Column/Interview

近年、日本のHIPHOPシーンで急速に注目を集めるレコーディングスタジオがある。
兵庫県姫路市にあるHLGB STUDIO (ハローグッバイスタジオ)。プロデュースチーム・KNOTTとしても活動するDa.Iが運営するこのスタジオは、JR姫路駅から車で更に30分行った山奥にある。それにも関わらず、このスタジオに兵庫近隣はもちろん、関東からも有望なアーティストがこぞって足を運ぶ。Minchanbaby, week dudus, YOSHIKI EZAKI, 百足…そしてShurkn Papを始めとするMaison Deの面々。
Shurkn PapやMaison Deを世に送り出し、急速に存在感を増すこのスタジオの魅力とは。そしてそんなHLGB STUDIOを運営するDa.Iから全面的なバックアップを受け、日本のシーンを疾走する若きMCがいる。lil beamz。傑作『LIL BEAMZ 2,0』を発表し今も光の速さで突き進む、彼とHLGB STUDIOを繋ぐものは何か。これは両者が出会い、共振し、共に歩みだすまでを掘り下げたインタビューだ。

 



登場する主なアーティスト(順不同):
Maison De、Shurkn Pap、Skynet、キングギドラ、Lil Jon、K DUB SHINE、KOHH、Lil Peep、Minchanbaby、YOSHIKI EZAKI、百足

Da.Iとlil beamz – それぞれの原点

─まずはDa.I
さんのHIPHOPとの出会いを教えて下さい
 
Da.I
僕はいま33歳なんですけど、15,6歳のときにキングギドラとか(EMINEM主演映画の)8Mileの直撃世代でした。
凄く不良的なHIPHOPが出てたときで…自分は全然ヤンキーとかではなかったんですけど、別に頭が良い方でもなく近い方ではあったので…こういう音楽を聴くようになりました。
あとはRIP SLYMEやKICK THE CAN CREWが当たり前に地上波や紅白に出てた時代でもあったので、「ラップとHIPHOPの違いって何やろ?」とか、そういうとこから興味を持って入りました。
 
そこから日本のを深く掘るというよりは、そのままUSを聴き始めました。
友達の間で「アメリカが本場なんや!」みたいな話になったこともあって。
50Centとか、あとは当時あったコンピの『WHAT’S UP HIPHOP』シリーズを金ないんで友達と焼き合って聴いたりとか…当時流行ってたやつはとにかく聴きました。
あとは当時、海外のYahooでだけ、日本で言う「Yahoo!動画」みたいなところがあって、
色んなMVを観れたのでそこをチェックしたり…HIPHOPレーベルのHPにもMVが上がってたりしてたので観てましたね。
 
 
特にどの辺りのアーティストがお気に入りだったんですか?
 
Da.I
聞き始めた当時はアトランタのHIPHOPがめっちゃ好きでした。
当時はCrunkが全盛期だったんで、特にLil Jonとかはめちゃめちゃ聴いてました。
 
あそこらへんの音楽から、自分としても「やりすぎなくらいおもろいことやらなあかんのや」っていう部分を学んで、そこはかなり(自身の活動に)影響を受けてるかもしれないです。
 
そこからはHIPHOPの歴史を辿って一通り聞いていきました。
90年代のHIPHOPとかに傾倒してた時期もありましたけど、メインストリームも追ってくし、という形だったので、なんだかんだで幅広く聴いてましたね。
 
で、その幅広く聴いてたってのがいま(HLGB Studioの活動で)めちゃめちゃ役に立ってますね。
ウチは結構Boom Bapのラッパーも使ってくれるんですけど、彼らとの仕事は、当時の良いものを現代に復刻させる部分もあるわけで。
そういう時はその当時の匂いを知っておかなければ対応出来ない…例えばボーカルひとつとっても、どういう音の出し方をすればBoom Bapの良さが出るのかとかってあるので。
その辺は当時色々聴いておいて本当に良かったと思う部分です。
 
 
そこまで色々広く聴かれるくらいHIPHOPにハマったのはなぜだったんですか?
 
Da.I
当時の出会いはキングギドラだったんで、まさに”Unstoppable”や”F.F.B”とかが出たときで。
それまで、僕にとって音楽って愛だの恋だの、元気を出そう、っていうのを語るものやったんですよ。
それがいきなり…ラップってエゴの塊じゃないですか笑
「こんなこと歌ってもええんや」っていう衝撃があった。
それで友達から「ケーダブ(K DUB SHINE)のこれ聴いとき」ってCD渡されて聴いたら、
“ラストエンペラー”(『現在時刻』(1997年)収録)の「自分が自分であることを誇る」ってリリックに衝撃を受けて。

当時、僕は自分に全然自信なかったんですよ。
別に勉強が出来る訳でもないし、スポーツ万能でもないし友達が多い訳でも、かといって少ない訳でもない…何も形になってない存在だと思ってて。
そんなときに「自分は自分のままでおってもええんや」っていう、このワードにまず喰らったんですよ。
 
で、そこからHIPHOPを聴いていくと…HIPHOPって「自分を語る」音楽じゃないですか。
ゲットーや自分の境遇から這い上がろうとする人らが歌う…そんな背景を知って、「これは自分が助かる為の音楽だ」って思いました。
「今の自分も抜け出せるんじゃないか」、みたいな、そこでどんどんハマっていきました。
 
 
一方のlil beamzさんは、どのような経緯でHIPHOPとの出会い、惹かれていったのでしょうか。
 
lil beamz
最初にHIPHOPに出会ったのは中学2年のときで…そのときは中学生の中でジャパレゲがめっちゃ流行ってて、イケてる奴はみんなジャパレゲ聴くみたいな感じやったんですよ。
それこそみんなCHEHON聴いてて…その流れで自分も聴いて、同じくイケイケな奴が聴いてるAK(-69)とかも手出してみたいな。
そんなときに当時好きやった女の子がたまたまKOHH聴いてて。
なんかAKとかとも全然違うし、内容もなんか適当なこと言っとんし、なに歌っとるんやろこの人…でもカッコ良いな、みたいな。
そこから本格的に聴くようになりました。
 
 
で、みんなイケイケな奴はHIPHOP聴く感じになってたんですけど、自分はどんだけやってもそんな風にイケイケにはなれないってのは分かってて。
せめて、そいつらよりめっちゃ詳しくなったろ、ファッションだけでもめっちゃ頑張ろ、みたいなマインドでやってました。
それでまずは日本のHIPHOPを掘り出しました…KOHHからANARCHY、AKLO、SALUみたいな有名な人達を聴いていきました。
 
 
─lil beamzさんは以前FNMNLのインタビューでLil Peepの影響を語っていましたね。
 
 
lil beamz
HIPHOPを完全に好きになってったとき、やっぱその良いところってリアルなところやと思ったんですよ。
どんなヤンキーでも陰キャでも、他人には言えへんこととかあると思うんですけど、それを代弁してるのがラッパーやと思います。
Lil Peepとかも他人には言えへん痛みや弱さを歌ってくれてる気がして、その弱さを伝えるみたいなのが自分にとっては衝撃やったんですよ。
やっぱ自分も他人に思ってることとか言うのほんまに苦手で、でもそれを代弁してくれてる気がして一人で「わかるわ~」って聴いてました。
 
言ってる意味はあんま分かんないんですけど、曲聴いただけでその悲しいのは伝わるっていうか。
その雰囲気で「こいつはそういう奴なんやろうな」ってフィールしてました。


Da.Iとlil beamz – そして邂逅する


そこからラップを始めるまでの道のりは?
 
lil beamz
高2のときになんか「いけそうやな」って思ったんですけど、それは別に「やろう」ってことにはならんくて。
高校卒業して社会人になったとき、高校の時の友達に勧められてやろうってなりました。
 
それから初めて1人でトラック見つけてGaragebandで録るみたいなことを2・3曲やったんですけど…なんかこれ、全然他人に聴かせるクオリティじゃないなと思って。
そんなときにFNMNLでDa.Iさんのメールインタビュー (https://fnmnl.tv/2019/04/23/72250) を読んで、速攻で連絡してみたって感じです。
 
 
その時なぜ連絡しようと思い立ったんでしょう?
 
lil beamz
その当時Maison Deを聴いてて、Shurkn Papとかめっちゃ好きやったんで、「Shurkn Papの曲作ってる人なら絶対ヤバいやん」と思って笑
 
Da.I
確かメールとかで連絡が来たんですよ。
その時は大体みんなDMとかで連絡して来てたんでちょっと印象に残ってて。
それで会ったのが確か2019年5月とかでしたね。
 
 
そこで会ってすぐ録って、5月のうちにデビュー作”Let’s Go lil beamz”が出たんですね。
 
 
lil beamz
そうですね、録ってみて「これが他人に出すクオリティの曲なんや」って思って笑
その時はめちゃめちゃテンション上がって、スタジオから家帰るまでの間ずっと聴いて、友達にも聴かせて…みたいな。
で、「Apple Musicで出してえな」って思ってもう申請してすぐ出した…って感じですね。
 
 
他人に出せるクオリティの曲が出来た…HLGB Studioとやることで何が変わったんでしょう?
 
lil beamz
最初はもう「他のラッパーの人ってどうやって曲録っとんやろ?」て感じやったんですよ。
そういうちゃんとしたスタジオとかがあるっていうのも知らんかったですし。
で、「そんなラッパーの曲録る人ってちょい怖いんちゃうん?」みたいに思ってめっちゃビビってたんですけど、行ってみたらめっちゃ優しい人が出てきて笑
 
それで録ってみると……1人で曲作るより、こんなちゃんとしてくれるんやって思って。
ただ録音してはい終わり、とかじゃなくて、凄くちゃんとアドバイスしてくれたりとか。
歌い方やフロウみたいなとこも聴いたら教えてくれるし、レコーディング以外の……「何歌ったら良いか分かんないんすよ」みたいな相談にも乗ってくれたりとか。
Da.Iさんはそこが特別丁寧な気がします。
 
 
─Da.Iさんはlil beamzさんに出会ったときや、”Let’s go lil beamz”を録った時はどんな印象だったんですか?
 
Da.I
「不思議な子が来たな」って印象でした。
(兵庫だと)Maison De聴いてラップ始める子ってのは滅茶苦茶多くて、そういう子達はどっちかと言うとやんちゃなタイプが多いんですよ。
「俺達上がってやるぜ」みたいなマインドが出てる子が多くて…lil beamzくんは、初めてその影響外から来た感じがありました。
 
それでいわゆるナードタイプのラップ…自分の世代で言うとニコラップ的な、オタクでも良いじゃんみたいなカウンターラップの類かなと思ったんですけど、どうもそうではない。
オタクであることを自虐する訳でもなく、かと言ってめっちゃREPする訳でもなく…ありのままを見せるというか。
まあ初対面の時にここまで読み取れた訳じゃなかったですが、そういうのもあってそれまでの枠外から来た子だ、不思議だなって感じはありました。
めちゃめちゃ大人しかったしね笑
 
lil beamz
 
Da.I
もう必要最低限の会話以外はしてへんのちゃうかなってくらい大人しかったです笑
正直その最初のときの(レコーディングとかの)印象はあんまりないんです…不思議な子が来たなっていうところまでで。
 
僕が印象に強く残ったのは2回目に会った時ですね。
 
lil beamz
『DIO JOURNEY』っていう3曲入りのEPを録ったときですね。
ちょっと今はもう消えちゃってるんですけど。

lil beamz、「DIO JOURNEY」を配信開始|THE MAGAZINE
(『DIO JOURNEY』のジャケット。現在は配信されていない)

Da.I
1曲目に録った”Let’s go lil beamz”の中で「原付からレンジローバー」って歌詞があって、この「原付」ってワードが少し気にはなってたんです。
でも「原付」自体は(同じ加古川のラッパーである)Merry Deloが既に使ってたんですよ。
で、その時はMerry Deloが使ってたトピックスまた使うんかなーくらいに思ってたんですけど。
 
次の”DIO JOURNEY”のときに「DIO」って原付の固有名詞を出してきて、それでブワーっときたんですよね。
自分が乗ってるこのDIOっていう原付を、別に茶化さず、飛び道具的なネタにもせず、実際に自分が乗ってるありのままの姿で使う。
そこで初めてこの子面白いんじゃないかって思い始めました。
結果的にこのDIOがlil beamzの代名詞になりましたね。
 
 
確かに、Shurkn Papを聴いてラップを始めたらもうちょっとギラギラした感じのリリックになる人が多いと思いますが、
 lil beamzさんはそうしたラッパーを聴きながらも、アウトプットはあくまで自分のサイズに落とし込んでるのが印象的なポイントですよね。
 
lil beamz
やっぱその、自分がイケイケな奴やったらそういうラップやったと思うんですけど。
自分はやっぱイケイケとかじゃないから、自分は自分のスタンスで歌うっていうことを意識してますね。


なぜいま、HLGB Studioに才能が集まるのか


 
このlil beamzさんのスタンスのお話はまた後ほども伺いますが、その前にHLGB Studioの存在について聞かせて下さい。
 最近はMaison DeやShrukn Papに始まり、Minchanbaby、week dudus、yx silly、そしてlil beamz…どんどん兵庫の才能と共にHLGB Studioの名前が出てくるようになっています。
 兵庫の有望なラッパーがこぞって集まる、その理由はどこにあると思われますか?
 
Da.I
技術的な部分を語るインタビューでは今回ないとは思うので、違う部分で言うと…。
うーん…まずウチに来てくれる子たちはみんな良い人なんで、みんなちゃんとクレジット(表記)してくれるっていうのはあると思います笑
だからお陰様で名前が露出しやすい。
もちろん他のスタジオにも人が集まってるとは思ってるんですけど、HLGB Studioに来てくれる人たちに関しては、「何か変えたい」っていう意思がある人が多い気はします。
今の現状から何かを変えたい、自分自身を変えたい。
そんな思いの結果、HLGB Studioに集まってくれる、そんなことが多い気はします。
 
つまり……録ってオッケー、おしまいっていう子が少ない。
もしかすると、ミンちゃん(Minchanbaby)とかにも言って貰ったんですけど、「アドバイスやディレクションを結構丁寧にやる」っていうのはあるかもしれません。
時間が許す場合っていう大前提ですけど、聞かれればなるべく「自分はこう思うかな」みたいなことを言うようにはしています。
口出し過ぎるとウザいかなとも思うんですけど、結構それが評判良かったりもして。
 
 
確かに、特に「何か変えたい」アーティスト達に対して、外から意見・アドバイスを積極的に言うみたいなのは大きいかもしれませんね。
 lil beamzさんとしてはいかがですか?
 
lil beamz
そうですね。
自分もずっと通ってる上で、「lil beamzとは」を一番理解してくれてるのがDa.Iさんだと思ってるので。
それを理解してくれた上でのアドバイスをしてくれるのでありがたいです…lil beamzの理解度が他の人とは全然違います笑
もう歌詞から何からlil beamzのエッセンスを引っこ抜いてきて理解してくれてるなって感じますね。
 
Da.I
特にbeamzくんとは一緒に曲作ったりしてるので距離が近いのもありますけど、やっぱりほっとけないんですよね笑
クルーで来てる子達ならその中で高め合ったり出来ますけど、やっぱりbeamzくんは独りぼっちなんで。
いや、ほんとはそんなことないんですけど、よく自分で言ってるんですよ、「俺友達おらへんから」みたいな…ほっとけないです笑
 
lil beamz
やっぱ1人でやってると自分の意見100%で出来る訳ですけど、何か新しいことしようとするときにDa.Iさんに聞くと新しい意見が聞ける。
それで新しいところに行けるっていうのがあるんで…自分は新しいことが好きだし、そういう時にアドバイス貰えるのはありがたいですね。
 
Da.I
あとはやっぱ「何かを変えたい」と思って来るからか、凄く細かなことまでこだわる人が来てくれる気はします。
例えばShurkn Papの”HIGH CLASS PAP PT2″(『The Me』(2019年)収録)って曲があるんですけど。
 
 
「あの曲のミックスがヤバい」ってなって、一時期凄く連絡が来たんですよ。
どっちかと言うと「どうやって売れるか」みたいなところだけ気にするラッパーも多い中、
そういう「ミックスがヤバい」みたいな観点は…本当は全員に持ってて欲しいですけど、その観点を持ってる人たちがHLGB Studioに来てくれてるのかもしれないです。
やっぱりラッパーなので、「自分の声がどう聞こえるのか」という点をシビアに見てるのかなと。
「どうすれば自分のラップ・声、曲をもっとカッコ良く聞かせられるのか」みたいなのを常に考えて聴いてると気付くんだと思います。
 
 
─HLGB Studioの知名度が一気に高まったのは、やはりMaison Deの面々が使っていて、彼らがブレイクして以降ですか?
 
Da.I
そうですね。
やっぱり地方からあんな売れ方をするのって中々ないじゃないですか。
地方って、ほんとに何もないんですよ。
大学行ってなくてただ働いて、やりたい事見えずにモヤモヤしてるだけの若い子ってめっちゃいると思うんですけど、Maison Deはそんな子たちに火をつけた。
それでくすぶってた想いを持ってた子たちが一気に…っていうのはあります。
 
でもまあ、ウチのスタジオにはるばる来てくれる人は本気だと思いますよ笑
来てもらったら分かるんですけど、HLGB Studioってほんとに山の中にあるんですよ。
JR姫路駅から車で30分とかの場所なんで結構ややこしい。
 
そんな場所にほんとに全国から皆さん来てくれます…最近だと例えばですが、YOSHIKI EZAKIくんとかも東京から制作に合宿で来てくれましたし…百足くんも一度一緒に来てくれました。
やっぱそんな中で地元のスタジオではなくウチを選んでくれるっていうのは、何か変えたい思いなんかがあったりするのかなと思います。
 
 
 
─HLGBは兵庫のアーティストの出会いの場としての役割もありますか?
 例えばSkynetさんとlil beamzさんはHLGB Studioのよしみで共演したと、Da.Iさんの過去のツイートにありましたが。
 
Da.I
出会いの場になるっていうの、そうなればいいんですけどねー…あまりなってないですね。
とは言え僕が押し付けるのは野暮じゃないですか…お節介おじさんにはなりたくないんで笑
そうじゃないやり方で繋がっていけたらとは思います。
このSkynetやyx sillyとlil beamzの繋がりなんかはお互いがフィールして繋がってくれた、稀有な例ですね。
 
lil beamz
Skynetは服屋繋がりですね。
三宮に僕の好きな服屋があるんですけど、そこにたまたまSkynetも通ってて、店員の人から「HLGBに通っとる奴おるで」って言われて。
なんか同じタイミングでSkynetも自分のこと知ってくれてて、インスタでフォローされて連絡取って。
んで遊んでみたら年下の凄い可愛い奴が来て、「一緒に曲作ろか」ってなったみたいな。
 
僕は人と関わるの凄い苦手なんで、フィーチャリングも自分がやりたいと思わんかったら別にやる必要ないかなと思ってるんで。
 
Da.I
まあHlGB Studioを共通の話題にして、色々とみんな繋がっていってくれるならハッピーですね。


Da.Iとlil beamz – そして作り出す、lil beamzという作品


 
─lil beamzさんの作品についても聞かせて下さい。
 初作『Anti Beams Organization』(2019年8月)のラストを飾る”I’m nothing”がスタンスとして非常に象徴的だと思っていて。
 「何かになりたいだけ、認めて欲しい、それだけ」「夢に出てくるあの子に会う それまで何か探している」など、
 青春時代に置き残してきた何かを取り戻すための旅が音楽活動になっているような印象を受けます。


lil beamz
そうですね、ほんとその通りです。
この曲は僕も好きなんですけど、ほんま…自分はなんなんやろ、なんもないな、みたいな。
別にヤンキーじゃないし、そこまでオタクでもないし、ゲットー育ちでもなくぬくぬくと育ってきたただの少年。
ほんま何もないし、ラップをやるべき人間ちゃうんかなとか思ったんですけど。
 
でも最近強く思うんですけど、同じ人間って誰もいないなって。
誰一人として同じ人はおらん中で、自分も何かの才能があるんじゃないかって。
自分に何があるんやろう、っていうのを、今ラップしながら探してるって感じです。
 
 
同曲でさんざん上記のようなラインを吐き出したのちに、「赤く晴れた空 アナキン・スカイウォーカー」で締めるのは、これからの旅立ちを告げるラストとして非常に美しいですね。
 スターウォーズEP4を見た方ならグッとくる重ね合わせというか。
 
lil beamz
なんか、ほんま凄い申し訳ないんすけど、僕スターウォーズ1回も見たことないんですよ笑
アナキン・スカイウォーカーだけたまたま名前知ってたんで入れてみたっていう…笑
 
 
あっ、確かに、僕の想像してた場面を見てるのはアナキンじゃなくルーク・スカイウォーカーでした笑
 じゃあこれ、スターウォーズとの重ね合わせとか全然関係ないんですね?笑

話題の場面(スターウォーズ EPISODE 4より)
 
lil beamz
全然ないんです笑
事前に想定質問を渡されたときにこれ読んで「あ、後付けでそういうことにしとこかな?」って思ったんですけど、やっぱ無理あるなって笑
 
Da.I
ボロ出るからね、やめとこ笑
でも、そういう情景が映し出されるようなリリックを書くのが本当にbeamzくんは上手いと思う。
 
 
了解です笑
 一方でビートについて聞かせて下さい。
 lil beamzさんはそのビートチョイスも独特なセンスがありますが、
 ダンスビートやドラムンベースが大好きというよりは、アニメの影響から早いBPMのものを好んで使ってるんでしょうか。
 
lil beamz
ビートで好きなやつは基本的にメロディがあるやつなんですけど。
でもダンスビートかどうかとか、(BPMが)早い遅いとかもあんまこだわりはなくて。
やっぱ一番にあるのは他人と被りたくないって言うのが基準になってます。
その上で、自分が好きな音を選ぶ感じ…まあアニソンぽい感じの音も好きやったし、誰とも被ってなかったのでそういうのが多いって感じですね。
 
 
じゃあ、別に早いBPMで四つ打ちで…みたいなところを自分のスタンスとしてチョイスしている訳ではない?
 
lil beamz
そうですね、みんながこういうのをやり出したら止めます。
逆に誰もBoom Bapな音を使わない時が来たりしたら、Boom Bapのビートでやるかもしんないです笑
 
 
ラップスタイルについても伺えますか。
 特に”MICHICO LONDON”(『LIL BEAMZ 1,0』(2019年12月)収録)以降、高速BPMでのダンスビートのスタイルが本格化していく中でラップも更にアップデートされてきた気がします。
 ご自身で意識している部分などはありますか?


lil beamz
ラップのやり方については特に意識したことはないですね…リリックとかは意識的にアップデートしようと思うんですけど。
ラップそのものについては別に「このビートだからこういうフロウにすれば…」みたいなことは一切考えず、調べずに、自分の乗りたいようにやったらこうなった、みたいな感じです。
 
 
今お話に出たリリックのアップデートで言うと、『LIL BEAMZ 2,0』(2020年5月)では心情面でも前向きなラインが出てきましたね。
 例えば”Pull Up PRADA”で「鏡を見ればイケてる俺」というラインが象徴的ですが、”I’m nothing”のラインと比べると対照的というか。

 
lil beamz
ちょっとだけ注目浴びるようになって、前よりも自信にはなってます…でも実際そんなには満足いってもないですね。
なんか、今でも「今日100パーいけるな」って思う日と、「ああ俺もう全然無理やん」って100パーで思う日が両方とも全然あるんですよ。
その意味で大きな心境の変化があった訳ではなくて、その「100パーいけるやん」ってノリで作った時のが”ZENITSU”みたいなポジティブ寄りの歌になったり。
 
 
逆に「100パー無理や」っていうときに録るとネガティブな曲になったり。
その意味で”I’m nothing”の時と大きく変わった訳ではないです…少しは前向きになったかもですけど。
なので全然まだ落ちる日もありますね。
 
Da.I
一時、凄く心配してた時期があったんですよ。
ブースから出てくる度に「大丈夫?」って聞いてて。
beamzくんの歌詞って、モロにその時何を考えてるのかっていうのが出てるじゃないですか。
で、僕はレコーディングの場で一番最初にそれを聴く立場な訳で。
 
それで…僕のとこに予約の連絡入れて、わざわざ来てくれて、それでこのリリックを歌う精神状態って大丈夫なんか?って凄く心配してた。
確か『LIL BEAMZ 1,0』が出て、『LIL BEAMZ 2,0』を作ってた時くらいやったと思うんですけど。
「大丈夫なん!?」って、3-4回は聞いてた。
 
lil beamz
それが”かえりみち”とか書いてた頃ですね。
 
 
実際大丈夫ではない感じやったと思います。
ほんまになんか、結構ダメやったっすね…。
 
Da.I
かえりみちの歌詞の「俺にはこれしかないんだ」って部分が泣いてるような叫びに聞こえて。
でも具体的に何も助けられへんし、せめて曲に出すことで解消しよって。
そんで、そういう時こそええ曲が出来たりするんですよね…”かえりみち”、僕大好きですもん。
だから…スパイス程度に病んで欲しい反面、駆け抜けて欲しい反面みたいな…難しいな笑
 
lil beamz
自分でも正直、そういう精神状態の時の方が良い曲出来たりするっていう感覚はありますね笑
“ASAHI ABI ABI feat.Menace無”(『LIL BEAMZ 2,0』収録)とかも、曲調は凄いけど歌詞を見たら決して明るい訳ではないし。
 
 
─”ASAHI ABI ABI”は名曲ですね。
 
Da.I
あの曲も(そんな精神状態の時だったから)出来たとき、2人とも別に「物凄い曲が出来たな!」って感じでもなくて。
「なんか…これ…変わったの出来たな」みたいな。
後で客演で乗せてくれたMenace無さんがめちゃくちゃ良い仕事してくれたのもあって、みんなに愛される仕上がりにはなりましたね。
 
lil beamz
あとはトラックとリリックのギャップみたいなところは意識したんで、
“ASAHI ABI ABI”とかも「トラックこんなやのに言ってることめっちゃ暗い、やべー奴やん」みたいな効果は狙ったかもしれないです。
 
Da.I
これは核心やと思うんですけど、田舎暮らしで社会人で働いてて、実家住んでて、車持たずDIOに乗ってるってお金ないんですよ。
DIO大好きとかならともかく。
それをそのまま歌ってる時点で哀愁がある。
そんな奴がどれだけ「俺はヤバい」って歌ってもそこに哀愁が漂う。
だから、その哀愁を持った人があえて”ASAHI ABI ABI”みたいな音に乗ることのギャップの面白さというのはありますね。
たぶんあのトラックに超イケイケな人が乗っても、ただのイケイケなラップなんですよ。
何かを抱えてる人が乗ることで、無理してる感というか、空元気感というか、拭えへん哀愁みたいなのとの化学反応が起きてる。
そこがbeamzくんの良いとこやと思います。
 
だから、もっとみんなにはlil beamzのリリックから漂うそういう部分に着目して欲しいですね。
どっちかと言うと”ASAHI ABI ABI”みたいなビートのセンスがよく評価されるんですけど、
リリックとビートの相性、本人のキャラクター、そこから生まれるストーリー…それが生み出されているストーリー、そういうのを感じて欲しいです。
 
もう、どう考えてもお金ないんですよ。
さっき言ったみたいな、田舎の実家暮らし21, 2歳とかで原付が愛車で、それが生活の一部になってるっていうのは、もう下町に住んでるドラマの主人公みたいな感じじゃないですか笑
それが曲の中ではイケようとしてる、「変えたくて」何かに向かって走り出してるっていう、lil beamzはそこのドラマなんですよ。
(*姫路・加古川などは車社会で、一家に一台というより一人につき車一台という環境)
 
 
最新作”Light Speed Dio”(2020年6月)では、以前「別にカッコ良いと思って乗ってる訳じゃない」と語っていた原付・DIOが「君と走る」「ベストフレンド」な相棒格に昇格してる印象を受けます。
 この辺りはブレイクするにつれて心境の変化というか、ただ周りにあったものが段々と誇らしくも思えてきたりする部分があったのでしょうか。
 
 
lil beamz
うーん…今も別にDIOをカッコ良いと思って乗ってる訳ではないんですけど、
今はそれしか乗ること出来へんし、ありのままを変わらず歌ってると言うとこです。
 
Da.I
この曲はKNOTT×lil beamz名義で、僕がプロデュースしたんで、もう「この曲の名前はLight Speed DIOや」って、テーマを投げたんですよ。
僕の中ではlil beamzが歌うDIO曲の熱が高まってたんで、”1回最高にイケてるDIOの曲作ろう”っていうことで。
DIOは腐れ縁なんですよ。
もう好きとか嫌いとかの次元じゃなくて、お前と行くしかないねん、みたいな。
 
lil beamz
そうですね笑
別に今めちゃめちゃ金持ってたら多分DIOには乗ってないですからね笑
でもDIOに乗ってる今は、DIOが僕の人生の相棒です。
 
 
最後に、お2人の今後の予定を聞かせて下さい。
 また『LIL BEAMZ 2,0』を経て、”Light Speed DIO”で遂にlil beamzとKNOTTの両名義でシングルカットするまでになった訳ですが、
 今後も両者で何かする予定などがあれば伺えれば。
 
Da.I
勝手に自称してるんですけど、僕はlil beamz制作委員会なんで笑、これからも共作はしたいですね。
別にlil beamzのプロデューサーとかじゃないですけど、アニメとかの制作委員会と一緒で、
プロモーションも含め、lil beamzっていう作品を一緒に作り上げてる感覚です。
 
beamzくんはクルーも入ってないし、友達もおれへんっていうし笑、僕もbeamzくん好きやからじゃあ協力して一緒に何か作ろうよっていう。
あんまりうちのスタジオでそういうケースはないですけど、やっぱり第一に彼のファンなんで、色々手伝わせて貰ってますね。
僕は彼とDIOがたどり着く先を見てみたいんです。
「原付からレンジのローバー」って歌ってたのを叶えて欲しいですし。
 
なので、”Light Speed DIO”以降、ジョイントで何かやろうとか動きが決まってる訳じゃないですけど、引き続き何かあればやりたいですね。
(Shurkn Papの作品をKNOTTがREMIXした)『RE:Shurkn Pap』(2020年)みたいに、REMIXを手掛けるとかでもあるかもしれないですし。
 
KNOTT自体も、色々と外仕事を頂いているのでそれが順次出て行きます。
あとはKNOTT名義でも考えてはいるんですけど、ちょっとスタジオワークを含め予定が毎日いっぱいで。
KNOTTプロデュースのものは妥協したくないし、慎重にやりたいですね。
ただ色々進めてはいます、KNOTTがボカロにラップさせるっていう形の曲もありますし笑
 
いまちょっと(音楽業界の)リリースの数も多くなってるじゃないですか。
そんな中で数だけ出すとすぐ飽きられる、慣れられちゃうんで、しっかり作って一撃のものを出したいですね。
 
lil beamz
自分も、Da.Iさんとやりたいことが合致すればいつでもKNOTTとはやりたいって思ってます。
 
自分はフィーチャリングの曲が1曲…ちょっとまだ時期は決まってないですけど、出る予定です。
あと11月に新しいEPが出る予定です。
 
 
新しいEPはどんな作品になりそうですか?
 
lil beamz
やっぱ『LIL BEAMZ 2,0』を出したあとに反響が結構あって。
それが嬉しくて…多分僕と同じようなことを感じてる奴ってめっちゃおるんやろうなって思って。
なんかもう1人じゃないんやなって。
俺に何か期待してる奴らめっちゃおるやん、ほんならそいつら全員乗せてレッツゴーって感じっす。
 
 
「Let’s go lil beamz」から「Let’s go 全員」みたいなところへの変化の作品ですね。楽しみです。

以上 (2020/10/11)
───

Light Speed DIO – Single

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