Column/Interview

日本のHIPHOPシーンでG-Funkを始め、西海岸のスタイルが勢力図の一角を担った時期が確かにあった。OZROSAURUSやDS455はもちろん、TWO-JやHYENA, GHETTO INC.…。時代の移り変わりとともにその勢力は以前ほどの規模ではなくなった感もあるが、先日Daichi Yamamotoが放った”Wanna Ride (The Breeze)”はメインストリームど真ん中に直撃した、久しぶりの直球G-Funkだった。

そこにビートメイクと粋なトークボックスで絡み、雰囲気を極上に仕上げたのがKzyboostだ。近年G-Funkに限らず、SILENT KILLA JOINT & dhrmaの”Monday loop
“のようにデトロイト系Boom Bapにも合わせてくる。近年現れなかった、HIPHOPにトークボックスを絡めるこのプレイヤーの登場は待ちわびた方も多かったのではないか。彼にトークボックスとは何か、そのはじめ方も踏まえて話を聞いた。これが更なるトークボクサーの登場に繋がれば望外の喜びだ。

ディスコグラフィ(アルバム):
2018: Kay Bee, Kzyboost『We Came 2 Bring You Da Funk』The Sleeperz Recordz
2019: 『Callin’ U』 The Sleeperz Recordz
2020: 『Stepwise』
2020: 1CO INR, Kzyboost 『drivin’』 BLACK URBAN TAPES
2020: 『Keep Smoovin’』 Decimal PoinZinc.
2021: Aru-2, Kzyboost 『Hot Pants』 Bstrd Jazz Recordings

トークボックスとは何か?そのはじめ方


─本日はよろしくお願いします。

Kzyboost:
Kzyboostです、今年32歳になります。出身は大阪で、いまの活動拠点は東京です。昼は普通にメーカーで営業として働いてます。仕事が終わってからライブしたり音源制作したりしてるって感じですね、よろしくお願いします。

─本日はKzyboostさんのキャリアはもちろん、日本でのトークボックスの流れも振り返る会に出来ればと考えています。まず最近知った方の為にも、「トークボックスとは何か」から簡単に教えて頂けますか?

Kzyboost:
トークボックスは正式名称でトーキングモジュール。ギターでもキーボードでも、音の出る楽器をトークボックスのアンプに繋ぐんです。そうするとアンプ≒スピーカーからその音が出てくるんですけど、その音をアンプに付いてる管を通して自分の口の中に送り込みます。そこで口の動きを変化させることで、楽器の音を言葉にしたり、エフェクトが掛かったような音に出来る、って感じですね。

要は楽器の音を自分の声に出来るというか…それだとある種ヴォコーダー(*)と一緒になっちゃうんですけど、乱暴に言えばそんな感じです。自分はトークボックスの方が自由度高いなって気がしてます。トークボックスってバンドで言うとサックスに近いと自分は思ってるんですよ。全体の一部になることも出来れば、パワーを持ってソロで前に出ることも出来る。そんな楽器じゃないかなと。

(*)音声エフェクターの一種。自分の声をマイクを通じて入力し、楽器の音に変換して出力する。楽器音を口の中に取り込み発声するトークボックスとはインプット/アウトプットの順序が逆。


─トークボックスを始めようと思ったら何から買えば良いですか?

Kzyboost:
基本的にはシンセとトークボックスアンプを買えばそれで大丈夫です。古いアンティークな機種だと高級なものもあったりするみたいですけど、全然今の市場に出てる安いやつで大丈夫ですよ。僕もMXRのシリーズ(*)を使ってますけど、これで全然やれます。

あとは良い音が出したければ良いシンセを買えばいいと思いますけど、それも最初は安いものから始めれば全然良いと思います。

(*)MXR M222なら21,000円で購入可能: https://www.soundhouse.co.jp/products/detail/item/184032/ 

あと…よく聞かれるのは「歌唱力がないと出来ないのか?」って質問で。これについて言うと、歌は下手でも全然大丈夫です。やっぱり楽器なので、メロディラインを作るセンスと、好きな曲を真似て練習すること。これをどこまで掘り下げられるかが大事じゃないかなと。もちろん細かい部分でのスキルは色々とありますが、歌をどこまで理解出来るかかなと。音は出せば鳴るので、それをいかに気持ち良く聴かせられるかですね。自分の声の代わりに楽器に音を作ってもらうことになるので、単純にタイミングよくキーボードとかを打てる、メロディの音を弾けるようになる必要はあります。とにかくまず始めてみる、が大事だと思います。

Processed with VSCO with e8 preset

「トークボックスを始めて最初の3年は自分にムカつきっぱなしだった」


─なるほど…そんなKzyboostさんはトークボックスを始めるまでの流れを伺いたいと思います。元々はどのような音楽を聴いていたんでしょう?

Kzyboost:
小学生の頃はほんとに普通のJ-Popでしたよ、それこそ当時のモー娘。みたいな。でもやっぱりバラードとかも好きで…ゴスペラーズとか、EXILEのATSUSHIがプロデュースしてた、COLORっていう4人組のコーラスグループとか。そこから中学に入って洋楽を聴くようになりましたね、UsherやOmarion, Ne-Yoとか。ゴスペラーズとかCOLORもですけど、やっぱりいま思えば、日本のポップスとは違うメロディラインや曲作りが好きだったのかもって思います。

その後高校に入ってダンスを始めたんですよ。そこでHIPHOPに出会いました。2Pac “California Love feat. Dr. Dre”とか…もちろんSnoop Doggとか、西海岸のスターたちの曲をいっぱい聴いてました。その中でもやっぱりトークボックスを使った曲は大好きになりましたね。別にいかついHIPHOPだけじゃなくて、メロウな曲やR&Bにトークボックスが入ってるようなのも大好きで。この辺りの曲がルーツですかね。

─そこから実際にトークボックスを始めるまでにはどういった流れがあったんですか?

Kzyboost:
そこから大学でもダンスやってたんですけど、ずっと「トークボックスをやってみたい」って思いはあったんです。でも別に始めるきっかけがあったわけでもなくて…音楽は好きやしやりたいと思ってたものの、まさか自分が実際にやれるとは思ってなかったんです。で、そのまま会社に入って社会人になって。それで2年目くらいのときかな、先輩から「俺機材持ってるからあげよか」って言われて始めた感じです。だからトークボックスを始めたのって23-24歳くらいの頃です。

─背中を押されて始められたと。トークボックスをいざ始めてみてどうでしたか?

Kzyboost:
いやー、順調だったわけでもなく、最初の3年くらいはずっと自分にムカつきっぱなしでしたよ。「こんなんじゃ一生出来るようにならへんのちゃうか」みたいな。特に最初の頃は自分でビートも作れなかったんで、ひたすらありもののビートに乗せて…僕、Blackstreetの”Deep”が凄い好きやったんですよ。だからまずはこれを出来るよう、ひたすら練習してましたね。「これだけは絶対やれるようになりたい」って。

そうしてるうちに、1年目の終わりくらいには「これ自分でビートも作れなあかんな」と思って機材を買ったりして、2年目の終わりくらいに「ちょっと発音出来るようになってきたかな」って感じになりました。母音の「あいうえお」は割と出来るようになるんですよ。そのあと…か行以降の子音が入ってくると、舌と顎が接触することで発音する音になってくる。それをホースを加えた状態でどうやるかっていうので難易度が上がりますね。

だからちゃんと発音出来るようになるための練習と、気持ち良いメロディラインをタイミングよく鳴らせるようになる練習。その2つが並行してる感じです。

─いまBlackstreetのお話が出ましたが、トークボックスをするにあたって影響を受けたアーティストなどはいますか?

Kzyboost:
やっぱりBlackstreet, 中でもTeddy Rileyはトークボックスも凄いスキルやし好きですね。プロデューサーでいくとDJ Battlecatは絶対マストです、トークボックス参加してる曲も多いですし、立ち位置的にプロデュースしながらトークボックスもやるってところだと一番好きです。あとはTerrace Martinにも凄く影響を受けてますね。

逆にZapp & Rogerはトークボックスを世に広めた功績は凄くリスペクトしてるし好きやけど、影響はそこまで受けてないです。なんか、あれを目指しても俺はZappにはなれへんなって思うので。同時代で言えば、Stevie Wonderのトークボックスの方に影響を受けたかもしれないです。なんかダサカッコ良いというか、よう分からんけど心に来る演奏をするんですよね。魂がこもってる部分が伝わる。特に…YouTubeで見た、Soul Trainで演奏してる動画を見た時なんか泣きそうになって。それを見てトークボックスをやろうって思ったんです。

初リリースからの3年の軌跡


─そこから最初のアルバム『We Came 2 Bring You Da Fun』の制作に至る背景を教えて下さい。本作はスペインのレーベルThe Sleeperz Recordzからのリリースで、Kay Beeさんとの共作になっています。

Kzyboost:
Kay BeeはKid Boogieっていう、LAに住んでるダンサーなんですよ。元々僕がダンスやってた時の師匠がKay Beeと仲良くて。それで「一緒にこのレーベルから出さないか」って誘ってもらったんです。その頃はちょっと上手くなって、ライブもちょこちょこやらせてもらってた時期で…始めて4年くらいの頃かな。だから凄くありがたい繋がりで、一緒に作ろうってなりました。そこから一度彼が日本に来た時に一緒に一部作って、あとはオンラインでやり取りしながら作り上げました。

これ以降はほぼ毎年何かしらリリースするようになる訳ですけど、一方でトークボックスだけのアルバムを作りたい訳じゃないっていうのは常に意識してます。トークボックスが乗るビートには常にこだわって、どんなビートの上でトークボックスを乗せてどう表現出来るのかっていう。ビートメイクにはこだわりを持ってますね。

─本作には現代トークボックスのメジャープレイヤー・Fingazzも参加してますね。

Kzyboost:
あれはどっちかと言うとKay Bee側が連れてきた感じですね。お互い好きにやってた中で、彼の方が引っ張ってきて。聴いてみたら「あれ、Fingazzおるやん」ってなった感じです。

─このアルバムと次の『Callin’ U』はThe Sleeperz Recordzからですが、共にG-Funkへのオマージュが全面に出た作風になっています。”Luv Cali”なんて曲があったり…でも一方で『Callin’ U』ではFugeesの引用もあったりして。

Kzyboost:
そうですね、あんまり自分のルーツであるG-Funkを打ち出そう…みたいなことを思ってた訳じゃないんですけど、作ってみたらこうなってた感じですね。Fugeesのオマージュや、一方で2Pacのオマージュがあったりするのも、あんまり東のもの、西のものみたいな区切りをしてた訳じゃなくて。そのとき出来ることを精一杯やって、とにかく好きなものを詰め込んだものです。別に契約とかで何か縛りを課されてる訳じゃないですからね、好きにやらせてもらってますよ、今でも。

─以降の作品もどれも素敵なんですが、『Stepwise』『Keep Smoovin’』はジャンルとしてソウルになっています。

Kzyboost:
そうですね、これも好きなものを詰め込んだ結果で。『Stepwise』って段階的に、少しずつ、みたいな変化の度合を表す言葉なんですけど、自分がちょうど東京に出てきて、一方でコロナ禍が始まった時期でもあって。そんな中、家で作り溜めた音楽を世に出したのがこれですね。

─2020年はこの2枚の他にも1CO.INRさんとの『drivin’』もリリースされたり、多作な時期でした。同時に露出も増えた時期ですが、何か動き方として転換期を迎えた?

Kzyboost:
そうですね、この時期は自分からめちゃくちゃ動きました。まあビジネス的に動くというよりは、1CO.INRくんやgrooveman Spotさんもそうですし、「一緒にやらへん?」みたいな出会いや誘いが一気に増えた感じです。やっぱり社会的にテレワークが進んできて…僕も社会人なんでその流れに乗ってテレワークになっていて。そんな中で家で過ごしていると、自分とどう向き合うのか、が凄く問われた時期でした。そこで音楽に対して「いまやるしかない」と思って動きました。

─そこで組むことになるプロデューサーが、1CO.INRさん、grooveman Spotさん、dhrmaさん、Aru-2さんなど、00年代以降のBoom Bapサウンドを汲んだものが多いのも印象的です。

Kzyboost:
そうですね、やっぱ自分もそういう音大好きなんで。他にもmabanuaさんとかjjj, Mitsu the Beatsさんとか、ガンガンに影響受けてます。最近はDaichi Yamamotoと行動することも多いですけど、彼のバックDJをしているPhennel Kolianderとかも…好きなビートメイカーは言い出したらキリがないですね。

─いま名前が出たDaichi Yamamotoさんとの”Wanna Ride (The Breeze)”などは反響も大きかったですね。

Kzyboost:
ありがとうございます。僕自身はあの曲がいまの日本で世に出て、ちゃんとウケたってことは凄く大きいことやと思ってます。反響もいっぱいありましたし、そこからリスナーもウェッサイに流れてくれるんじゃないか…なんて期待もありました。でも何より、あの曲は「こんな曲が出来る俺っていけてるんちゃう?」って思えるようになったことがデカいですね。外からの反応と言うよりも、僕の中で大きい曲でした。

あれもビートはgrooveman Spotさんとの共作で、仙台の家にお邪魔して一緒に作り上げました。

─あの曲はビートから共作だったんですね。普段から他のプロデューサーと作るときはビートから携わることが多い?

Kzyboost:
人にもよりますが、まあそうですね。1CO.INRくんとやったときは一緒に作って、「俺今日はビート組むわ、そっちは上物とキーボードやっといて」みたいな分担をしたり。grooveman Spotさんとは一緒に「どうしようか」って話し合いながら完全に一緒にやったり。Aru-2とやったときは基本はドラムをAru-2を組んで、僕がベースや上物、そしてもちろんトークボックスを乗せたりして作りました。

もちろんものによっては既にビートがあって、そこにトークボックスを乗せるって場合もあるんですけど。でも基本的な思想としてはただ歌(トークボックス)を乗せるだけ、っていうのとは全く異なります。自分が最初から関わる制作ではビートから触りたいですね、やっぱり。

やっぱりビートから関わっていく、というのは自分の幅を常に広げるために大事なことやと思うんです。トークボックスだけをやり続けても何も変わらないというか。自分で曲を作る、その上にトークボックスを乗せる。それをちゃんと完結出来る人って…海外やと結構いるんですけど、日本やとほとんどいないんちゃうかなって思います。俺がおるんやぞっていうのを発信していきたいですね。

日本でトークボックスは広まるか?


─今では(Skoop On SomebodyのTAKEとゴスペラーズの村上てつやによるユニット)武田と哲也への客演もあり、活躍の場を広げられています。

Kzyboost:
そうですね、ゴスペラーズとかはまさに自分が学生時代聴いてた人ですから、一緒にやるなんて考えられなかったですね。そう思うと音楽業界って夢あるなと思いますよ。自分も初めて作品出してから3年でこうなってるんで。もちろん周りの環境に恵まれてたり、人の繋がりで助けられたりした部分が大きいので、ほんとにありがたいことです。

─こうした引き合いも見ていると、日本でのトークボックス需要は実はかなりあるんでしょうか?日本におけるトークボックスのシーンはどのような状況かと合わせて教えて下さい。

Kzyboost:
うーん、どうなんですかね(笑) 言ってもコアな楽器ではあるので、メジャーなシーンにフィーチャーされるものではないと思ってますけど…でもBruno Mars ”24K Magic”でMr. Talkboxってやつがモロにトークボックスで入ってたり、いまイケてる奴らがトークボックスを使う機会は増えてるので。そういう流れが日本でも起きれば嬉しいなとは思ってます。もちろんその中で自分がカッコ良いと思えることをやり続けることが重要ですけどね。

一方で日本のトークボックスシーンについては…それこそ鶴岡龍さん(ex. LUVRAW)とか、若手やとJUVENILEくんとかかな。日本でライブやったり楽曲に入ってるトークボクサーってそれくらいで、あんまりいない気がします、正直。だから「これ、ほんまに広まるんかな…?」って不安に思うときはありますよ。やっぱり総じてニッチな楽器ではあるので。まあだからこそ自分が目立ててるのかもしれないって思ったりもしますけど…でも、シーンと呼べるようなものはないですね。トークボックスの話が出来る人、全然いないです、さみしい(笑)

ニッチな楽器であることに加えて、「ロボボイス出せる」っていう分かりやすい面白ポイントがあるじゃないですか。そうなるとトークボックスちょっと触って「面白かった」「俺、ロボボイス出せるんだよね」で止まって中々曲作り、音楽として好きになるところまで進みづらいのかもな…っていう気はします。これは個人的な考えですけどね。

─プレイヤーが少ない、翻って師となる人や教えられる存在がほとんどいないこともあるかもしれませんね。

Kzyboost:
そうですね…ただ自分も誰にも教わらずにやってきたので、やっぱり「まずはやったらええやん」とは思います。あんまりレッスン開いて人を集めて「こうやるんだよ」って教えるのも…それがストリートカルチャーの姿かっていうと違うと思うので。言い方はキツいですが、本当に好きになったならそこは自分で頑張って掴んで欲しいなと。

トークボックスは歌やメロディに興味を持って、繰り返し練習すればちゃんとその分上手くなるので。自分も始めた頃は会社から帰って…ずっと自宅でやってました。ほんとに毎日でしたね、会社員なので飲み会とかあったりするんですが、そういう日以外の時間を使って…飲み会もたまに練習の為に行かずに帰ったりしながら(笑)

そうやって会社員しながらでも、夢を持ってやれば出来るようになるので。この楽器はトークボックスは人と機械の間を表現出来るツールです。今後もアルバム制作が続く予定ですし、自分が活動を続けることで、少しでもその魅力を届けられればなと思います。

─ありがとうございました。


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2021/11/13
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