Column/Interview

2021年でめでたく設立10周年を迎えたシーンきっての名門レーベル・SUMMIT。ディスコグラフィを振り返れば名盤だらけのこのレーベルの歴史を讃えるべく、PRKS9では今回、SUMMITの全アルバム作品をレビューする(無謀な?)試みを実施。

今回は2013-14年に発表された4作品を紹介。BIMやin-dのめでたいデビュー作となった作品のほか、うち3作品がSIMI LAB関連となった。今に至るまで活躍を続けるSIMI LABの、中期の作品群としてぜひ再度チェックされたい。

2011-2012年編はこちら

DyyPRIDE 『Ride So Dyyp』


Artist:DyyPRIDE
Title:“Ride So Dyyp”
Release:2013/03/08
Label:SUMMIT
No.:SMMT-25
Price:¥2,200 (tax in)

Track List:
1. Intro
2. Pain (Prod. by MUJO情)
3. 死闘 (Prod. by DyyPRIDE)
4. Lost (Prod. by DyyPRIDE)
5. 極東の或る監獄にて
6. 煌めいた監獄 feat. OMSB (Prod. by MUJO情)
7. Made in 信念 (Prod. by MUJO情)
8. Visual Trick feat. TAKUMA THE GREAT, USOWA (Prod. by Juelz)
9. My Machine (Prod. by DyyPRIDE)
10. Ride So Dyyp (Prod. by Earth No Mad)
11. Route 246 feat. JUMA (Prod. by USOWA)
12. Minority Blues feat. DJ ZAI (Prod. by MUJO情)
13. We Can’t Move Back (Prod. by Earth No Mad)
14. All Your Mind feat. MARIA (Prod. by Juelz)

1stでリスナーにガチンコ勝負を挑んだDyyPRIDEの2作目は、通底したテーマを延伸させつつ、より他者の存在を意識させた作品となった。それは自身が連れてきたというプロデューサー・MUJO情を始めとする多様なプロデュース陣(前作はほぼQNのみ)、SIMI LAB勢を中心に迎えた客演陣(こちらも前作はQNのみ)といった外形的な他者の介入はもちろん、テーマの部分でも意識的に他者を見据えた拡張があるように思う。

前作はハッキリと「コーカソイドの自分と日本社会」という1人称の戦いだった。今作も着想元がそうした問題意識であるという根底はブレていないし、客演陣含めそうした言及も多々ある。だが、自身のストラグルを人種的言及をギリギリまで抑えて語り切る”死闘”や、前編にあたる”極東の或る監獄にて”に続きOMSBと日本社会を巨視的に揶揄する”煌めいた監獄”, TAKUMA THE FREATらとの”Visual Trick”など、より客観的な視点での描写が多くなる。それと同時に小説的な語り口、フィクションラインの設定が行われているのもまた、作家の顔を持つDyyPRIDEならではの特徴と言えるだろう。

また、こうしたテーマの拡張あってか、”My Machine”以降の、自身の愛車を主軸とした流れが良い。この辺りの肩の力が抜けた流れに少しほっこりするのだが、その中でも時折差し込まれる他者からの目線の描写が痛い。気晴らしの時間の中、不意にこうした視点が入り込むのが問題の根深さをかえって際立たせる、やはり多層的に練り込まれた作品だ。

THE OTOGIBANASHI’S H『TOY BOX』


Artist:THE OTOGIBANASHI’S
Title:“TOY BOX”
Release:2013/04/26
No.:SMMT-26
Price:¥2,300(tax in)
Label : SUMMIT

Track List:
1. “OPENING”
2. K.E.M.U.R.I.
3. Froth On Beer
4. “LUNCHTIME”
5. Pool *MV
6. Gana Gana Ganda
7. Humlet
8. Fountain Mountain
9. “DINNERTIME”
10. Closet *MV
11. Dawn
12. “ENDING”
13. Under The Bed

BIM, in-d, PalBedStockによるクルーの1stアルバム。JUBEEらが所属するCreativeDrugStoreにも籍を置く彼らは2011年に結成、2012年5月に”Pool”のMVがPUNPEEやきゃりーぱみゅぱみゅにも紹介される形で話題となりSUMMITに加入した(PUNPEEにはBIMが当時猛アタックして聴いて貰ったそう)。その後2012年10月末にはSUMMITのYouTubeチャンネルから”Closet”のMVが公開、翌年4月にはこのフルアルバム。一足飛びにシーンの真ん中に躍り出た中での注目作となった。

今なお活躍を続けるBIMとin-d。だが現在のスタイリッシュな、それでいて時々ほんわかした素顔が見えるバランス感が絶妙なスタイルからすると、本作はよりインディー感の強い──当時の「日常系」なHIPHOPの流れをはっきりオリジンとして感じることの出来る、より生活感溢れるスタンスが見え隠れする。あらべぇ(現荒井優作)がプロデュースした”Pool”やRiki Hidakaとの”Fountain Mountain”など、MV化された音源は特にその向きが強い。

今回改めて聴き直す中で、同時代性で言えばパブリック娘。などにも通じるところがあるなと感じて聴き進めていたが、そんな安直な類型化を覆すのが、日常の「夜」を描いた後半の流れだ。ゴシックなストリングスが不穏なマイフェイバリット”Closet”から一気にラップも非現実的な質感を纏う。そこから心地良い浮遊感を伴って心地良く目覚める、”Under The Bed”で本作の物語は閉じられる。「目の前の日常を等身大に描く」ことを出自として持ちつつ、意図的にワンランク跳ねさせて見せる。それこそが彼らのセンスなのだと思うし、だからこそ後半の流れが大好きだ。

MARIA『Detox』


Artist:MARIA
Title:“Detox”
Price:¥2,600(tax in)
Format : CD
No.:SMMT-28
Label : SUMMIT
Release Date:2013/7/12

Track List:
1. HipHop’s ma…
Produced by OMSB & WAH NAH MICHEAL
2. Empyre feat. DJ ZAI
Produced by MUJO情
3. Casca
Produced by OMSB
4. Helpless Hoe
Produced by C.O.S.A.
5. Movement feat. USOWA, OMSB, DIRTY-D
Produced by GIVVN
6. God Is Off On Sunday
Produced by OMSB
7. Roller Coaster feat. JUMA, OMSB
Produced by WAH NAH MICHEAL
8. Make It Happen Wit My Ass
Produced by WAH NAH MICHEAL
9. Hang Over Left Over
Produced by Earth No Mad
10. White Sugar
Produced by Earth No Mad
11. Tear Me Down feat. Cherry Brown, TAKUMA THE GREAT
Produced by Lil’ 諭吉
12. Depress feat. ISSUE
Produced by ISSUE
13. Never Too Late
Produced by WAH NAH MICHEAL
14. Sand Castle
Produced by JUGG
15. Your Place
Produced by Earth No Mad
16. Bon Voyage
Produced by One Man Slang Band

SIMI LABの中でもひときわ自由なHIPHOPの姿を示して見せるMC・MARIAの1stソロアルバム。ソロアルバムを出したいという長年抱えていた思いは、16曲の大ボリュームとして形を成した。その中身も、ハードロックやUKポップスとHIPHOPが共存する音楽背景と、「当時抱えていたことをストレートに詰め込んだ」というスタンスが相まって、あけすけに愛・怒り・男女関係を語る非常にオープンな作品となっている。

音楽背景とストレートな思いがスパークした例として、HIPHOPへの想いを綴るのにあえて歌メインの構成とした冒頭の“HipHop’s ma…”は代表的な例だろう。加えて消え入りそうなヴォーカルが印象的な終盤の“Sand Castle”など、クルーの作品では見せきる時間のなかった、自己を解放したようなヴォーカル曲の入れ込み具合が非常に印象的だ。特に“Sand Castle”に続きフィナーレの下準備に掛かる“Your Place”, プロデュースを手掛けたOMSBとの間で「終わりはこの曲と決めていた」という“Bon Voyage”で締める終盤の流れが秀逸。

一方であけすけにHIPHOP然とした楽しさを示して見せた“Roller Coaster”, MARIAが当時のインタビューでフェイバリットMCとして名前を挙げた2人を招いた“Tear Me Down”など、マイクリレーものの楽しさも光る。ソロアルバムで自己表現を100%貫くとボリューム・内容的にこうなるという姿が見える、裏表なくストレートな好作だ。

SIMI LAB 『Page 2 : Mind Over Matter』


Artist : SIMI LAB
Title : “Page 2 : Mind Over Matter”
No.:SMMT-41/42(CD+DVD 限定盤)
No.:SMMT-43(CD通常盤)
Price : ¥3,000+税(限定盤)/ ¥2,600+税(通常盤)
Format : CD
Release Date : 2014/03/05
Label : SUMMIT / P-VINE

Track List:
1. Intro Mind Over Matter
Produced by Hi’Spec
2. Avengers
Produced by MUJO情
3. Dawn
Produced by OMSB
4. Oasis
Produced by OMSB
5. Karma
Produced by OMSB
6. $$$$$
Produced by OMSB
7. Kommunicator
Produced by WAH NAH MICHEAL
8. Circle
Produced by Hi’Spec
9. Mind Over Matter
Produced by WAH NAH MICHEAL
10. Worth Life
Produced by Hi’Spec
11. Player
Produced by OMSB
12. Street
Produced by WAH NAH MICHEAL
13. Yawn
Produced by OMSB
14. Roots
Produced by Hi’Spec
15. Come To The Throne
Produced by One Man Slang Band

QNが脱退して以降初の、そして2021年現在最後のクルーアルバム。…と言うとなんだか後ろ向きな書き出しだが、その実本作は1stに勝るとも劣らない、いや個人的には上回る充実作だ。

OMSB a.k.a. WAHNAHICHEALとHi’Specでほぼ全てのビートを手掛けた15曲は、アルバムとしての方向性・強度を増す形で結実。前作が良くも悪くも曲ごとの実験精神が前面に押し出た作りであったのに対し、本作ではローファイで重厚なサンプリングビートがメインの構成となり、いきおいヘヴィでダークな質感が充満する(その雰囲気を絵として見事に示して見せたのが本作のアートワークだろう)。

そんな中にあって唯一MUJO情がプロデュースした“Avengers”が、挨拶代わりの飛び道具として非常に効いている。ラグドな音質に途切れ途切れに吹かれるホーン、ガヤだらけでなだれ込んでくるラップ…アルバムとして方向性を整えたことが、クルーとして落ち着いた訳ではないことを雄弁に示して見せた名曲だ。続く“Dawn”も菊地成孔のDCRPGへ参加した当時の流れを想起させるようなフリージャズ式のビートで、特にMARIAが映える。このあたりのオーセンティックなブラックミュージックの流れを汲む姿勢もまた、前作とは方向性として異なるものだ。

他にも『Mr. All Bad Jordan』以降のOMSBのビート観を体現するかのような、ワヤ感の楽しい“Karma”(OMSBがキレにキレている), 「いつかは解散?」と聞かれたときの想いをOMSBが綴ったラインが非常に刺さる感傷的な“Circle”など、まとまりの良い曲が並ぶ、高品質な作品だ。なおこの立役者として、個人的なMVPとしてUsowaの名前を挙げておきたい。自分のヴァースが始まった瞬間に全弾フルオート射撃するようなアタッカーだらけのクルーにあって、一歩引いたクールなラップは確かにスナイパーのそれだった。

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2021/05/31 Text by 遼 the CP

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▶参考: SUMMIT HP

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