミュ障なんですがこのカルチャーを通じて知り合った人達はそんな俺でも受け入れてくれて感謝しかないです。

─本作リリース後のこれからの展望や、クルー・プロジェクトでの動き等について教えて下さい。

YAMANE:
今後の動きとして、NATALプロデュースによる音源を2曲、PRKS9の読者に向けて製作しました。これらを聴いて色々と感じ取って頂けると嬉しいです。

▶YAMANEの2曲入りシングル『BROKEN WINDOWS THEORY』をPRKS9限定でフリーダウンロード公開

YAMANE 『BROKEN WINDOWS THEORY』(2022)
01. NEW TAG feat.ELOQ, QUESTION4, JUMBO, JAM$
02. BROKEN WINDOWS THEORY feat. ELOQ, Sa, JUMBO
BEATS BY NATAL
COVER TAG BY GRIN
Download: https://www.mediafire.com/file/l80burh5usbpyt4/YAMANE+-+BROKEN+WINDOWS+THEORY(2022).zip/file

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2022/04/03
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▶Interviewed by よう (https://twitter.com/crazy_korn)

作品情報:

Tracklist:
1.INTRO (feat. Dogtah)
2.NAKARISHIKA (feat. ELOQ & JUMBO)
3.ENISHI (feat. ELOQ, JAMS & CHIRO a.k.a Souldigger)
4.NATAL (feat. ELOQ & DJ MO-RI)
5.SHOKA

Artist:YAMANE
All Tracks by NATAL
Title:ENISHI
2021年8月21日リリース
Stream: https://linkco.re/sFrFAsFh?lang=ja

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