Column/Interview

「(何も起こらず)そのまま25歳になって、本当に最悪の可能性も考えるようになって。このままだとヤバいと思って、映像監督に転向して、本格的に始めたのが26歳、2018年の夏頃でした」

2年ほど前から本格的なMV監督としてのキャリアを開始し、以降OVERKILLや般若, AK-69など多様なアーティストのMVを手掛ける南 虎我。その活躍は多様な音楽ジャンルでの引き合いに通じ、現在はMVのみならず、多くの企業案件を手掛けるまでになった。しかし2年でこの実績を積み上げる裏には考え抜いた動き方、そして映像で実績を積むための覚悟があった。

「機材は250万円くらい借金して揃えました、だから始めた頃は借金まみれでしたね」

映像知識もアーティストとのコネクションもないところから始めて今のキャリアに至るに必要なことは何か。これから映像制作でキャリアを積もうと考えている方にとっても参考になれば幸いだ。


主なフィルモグラフィー:
MIRA “Just The Way You Are” (2018/10/3)
YDIZZY “Time Alone” (2018/12/24)
さなり “Prince” (2019/1/25)
パノラマパナマタウン “めちゃめちゃ生きてる” (2019/02/18)
堂村璃羽 “My Sweet baby” (2019/3/4)
ロップランク “いたち” (2019/5/15)
Young zetton “冷酷悪魔 feat.bigsos & CHARLIEE” (2019/05/19)
[企業]NEW BALANCE Football Japan “TEKELA”(2019/07/18)
DJ RYOW “Call Me feat. SARA-J, Ymagik, さなり” (2019/09/27)
SARA-J “Ok, Alright” (2019/11/27)
Eric.B.Jr “ First step (prod, B.D.O)” (2019/12/17)
Taeyoung Boy “DOPE! (Prod.Tepppei)” (2019/12/24)
くじら “ねむるまち feat. 堂村璃羽” (2019/12/25)
GIRLFRIEND “それだけ。(Produce by 清水翔太)” (2020/1/28)
さなり “Nights (feat.ØZI & eill)” (2020/02/28)
[企業]BONFIRE JAPAN “BONFIRE 20SS Collection PV – 1min” (2020/03/02)
Red Eye & OVER KILL “THUG LIFE” (2020/3/27)
ERROR “TRIGGER” (2020/4/6)
般若 “俺たちの曲は流れてる” (2020/6/15)
さなり “嘘” (2020/6/15)
eill “踊らせないで” (2020/7/1)
OVER KILL “何時 ft. Jinmenusagi “(2020/8/14)
STUPID GUYS “偽愛” (2020/9/8)
神宿 KAMIYADO “Intro:Attitude” (2020/9/20)
AK-69 “Guest List” (2020/10/7)
JIN DOGG × OVER KILL “BERSERK” (2020/10/23)
PARED “君が君を愛せるように feat. 堂村璃羽” (2020/11/10)
葉山潤奈 “REBOOT” (2020/12/14)
木下百花 “5秒待ち” (2020/12/15)
akugi “デイドリームスピーカー feat. 色とわ” (2021/1/26)
STUPID GUYS “Level.2” (2021/3/12)
été “Gate” (2021/3/17)
[企業]PLST “2021 spring&summer (w/蛯原友里)” (2021/3/17)


登場する主なアーティスト(順不同):
蛯原友里, 堂村璃羽, OVERKILL, Eric.B.Jr, DJ RYOW, さなり, 般若, Red Eye





夢破れ、ゼロスタートから実績を積み上げるまで

─本日はよろしくお願いします。

南虎我:
南虎我(みなみ たいが)です、よろしくお願いします。
元々熊本出身で28歳です、上京して最初は多摩に5年ほど住んでました。
それから池袋に4-5年前に移って…だから上京して10年、11年くらいになります。
18歳のときに、最初は「俺は俳優になるぞ」と思って東京に出てきました。



─俳優業から始められたと。
 そこから映像監督になるまでの経緯は?

南虎我:
元々映画を観ることが好きで、上京した時は俳優か映画監督になる、という二択で俳優を選んで出てきました。
俳優になりたい気持ちが9割くらいでしたけどね。
でも当時、撮影のスキルも俳優のスキルもあったわけじゃなくて、どちらかを東京でゼロから積み上げるぞ、と思って上京しました。

元々は小学校からハンドボールをやってて、高校まで続けて県で3位とかだったんですよ。
でも日本代表になるって夢には届かないと思った中で、そのふたつが新しい夢として出てきて。
その中で映画監督はかなり漠然と難しそうだけど、俳優ならワンチャンいけるんじゃ…と思って俳優を志しました。
もちろんそんなに簡単な世界じゃないのは分かってましたけど、挑戦しようと。

でもやってみて…俳優ってほんとに下と上、どっちかしかないことが分かって。
要は中間がほとんどないんですよね、そこそこ食えるみたいな。
自分はめちゃくちゃイケメンな訳でも、強い事務所に入ってた訳でもないので、25歳まで本気で目指してみて、それまでに、ご飯が食えなかったら別の道も考えようって思いました。
だから18歳で上京して、25歳まではバイトしてお金稼いで、オーディションがあれば受けてって感じで。
その期間に映像制作の勉強をしてた訳でもないんですけど…ただ、21-23歳に掛けて、自分で長編映画を一本作りました。

やっぱり上京したものの全然芽が出ない中で「これはもう自分で撮って出るしかねえわ」って思って。
それで当時、バイトして貯めていた250万円を全部突っ込んで2時間の長編映画を作りました。
キャストもオーディションしてお金払って呼んで、スタッフも集めて脚本も編集も監督も自分でやってリハもやって出演して…その映画も撮影自体は完全に独学でやったんですけど、2-3年かけて渾身の作品を作ったんです。

で、もう「これは絶対賞とかに引っ掛かるだろ」みたいに思ってぴあとか夕張とかに応募したんですけど…完全に落ちて。
今でも覚えてます、バイト先の喫煙所でタバコ吸いながら、1本のメールで落選を知る瞬間。
自分の全てを使って2-3年かけて作ったものが、メールの数行、一瞬で無になった。
人生ってマジで甘く無いなあって思いました。
と同時に、また絶対監督したいって思ったのが自分でも驚きました。
初監督作品でとても大変な思いをしたのに。

でもそれから映像に触れる事は無くそのまま25歳になって、本当に最悪の可能性も考えるようになって。
このままだとヤバいと思って、映像監督に転向して、本格的に始めたのが26歳、2018年の夏頃でした。



─なるほど…ギリギリの状況でしたね。
 映像監督として活動を始めた際も完全に独学ということですが、どうやって映像制作に必要な知識を得ていったんでしょう?

南虎我:
自分の場合は実際にやりながらですね…そもそも勉強するのが好きじゃないので笑
実際に写真を撮ったり作品撮りをする中で、これは良くないな、これは良いなというのを積み上げていく感じで。
毎日写真撮って毎週映像の作品撮りするみ、たいな時期が1-2年ありましたね。
唯一勉強すると言えばYouTubeですね、大体のことは検索すれば分かるようになる。



─独学ですか。
 とはいえ独学のフリーランスの映像監督に勝手に仕事が舞い込んで来るわけじゃないと思います。
 どうやってMV撮影の実績を積み上げていったんですか?

南虎我:
ほんとに最初の頃は、好きなアーティストやモデルさん、俳優さんにインスタでDMして「写真撮らせて下さい」「映像撮らせて下さい」って言うみたいな。
でもそれはあまり効果がないというか次に繋がらなかったし、あまりオススメはしないですかね。

きっかけとして大きかったのはSALUさんと会ったことです。
渋谷のカフェにいたら、たまたまSALUさんがそのカフェに来ていて。
そこで名刺を渡して「自分に写真を撮らせて下さい」ってお願いしたんです。
そしたらあとから連絡が返ってきて、本当に写真を撮らせてもらうことになって。
そうなるとその写真を見た人から連絡が来るようになって、MVの話も出てくるようになって。
だから自分のHIPHOPの映像案件へ扉を開いてくれたのはSALUさんだと思ってます。

他にもライブハウスでイベントに行って、勝手にアーティストさんの写真を撮ってあとで送るとか。
ただこれはちゃんとそのイベントのフォトグラファーさんとかがいたりするんでほんとにやっちゃいけない、オススメしないです。
だから今はもう絶対しないし良くないことだって分かりましたけど、姿勢としてはそれくらいアグレッシブに動かないと案件は来ないと思います。
映像撮る人なんて今はいっぱいいるので、埋もれちゃいます。



─SALUさん以外に、初期から繋がったアーティストさんにはどういった方がいたんですか?

南虎我:
堂村璃羽くんとか葉山潤奈さんDJ RYOWさん、さなりくん、OVERKILLさんですね。
この辺の方たちはほんとに初期の初期から一緒にやらせてもらって。
きっかけもたまたまバイト仲間が知り合いだったとか、撮影の時に知り合った方に紹介されたとかそういうご縁からです。そういう方々とはもうなんか一緒に進んできた感が勝手にあります笑

そういう縁を作る為にも、当時はとにかく会う人会う人に「映像始めました」って話して、種を蒔き続けていました。
印象付けておけば、その人の関係者にそういうニーズがあれば話が回ってくる。
とにかく種を蒔く、それがいつか咲いて何かに繋がってくると思います。
だから自分で名刺を渡したり、人に紹介されたり、そういう草の根運動的なのが凄く大事だと思いますね。





継続的に依頼を受けるために必要なこと

─そうした売り込みの時期においては、無償で映像制作してたんですか?

南虎我:
そうですね、無償でやってる時期もありました。
それはもうしょうがないと思います、こっちに実績がないから。
小道具代も自分の持ち出しで赤字になるみたいな…業界的には良くないのは間違いないです。

でもしょうがないですね、実績がないので。
相手からすると自分を使うメリットもない、価値を証明できないので、実績で示すしかない。
だからずっと無料でやるのはもちろんあり得ないし業界的に良くないのは大前提ですけど、最初は仕方ないと思いますね。
ただ必ずどこかのタイミングで自分で決断して、しっかりとお金を貰うと断言した方が良いです。
自分にお金を払ってもらえる価値があるという自信があるなら。



─南虎我さんは堂村瑠羽さんからOVERKILLさん、ロックバンドからSSWまで、かなり手広いスタイルのアーティストを手掛けられています。
 映像監督として、コネクションの拡げ方で意識していることはあるんですか?

南虎我:
そうなれたのはきっと、自分に来た仕事を断らなかった事と自分の色を決めなかったからだと思います。
予算が常識外だったり、スケジュールの都合が付かないとかじゃない限りは全部やりました。
どんな音楽か、どんな知名度かとか、そういうことを一切気にせずやった結果がジャンルレスな広がりを確保出来た理由かなと。

これからMV監督を目指す人たちも、「自分のスタイルじゃない、好みじゃない」とか関係なく挑戦すべきです。
そうじゃないと、斜に構えてたって他の人たちに埋もれて絶対に生き残れません。
自分を決めつけない事、自分の色を決めない事が大事ですね。
全ての事はやってみないと分からないから。

あとは…仕事を受けるときに、次に繋がるような、次も頼んでもらえるような仕事をすることを心がけています。
映像のクオリティや企画は当然大事なんですけど、それとは別に、キャリアを広げていく上で一番大事なのは現場での立ち振る舞いだと思いますね。
現場ではなるべくコミュニケーションを取るようにして、ちゃんと人間関係を築いていく。

自分も最初は全然それが出来なくて1回きりの縁になったりもしたんですけど、絶対にもったいないので。
「また一緒にやりたい奴だな」と思って貰える必要があると思います、ただ良い映像を撮って淡々と収めれば良い、そんな単純な仕事じゃない。
中には職人気質に粛々と撮る人もいますけど、そういう人の周りにはそれを補って人間関係のサポートをする人が必ずいるので。
そういう人がいないうちは、人間としての総合力は必要になります。

映像や撮影のクオリティだけで評価される世界は美しいですけど、フリーランスでやっていく場合、きちんとビジネス的な視点も持って動けることはマストです。
そうじゃないとちゃんとマネタイズ出来なくて、結局続かない。



─その意味だと、南さんのようにフリーランスで走るのと、映像制作事務所に入ってそこの職業監督として動くのと、一長一短あるという感じですか?

南虎我:
そうですね、その人の合う合わない次第です。
自分も実はちょっと会社と関わってやってたこともありますし、そこでは凄く良い経験をさせて頂いて。
その前提で、今の自分は結局自分で管理して動く方が向いてるなと思っただけですね。

フリーランスの良いところは、やっぱり自分で自分をフルコントロール出来る。
自分の時間をどう使うか、自分のマネジメント次第なので。
会社に入ると当然、会社として指示すべきこと、各監督にやらせなきゃいけないことが出てくるし、それはしょうがないので。
それにフィット出来る人もいると思いますし、そうした人は事務所に入るのも全然良いと思います。
会社に入れば大きな案件もあるでしょうし営業の負担も減ると思うので、良い経験は出来ると思います。
ただし、安パイだから会社に入りたいみたいな安易な考えの人はどこで何やっても芽が出ないとは思いますね。



アーティストがMV映えするために必要なこと
 ─AK-69KやEric B. Jr.はミュージシャン以上を目指している


そのようなキャリアを積み上げた中で、南さん自身は元々どのような音楽を聴いてきたんでしょう?

南虎我:
元々部活がメインで、ほんとに音楽に興味がなかったんですよ。
iPodみたいな音楽を聴くデバイスも持ってなかったし、サブスクに入ったのもMV監督を始める頃…3年前とかで。

ただ、20代前半でHIPHOPには出会ってたんです。
それが般若さんとKOHHさんの”家族”で、HIPHOPってこんなに感動出来るんだって、音楽を聴いて初めて泣いた。
自分も闘う日々だった中でHIPHOPのそうした這い上がる文化とかが凄く響いて…その時の自分に合ってましたし、だから土台になったのはHIPHOPですね。

USのは聴かずにずっと日本のHIPHOPを聴いてました。
キングギドラや般若さん、ZORNさん…ゴリゴリ語るタイプの人が好きでしたね。
“公開処刑”とかTOKONA-Xさんの”知らざあ言って聞かせやSHOW”は特にビックリしました、「こんな攻撃的な曲あるんだ」っていう。
聴きながら街を歩くだけでちょっと勇気が出るみたいな…ラップって人生を助けてくれるんだなって思いましたね。





─多様なジャンルを手掛ける中で、音楽的に初めてフィールしたのはHIPHOPだったと。
 そこから今に至るまでかなりのフィルモグラフィーですが、これまでのMV制作の中で印象的なアーティスト・エピソードなどあれば教えて下さい。

南虎我:
自分も俳優をやってた中でパフォーマンスにはかなり目が行くんですが、その中でもAK(-69)さんはレベルが違いました。
リップシンクのシーンでラッパーらしく身振り手振りするんですけど、引きと寄りで2パターン撮ったり、2テイク撮ったりしても、ほとんど同じジェスチャーが出来るんですよ。
それって自分の中でもうイメージが固まっていて、見えた上でパフォームしているんだと思います。




あとはEric B. Jr.くんもまだ若いですけど、めっちゃくちゃ凄かったです。
パフォーマンスが圧倒的だし、お芝居のシーンもちょっとあったんですがそれも楽しんでやっていて。
ラッパーとしてはもちろん、表現者としての才能を感じますね。
凄い気の良い奴ですし、大阪からこっちに来たときは俺の家にずっと泊まってて笑
早くまた撮りたいですね。

般若さんやJindoggさん、Jinmenusagiさん、Red Eyeくんも表現に対しての欲みたいなものがあって撮っていて凄く楽しかったですね。

HIPHOP以外でもakugi “デイドリームスピーカー” に客演した色とわさんも、目の奥に凄く迫るものがあるパフォーマンスをされていました。
あとは木下百花さんはアーティスト性と表現力に個人的に興味深い特殊なものを感じました。

それからMVでは無いですが、PLSTさんの時の蛯原友里さんは竹を割った様なと言うか、気持ちの良い性格の方でした。
気を使わせないけど、それでいてプロとしての威厳もある。
演出への瞬発的な反応速度もめちゃくちゃ速い。
普通にファンになっちゃいましたね笑
やっぱり自分が俳優上がりなので、そうしたアーティストだったりモデル以上の…表現者、パフォーマーとしての表現力に目がいきます。




─そうしたMVに映る上でのパフォーマンスを上げるには、何が必要だと思いますか?

南虎我:
自分がどう映るのか、日ごろから意識することだと思います。
「ラフに撮って」みたいな、それでカッコ良く映る人も確かにいますけど、それもやっぱり「どう映るか」を研究しきった先でそうなったってことだと思います。
そうした研究もしないままに、なんとなくで映るみたいなのは絶対に良くないです。

だからある意味、パフォーマンスの高い人たちは「ミュージシャン」以上のものを目指してるんですよ。
それこそEric B. Jr.くんとかは、USのMVでよくある、ラッパーの演技するパートとかが凄く好きで興味があるって話していて。
自分の枠を音楽だけやる存在に限定せず、被写体としてのパフォーマンスも見据えている。
アートに対する受け皿が広いんですよ。
海外とかだとアーティストがお芝居をするなんて当たり前に高水準でやってる。
表現力やパフォーマンス力ってそのアーティストの深みや魅力みたいな所に繋がってると思います。





カッコ良い映像を撮るために必要なこと ─ 機材準備から企画書作成まで

─南さんの作家性について教えて下さい。
 そうしてパフォーマーとして意識の高いアーティストを多く手掛けられるからか、南さんの映像は、どのような曲でも…それこそただボースティングする曲でも、そこにひとさじのドラマ性を挿入する特徴がある気がしています。
 ご自身でそのような意識はありますか?
 
南虎我:
なるべくそういうものを作ろうとしますね。
それは物語だったり裏テーマだったり、何かしらの哲学的なアプローチを考えるようにしています。
もちろんその結果合わないと思えばそうした要素は省くこともあるんですけど、なるべく自分の作家性は出したいと思います。

やっぱり意味のある映像が作りたい。
ただのプロモーションの映像ではなく、そこに映像だから新たな価値が付加されるものを提供したい。
それでこそMVや広告を作る意味があると思います。
映像にする意味と意義のあるものにしたいですね。



─そうした何か付加価値のある映像を作る為に、企画はどのように考えているんでしょう?

南虎我:
クライアントから具体的な要望がある場合はもちろんそれを反映するんですが、基本的にはお任せ頂いていて。
MVに絞って話すと、企画構成の為の着想としては、個人的に大きく次の4タイプに分かれると思います。

①ただアーティストの映えるカッコ良い映像を撮る
②曲の歌詞や曲調やテーマに注目して、曲の一節、一単語などから物語や映像を着想する
③曲を聴いた瞬間にあるイメージが頭に浮かんできて、それをベースに肉付けしていく
④曲そのものとは全く関係のない、小説や映画、その他芸術からテーマを引用してくる

個人的に④はアートの掛け算になって面白いのでオススメですね。

こないだ出たDJ RYOWさんとOZworldくんの”Asian Groove”のMVも…全く関係ないってわけじゃないんですけど、主題でもない『アルケミスト – 夢を旅した少年』(*)って小説から引用してるところがあります。
(*)ポルトガルのパウロ・コエーリョによる名作児童小説。1988年刊。



でも、作家性の出し方はまだまだ弱いなと思います。
もっと作家的、芸術的、哲学的な撮り方をされる方もたくさんいらっしゃるので。



─技法的なお話も伺おうと思うのですが、普段使用している機材を教えて貰えますか?

南虎我:
SONYのαやBlack Magicが多いですね、場合によってはREDってシネマカメラとかも。
レンズはanamorphicレンズが一番好きです。
キャリアを始めたときはαだけでした。
ただその他にモニターやドローンも買い揃えました。
250万円くらい借金して揃えました、だから始めた頃は借金まみれでしたね。
でもそれが先行投資になるので、揃えておいて良かったと思います。

これから始める人にしても、機材は最初に揃えておいた方が絶対に良いと思います。
別に銀行やクレジット会社や消費者金融でこれくらいローンは組めるので。
予算使い過ぎてスタッフにギャラ払えない時は消費者金融で借りて払ってました笑
でも、ちゃんと頑張って動けばそれくらいの額は返せると思ってましたね。
自分も2年くらい掛けて返し切りました。
めちゃくちゃキツいんで別にオススメはしないですけど笑
でも本気でやるならそうした方が良いと思います、そして何を買うかしっかり検討すること。

そして「何を買うのか」ちゃんと決める為にも、目標設定が凄く大事だと思います。
自分は何になりたいのか、最終的にどういう案件のどういう画を撮る存在になりたいのか。
その姿をきちんと決めて、その為に必要となるアイテムを揃えていく。
「次の撮影でこれ使いたいから買う」じゃなくて、長期的な目標の為に必要なものだから揃えるって目線が大事です。



─そうして揃えた機材で、ちゃんとカッコ良い映像、カッコ良いMVに仕上げる為に大切なことは何でしょうか。

南虎我:
適当に撮らない、これに尽きます。
適当にフリースタイルで撮っておいて後から編集でなんとかする、とかは絶対になしです。
それでカッコ良く出来る人、カッコ良くなる企画なんて極々一部なので。

ちゃんと企画書作ってスケジュールとカットリスト組んで、時間があればロケハンもして、コンテも書いて…「MVの何分何秒はこういう画を撮る、その次はこの画が入る」ところまで決めて臨むべきです。
それと曲の音ハメの両立ですね。
初期の頃に出会った監督のKen Haraki や YUE、はそこら辺を真摯にやっていてそれにも影響されましたね。
適当にやって高クオリティになるような、そんな甘い世界じゃないです。



─今のお話にも通じますが、逆にMVを制作する中で、これはやるべきではない、と確信していることはありますか?

南虎我:
安っぽい映像にしないことです。
HIPHOPで言うと、適当にフルでリップシンクを撮って幾つかのパターンを繋げてるだけだとか、意味もなくエフェクトを使ってるだとか。
この業界も高品質でリッチな映像を作れる人がどんどん増えてる。
とりあえずリップシンク撮って繋げて終わり、っていうのはディレクターとしての仕事の放棄です。
MVディレクターはそこを詰めて映像の付加価値を高める仕事なので。



─南さんは女性向けアパレルブランド・PLSTやNEW BALANCEの映像も手掛けるなど、MV外の企業案件も多くこなされています。
 企業案件に進出していくにあたって必要なことはありますか?

南虎我:
案件を得るために必要なこととしては、さっきも話した人と会って点を打っておくこと、自分の手掛けた仕事をちゃんと印象付けて大きな点にしておくことです。
人との出会いは大切にして、大事なタイミングではきちんと点を打っておく。
媚びる必要も無いしそんなのバレるんですが、結局人と人の繋がりですね。
コネを作れって言っているわけでは無くて、結果的に繋がっていく感じです。
そうすれば1年後、2年後とかにちゃんと芽が出る。
MV監督としての実績を積み上げたときと同じですね。

だから企業案件が来るようになった経緯も、これまでであった人からの紹介なので。
かなり前に手掛けた案件から繋がったりもするので、そうしたときに出会った人が自分のことを忘れないように印象付ける仕事をする。
そのあとも発信し続ける。
持久戦です。

だから今頑張ってるディレクターさんも、ちゃんと考えて動いて、ちゃんと良いものが撮れたと思えるなら、それを見てる人は絶対にいるので、いつかちゃんと芽吹くと思います。
綺麗事では無く真実です。

予算や技術がなくて全体としてちょっと拙い部分があっても、そのとき持てるものを出し切って良いものを作ればきっと大丈夫です。
人と比べずに、未来も過去も関係なく、今に焦点を置く事です。
まあ、とは言え俺もまだまだ若輩者だし目標までまだまだなんで、地に足付けて頑張ります。仕事下さい笑



─ありがとうございます。
 最後に、南さんの最終目標は何でしょう。

南虎我:
映像での最終目標は世界に進出して映像を作りたい、映画も作りたいですし、最終的には宇宙で映像を撮りたいですね。
もう映像は絶対に宇宙に進出していくし、既に具体的な計画だってあったりする。
そんなときに、そこにアサインされるような、そんな存在になりたいです。

映像以外にも、舞台演出やライブ演出もやりたいし、ファッションデザインだってやりたいし。俳優も再挑戦します。アートにとどまらずビジネス的なことも広げていきたいし。
今は映像で手一杯ですけど、自分で自分の枠を狭めるつもりはないです。



以上(2021/04/18)
───
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▶南 虎我: Twitter / Instagram

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