インタビュー: CYBER RUI – みんな、自分を生きていい。
表舞台に出てきてから、一気にシーンのマジョリティが認知するに至る。もしかするとその最速記録ではないだろうか。
CYBER RUI。
それまでにもSoundCloudで音源をアップしていたものの(現在は削除)、ABEMAラップスタア誕生に応募した投稿動画が公開されたのは2021年9月15日。Twitterで2,000RT近い拡散を記録すると、9月20日には二次審査であるサイファー動画が公開され、10月1日には自身の初MVとなる”DESIRE”が公開。矢継ぎ早に露出が重ねられた結果、わずか1ヶ月で彼女の名前はシーンの大半に広まったのではないかと思う。
そして今回、タイミングを待っていたかのようにデビューEP『TIME TO SHINE』がリリースされた。表舞台に登場した時から既に確立した世界を持っていた彼女のEPは、まだMVを1曲公開しただけのアーティストとしては異様なほどの盛り上がりを持って迎えられている。彼女の素顔とはどんなものなのか。話を聞くと、そのキャラクター立ちした姿とは裏腹な、HIPHOPを始めるまでの苦悩が見えてきた。
登場する主なアーティスト(順不同):
Billie Eilish, HAKU, LIL KING, Travis Scott, OZworld, H.E.R, DJ JAM
「自分もやっていいんだ」って、信じられなかった
─本日はよろしくお願いします。
CYBER RUI:
CYBER RUIです、今年19歳になります。出身は大阪で、今も大阪を拠点に活動してます。最近はお陰様でなんか盛り上がってる感じがありますけど、るい自身も、これから自分がどんな音楽を作るのか楽しみで仕方ないって状況です。今の波を外さず乗りこなしたいですね。よろしくお願いします!
─凄い勢いで出てきましたもんね。そんなRUIさんですが、まずは生まれ育った環境について教えて下さい。幼い頃~思春期など、どんな生活だったんですか?
CYBER RUI:
育ちは普通ですよ。お母さんが元々デザイナー、お父さんがライブハウスと家具屋さんをやってるって感じで。両親どっちも海外の文化とかに興味があって、幼稚園からインターナショナルスクールに通っていて。小学校からは英会話教室に通ったり…結構英才教育を受けましたね。そこからは一切英語の勉強とかはしてないですけど、当たり前に英語に触れる環境でした。あとは3歳からずっと踊る方のバレエをしてたんですよ。
結局バレエは14歳くらいまで続けて、それで留学したりもしてたんですけど。でもその頃に…思春期やし、ホルモンバランスを崩したり、親友と絶縁したり、家族ともごちゃごちゃしたりみたいな時期が来て。色々あったんで上手くまとめられないんですけど、その時期に一気に人間関係が崩れちゃったんですよ。そんな中でバレエも挫折しちゃって、そこから中学も不登校になりました。不登校になってからはどこにも自分の居場所がない気がして、ネットにハマるようになったんです。最初はそうして引きこもってて、そこからネットで出来た友達と遊んだりするようになりました。
─そのときネットで出会った友達が音楽関係だったとか?
CYBER RUI:
いや、そういう訳ではないですね。ただ当時ボカロが流行ってたのでそれをよく聴くことになったりはしたのと…あと、るいは元々凄い音痴だったんですよ。それをこの時期にカラオケ行って鍛えまくってたりして歌えるようになったので、音楽にも繋がったと言えば繋がってたかもしれないです。
でもネットで知り合った交友関係も…良いこともあったんですけど、結構良くないこともあったりして。「この居場所は良くないな」って思ってた時に出会ったのがHIPHOPや海外の音楽でした。
─居場所が見つからない中でHIPHOPに出会ったと。
CYBER RUI:
はい、HIPHOPとかの「自由にやればいい」「生きたいように生きる」みたいな雰囲気には凄く刺激を受けました。でも自分自身がそんな生き方を出来るかってなると、それは自分を信じきれなくて。「自分には無理だから、せめて普通になれるよう頑張ろう」と思って、高1くらいまではとにかく目立たない、普通の女の子でいようとしてました。
そんな中でも実は音楽はやってて。でもHIPHOPじゃなくて弾き語りだったんです。弾き語りをして、TikTokで可愛い曲を歌ってちやほやされるみたいな、そんな「普通の女の子」になりたくて頑張ってました。そのときはとにかくネガティブで。HIPHOPに憧れてたんですけど、「自分のことを気にする人なんていない」「HIPHOP系のカッコ良い服とか自分には似合わない」って思ってた。HIPHOPに出てくるカッコ良い女性に憧れてたけどずっと自分を信じられなかった…でもいまこうしてなれてるので、良かったって思ってます。
─「自分を生きていい」というHIPHOPのメッセージにはずっと共振してたんですね。出会った頃、どんなアーティストを聴いてたんですか?
CYBER RUI:
日本のHIPHOPで初めて興味を持ったのはOZworldさんの『OZWORLD』(2019年)でした。リリースから半年後くらいに見つけて凄いなって。
それまでは先に海外のHIPHOPに出会っていて、ASAP RockyやSchoolboy Q, Travis Scott…あとKanye Westとか、結構メインなところを聴いてました。この辺を聴いてカッコ良いなと思ってたけど、でも自分にはなられへんなって思いはいつもありました。
─「HIPHOPみたいな自由な生き方は自分には出来ない」、そんな思いが強くあったんですね。それが変わったきっかけは?
CYBER RUI:
HIPHOPじゃないんですけど、Billie Eilish 『When We All Fall Asleep, Where Do We Go』(2019年)を聴いたときです。これとその前の『Don’t Smile at Me』(2017年)はめっちゃ好きです、ありがちですけど。特に…”bad guy”とかもやけど、”you should see me in a crown”が大好きです。
Billie Eilishを聴いて、彼女は同い年やし、それでここまで自由にやっていいんやって。同い年でここまでやって、斬新に表現しても良いんやって惹かれました。それで自分もやろうって思えるようになりましたね。
─HIPHOPのカルチャーメッセージや、Billie Eilishの同い年としての立ち振る舞いがRUIさんを動かしたと。話に出た中だとOZworldさんも、世界観を確立してるところなど共通するところもある気がしますね。髪の色もお互い青色ですし。
CYBER RUI:
髪の色が同じなのは全く意識とかしてない、たまたまですね(笑) 青色は単純に好きなんです、儚いけど優しさも感じる色やと思う。あと最近気づいたんですけど、自分の名前には琉球の「琉」の字が入っていて。なんとなく琉球って青のイメージなんですけど、そことも繋がってるのかもなって思いました。
あとはサイバーな感じがするからってのもありますけど…まあ、あんま計算してとかじゃない、好きやから気付いたら青い髪にしてたって感じですね。服も青いのばっかり持ってる。これも「なりたい自分でいていいんだ」って思って、実行した結果やと思います。
LIL KINGに背中を押されるまで
─そこからは色んなHIPHOPを聴き進めていった?
CYBER RUI:
そうですね、最初OZworldさんにハマった瞬間は色んな日本のHIPHOPを聴いてたかな。でもBillie Eilish以外に影響を受けたって意味では絶対にTravis (Scott)とH.E.Rですね。OZworldさんも含めて、凄く自分の世界観を出すタイプの人らやと思うんです。やっぱり自分の中で自我を出していきたい、そういう世界観のあるものが好きっていうのがあるのかなって。
今じゃ自分もそれをやる側になったので、前よりも凄く楽しいですね。前までは自分にはHIPHOPは出来ないと思って、周りにHIPHOPを好きな人もいなくて1人で聴いてた。それが今は自分じゃ出来ないと思ってたことをやっていて、なりたい自分になって、周りにもHIPHOPを好きな仲間がたくさんいるので。楽しいですよ、すごく。
─諦めずなりたい自分になる、がずっと通底してますね。立ち振る舞いや楽曲でのリリックなどで、昔のRUIさんのように「自分では無理」と思って何かを諦めてる同世代の女性に向けてる部分はあったりしますか?無理やり「そうだよ」と言う必要はないですが。
CYBER RUI:
いや、それは100%ありますよ。100%です。それをみんなに伝えたくて音楽始めたんで。他人に嫌われたくなくて、自分の意志ややりたいことを言えない子って凄く多いと思うんです。そういう人たちに、るいが自信満々にやってるところを見せることで、自信を持ってもらえたら嬉しい。るいがBillieに思ったように「自分だって自分を生きていいんだ」って思って欲しい。言葉にするとすごく難しいんですけど、それはずっと思っています。
─元は弾き語りから音楽を始めた訳ですが、それからHIPHOPを自分で始めたのはどんな流れだったんですか?
CYBER RUI:
弾き語りは、さっきも言った通りHIPHOPみたいなことは自分に出来ないと諦めてた中、とにかく音楽がしたいって始めたんです。それで路上ライブやライブハウスでもやったりしてたんですけど。でも…これは偏見かもやけど、弾き語りはやっぱりちょっと表現が縛られるところがあるなって思って。そう思いつつもHIPHOPは出来ないと諦めてたので続けていて。
でも(Billie Eilishなどに影響されて)るいもHIPHOPやって良いんだってなってから、やってみようってなりました。2019年の頃ですね。でも曲の作り方とか全然分からなくて…色々聞いてみたら「携帯で録音するだけでも出来るらしい」って知ってとにかく始めたんです。そのときはもうYouTubeにあるフリーのビートを流して、そこにiPhoneのイヤホンマイクでラップを録音するみたいな感じで。
当時、周りにはHIPHOP好きな人は1人もいなかったので、作った曲はとりあえずSoundCloudに上げたりしてました(現在は削除済)。
─そこからHIPHOPの繋がりを築き上げたのはどんな流れだったんですか?
CYBER RUI:
別にSoundCloudで知り合いが出来たとかじゃなくて、LIL KING繋がりだったんですよ。LIL KINGに声掛けられて行ったBBQがなんかHIPHOP好き集団の集まりやったみたいで(笑) ラッパーもグラフィティの人もおって、それでみんなと繋がるようになってHIPHOPのクラブとかに行くようになりました。
LIL KINGとは中3からの知り合いなんです。高校もたまたま同じで、2個上の先輩やったんですよ。もうるいが弾き語りとかしてるときから知ってくれてて。るいがBillie Eilishとか聴いて影響されてた時に、「自分もやったらええやん、出来るって」って背中を押してくれたのもLIL KINGくんでした。だからLIL KINGはHIPHOPを始めるきっかけを作ってくれた、大きな存在です。ずっと「一緒に曲もやろうや」って言ってくれてて、それがLIL KINGくんのアルバムの曲で実現出来たので嬉しかったですね。
─LIL KINGさんが高校の先輩って、すごい偶然ですね。
CYBER RUI:
通ってたのが音楽の専門学校みたいなところやったんですよ。で、そこに(今回EPに参加した)HAKUくんも通ってて。HAKUくんとは学校で会ったことはなかったんですけど、結果的に偶然みんないました。みんな何かクルーとかにいる訳じゃないですけど、良い繋がりですね。
─MC名の由来を教えて下さい。サイバー感にはこだわりがある?
CYBER RUI:
RUIは本名からですね。サイバーは直訳すれば「仮想空間、ネット空間」って感じじゃないですか。インターネット空間は自分も一時期捉われていた時期があって…でもそれも自分の背景で。だからそうした空間にいながらもキラキラ出来るんだよ、って意味で付けました。ファッションとかも単純にそういうサイバー感あるものが好きですし。
─ラップスタア誕生に投稿した動画で一気に注目を集めることとなりました。反応を見ていかがですか?
CYBER RUI:
いやー、正直こんなバズると思ってなくて。今回のラップスタアのビートもあんまり自分ぽい世界のものはないと思ってたから、投稿動画のラップを作るのも苦労したんです。結構急いで撮ったし(笑) その意味で100%の自信がある訳じゃなかったから…うん、良かったって感じですね(笑) でもせっかく注目頂いたんで、ここでバチンっていきたいですね。
「今のるいは、もうこの世界にはいない」
─しかし今回、EP『TIME TO SHINE』のリリースと同日(10/16)にラップスタア誕生の放送も始まりますし、凄いタイミングですよね。別に計算した訳ではない?
CYBER RUI:
いや全然です、同じ日にこうして色々重なって…ほんまにこれが「なんか波に乗ってる」って感じなんかもと思いますね。だから…逆に怖いですね、上手く流れが出来過ぎてて(笑)
─じゃあ『TIME TO SHINE』の制作は結構前から始めてたんですか?
CYBER RUI:
そうですね、前から作ってたらたまたまこのタイミングになりました。レコーディング自体はここ2ヶ月で仕上げましたけど、曲そのものは半年前とかから作ってたものもあります。
漠然とEPを作ろうって思いはあって、それに向けて曲を作ってきた感じです。元々そろそろ作品を出さないといけない時期やと思っててEPを出そうとはしてたんですけど、中々納得いく曲が出来なくて時間が掛かりましたね。だからストックしてる曲も結構あります。
─『TIME TO SHINE』にはEPとしてのコンセプトはあるんですか?
CYBER RUI:
いや、そこまで明確なものはないです。とりあえず一発目やし、るいの世界観、サイバーって何か。そういうことが伝わる楽曲にしようかなとは思ってました。
─サイバーな世界観が映像でも肉付けされたのが、リードMVの出た”DESIRE”でした。ここでもまた初作と思えないほどのバズを見せましたが、この盛り上がりも予想通り?
CYBER RUI:
いや、もっと行ってええんちゃうかって思ってます(笑) でもまあもっと行って良いとも思うけど、これも結構前に作った曲なんで。今のるいから見たらまた違う世界の頃の曲なんで、まあええかなとも思います。るいは飽き性なんで、歌い方もリリックもそうなんですけど、出した曲はすぐええかなってなっちゃう。だからもっと行っていいなとは思いますけど、この曲の時代・世界のるいはもう終わってますね。今はもうこの世界にいないです。
─”TRIPPY”は曲名通り、トリッピンなビートに自分にガソリンを注ぐラップが印象的です。「CYBER RUI Trippin’ on da track」というタグフレーズしかり、自身のトリップ感を代表する曲、という位置付けでしょうか。
CYBER RUI:
そんなつもりはないです(笑) でもサイバー感や、自分の見ている世界観…仮想的な空間を表現出来た曲だとは思いますね。「CYBER RUI Trippin’ on da track」というフレーズについては、SoundCloud時代に不意に思い付きました(笑) 声に出して読みたいフレーズぽいし、乗れる感じもあるし気に入ってます。
─”EMPTY”はDJ JAMさんプロデュースですが、特にトリッピン感が際立っている気がします。
CYBER RUI:
JAMさんとは(大阪のクラブである)The Pinkで出会いました。ビート聴かせて頂いて「ヤバ」ってなって、一緒にやらせて頂くことになりました。それがEPの制作を始めたばかりの時期やったんで、良い出会いやったなって思います。
─この曲は「自分がどの星にいるか分からない」「飛び方知らないダンボ」など印象的なフレーズが多い曲でもありますが、CYBER RUIさんとしてこの辺のリリックに何か想いがある?
CYBER RUI:
あー、意識してなかったですけど、この曲ってクラブで散々遊んだあと、クラブ帰りのふわふわした気分のまま殴り書きみたいに書いたリリックなんですよ。だからもしかしたら一番自分の本心とかが出てるのかもしれないです。他の曲に比べると珍しくネガティブなリリックもあったりするので、マジでそのときの自分が出てる感じですね。
─”HEAVEN LOVE”はメイクラブものですが、CYBER RUIさんの世界観に入れば、チルな空気を出しつつも芯の通ったキャラ立ちが印象的です。
CYBER RUI:
ほんとですか!自分が芯の強い人間だとは思ったことないので新鮮です。やっぱり強い自分を見せなきゃ、って曲のときはそういう面も意識して書きますけど、こういうゆったりした曲のときはほんとに自分の気持ちをそのまま出してるだけなので。そこで芯の強さとかが見えていたのなら嬉しいですね。曲のテーマとしてはもう凄くシンプルで、「恋したいなー」ってなったときに、自分が恋してた時の気分を思い出して書いた曲です(笑)
─”GET IT”はラストにして最も前のめりかつ攻撃的です。UK Drillビートですが、こうした勢いの曲で締めるのは今回のEPの勢いを象徴する気がします。客演していたHAKUさんはちょうど先日PRKS9でも注目して取り上げましたが、彼も印象的なラップをされていて。
CYBER RUI:
この曲は今回のEPの中では一番いまのるいの世界に近いですね…お気に入りかも。このタイプのビートでやったこと自体初めてやったんで新鮮でした。この曲もですし、色んなジャンルの音に挑戦していきたいなって思ってます。それこそ次のアルバムは結構色んなタイプのジャンルを詰め込もうと思ってるんで。DrillもやりたいしR&Bもやりたいし…もちろんTrapもやりたいし。Hyperpopは……めっちゃ良いビートあればですかね、まだ自分はHyperpopの良いビートに出会ったことがないので。
客演してくれたHAKUくんとは学校が同じやったってあとから分かったんですけど、出会いは別で。さっき話したLIL KING繋がりのHIPHOP大好き集団の中にスタジオ持ってる方がいて、そこに通ってたら、同じ通ってる人にHAKUくんがいたって感じです。今回自分のEPに客演を入れるってなったときに、中々世界観に合うラッパーさんがいなかったんですけど、HAKUくんと会ったときに「遂にヤバい人出た!」ってなりました。
─最後に、今後の予定について教えて下さい。
CYBER RUI:
とりあえずフルアルバムを作ってます。出す時期は2022年の…2月とか3月とか…みたいな、あいまいな感じなんですけど(笑) あと”GET IT “はMVが出るので、これも時期は未定ですけど、楽しみにしていてください!
─ありがとうございました。
───
2021/10/16
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作品情報:
(ジャケットクリックで配信先へジャンプ)
Tracklist:
1.DESIRE
2.Trippy
3.Empty
4.Heaven Love
5.GET IT (feat. HAKU)
Artist: CYBER RUI
Title: TIME TO SHINE
2021年10月16日リリース
▶CYBER RUI: Twitter / Instagram
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