Column/Interview

JinmenusagiとSKLRが、JMSGSKLRとしてジョイントアルバム『LEELEE』をリリースした。

テレビゲームの鉄拳をモチーフとしたアートワーク、2人に縁深い面々を基調とした客演陣、3か国語がフラットに入り混じる世界…そこにあるのは非常にゆるやかで自由な世界だ。だが、それゆえに本作は、期せずしてHIPHOPの根幹に迫っているとも言える。自分たちを形作ったサブカルチャー、友達、アジアンランゲージ…HIPHOPの根幹とはつまり、「俺は誰なのか?」を音楽の形で伝えるプラットフォームであることだ。

意図せずして2人の好きなもの…ひいては形作ったものが凝縮された本作についてのインタビューは、意図せず彼らのラップへの意識、レップ文化への意識、それを具現化するラップという手段の意味を問いかけるものとなった。

サプライジングな次のプロジェクトの話も含め、彼らの価値観に触れて欲しい。


登場する主なアーティスト(順不同):
ACE COOL, RAU DEF, Fuji Taito, Y’S, MuKuRo, Futuristic Swaver, PakkunBeatz, DJ Ozzy






「みんなセルフブランディングに意識的だった」

─今回ジョイント名義で『LEELEE』をリリースされた訳ですが、そもそもお2人はどのように出会ったんでしょう。

Jinmenusagi:
SKLRの”EKJ feat. Ace Cool, Jinmenusagi, Lui Hua”(2017年)ってシングルがあるんですけど、そのMV撮影で浅草で会ったのが、顔を合わせたのとしては初めてですね。

SKLR:
元々連絡を取るようになったのも、この曲をやるにあたって俺が「一緒にやりたい」と思って声を掛けたのが最初ですね。そのあとMV撮影で浅草で対面したって感じで。




─Jinmenusagiさんは元々SKLRさんのことは知ってたんですか?

Jinmenusagi:
ちょっと記憶が前後してるかもなんでアレなんですけど…最初に知ったのはWEZさんの”Instagram”だったと思います、なんかめちゃくちゃ色々やれる人がいるなと思って。韓国人だけど日本語でラップしてるし、映像も出来るしみたいな。

SKLR:
そうだね、俺も元々日本で音楽やるとか考えてなかったんですけど、WEZのREMIXをやったことで日本に行ってみようかなって思いが出てきて。そうなったとき、元々Jinmenusagiの曲は聴いてたので一緒にやりたいなってことで声を掛けたって流れですね。





─そもそもなお話ですが、SKLRさんが日本で活動しようと思った理由は何なんですか?


SKLR:
元々日本語を話せるようになる前から日本のラップは好きだったんです。そこから2016年くらいに日本人の彼女が出来て、日本語も少しずつ話せるようになっていって。そうなったときに、あえて日本語でラップしてみるのも面白いんじゃないかなと思ったのがきっかけです。向こう(日本のリスナー)がそれについてどういう反応をするんだろうってのも気になりましたし。



─そうしてリリースした”EKJ”はJinmenusagiさんはもちろん、Lui HuaさんやACE COOLさんも参加した1作で。ACE COOLさんは今回のEPにも参加してますし、この頃からお互いフィールするメンツ、って感じだったんですか?

SKLR:
そうですね、初めての日本での活動を共にしてくれた友達で、みんな1991年生まれの同い年で、っていう感じです。

Jinmenusagi:
年齢のこともそうだし、今になって思うのはみんなセルフブランディングに意識的な人たちだってことです。みんな自分のキャラクターを持ったラップをすることに長けている、そんな人間が集まって仲良くなったのかなと。俺とACE COOLも…もう始まりとか覚えてないくらい長い仲ですけど、この頃には既に仲良くて。

そこにSKLRが新たに加わった感じですかね。みんなで”EKJ”のMV撮影を兼ねて浅草の居酒屋に集まって…飯を飲み食いしてみたいな感じでした。すげえ覚えてるのは…2016年の11月くらいに撮影したんですけど、まだ店の外にも席が出ていて。そこで飲んでたら、流しのギター弾きと歌謳いのお姉さんがやってきて、「このリストにある曲ならどれでも1曲1,000円でやってあげるよ」って言われて。1,000円って価格設定が絶妙だし「これが本物のストリートミュージシャンだ」と思って俺が払ったんですよ。そしたらまあ…完全にアレな感じで(笑) SKLRとか初対面だったのに、日本文化のダメなところ見せたと思って焦ったのは覚えてますね。

ちなみに”EKJ”のMVはSKLRがディレクションしつつ、ミョンジョンくんっていう日本の映像制作会社にいる子がカメラを回してくれたんですけど、彼が今回の”Juicy Summer”の俺のパートを撮ってくれたりしてて、その意味でも今に繋がってますね。



─そこで出会ってから共演を重ねてきた中で、ジョイントで作品を作るアイデアは以前からあった?

Jinmenusagi:
2020年の始めくらいにはそういう話になったんだっけ。

SKLR:
うん、ちょいちょいお互いにやってる中でウサギが「今なら作れる時間が空いてるからちょっとやってみよう」って言って。1-2曲作ってるうちに「これならアルバムサイズにしてみようか」ってなった記憶です。

Jinmenusagi:
自分もSKLRもラップ以外に色々出来る訳で…SKLRなら映像もディレクションするし、俺はビートも作ったりするし、お互いMixもするし。そんな中で互いに自分で動けちゃう中、空いた時間に少しずつ作っていった感じですね。まあ最後、マスタリングどうしようとか、アルバムにした際の流れをどうしようみたいなところで、思ったより時間は掛かったんですけど。

SKLR:
そうだね、自分らのラップメイキングと録音はすぐ終わったんですけど、そこからの作業に結構時間が掛かった。



─JinmenusagiさんがSKLRさんと一緒にやりたい、と思った理由はどのような部分ですか?

Jinmenusagi:
やっぱりさっき言った、”Instagram”のREMIXとかで見えるような、1人で色んな動き方、働きが出来る部分に衝撃がまずあって。でもSKLRは一方で、自分自身の作品は毎日楽しんで作り続けてるんですよ。「これ出来たから聴いてよ」みたいな連絡が月に1-2回あって、しかもビデオまで出来てるみたいな感じで(笑) それが出来てる人ってたぶんめちゃくちゃ少ないと思うんですよね。そういう人が身近にいるってのもありがたいし尊敬します、俺にはない部分なんで。やろうと思ったのはそれが理由ですかね。

SKLR:
俺も1人で作るより誰かと作った方が楽しいってのはありますね、Raqとの『Sketch』(2021年)もそういう感じですし。





─そこからの制作過程は先ほども少し伺った通りですが、今度はビート面について聞かせて下さい。大部分のビートはPakkunBeatzさんの手によるものですね。

SKLR:
そうですね、PakkunBeatzのビートストックがあって、その中から「じゃあ今回はこれで作ってみよか」ってJinmenusagiと決めて録るっていう、その作業の繰り返しです。ラップメイキングがスムーズに行ったのは、俺らの相性もありますけど、ビートが単純にカッコ良いってのもデカいですね。


Jinmenusagi:
膨大なPakkunBeatzストックがあって、その中から自由に好きなビートを選んで使って良いという、夢のような待遇でした(笑) 自分自身PakkunBeatzに会ったことはないんですけど。

SKLR:
俺も会ったことないんですよ、知り合いの知り合いなんですけど。カカオトークで連絡を取り合ってて…「会ってメシおごりますよ」みたいな話をしてたんですけど、こういう(新型コロナウイルスの)状況とかがあるのでちょっと会えない…って状況です。元々は知り合いが「この人と音楽作ってみてよ」って繋げてくれて、カッコ良かったのでそのまま今に至るって関係ですね。

Jinmenusagi:
SKLRのソロとかでもちょいちょい(PakkunBeatzの)名前は見てて、「この人外さないなー」と思ってたんですけど、ずっと日本人だと思ってました(笑) 今回の制作途中で初めて韓国の人だって知って…ビートのクオリティだけで選んでましたね。だから俺も会ったことどころか話したこともなくて…純粋に曲だけが行きかって生まれた作品です。



俺のライフワークがたまたまラップだった

─曲ごとに多彩な表情を見せる今作ですが、アルバムとしてのコンセプトなどはあるのでしょうか。

Jinmenusagi:
俺は全くないと思ってたけど、何か話したっけ?

SKLR:
いや…何も決めなかった気がするけど、とりあえずジャケットだけはお互い鉄拳が好きやから鉄拳オマージュにしようって決めた記憶はある(笑) 曲については、アルバムの流れとして曲順とかはもちろん考えましたけど、曲のまとまりとして何か世界観を…みたいな話はしなかったね。

Jinmenusagi:
例えば”Juicy Summer”にメッセージとかないですからね、少なくとも俺の部分は(笑) あくまで「ジューシーさを感じさせるもの」ってテーマなだけだったので。…そういやFuturistic Swaverにはなんて言ってあの曲のリリック書いて貰ったの?

SKLR:
え?そのまんま「JuicyなSummerのこと書いて」って。

Jinmenusagi:
やっぱり…SwaverにとってのJuicy Summerはダメだよね、ちょっとどうかってくらいド下ネタになってて(笑)

SKLR:
まあ、Swaverは韓国語のときでも大体そんな歌詞だし。

Jinmenusagi:
マジ?ヤバいね(笑)





─アルバム全体のサウンド感について意識したことはありますか?”INTRO”がいきなりPhonkだったり、”YUF”も心なしかメンフィス寄りの音だったり、サウスサイドの影響はそこかしこに感じます。

Jinmenusagi:
俺のビートについてはやっぱり昔のメンフィスぽいサウンドが以前から好きなので、そういうところは出てますね。それこそ(Jinmenusagiのミックステープシリーズである)『BUBBLE DOWN』なんかは全部自分でビートを作ってますけど、そっちにも表れてると思いますし、そこでの出汁がこっちまで染み渡ってる感じはありますね。
逆に”YUF”はどうだろう、どっちかって言うと2016-17年以降の新しいTrapサウンドの流れの音って思ってました。

SKLR:
そうだね、この曲は例外的に2019年くらいには作り始めてて…元々自分の名義のアルバムに入れようと思って、今回のJMSGSKLRの方が合うなと思ってこっちに入れた曲なんですけど。だから制作タイミング的にも当時のドライなTrap感をベースにした感じはしますね。

Jinmenusagi:
ドライなTrap流行ったね。今はもうみんなDrillを見て動いてる感ありますけど、自分もこういう音が好きだったので、自分としても作品に組み込みたいって思いはありました。



─その”INTRO”はPhonkな上にMCサメハダさんがこれまた南部式のシャウトを乗せる、かなり変わった曲になっています。

Jinmenusagi:
そうですね、これは俺がMCサメハダさんにゴーストライトしました。20分くらいで書いたんですけど(笑)

SKLR:
RAU DEFさんはこの曲をホラーTrapだって言ってましたね(笑) この曲はRAU DEFさんも使ってるスタジオでマスタリングすることになってたんですよ、そのときにちょうどRAU DEFさんも来て聴いてくれて。「これは怖がらせる曲だ」って(笑)

Jinmenusagi:
でもサメハダには怖がらせる気は毛頭なく、剣道部時代の声出しの要領でラップしてただけという。

SKLR:
元々ラッパーじゃないもんね。エンジニアとDJをやってる人で、DJ Ozzyって名前で活動してます。ACE COOLや俺ら、みんなと友達で。

Jinmenusagi:
主にACE COOLのバックDJをしたり、各種作品を手掛けたりとか。それこそ『BUBBLE DOWN』のミックスを手伝ってくれたりもしてます。そんな彼に無理やりラップをさせている、って状況ですね。



─なるほど(笑) 結果かなり変わったイントロになってますが、このような形の導入にしようと思った意図は?

SKLR:
俺は、俺らじゃない誰かにこのアルバムを始めて欲しかったんですよ。仲良い友達にして欲しいなと思いつつ、ACE COOLとかは客演で既にいるし、ラッパーじゃない人にやってもらうと面白いかなと。デモ版が返ってきたときは感激しましたね。

Jinmenusagi:
ラップの雰囲気とかも特に指示せず、3テイクくらい録ったら出来たもんね。そこに俺とSKLRの声を切り貼りして完成させたっていう。結果的に全力でぶつかる感じでラップしてくれて良かったと思いますね。

SKLR:
俺はこの曲がアルバムでトップ3に入るくらい好きですね。

Jinmenusagi:
え、そんなになの?(笑)



─続く”WYYW”(ウォンイェンイェンウォン)はまさに今回の日韓共演を曲名にも落とし込んだ1作です。お2人は共に後天的に各自の言語を学んできた訳ですが、それぞれの言語でラップする際の使い分けの意識はどのようなものなんでしょう。

Jinmenusagi:
俺はこの曲では日本語と韓国語でラップしていて、韓国語についてはSKLRに教えて貰いながらちょっとトライしてみました。その結果がこの曲だっていう。

SKLR:
とは言え最初にウサギが全部自分で韓国語のリリック書いてくるんです。それから俺が「ここはこうした方がもっと自然な言い方だよ」とか言う感じで…でもほとんど直すところなかったですけどね。

Jinmenusagi:
言語の使い分けについてはどうですかね、(Jinmenusagiのオルターエゴである)LEEYVNGのときは英語と中国語が80%くらいを占めるようにしてるんですけど。Jinmenusagiのときはあくまで日本語がメインにしてますね。ただ、英語はある程度誰にでも通じる一方で、中国語や韓国語は特定の民族にしか通じない訳で。それでも入れるのは、自分自身がトライしたいっていうエゴと、単純に好きだからですね。元々響きの美しさとかに惹かれて勉強を始める中で、大陸から漢字が伝わってこう変化したんだ、みたいな過程が見えると面白くなる。例えば…SKLR, 「世界」って韓国語でなんだっけ?

SKLR:
세계 (segye)だね。

Jinmenusagi:
中国語だと世界 (shìjiè)なんですけど、こういう細かいところに発音の共通点があったりして、そういうのが見えるときめちゃくちゃ嬉しいんですよ。そうやってアジアンカルチャーを学んでいきたいって思いはずっとあって勉強しています。そうした勉強の結果をラップに反映しているのは、俺のライフワークがたまたまラップだからです。

別に他の人もこうしろという気はないですけど(笑)、その面白さを伝える…「意外とみんな隣の国について知らないことあるよね」ってことを発信してる側面もあります。俺が文化を広める立場になろうとかそこまでのことではなくて、ちょっとした面白さを知ってくれれば、って感じですね。それはSKLRが日本語でラップするのと通じる部分もあるのかなって。



─その点SKLRさんはいかがですか?

SKLR:
単純にこれだけ話せるようになったからトライした中で、それが伝われば面白いなって思いもあります。日本語が自分の得意なことになってきた中で、これでどれだけやれるのかっていう楽しさでやってるところはあります。

一度リスナーの方から「SKLRさんのこの日本語の歌詞は韓国語だとなんて言うんですか?」って聞かれたので答えたら、その韓国語詞をタトゥーにした人とかもいて(笑) それは極端な例ですけど、そうやって自分の歌詞が伝わった瞬間が面白くてやってますね。ちなみにウサギの韓国語の発音はめっちゃ良いですよ。

Jinmenusagi:
韓国語、めっちゃムズイですけどね(笑) 韓国語ってある単語の最後の子音が次の単語にどう影響するかとかあるんですけど、自分はそういうのを即座に判断出来るところまではいってない…まだまだ勉強中のレベルです。



─でも、Jinmenusagiさんはこれから日中英に加えて韓国語も交えたクァドリンガルなスタイルになるんですか?

Jinmenusagi:
いや、俺はここでハッキリ言っときたいですけど、俺の外国語のレベルはそこまでのもんじゃないですよ。やっぱり使ってないと忘れるし…英語とか特に顕著ですけど。

SKLR:
でもアルベド語も話せるじゃん。

Jinmenusagi:
アルベド語は使ってる人いないからね(笑) あ、アルベド語ってファイナルファンタジーXに出てくる架空の民族の言葉なんですけど(笑) まあ、どの言語についても、あくまで自分が面白いから使ってるって感じですね。




─続く”YUF”について教えて下さい。この曲にはお2人とは関係の深いACE COOLさんが客演していて、作中でも最も攻撃性の高い1曲になっています。

SKLR:
さっきちょっと話した通り、ドライなTrapが好きだった頃に作った曲ですね。その中であまり力を入れないラップをしてみたかった時の曲というか。テーマとしては、これまで国を問わず色んな人と仕事したりする中で、なんもない人ほど態度が悪かったりしたので、それを歌った曲になってます。
さっきも話した通り、元々は自分のアルバムの曲として作っていたので。その中でやっぱACE COOLを呼んだら面白そうなテーマだなと思ったし、そこにウサギも入ってくれて。その曲が今回の『LEELEE』に流れてきた感じですね。



ACE COOLとレップ文化

─ACE COOLさんはお2人にとって縁の深い存在ですが、2人にとってどういう方ですか?

Jinmenusagi:
スマブラ廃人。

SKLR:
だね。”Juicy Summer”のMVでスマブラやってる姿が3秒くらい映るのもACE COOLで。MVではふざけて「(スマブラ始めて)18時間経過」とかテロップ出してますけど、なんならそれくらいやってるんじゃないかっていう。ACE COOLとDJ Ozzyが韓国に遊びに来たことがあるんですけど、韓国でもずっとスマブラやってて。
でもその裏には、凄く純粋で素直な人柄があります。だからスマブラも、純粋に楽しんでる。ピュアな人です。でも音楽については凄く深くまで考えてるのは間違いない。哲学書とかも凄く読んでる。

Jinmenusagi:
ACE COOLがDJ Ozzyのスタジオで次の作品のプリプロを録ってるとことかに立ち会ったことがあるんですけど、ACE COOLが書いたリリックをOzzyに説明するんですよ。「この歌詞はこういう意味で、これはこうで…」って言うんですけど、それに対するOzzyの答えが一言「うん、呪文やな」で済ませてて。俺はそれ聞いて笑っちゃったんですけど、別にACE COOLも気にせず一緒に笑ってて。だから音楽は深いところまで考えてやってるけど、同時に変に張りつめてない人ですね。

彼は今も変わらず広島の土地をレップして続けてたり、そういう変わらない、純粋なところが色んなリスナーや、俺やSKLRからも好かれる理由なのかなって思います。俺はあんまり地元のこととか良いこと言ってないし、向ける顔がないです(笑) なんなら「あんな奴はウチの出身じゃない」って言われても仕方ないかなくらいの。



─確かに、お2人からはいわゆる土地というコミュニティをレップする雰囲気はあまり感じません。

SKLR:
レップの意識について自分は…元々ソウルが出身地で、そこから別の場所で20数年間過ごしたんですけど、元々一緒にやってた奴とかはみんな辞めちゃったりする中で、ちょいちょい意識することはあります。でもまあ、そんなに特別レップするって感じではないですね。まあ…たまにそういうレップするスタイルの人が羨ましいこともあります。

Jinmenusagi:
各々の土地で独自のサウンドがあって、みんながそこをレップするってのは凄く面白いし好きですけど、自分(たち)はそうならなかったって感じですね。独自のサウンドや土地意識が生まれる場所がある一方、そういうものが生まれない土地もあるってことだと思います。

一方で言葉で代表しなくても、そのサウンドやラップスタイル、その他の部分で、ある土地だったりあるカルチャーの出身であることを示すことは出来るはずで。『LEELEE』で言えば、このアートワークを見れば「ああ、鉄拳が好きなんだ」ってやってる人は気付くし、”Juicy Summer”のMVを見ればネットカルチャー的な、ひいてはヴェイパーウェイブ的な匂いを感じ取ってくれるだろうし。作品を通じて「こうなのかな」って判断してもらえれば良いかなと。



─いまお話に出た”Juicy Summer”は最高のサマーファンクに仕上がっていますね。曲の内容についてはさきほども伺った通りですが、まさに話に出た、MVについて教えて貰えますか?

SKLR:
このMVは…いま直接会ったりしづらい情勢の中で、リモートでやってみたらって話になって。そんな中でお互いのパロディを詰め込んだら面白いんじゃないかって話になりました。その案をウサギに言ったら「進め!電波少年」が送られてきて。じゃあメインはこれにしようってなりつつ、お互いの好きなものを詰め込んだ感じです。

Jinmenusagi:
電波少年は…俺がこれを伝えなくて誰がやるんだって思いました。どう考えても電波少年よりも面白い景色をテレビで見た記憶はない。まあ俺もリアルタイム世代ではないんですけど、子供の頃に夜更かししてテレビを付けると何か怪しいものが映ってる、それで大人たちが笑ってる、という文化。ゴミで船作って海を渡ろうとする、そんな無茶苦茶さ(笑)

SKLR:
制作的には、テレビ番組を基にしたMVって世界的にも色々あったりはするので。そんな中で電波少年をベースにすると、結構独特で良かったんじゃないかなって思います。

Jinmenusagi:
こういう要素は曲の内容やコンセプトに直結してる訳じゃないですけど、こういうことを考えるのが楽しいですね。

SKLR:
グリーンバックで撮るときはちゃんとイメージがないと難しいんですけど、今回は出来るだけのことをやれたかなと。韓国のテレビのパロディネタも色々仕込めたんで。

Jinmenusagi:
韓国のパロディネタって、具体的にどこに入ってんの?(笑)

SKLR:
1:45くらいからの「頑張れー」みたいに言ってるところ。あれは女の子がテレビ番組で自分に「頑張れ」って言ってるシーンのスクショが改変されて韓国でバズって、それを基にしてる。

あと、その前のシーンでニュースに誰か乱入してくるシーン。あれも韓国の90年代のニュースで、「俺の頭に盗聴装置が仕掛けられてる」って奴が乱入してきた映像のパロディ。俺は日本のテレビ番組にそこまで詳しくないから、韓国側のパロディを入れた感じだね。

結果的に曲の内容として夏のふわふわした下ネタな感じと、映像の面白い感じが合わさって、なんか可愛くも見れるものになったんじゃないかなと思います。



NIKEへの思い、Y’Sへの憧憬

─”NIKEEE”はSKLRさんの”NIKEEE”(2020年)のREMIXに当たる曲ですが、Jinmenusagiさんがこれまで何度か公言しているNIKEは履かないスタイルも軸となった作品です。一方でSKLRさんが「足元にNIKE」と連呼する構成になっているのも印象的です。



SKLR:
まあウサギは「NIKE履かない」って前々から言ってた中で、一緒にやれたら面白いかなって。イントロでは「曲名がNIKEなのに履かない歌を作ってどうするんだ?」的なことを韓国語で話してます。客演のRIHITOやNorthfacegawdとかは、自分の周りで「NIKE」って言った時に思い起こす人を呼びました。

Jinmenusagi:
これは原曲のMVがめっちゃ面白いんで、この記事を読んだ人には絶対に見て欲しいですね。全部SKLRの地元で撮影した内容で。

あとまあ言っておくと、自分は全然NIKEも持ってますからね。持ってるし、人がNIKE持ってることについて何も思わないし。自分も「このジョーダンのデザインカッコ良いな」とか全然思ったりする中で、前ほどどうこう言うつもりはないです、たぶん(笑) “俺はナイキは履かない”とか作ってた頃って大学生とかだったと思いますけど、さすがにそんときよりは丸くなってると思います。




─昔から丸くなったものの、この曲での「遊びは渋谷…いや、アキバ」というリリック然り、Jinmenusagiさんの良い意味での逆張りというか、自分の領分を持つスタンスは印象的ですね。

Jinmenusagi:
秋葉原は好きな街ですしね、何かひとつ好きなものがある人は、それがちゃんと見つかる街だと思います。ここで言ってることも、要はある程度年齢を重ねてきたら、「みんながこうだからこう」じゃなくて良いんじゃない?っていう。ひとつ「ここは自分だけの遊び場」という場所を持ってて良いと思います。アキバをカルチャーの中心地として認識してる人たちには逆に「何言ってんだ」ってことかもしれないですけど。

まあ街の話にしても、新宿でも渋谷でも池袋でも、どこでも良いです。ひとつ本当に自分が好きな遊び場を持っておけば?っていう。靴についてもこの曲で「自分の好きなように履きな」って言ってますし。

SKLR:
だから俺は「足元にNIKE」って歌ってますけど、別にこの曲はNIKE派と反対派の曲って訳じゃないですね。自分の本当に好きなことをやれよっていう。


─”CERO REMIX”は客演にFuji Taitoさん、MuKuRoさん、Y’Sさんという他で見たことのない布陣での一作です。これが実現した経緯や客演の人選理由を教えて下さい。

Jinmenusagi:
まず、Y’Sさんに関してはSKLRのリクエストですね。

SKLR:
俺がウサギの”Tokyo Town feat. Y’S”(『ジメサギ』(2015年収録))がめっちゃ好きなんですよ。あの曲を聴いて、自分もY’Sさんと同じ曲でやってみたいなって思いはずっとあって。それでウサギに頼んで繋いでもらって…夢が叶った感じですね。



Jinmenusagi:
もう、お願いしたらやってくれました。Y’Sさんは凄い朗らかな人ですし、”Tokyo Town”以外でもイベントやMixtapeに呼んで頂いたりしてよく一緒にやらせて頂いた時期があって。今回久しぶりに連絡してみたら「おーやるよ」って快諾して下さいました、兄貴です。今回も予想は裏切って期待は裏切らないみたいな、そういう地力のある方ですね。



─Fuji TaitoさんやMuKuRoさんについてはどんな経緯ですか?

Jinmenusagi:
Fuji Taitoくんについては、今の名義の前のFuji Taitoくんを知っていて。MCコロンとかより更に前の名前があって…俺が22-23歳くらいの頃かな。群馬県だったか、高校生だったFuji Taitoくんと当時の彼の仲間が「きちんとお金払うんでライブに来て欲しいです」って俺を呼んでくれたんですよ。その頃から「本気でラップやります」って言ってたし、こうして今では…何なら向こうの方が勢いあるくらいになって、すげえなって思いますね。彼とは別にプロジェクトもあったりする中で、参加自体はスムーズに決まりました。

むくむく(MuKuRo)に関しては、彼の煙たい感じがTrapの上でも聴きたかったので声を掛けました。ただTrapのイメージがない人なので、俺自身も頼んで良いか少し迷いがあって…「Trapってやってくれる?」みたいに控えめに聞いたのを覚えてます。まあ全然良いよって返事を貰って、いざ録り終わったヴァースを聴いてみたら誰よりも長くてやる気120%でやってくれました。ラップの基礎がしっかりしてる人がTrapをすると凄く光り輝くときがあるんですけど、今回がまさにそれでしたね。

SKLR:
人選についてはウサギに「誰か良い人呼んで欲しい」って任せました。元々俺もこの曲で良いヴァース書けたなって思いがあった中で、せっかくならスキルフルな人たちで乗りまくる曲にしたいなと思って。その結果こうなった感じですね。

Jinmenusagi:
ラップゲームでは、ある曲のREMIX版に色んなラッパーが豪華に参加するって文化があると思うんですけど、それを日本でやるって時に、Y’Sさんが締めに参加するのは絶対だと思うんです。もうそこは必須。そうなると、締めがY’Sさんな以上、それに見劣りしないメンツじゃなきゃいけない。そう考えた時に、若手/中堅枠、スキルフル枠として必要な人材を埋めていったらこうなりました。これはもう、同じメンツを呼べる人がいるならやってみてくださいって感じです。

SKLR:
ちなみにマイクリレーって意味では、9月中に別の曲も出る予定です。こっちも結構凄いメンツになってますね。実は俺とRAU DEFさんの5曲入りEPが出るんですけど、その中の曲で。ウサギと俺とRAU DEFさんに加えて、week dudus, Nidra Assassin, JNKMNさん、Farmhouseくんってメンツです。

Jinmenusagi:
これは現時点で世界でSKLRしか呼べない布陣だね。俺もこの中のメンツと一緒にやることが今後どれだけあるのかっていう…凄いね。



─なんか凄いメンツですね、関西関東全部混じってるような…!本件のお話を含めて、最後に今後の予定について教えて貰えますか?

SKLR:
自分はそのRAU DEFさんとのEPが9月中に出る予定で、その後…秋くらいには自分の1stフルアルバムを出したいなと思ってます。

『LEELEE』については”Juicy Summer”のMVに続いて”NIKEEE”と”Outro”のリリックビデオが出ましたし、あとは“CERO REMIX”のMVを撮りたいですね。これは俺が日本に行けるタイミングが来ないといけないのですぐにではないかもですけど、やりたいなと。

あとは…これはすぐじゃないかもですけど、今回の『LEELEE』の続きをまたやっても良いかなと思ってるんですよね。『LEELEE 2』みたいな続編が出ても面白いかなと。今回は自分の曲のREMIXをいくつかやったので、今度はウサギの曲のREMIXを『LEELEE 2』でやるとか。今回の制作でお互いどこで躓いたかも分かったし、次はスムーズに作れると思うんだよね。やろうと思えばすぐだと思う。

Jinmenusagi:
やろうと思ったらすぐ作れそうだね(笑) 今後の楽しみに取っておこう。

自分の方は…まずDubbyMapleと去年やった『Emo Tape』シリーズの新作が年内には出せるかなって感じです。あとはいまやってる『Bubble Down』シリーズが第3弾まで出てますけど、第4弾に向けて頑張ってるところ。このシリーズは…小説でも「始めるのは簡単だけど終わらせるのが難しい」って言うじゃないですか。それを感じる部分もあって、今後『Bubble Down』シリーズにどうオチを付けて終わらせるべきかってのは考えてるところですね。

あとはまだ世に出てないフィーチャリングワークがまだあるので、年内の間はみんなを楽しませられるんじゃないかなと思ってます。


─ありがとうございました。


───
2021/08/26
PRKS9へのインタビュー・コラム執筆依頼・寄稿などについてはHP問い合わせ欄、あるいは info@prks9.com からお申し込み下さい。

作品情報:

(ジャケットクリックで配信先へジャンプ)


Track List:
1.INTRO feat. MCサメハダ
2.WYYW
3.YUF feat. ACE COOL
4.Pilsalgi
5.CERO-Z
6.Juicy Summer feat. Futiristic Swaver
7.NIKEEE Remix feat. RIHITO, Northfacegawd
8.CERO REMIX feat.Fuji Taito, Mukuro, Y’S
9.OUTRO

Artist: JMSGSKLR

Title: LEELEE
2021年8月1日配信リリース


アーティスト情報:
JMSG (ジメサギ)
1991年11月4日生まれ。理。東京出身。

コンクリートジャングルで、メタルやヒップホップを聴きながら育つ。
14歳ごろから作詞・作曲・ミキシングを全て独学ではじめる。
19歳からLOW HIGH WHO? Productionに所属し10枚以上のアルバムを発表、2015年からは盟友DubbyMapleと共に「業放つ(ごうはなつ)」を立ち上げ、インディペンデント・アーティストとして活動中。近年ではモデル・俳優としても精力的に活動。

Instagram


SKLR (スカラー)
1991年10月7日生まれ。李。韓国出身。

同年代の日本人ラッパーをフィーチャーしたデジタル・シングル「EKJ」で本格的に日本での活動を開始。流暢な日本語のフロウを自在に操り、シーンに衝撃を与える。
日本で活躍する様々なラッパーとの競作で注目を集める存在である。2021年より「SKLR」名義。

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