Column/Interview

LIBROが3年ぶりのアルバム『なおらい』をリリースした。裏方としての仕事はたまに見えつつ、ラップ音源となると2003年以降10年以上沈黙していたLIBRO。2014年にカムバックしてからは毎年リリースを積み重ねてきただけに、我々もいつの間にかLIBROの音源が届けられることに慣れてしまっていたのではないだろうか。

今回3年ぶりの新作が届いたことで、あの頃の飢餓感を思い出した古参のリスナーも、あるいはHIPHOPに興味を持ってから初めてLIBROの音源をリアルタイムで聴くことになったリスナーもいることと思う。

この場で改めて、その空白期間の前の傑作『胎動』から、復活後のリリースラッシュ、そして祭りの終わり=なおらいに至るまでの軌跡を、改めて振り返ってみたい。これはリスナーが焦がれ続け、祝い続けた20年のアーカイブだ。


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鶴亀サウンド『AWAKENING』(2016年)



冒頭の“AWAKENING”でLIBROが「似たもん同士共通言語通じない訳ない」と語る通り、ラッパーとしてのテンションの違いはあれど、どこか共通した穏やかさも持つ両者によるジョイント作。同曲でLIBROが肩書や知名度に浮かれて繋がるのはやめたとも語っている通り、復帰後の高揚感も薄れ、現行のシーンにおける自分の世界観を確立するフェーズに入ったことを思わせる。その意味では前作『風光る』(2016年)との連続性も伺えると言える。

そして、ジョイント相手として生粋の「祭り」側のMC・ポチョムキンが参入したことで、ビートの色彩やLIBROのラップのテンションも、いつもより数段ギアが上がった状態になっている。それがこれまでの作品とノリとして異なるシンプルかつ明快な部分であり、本作のフレッシュな要素だろう。前述の“AWAKENING”が本作に至るマインドセットの前口上だとして、続く“MOVE ON”, “踊る人”からは、もうタイトルからして直系の祭り仕様だ。この辺りのアゲ感が本作のハイライトのひとつであり、「祭り」の掴みの部分として楽しい機能を果たしている。

他方で“SEARCH”などは、印象的なHOOKと共にLIBROが人間関係のあり方について儚げな所感を述べる作品。意図的に浮いた仕上げの曲に感じられる作りだが、ラップトピックとしてもオートチューンが虚ろげに響くラップスタイルとしても、復活以降のLIBRO節が詰まった曲とも言える。ポチョムキンも元来コンシャスな言葉遣いに長けたMCだけに、こうしたトピックでもバッチリ合わせる。それでいてラップの推進力は落とさないあたり、さすが。こうしたクッションを挟みつつも、次の“THE BEST”で穏やかなポジティブバイブスを取り戻し、お気楽なSKITを挟んで本能的欲求に立ち返る“テレパシー”で締める辺りはさすがの手際だ。9曲入りとは思えないほど、コンパクトな中に期待感への充足とトライを両立させた作品ではないだろうか。





『祝祭の和音』(2017年)



1997年のデビュー作『軌跡』から20年の節目にリリースされた記念企画盤。まずなによりも、その節目にLIBROの活動が活発であることを祝いたい。復帰後のエネルギッシュな制作ペースのただ中での企画だけに、過去作のREMIXと新録が半々の構成ながら、非常に彼のエネルギッシュな勢いが見て取れる内容となっている。

それは復帰時の思いまで赤裸々に打ち明けている新録曲“リアルスクリーン”で、かつてないほど前のめりなLIBROが見られることにも表れている。加えて同曲にも深く影響している“マイクロフォンコントローラー”が、原曲のどこかノスタルジックなヴァイブスから一転、アガるネタ使いでとにかくアグレッシブに仕上がっていることも同様だろう。更に付言するなら5lackが湿気ある独自の空間を作り上げていた“熱病”も「アゲ」のソウルフル仕様になるなど、全体的にアッパーな方向に仕上がっている。これもめでたく本作を「祝祭」と断言出来る、LIBROの活発な活動を象徴するものだろう。

そんな訳で全編祭り仕上げな本作だが、中でも“オンリーNO.1 アンダーグラウンド”のREMIXは2000年代後半以降のシンセ感が全面に出た作りとなっており、純Boom Bap仕上げな他の曲と比べると「アゲ感」の基軸が新鮮で楽しい。新録の“言葉の強度がラッパーの貨幣”は、最新作『なおらい』(2021年)にも通じるタイトルセンスの1作だが、曲名通りLIBROが何をラッパーの価値と捉えているか、その上でLIBROはどうあるのかが詰まった1作となっており、本作の主旨と照らしてもとりわけ意味を持つ楽曲ではないかと思う。なお冒頭の“雨降りの月曜(DJ BAKU REMIX)”と、中盤で差し込まれる14分の過去作MEGA MIX “1997-2000 (DJ BAKU SCRATCH MIX)”を任されたDJ BAKUに最大級の賛辞を。





『SOUND SPIRIT』(2018年)



最新作『なおらい』の前作にあたるこのアルバムは、時系列的に当然と言えば当然ながら、LIBROが『なおらい』に至る道程を明確にしてくれるような1作だ。LIBROのたゆたうようなラップスタイルは歌の比重を高め、なだらかな音像を作り出す。その上で語られる言葉はいつも穏やかな時間軸の中に存在していて、息せく人々の思考回路をあえて中断させ、「しっかりしろよ、大丈夫」(“とめない歩み”)と語り掛ける。

この自分と現代社会の間にあるケイデンスの差に苛立ちをぶつけることがあったのが復帰直後のLIBRO像であった訳だが、本作と『なおらい』に至ってその立ち位置は変化した。すなわち社会のスピードや不安を優しく観察し、ほんの少しブレーキ管のような役割も果たす。再生すると六畳一間の和室で茶をすするような空間が現出する、この空気感はこの頃からのLIBRO独特のものだろう。

意図的に歌の比重を高めた作品だけあって、その居心地は『なおらい』に劣らず良い。サイプレス上野と牧歌的なポジティブバイブスを上手く引き込んだ“愛してやまないエブリデイ”やMEGA-Gが”マイクロフォンコントローラー”の続編をイメージした“ライムファクター”のノスタルジックなグルーヴ感、ハイテンポながらもメッセージ性と穏やかさを失わない“人生は音楽”など、LIBROがみんなに語り掛けるときっとこうなる、そんなイメージを地で行った作品だ。“スーパーヒーロー”での意外なほどの振りきれ方も、「人々をどう勇気付けるのか」、そのトライが見えるようで、その人となりにまた安心する。




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2021/10/29 Text by 遼 the CP

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