Column/Interview

神戸弁、男子校ノリ、下ネタ…そして最高にブルージー。筆者が、神戸薔薇尻こと小林勝行というアーティストを語る上で、まず連想したキーワードだ。
彼を知らない人が見れば中々とっつきにくい印象になりそうだが、(誤解を恐れず言えば)それが事実でもある。ただし、そんなテーマさえ内輪ノリに留まらず、全国に届かせるに充分な強度でもって作品に昇華できる事実こそが、小林勝行の魅力であり、ユニークたらしめる最大の要素と言えるだろう。
躁鬱を患いながらも過酷な現実に向かい合う、アーティスト「小林勝行」を追いかけたドキュメンタリー映画『寛解の連続』の封切りが2021年4月末。以降、俄かに高まる再評価の熱を受けて、「神戸薔薇尻」時代からの作品を今こそ振り返りたい。その男、ブルージーにつき。

1. DJ NAPEY / 蓮の花 feat. 神戸薔薇尻 (2006年)


同郷、神戸のDJ/プロデューサーであるDJ NAPEYの2ndアルバム『FIRST CALL』においてもとりわけ輝いていた、最初期のクラシック。前文で述べた連想キーワードが全て詰まった、正しく神戸薔薇尻の代名詞的な1曲と言っていい。2020年にセルフリメイクした事実からして、本人にとっても特別な楽曲であることが窺える。

2. 神戸薔薇尻 / 絶対行ける(2006年)


(こちらはシリーズ2作目)

SEEDAとDJ ISSOが先導した名コンピレーションアルバム『CONCRETE GREEN』シリーズに(2度も!)選出されたキャリア初期の名曲にして、現時点で3作発表されているシリーズの処女作。単独名義であることも手伝って、本作で彼の存在を知ったヘッズも多かったはずだ。なお、己に言い聞かせるように曲名を連呼するインパクト大のHOOKは、続編でも引き継がれている。

3. KING 3LDK / スニーカーフリーター feat. 蟹バケツシンドローム (2006年)


ZIGEN, 未踏, TAMchと共に結成したユニット・蟹バケツシンドロームの数少ない公式音源の一つ。ソリッドなビートに乗って軽快なユニゾンや掛け合いなど、ソロではあまり聴けない立ち回りが楽しい。

4. SAC / ちょけんねん feat. 神戸薔薇尻 (2007年)


「ちょける = 関西弁でふざける」こと。SCARS周辺のプロデューサー・SACのリーダー作『FEEL OR BEEF』でも目立っていた1曲。”蓮の花”と共にキャリア初期を代表する名演だ。哀愁がかったビートに、掠れたハスキーなラップ、自身で歌うHOOKも含めて、どこかブルース的な味わい。自身の黄金パターンを早々に確立した1曲と言っていい。

5. 神戸薔薇尻 / HERE IS HAPPINESS (2008年)


リリース当初は、ノンプロモーションのジャケ無しレコード12インチというストロングスタイル(?)で出回った一曲。I-DeA作のビートはキャッチーだけど、未練混じりの元カノへの想いも薔薇尻のフィルターを介せばビターな味わいに。12インチでは両面仕様だった盟友・神門の同名曲とはビートもテーマも同じなのに表情がかなり違っているのも面白い。なお、BALAKETZ名義で、DJ NAPEYによるバージョン(REMIX?)も存在している。

6. BALAKETZ / いつかの少年 (2008年)


神戸薔薇尻からBALAKETZに名義変更し、”絶対行ける”に続いて、V.A.『CONCRETE GREEN』シリーズに提供された楽曲。ノスタルジックなビートに、ビックリマンやら聖闘士星矢、ファミコンカセットなどの固有名詞が飛び交う、80年代生まれ悶絶の内容。時間が開き過ぎたせいか、後の『神戸薔薇尻』には未収録だった。

7. DJ NAPEY / MONEY SHOT feat. YOUNGI, JAZZY BLAZE, REAL-IZM, 98, AGRI8, WONGGY, UC.DOUBLE, 神戸薔薇尻, MAX-3 (2008年)


DJ NAPEYのリーダー作『MONEY SHOT』に収録された、神戸のオールスターによる会心の一撃。前半に登場するJAZZY BLAZEやらYOUNGIらが目立ってはいるものの、大トリ前にいぶし銀の存在感を発揮。ネタ使いからして明らかにLAMP EYE”証言”を意識したであろう楽曲で、緊張感のあるマイクリレーに華を添えている。

8. マイクアキラ / Bang Bang Bang Bang!!!!!feat. 神戸薔薇尻, Mint (2009年)


ラップアイドル・マイクアキラのソロ2ndアルバム『THE RAP ROBOT』に収録された一曲。”渡り鳥”に続く取り合わせだが、今度は同郷のMintと共に参戦し、オールドスクールなエレクトロビートでボソボソとラップ。正直、Grandmaster Flash & The Furious 5の古典”The Message”を流用したMintヴァースほどのインパクトは無いが、珍しい喰い合わせには違いない。

9. 小林勝行 / 108 bars (2011年)


関西シーンの秘密兵器的な触れ込みで、満を持して発表されたデビュー作『神戸薔薇尻』の幕開けを飾った衝撃曲。これまでの過去を清算するかのような自伝的内容と言えば聞こえはいいが、ここでの断片的なワードの積み重ねは、巷のストーリーテリングとは一線を画するもの。なのに、ドラマ的にビジュアライズされ、この上無く雄弁に自身の物語を語る。HOOKも、キャッチーな節回しさえ無いのに、9分弱もの長尺に惹きつける独自の魅力が確かに存在している。

10. 小林勝行 / 元カノ達の慕情(2011年)


ハッキリ言って『神戸薔薇尻』からは全曲紹介したいぐらいなんだけど、今回の選盤において彼の魅力を語る上で外せかった一曲。相変わらずの関西弁に枯れたハスキーヴォイス(ラップ)、さらに元カノ視点のリリックとくれば、どうしたって引き合いに出したくなるのは、上田正樹”悲しい色やね”。正に「ブルースで酔わせてや」と。

11. 小林勝行 / 丈夫軍手’z (2011年)


ECD “まだ夢の中”や”家庭の事情”だったり、茂千代 “汗とホコリにまみれ”、最近ならZORN “My Life”みたいな、いわゆる「ヨイトマケ」な楽曲は、既婚か30代以上のヘッズにこそ刺さるに違いない。本作は小林勝行版”ヨイトマケの唄”、耳当たりこそ一聴してライトだけど、芯にズッシリ響く労働者アンセムだ。

12. 小林勝行 / 警鐘 (2011年)


正しく男子校ノリの寸劇から、「神戸薔薇尻」からの卒業、ケジメとでも言わんばかりに「歩を進める」意思表示。”蓮の花”や”ちょけんねん”辺りと同じく、彼をユニークたらしめる要素を全部乗せしたような、とりわけ「らしい」一曲でもある。『神戸薔薇尻』のトリを飾り、結果的にディスコグラフィーで振り返れば、いかにもヒップホップらしいボーストも含んだ彼らしい「劇画タッチのオラオラ感」は、明らかにここを境に鳴りを潜めていく。

13. LIBRO / ある種たとえば feat. 小林勝行 (2014年)


2014年に本格再始動した鬼才・LIBROと小林勝行の邂逅に驚いた人は当時多かったはず。LIBRO作のノスタルジックなビートに乗って、太古からの輪廻転生、現代の自分自身へと繋がるストーリーを歌う小林勝行の語り口は、激情的で彼にしか体現し得ない世界観だろう。LIBROはここではプロデュースに徹し、実質的に小林勝行のソロ仕事となっている。

14. LIBRO / 花道 feat. 小林勝行 (2016年)


“ある種たとえば”に続く再会。ソロで壮大なストーリーテリングを敢行した前回の共演とは一転、ライブの地方営業をテーマに、フックにはLIBROも登場。毒っ気は綺麗さっぱりと抜けさり、まるでスポーツ終わりみたいな清々しさ。LIBROとの仕事でなければ、ここまでの清涼感は無かったはず。

15. 小林勝行 / FUKUHARA (2017年)


風俗街としても知られる神戸は福原をテーマに、風俗体験記をラップするド下ネタ曲。賢者タイムを含めた超が付くほどの生々しさで、女性にはとてもじゃないが聴かせられない内容。『神戸薔薇尻』の特典曲”SEX”も同様だが、聴く際の環境には十二分に注意されたし…!


16. 小林勝行 / おかえりなさい (2017年)


2ndアルバム『かっつん』収録。タイトル通り、”仕事終わり”にフォーカスした、”丈夫軍手’z”のアナザーサイド的な1曲。仕事から上がった「オフ」の状況を想定したであろうリラックスムードの中、「おつかれさま」と終始労う物腰は、優しく柔らかい。”丈夫軍手’z”との対比が、それぞれを収録した1stと2ndアルバムの内容を象徴している気がして興味深い。

17. 小林勝行 / オレヲダキシメロ(2017年)


「リリックを書くペン」の目線で展開する変わり種。2ndアルバム『かっつん』は、自身の躁鬱症状を受けた入院生活をメインテーマにしたコンセプチュアルで内省的な作品になったが、そんな中で自身をも客観視したペンの視点で描いた本作は、他の楽曲とは異なる色味を添えている。

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2021/07/27 Text by Vinyl Dealer for vinyldealer.net (Twitter)

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