Column/Interview

歌とラップは越境可能だ。愛知出身のラッパー・HekAの持つ独特な質感のシンギンラップを聴く度にその思いは確信となる。非常にアシッドかつ退廃的な黒さを感じさせるその音楽性は、HIPHOPやR&Bの中央に自身を据えた上で、普遍的なキャッチーさも秘める。

この絶妙なバランス感が全曲に配置されたのが2020年発表のアルバム『Twisted』だが、まだこの作品は十分な注目を得ているとは言い難い。独特な質感の中に潜むストイシズム。そこにはボースティングとは無縁にただひたすら自分を高める為にラップし続ける、行者的な孤高があった。

登場する主なアーティスト(順不同):
Campanella, C.O.S.A, OMSB, RMAZA, The Weeknd, Kraftwerk

─まずはご自身のプロフィールを教えて下さい。

HekA:
どうもHekAです、20歳です。
愛知の春日井市ってところに住んでいます…Campanellaさんとかの出身地の近くですね。
そこでずっと生まれ育って、今は大学生しながら活動してます。

─音楽との出会いはどんなものでしたか?

HekA:
能動的に音楽を聴き始めたのは、ラジオで流れてたEDMです。
まずはEDMに興味を持って、そこから電子音楽全般に興味を持ち始めました…それが2015年くらいですかね。
KraftwerkやDuft Punkを聴いたりしてました。
そうしてEDMを中心に聴いている中で、ラップが入った曲とかも結構あったので、ラップって言う手法やラッパーにも触れてはいたって感じです。
EDMとかは大好きで、今でもよく聴きます。

─HekAさんの現在の音楽性からすると、ゴリゴリの電子音楽が入口だったというのは少し意外ですね。
 そこからどうHIPHOPに繋がったんでしょうか?

HekA:
2016年くらいに、TripRoomのDJであるEYヨS(アイズ)と…元々小学校からの友人だったんですけど、高校1年で久々に再会して、色々情報交換するようになったんです。
その中で当時流行ってたフリースタイルダンジョンや高校生ラップ選手権のことも知って。
それを見て「ラップって面白いな、フリースタイルって面白いな」っていうエンタメ的な部分にまず興味を持ちました。

そこから音源を掘ってみると、自分の地元・愛知県にもTOKONA-XやCampanella、C.O.S.Aみたいな凄い人たちがたくさんいるんだって分かって。
地元の人たちの音楽にやられて、そこからUSも日本も問わず、HIPHOPを聴き始めたって感じです。

─HIPHOPのどういう部分に惹かれたのでしょうか。

HekA:
やっぱりEDMとかはメロディが主体の音楽なのに対して、HIPHOPは歌ってる人たちの思想がゴリゴリに出てくるっていうのが新鮮でした。
例えばC.O.S.Aさんのリリックには救われました。
HIPHOPにハマってからは「でも自分はストリート出身でもワルでもないし…」っていう後ろめたさみたいなものもあったりしたんですけど。
C.O.S.Aさんも自分も、両親が公務員なんですよね。
そのC.O.S.AさんがしっかりHIPHOPやって強いリリックを歌ってるところで、自分もHIPHOPで心情を表現して良いんだ、って心が軽くなった感じはありました。

─そういう意味だと特に好きなアーティストはC.O.S.Aさん?

HekA:
そうですね。
あとはHi’SpecさんとOMSBさんも、名古屋の野外ライブで見て喰らってから大好きです。
それでやられてHi’Spec『Zama City Making 35』(2016年)とかは滅茶苦茶聴いてました。
OMSBさんもやっぱり、あのラップの強さは本当に半端ないなと思っています。
でもそういうのはあくまで参考に留めて、自分のラップスタイルとかには影響が出ないようにしてます……出ちゃってるかもですけど笑

─ご自身のクルー・TripRoomはどういう経緯で結成されたんですか?

HekA:
去年の春ごろ結成したんですけど、最初はEYヨSが(名古屋のビートメイカーの)RAMZAさんが大好きで、RolandのSP-404SXを買って来たんですよ。
それで自分とgenefも集まって3人で話してるうちに、「みんなこんなに興味あるなら3人でやってみるか」ってなった感じです。
役割はEYヨSがDJとデザイン、genefがビートメイク、自分がラップですけどビートメイクもしたり、って感じです。

クルー名の由来は幾つか意味があって。
まずは「Trip」の部分については、3人組なのでTripleに掛けてます。
次にまあ名前のまんまなんですけど、全員トリップするくらい良いとこに連れてってやるぜって意味合いも込めてます。
最後に「Room」の意味として、自分の住んでるこの街を一種の「部屋」に見立てていて。
みんな(自分たちの音楽を通じて)この街に、部屋に入ってきても良いよ、という意味を込めています。

だから3人組ではあるんですけど、もっと輪として大きなものになるようなイメージを持っています。

─クルーとしてはHekAさんがリーダーで動いている感じ?

HekA:
そうですね。
クルーで3人揃って動くみたいな活動はそこまで活発ではなくて、それぞれやりたいことやってる感じです。
各々の活動の中で必要なら互いに手伝うって感じです。

─TripRoomは2019年にEP『2riproom』を発表しましたね。
 あちらではのちに触れる『Twsited』よりも、心の揺れがかなりダイレクトに表現されている気がします。

HekA:
これに収録されてる”阿呆船”が一番最初に作った曲ですね。
genefと俺でビート作って幾つか溜まった段階でEPとして発表しよう、となりました。

自分はビートをまず聴いて、そこで自分の中で浮かび上がった心情を歌うってスタイルなんです。
最初にアルバムテーマや「こういうことをしよう」って決めて制作する訳じゃなくて、まずビートがある。
だからその時の感情でしか生まれない、紡げない心情みたいなのがダイレクトに出てると思います。

─ソロアルバム『Twsited』について教えて下さい。
 構成として前半・中盤・後半で非常に流れが纏まっているなと感じたのですが、これも作り方はビートがまずあって、アルバムの全体像を持っていたわけではない?

HekA:
そうですね。
この作品も『2riproom』ビートを作ったり、提供してもらったりする中で溜まってきたので出そう、というところは同じです。
でも結果として構成としてまとまったな、という実感はありますね。

ビートは全てSNSとかで繋がってやり取りしてビートを頂く、という形で集めました。
やっぱり相手のビートへの思いとかを知った上で乗りたい、そこで見えてくるものがあるんじゃないかっていう風に思うので、あまりType Beatを買って集める、みたいな感覚は自分の中にないです。

─まず『2riproom』から更にクオリティが大きく底上げされている印象を受けます。
 ビート、ラップ、エンジニアリング…大きく変わった部分などはありますか?

HekA:
一番は自分のMix&Masteringのスキルが上がったところかなと思います。
自分自身でやってるんですけど、やっぱり作品を重ねていく中でレベルが上がった実感はありましたね。
『2riproom』の頃はほんとに素人のクオリティだったんですけど笑

リリックやラップの部分は意識的に変えたところはないんですけど、場数を経て変わったのかなとは思います。
あとは『Twisted』は結構しっかり時間を掛けて作ったので、シンプルに練ったものが出来たっていうのはあるかなと。

─トラックとラップが織りなす全体感について、例えばThe WeekndやアシッドなR&Bからの影響をHIPHOPに落とし込んでいる感じがある気がします。

HekA:
ビートはほとんどありものを聴かせて頂いて、良いなと思ったら使わせてもらうっていう形なんですけど。
その上にラップを乗せたらこういう雰囲気の楽曲に仕上がったって言うのは、The Weekndとかの影響もあると思います。
別に明確に影響を受けたと意識したことはないですが、少なからず聴くので。
加えて(歌とラップの狭間のフロウについても)歌うのは好きなんですけど、基本的にはBoom Bapが好きっていうのもあって。
だから歌うようなラップになっても、いわゆるトラップ的な歌モノのフロウにはなってないと思います。
だから結果的にこういう好みのビートに自分のフロウで乗せるとこうなる、という感じですかね。

─作品の前半では、MVも出た”KEMURI”や”Fuq”など、自分の現状に対する漠然とした不安・不満が通底しています。
 本作を作るにあたってのきっかけになる部分だと思うのですが、この辺りの背景を教えて下さい。

HekA:
この辺の曲を作った頃は『2riproom』を作った後に、色んな人にまで広がったりはしなかったりして…それで現実に対してうだつが上がらなかったり、漠然とした不安があった時期でした。
それでも「自分の曲を作ろう」と思って奮起して書いた曲がこの辺りですね。

特に”Fuq”はかなりどんよりしてた頃に作った曲でしたし、今はもう聴かないし歌わないですね。
そこの精神状態は抜け出したかな、という感じです。

─一方で中盤の”LifeStyle”から”myself”までは、曲調と共に前向きに動き出そうとするポジティブな部分が出てきますね。

HekA:
この辺の曲になってくると、まさに「一人で抱え込んでてもしゃあねーな」ってマインドになってきた時ですね。
この頃に自分の曲を聴いた人からビートを貰えるようなこともあったりして、「届いてる人たちがいるんだな」っていう思いになってきました。
それでちょっとポジティブになってきた…という時の心情が出てます。
別に全部の曲が時系列に並んでる訳じゃないですが、ざっくりそうした心の流れの順番で構成されてる感じです。

─心情のアップダウンを音楽に吐き出すことでデトックスする感覚で作ってるんですね。

HekA:
そうですね、自分がやっぱり気持ちを吐き出すことがそんなに得意な方ではないので。
そういう時にまずはリリックに書く、ラップする、というのが身に付いてる部分はあるかもしれません。

─この辺りのビートやリリックがアップテンポになってもHekAさんのラップのグルーヴが変わらないのが印象的です。
 あくまで低温で、どこか遠くから自分を見ているようなテンションで。
 この辺は自身のラップスタイルとして心掛けているのでしょうか。

HekA:
自分の思想として、どこかに感情が偏ったりするのは避けたいという気持ちはあります。
だから自分を客観視出来るように心掛けているのはその通りですね。
だからあえてラップのテンションは変わらず常に冷めた目で見て、過剰な感情を削ぎ落としていくいく。
そんな形のラップです…その意味では自分にとってリリックを書くのは写経に近い感覚かも知れません笑
心の膿を出す、デトックスとしてのラップですね。

─黙々と自己を高めるためのHIPHOP、というのは少し珍しいかもしれませんね。

HekA:
自分にとってのHIPHOPは、まだまだ未熟な精神、人格を高めるためにラップする、という側面があります。
だからセルフボーストするとかはないですし、写経や、瞑想に近いというか。
ラップのパワーのひとつってパンチラインだと思うんですけど、パンチラインって自分の常識や思想では思ってもみなかった視点や思想からの言葉だから喰らう訳じゃないですか。
だから、そうしたパンチラインを吐くためにも自分は高みを目指し続けるっていうのはあります。

そうした自己を見つめ直す、というエッセンスの中で、宗教的な側面が曲に出ることもあります。
例えば”Only End”(『2riproom』収録)は仏教の厭離穢土(おんりえど)という言葉と掛かっていたりとか。
別に自分は宗教を信じてる訳ではないんですけど笑、デトックスや高める、という目的の中で一理あるなと思って取り入れたりもしていますね。

─そこから穏やかに心情が移ろう中、終盤に”Unforgettable”で「この愛を忘れないでいよう、淡い記憶を心に秘めて行こう」と、自分の心情に対する決意を示す流れが非常に扇情的です。
 アルバムのハイライトともいえる曲ですが、この曲の制作に至る背景を教えて貰えますか?

HekA:
この曲は…きっかけとしては、自分が好きな人に宛てて書いた曲なんですよ。
自分は手紙とか書くの苦手なんですけど、歌詞にすると結構クサいこととかも言えちゃう。
そうした心情を吐き出していく中で、HIPHOPへの愛なんかも混ざり合ってこういう形の曲に…全部まとめてUnforgettableなものとして表現しました。

だからこの曲も自分の心情を描いてるって意味で内省的ではあるんですけど、
出来上がった後にその気持ちを「相手に渡す・伝える」っていうところまで入ってる曲でもある。
自分の曲はもう世に出たら独立した存在なので、特にこの曲は外の人たちに聴いて貰って、なんなら結婚式で流れるくらいまで行けば嬉しいですね笑

─その訴求力はある曲ですよね。
 最後に今後の動きについて、予定しているものがあれば教えて下さい。

HekA:
今は全て自分のビートでラップするアルバムかEPを制作してます。
これは自分が影響を受けた電子音楽とかの要素も取り入れつつ、自分で全てやり切る作品に出来たらなと。
年内に1曲は出して、その後EP、という感じですね。

─今後も自分との鍛錬を続けると。ありがとうございました。


以上(2021/01/06)
───

作品情報:
HekA『Twisted』

(ジャケットクリックで配信先にジャンプ)

Track List:
1.Future_______Past________ (feat. HekA)
2.KEMURI
3.Fuq
4.LifeStyle
5.skit
6.自You
7.on the bed
8.You (feat. PUbeats)
9.myself
10.One Thing
11.Unforgettable
12.Lettre d’amour


Artist:HekA
Title:Twisted
Label:TripRoom
2020年6月12日配信リリース

アーティスト情報:
HekA:
名古屋を中心に活動する99年生まれのラッパー。
Rap,Trackmake,Design,全てを自分達で手掛ける3MCのグループ・TripRoomとしても活動する。

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