Column/Interview

2019年7月からのお勤めを終えたRYKEYが、2021年8月19日、ついにシーンに還ってきた。旅立ち前の置き土産となった『DEMO TAPE』(および収録曲のMV公開)、多数の周辺アーティストへの客演参加曲で、お勤め中もご無沙汰感こそ薄かったが、復帰最速のインスタライブを皮切りに、カムバックしたRYKEYの活動が激化することは間違いない。シーンきっての異端児、RYKEYの帰還に際し、彼のこれまでのキャリアを作品単位で改めて振り返ってみたい。

『Pretty Jones』2015/6/3


AKLO”RED PILL”(REMIX)への客演参加ぐらいしか目立った露出が無く、レーベルからの公式インフォでさえ「無名の新人」と謳われた2015年の処女作。その実、いきなりの堂々たる立ち振る舞いに驚かされるイントロ代わりの演説”The Speech”に続いて、獄中生活を回想する”トリカゴ”という本編の導入部はインパクト十分だ。ハスラーラップのトピックとしてはすでに定番のカネ(“Paper”)、オンナ(“Baby”)、クスリ(“Boy”)への言及も、RYKEY独自の視点から語られれば食傷感は皆無。”ホンネ”ほか、彼自身を取り巻くハードな毎日を覗かせつつ最後にはそこから抜け出せと、締めの”So Fly”や”tobitate”にポジティブなメッセージを託す流れも、ベタだがドラマチックだ。全編にわたってリアルでエグめの描写も、どこかキャッチーに仕立ててしまう、今に繋がるRYKEYのキャラクター性を確立した快作。

『AMON KATONA』2015/11/18


前作から、僅か5ヶ月のインターバルで発表された2ndアルバム。より内省的なアプローチで、抽象的な表現が目立つ本作は、自身のキャラクター性をポップに打ち出した『Pretty Jones』とは対照的と言える。そんな本作を象徴しているのは冒頭から鬼気迫る”氷のさけび”、あるいは”マイ・マインド”や”東京ナイチンゲール”辺りになるだろうが、かと思うと中盤以降には、以後も交流が続いていく盟友SALUを迎えた”国際宇宙ステーション”(“宇宙ステーション”のREMIX)や、前作に収録されても違和感が無いほどにキャッチーな”街のガイトウ”や”Joker”辺りも収録されており、アルバム単位でみればどこか散漫な印象もある。制作時期が重複していることもあり、『Pretty Jones』とはある意味でコインの裏表のような(ジキルとハイドで言うところのハイド的な)作品だけど、前作と完全な対照にはなっていないところが、たまらなく人間臭くもある。『Pretty Jones』と併せて聴くべき一枚なのは言うまでもあるまい。



『CHANGE THE WORLD』2017/11/10


2ndアルバムのリリース後、「空白の1年」(自身曰く「人間免許の更新」)を経た2017年のカムバックEP。自身が歌うフックの浮ついたヴォーカルも含めてポップに聴かせる”HATE ME”、デビュー曲の”Cho Wavy De Gomenne”でいきなり時の人になっていたJP THE WAVYとの”REMEMBER”、SALU”Dear My Friend”に対するリアルでのアンサーと言えそうな”SKY TO DIE”、『Pretty Jones』を正しくアップデートしたようなポジティブなメッセージに胸熱な”JUDGE”、そして「空白の1年」への贖罪の意味合いも含んだ”WALK”(MVには、漢もキャメオ出演!)。5曲入りのコンパクトサイズだが、次作への期待を煽るには充分過ぎる力作だ。



『John Andersen』2018/4/25


「空白の1年」以前にすでに完成していたようで、もしそれが無ければ、当然もっと早くにリリースされていたであろう幻の3rdアルバム。ドラッグネタで田代まさし(!)を迎えた冒頭の”Hater”で胸ぐらを掴まれたら、その後はもう完全にRYKEYのペースだ。兄貴分の漢を迎えた”Turtle And Rabbit”や、盟友SALUを迎えたタイトル曲”John Andersen”、東京をテーマに歌う”Tokyo”/”Tokyo Nigga”、秋田犬どぶ六との意外な顔合わせも好相性な”All In My Hand”、SIMON”Eyes”のお返しコラボ的な”It’s A Crazy”、リラックスムードで煙たくチルする”Smoke G”等、全16曲というフルボリュームでも一切冗長に感じさせない充実の内容。もしも本作が滞りなく、予定通りにリリースされていたら。歴史に「たら、れば」はナイが、否が応でもそんな妄想を掻き立てられる傑作だ。



『MZEE』2018/12/12


「MZEE」= ムゼーとはケニア語で、成熟し色んな経験を経た男へ敬いを込めた一人称、だそうな。「完全新作」として、結果的に蔵出し作品となった『John Andersen』に続いて早々にリリースされた本作は、タイトルに込めた想いを語る”intro”からしてRYKEY節全開。”i know the way”や”think about”、”no joke”、兄貴分の漢と道を迎えた”aborigine”、(義理の兄弟だった)故YUSHI、Dony Jointら、KANDYTOWN勢と邂逅した”romantic city”等、もはや風格さえ漂わせる主役の圧倒的存在感ゆえか、ラップが際立つソウルフルで落ち着いた楽曲は一様に秀逸だ。
余談だが、本作の一部の店舗のみの初回特典だった作品集『kijana 2006-2012』は、タイトルさえ公表されていない初期のデモ音源ではあるものの、”think about”の原型を垣間見る3曲目は、3ヴァース目に”If I Die In A Combat Zone”(邦題”もしオレが戦場で死んだら”)の歌詞を大々的に引用。「グラップラー刃牙」読者もニヤリとするはず。



RYKEY×BADSAIKUSH『MARY JANE』2019/8/24


(特典とは言えども)デビュー前の過去のデモ音源も総ざらい、本編の内容においても申し分無かった前作『MZEE』が、良い意味で自身にとってケジメの作品となったRYKEYの次の一手は、舐達麻のリードMC、賽ことBADSAIKUSHとのジョイント。APHRODITE GANGからのリリースということもあり、座組みはどちらかと言えば「舐達麻寄りの布陣にRYKEYが加わった」ような印象だが、例えば先行でMVも公開された”You Can Get Again”では、冒頭から2ヴァースをキックした上に、当時激化していたビーフ相手のYZERRをディスるラインも披露したりと、強烈な存在感はジョイント作でも全く変わらず。6曲のEPサイズだが、フックも全曲RYKEYが担当する(!)など、稀代のフックマン振りも遺憾無く発揮している。



『BEEF & CHICKEN』2020/6/17


リリース日が、後のお勤めの判決公判日と重なったことでも注目を浴びた、2020年の5thアルバム。新型コロナウイルスの流行を受けた”Intro(SMALL ISLAND)”に始まり、前作からのインターバル中に起こった身の回りの出来事を、RYKEY独自の視点からハードに、シリアスに、赤裸々に、時に弱みさえ曝け出して聴かせる。これまでの作品においても、とりわけ自身のパーソナルな面を打ち出したリリックは、ともすれば自身の傷口を敢えてエグるかの様だ。ビートだけでなく、心境を吐露する姿にもJay-Zを重ねずにいられない”Like My Father”、家族への想いを優しく綴った”Letter”辺りを聴くと、RYKEY自身がかつてのインタビューで「過去の過ちを歌って、唯一評価される音楽」とラップを評していたのを思い出した。唯一、YDIZZYとの”Wait Me God”を除けば、それ以外はヴァースもフックも独力で創り上げた、正にRYKEYの内面を凝縮した一枚だと思う。



『DEMO TAPE』2021/1/20


旅立ち前の置き土産としてリリースされた、恐らくは直近に撮り溜めていたデモ音源をコンパイルした未発表曲集。デモとは言え、ミックスとマスタリングをBACHLOGICが務め、楽曲としてのクオリティーは正規の既発曲と何ら遜色は無い。BADSAIKUSHとのジョイントEP『MARY JANE』の延長戦的な”鎌鼬”、ここまでにもコラボしている仏師との”JUSTICE”やCz Tigerとの”STRIPPER”など、客演陣も花を添えているが、(リリースのタイミング的に)完全に皮肉を込めたソロでの”IF I GO TO JAIL”に、最もRYKEYイズムを感じたのは筆者だけではないだろう。前作『BEEF & CHCKEN』から地続きと言える、”DEMO TAPE”や”PRAY FOR ME”も必聴だ。

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2021/08/23 Text by Vinyl Dealer for vinyldealer.net (Twitter)

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