Column/Interview

2021年でめでたく設立10周年を迎えたシーンきっての名門レーベル・SUMMIT。ディスコグラフィを振り返れば名盤だらけのこのレーベルの歴史を讃えるべく、PRKS9では今回、SUMMITの全アルバム作品をレビューする(無謀な?)試みを実施。

今回は2017-18年に発表された4作品を紹介。このレーベルは毎年そうと言えばそうだが、今回は特に、どの作品もシーンにとっての重要作となった。シーンが探し求めた秘宝の帰還、遂に出たビッグインパクトの1作、ここから一気に会談を駆け上がる2人の初作品…。本企画が、今一度これらの名作を振り返る契機となれば幸いだ。

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TWINKLE+ 『JAPANESE YEDO MONKEY』


Artists:TWINKLE+
Title:“JAPANESE YEDO MONKEY”
Release:2017/06/07
Label : SUMMIT, Inc.
No : SMMT-94 / XQMV-1005
Price : ¥2,500 + tax

Track List:
1. JAPANESE YEDO MONKE¥
Produced by K-Beat+
2. Fu-jin Raijin feat. IQ∞
Produced by Southpaw Chop
3. There is feat. NIPPS, MARIA, GAPPER *MV
Produced by by PUNPEE
4. 真夜中の猿
Produced by MUJO情
5. KEEP ON
Produced by K-Beat+
6. Midnight Run (TYO)
Produced by Mitsu The Beats
7. SUPER EMCEE’S PT. 3 (LETHAL WEAPON PT. 4) feat. Akeemoney, KZA, IQ∞
Produced by The Anticipation “#Based” Illshit Tsuboi
8. Mukashi Mukashi (Skit)
Produced by K-Beat+
9. チュン チュン
Produced by OMSB
10. 八百夜町 feat. chee-tah man jack from 洛陽船
Produced by K-Beat+
11. KIRO
Produced by plasticmanjp from 洛陽船
12. Dush!
Produced by K-Beat+
13. KAIRAKU feat. OMSB
Produced by BIM
14. Ultra Man+
Produced by Gradis Nice
15. Sentimental (メランコリー)
Produced by K-Beat+

ある意味SUMMIT最大の功績は、このアルバムを世に送り出したことだ。誰も捕捉出来なかった日本HIPHOPの秘宝・TWINKLE+を引っ張り出し、アルバムリリースまでこぎ着けた。TWINKLE+は元々90年代末からTWINKLE LITTLE STARとして活動を開始。のちに名をTWINKLEと改めてからは洛陽船、K-Beat+との雑草’Zなどで活動するも、その動きは常にマイペースだった。地元仲間であるからくりやアルファの音源に時折参加する一方、大きく動いたかと思えば一気にDEV-LARGEやNIPPSのアルバムや、当時の大人気コンピシリーズ『HARLEM 1.0』といったビッグプロジェクトに登場。表舞台に立つと打率10割でありながら、打席数自体が異様に少ないアーティスト。まとまった音源を待望されながらも、表舞台からは10年以上姿を消していた。

かつてDEV-LARGEからもかつてEPリリースを促されたと言うが当時は頓挫。その後2015年にDEV-LARGEが逝去し、追悼イベントに参加した際に歯車が回り出し、SUMMITへの加入・本作のリリースに辿り着いたという。そんな紆余曲折を経て結実しただけあって、本作は「TWINKLE+とは誰か」を総力戦で示して見せた、SUMMIT作品でも屈指の充実作だ。

何をおいても、まずは10年経っても粘度の落ちないTWINKLE+のラップを褒めるしかない。一度聴けば忘れられない粘性の強いフロウは、ラップで奏でるP-Funkさながら。半笑いで咀嚼音が聴こえてくるようなファンク濃度の高いラップが、これまた足し算しかしないような高純度のファンキービートに乗ってこってり揚げられている。リードカットされた“There Is”こそPUNPEEのビートに加え、SUMMITの中でも透明感ある声質のMARIAとGAPPERを揃えてなんとかネバつきを中和しようとした試みが垣間見えるが、TWINKLE+が登場した時点で曲がベタつくのは避けられず。間違ってNIPPSまで連れてきたもんだからどうしようもないことになっている(褒めてます)。

その他、盟友・K-Beat+が手掛けた楽曲はここで挙げてもキリがないほど名曲揃い。中でも洛陽船の2MCが感涙物の再会を果たした“八百夜町”は悶絶物のクラシックだ。他にもSouthpaw ChopとIQ∞がリスナーの求めるものを完璧に理解している“Fu-jin Raijin”などとにかく傑作揃い。日本HIPHOPの叔父貴・DEV-LARGEの意思がまさかの2017年に受け継がれた、見事な傑作だろう。必聴。

VaVa 『low mind boi』


Artist : VaVa
Title : “low mind boi”
Release : 2017/06/21
Label : SUMMIT, Inc.
No. : SMMT-96 / XQMV-1006
Price : ¥2,300 + tax

Track List:
1. My Shit
2. low mind spaceship
3. New Season
4. 杉並地区
5. SUPER VAVA pt.2
6. Time Walker
7. Another One 
8. Other Side
9. Changed at Oct.
10. Aroma Rich
11. 混沌としたCity
12. Blue Sky -Good Ending Orchestra- 
13. Keep All

少しナードな脱力感と、ダラけ感に不釣り合いな(主にサウンド面で)極太なHIPHOPイズム。そんな良いアンバランス感がSUMMITのレーベルカラーとして特徴的な部分だと思うが、そのカラーをよく示したのがVaVaのこの1stアルバム。元々THE OTOGIBANASHI’SやJUBEEら擁するCreative Drug Storeの一員として主にビートメイク面で貢献してきた彼が、元々やっていたラップを「またやってみようかな」と一念発起。そこでSUMMITに送って響いたのが「どうしようもねぇくらいにうざってぇ くだらねぇことで悩みたくねぇんだな」と脱力交じりの諦念・苛立ちを歌う“My Shit”だったのは、必然の引き合わせだったのだろう。

その後全曲セルフビート、全曲ワンマイク、制作期間2ヶ月で練り上げられた本作は、ロウなテンションで、夢と現実の狭間をワンルームから眺めたようなインナーミュージックだ。センス良くチョップされたロウなビートはともすれば宇宙的な世界観の広がりを感じさせるが、その色彩とラップから、浮かんでくる情景はカーテンの閉じた薄暗い部屋。スペースファンク的な“low mind spaceship”などは料理の仕方次第で壮大な世界が広がるのだろうが、やはりロウテンションなVaVaのラップが相まり、上記のような閉じた世界観を構築する一要素を構成する。かといってダウナーで陰鬱なアルバムなのかと言われるとそうではない。本作はあくまでロウテンションなVaVaが、ロウながらに感情の浮き沈みを素直に吐き出した作品。複雑ながらも「一人でもポジティブ」と語って見せる“Time Walker”の柔らかな質感などは特筆すべきだろう。

本作のリリース後、VaVaは中高生以来のゲーム愛をオープンにする楽曲を数多く発表。2021年にはYo-Sea, OMSBと共にApex Legendsの大会公式テーマソングを手掛けるに至る。ロウなマインド、自身の趣味をそのまま示して結果に結び付けた、見事なキャリアを歩んでいるアーティストだろう。

PUNPEE 『MODERN TIMES』


Artist : PUNPEE
Title : “MODERN TIMES”
Release Date : 2017/10/04
Label : SUMMIT, Inc.
No. : SMMT-99 / XQMV-1009
Price : ¥2,700 + tax

Track List:
1. 2057
2. Lovely Man
3. Happy Meal
4. 宇宙に行く
5. Renaissance
6. Scenario (Film)
7. Interval
8. Pride
9. P.U.N.P. (Communication)
10. Stray Bullets
11. Rain (Freestyle)
12. 夢のつづき
13. タイムマシーンにのって
14. Bitch Planet
15. Oldies
16. Hero

SUMMITが本作の情報を初めてSNS上で解禁したときの文言は「(アルバム)出す出す詐欺、遂に御用」だった。リスナーの飢餓感をポジティブに解消してみせるSUMMITの見事なプロモーションもあって、『MOVIE ON THE SUNDAY』(2012年)以来のまとまった作品となる本作はシーン中の注目を浴びてリリースされた訳だが、その上がりきった期待値に十二分に打ち返したと言える充実度だ。なおPUNPEEは、本作のコンセプトに辿り着くまでにかなり試行錯誤したことを明かしている。時間が経つごとにプレートが自動加算されていく重量挙げのような勝負の中で、きっちりこの密度と16曲のボリュームを仕上げてきたのは、傑出した才能と、何よりリスナーへの真摯なスタンスの賜物だと思う。

pic.twitter.com/3af1QqEjX6 — SUMMIT (@SUMMIT_info) June 30, 2017

そうして出来上がった本作は、監督・主演を自分が務める映画的な視座を持つ。まずは監督として「40年後の自分が振り返る」舞台をセッティング。一本筋の通ったコンセプトを維持しつつ、オーセンティックなストリートスタイルからSFソングまでを自然にカバー。加えて多様なトラックメイカーに任せることで、監督&主演による自作自演感を回避し、「主演が山あり谷ありに動く」予定調和でない楽しさを確保している。

そうして緻密な構成を基に練り上がった本作は、イントロ明けいきなりクラブのトイレで吐いて始まるユルい“Lovely Man”も、“Renaissance”“Scenario (Film)”のようなPUNPEE節全開なメロディアスなチューンも、果てはISSUGIとの相性の良さを見せる“Pride”やPSGが集合した“Stray Bullets”あたりの90’s Boom Bapスタイルも、無理なくひとつのアルバムに包含してしまう。そうしてスタイル的な散らかりと16曲というボリュームがありながら、一周したときの纏まりの良さはやはり傑出した才能を再確認させられる(2度目)。“Oldies”でのしめやかな雰囲気がリスナーに自然と共有されるのも、この16曲の旅路がやはり何かの冒険を体現していたからに他ならない。

BIM 『The Beam』


Artist : BIM
Title : “The Beam”
Release Date : 2018/07/25
Label : SUMMIT, Inc.
No. : SMMT-111 / XQMV-1012
Price : ¥2,500 + tax

Track List:
1. Power On(Produced by BIM)
2. Bonita(Produced by VaVa)
3. BUDDY feat. PUNPEE(Produced by Rascal)
4. サンビーム(Produced by Astronote)
5. Orange Sherbet(Produced by BIM & VaVa)
6. Tissue(Produced by JJJ)
7. Beverly Hills(Produced by OMSB)
8. Starlight Travel(Produced by Rascal)
9. D.U.D.E.(Produced by Astronote)
10. TV Fuzz(Produced by BIM)
11. Red Apple(Produced by BIM)
12. Bath Roman(Produced by BIM)
13. BLUE CITY(Produced by BIM)
14. Magical Resort(Produced by BIM)
15. Power Off(Produced by VaVa)
16. Link Up -Bonus Track-(Produced by Lanre)

THE OTOGIBANASHI’Sとしての活動がひと段落つき、「自分に何がどこまで出来るのか」試すべく歩み出したBIMのソロ作。その意味でコンセプチュアルな鋳型に自分たちのキャラクターを合わせていたTHE OTOGIBANASHI’Sの2枚のアルバムと異なり、BIMというペルソナが強く反映された作品でもある。従って自分の想いに純粋に反応してみせた、非常に情動的なアルバムとも言えるはずなのだが、その実、感情の揺らぎがエネルギッシュな形に変換されないのがBIMの魅力だろう。そのロウなラップとそれを包み込むビートの相性もあって、語っていることの裏に見える思いの強さと裏腹に、それをスマートに聴かせるセンスが全編を覆う。

それこそ冒頭の“Bonita”からして、当時色々あったというVaVaに向けた1曲だが、ともすればラブソングと取れるくらいにシティライト溢れる洒脱な作り。“BUDDY”もちょっとした手違いで共演することになったというPUNPEEとの1作だが、そんな裏側のドタバタなど微塵も感じない、必然性を感じる相性を見せる。アルバム構想前から完成していた“Orange Sherbet”のチルムード(リリックはエグい)がその前後の楽曲と当たり前のようにスムーズに繋がるあたりも、いつもの自分を延長した本作の自然体な姿勢で臨んだ証左だろう。前半ならOMSBのビートに例外的にフィクショナルなラップが乗る“Beverly Hills”や、いつものBIMより数段アッパーなビートとHOOKに面食らう“Red Apple”などの飛び道具も楽しみつつ、そのまんま風呂ソングな“Bath Roman”などがやはり沁みる。「今の自分をそのまま作品にコンパイルする」という試み自体は各所で為されていることではあるが、アーティストのペルソナがここまで正確な比率で作品に反映されたアルバムは中々ないのでは。

───
2021/07/15 Text by 遼 the CP

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