Column/Interview

2021年でめでたく設立10周年を迎えたシーンきっての名門レーベル・SUMMIT。ディスコグラフィを振り返れば名盤だらけのこのレーベルの歴史を讃えるべく、PRKS9では今回、SUMMITの全アルバム作品をレビューする(無謀な?)試みを実施。

ここでの「アルバム」の定義はある程度の定性判断を許して頂きたいが、公式サイトの記述に倣い、2年ごとにまとめてアルバム作品を紐解いていくこととしたい。

なお充実した公式サイトの情報にも大変助けられたことをここに記しておく。こうして情報をフルオープンにする姿勢もまた、レーベルの勢いある所以なのかもしれない。

Earth No Mad From SIMI LAB 『Mud Day』


Artists : Earth No Mad From SIMI LAB
Title : “Mud Day”
Price : ¥2,300 (tax in)
Release Date : 2011.3.25
No. : SMMT-1

Track List:
1. Mud Day feat. QN (SIMI LAB)
2. Walk Man (Album Version) feat. SIMI LAB
3. Fake Homie feat. OMEN (SIMI LAB) & OMSB’Eats
4. Don’t Touch Me feat. QN
5. Marui feat. MARIA
6. Interloude
7. Who Know feat. QN & OMSB’Eats
8. Skit#1
9. 16時54分 feat. Ryohu(ズットズレテルズ)
10. Anti Dote feat. OMSB’Eats
11. 特攻野郎酒チーム feat. METEOR
12. Nemesis feat. Onslaght
13. Flower And Money feat. QN & JUMA (SIMI LAB)
14. Skit#2
15. Udiquity (Kidding Me Softly) feat. GIBUN (Low Pass)
16. Sorry feat. QN
17. Still Night
18. You Found Me feat. MARIA
19. DUNE feat. QN & MARIA
20. Walk The Way feat. 菊丸
21. Sunshine2011 feat. USOWA (SIMI LAB) & QN
22. Mudness Lab feat. SIMI LAB & JUMA

All Tracks Produced by Earth No Mad

SUMMITの記念すべき初アルバムは、当時SIMI LABのQNがプロデューサー名義・Earth No Madとして発表した本作。客演にMARIAやOMSB’Eats(現OMSB)といったSIMI LABの面々が参加しているのはもちろん、のちにKANDYTOWNとして活躍することになるRyohuや菊丸(現KIKUMARU)、様々なオルターエゴで現在もシーンを暗躍するGIBUN(現Givvn他)などが参加。

のちの『Deadman Walking 1.9.9.0』の頃までに顕著な、QNらしいトラックプロデュースが本作に詰まっていると言って良い。だらりとしたBPMにドラムとベースによる表現力を突き詰めたビート。上ネタが加速装置であってメインエンジンにならないこのビート観は、上ネタの美学を追求しきった1990年代、打ち込み重視にシフトした(クリアランス問題でせざるを得なかった)2000年代とも異なる、いわゆる「10年代型Boom Bap」の基本形として振り返ることが出来る。

いきおいビートはド渋な仕上がりとなり、MCの力量が試されるが、そこは当時気鋭の面々が集った作品。SIMI LABがシーンに認知される契機となった“Walk Man”が持つのっそりとしたダークネス、一転して(今にも繋がる)独自の華やかさを示すMARIAの“Marui”, QNのビート・ラップセンス爆発な“Mud Day”など、落ち着いたビートになだめられるように静かな傑作が並び立つが、異才を放つのは清廉なこの世界に、ひとり酔っぱらいのノリでやってきたMETEORの“特攻野郎酒チーム”だろう。

メンツ的にも既に今のSUMMITの鋳型が見えるのはもちろん、“Flower And Money”のイントロの会話に象徴される通り、日常の延長が曲に結実するような、SUMMITの本質がこの頃から垣間見える。発足当初の磁場を知る為の貴重な作品だろう。

RAU DEF 『CARNAGE』


Artists : RAU DEF
Title : “CARNAGE”
Price : ¥1,890 (tax in)
Release Date : 2011.6.10
Format : 特殊加工デジパックCD
No. : SMMT-4

Track List:
1. VIOLET APPROACH
Prod by YMG
2. DYNA MIC
Prod by JASHWON for B.C.D.M
3. WARNING UP feat. GOICHI, KAORU
Prod by GOICHI
4. VENOM
Prod by DJ KENSAW
5. SKIT
Prod by PUNPEE
6. COMPLEX SALE
Prod by S.L.A.C.K.
7. TOKYO ROXTA
Prod by PUNPEE
8. DAY ONE feat. VITO (SQUASH SQUAD)
Prod by PuB KEN

飛びぬけたスキルを持つルーキーとしてシーンに登場、2010年に『ESCALATE』をリリースし一躍名を馳せたRAU DEFの2nd (EP?)はSUMMITから。“Violent Approach”で自称している通り、無軌道な動きでシーンをかき回す跳ねっ返り小僧だったRAU DEFだが、本作はまさにZEEBRAにビーフを仕掛けて業界を騒がせた、その翌月のリリースだった(のちに和解)。

ZEEBRAへのDis曲”KILLIN EM!”でも「こんなビート乗れないでしょ」と煽りまくっていて、いきおい本作は一部から「ZEEBRAをDisりやがってRAU DEFなんぼのもんじゃい」的な聴き方を半ば意図的にされることとなるのだが、呼び寄せたクレーマー達もしっかり躾けて返すだけの力作に仕上がったと言える。

リード曲の“DYNA MIC”のような2010年代直球型の裏打ちや、あえて隙間の多い打ち込みを用意した、”KILLIN EM!”にも繋がるような攻撃性を纏った“VENOM”などはもちろん、人気があるのはとにかく乗り方がラグジュアリーな“TOKYO ROXTA”あたりか。とにかく跳ね回るRAU DEFをブレイクさせるかのようにPUNPEEが“SKIT”でオーセンティックなチルビートを用意しているあたりも、本作の制作背景に思いを馳せてしまうような奥行きがある。

DyyPRIDE From SIMI LAB 『In The Dyyp Shadow』


Artists : DyyPRIDE From SIMI LAB
Title : “In The Dyyp Shadow”
Price : ¥1,980 (tax in)
Release Date : 2011.7.15
Format : CD
No. : SMMT-5

Track List:
1. Intro
2. 人間の証明
3. Street Nigga
4. Strange Place feat. QN
5. アフロ侍
6. Skit
7. 横浜Sky
8. 斃れて後已む Nigga
9. Love is Blind
10. Black Proud
11.Born 80’s
12. In The L.A

檀 廬影名義で作家としても活動する、SUMMIT / SIMI LABきってのリリシストの1stアルバム。野太い声から陽気に紡がれる日常生活の風景は、なるほどこのレーベル作品らしい朴訥な(それでいてハイセンスな)血筋を確かに示す。一方で明確にDyyPRIDEのキャラクターを際立たせているのがその詩的表現、そして自分という容れ物が持つ──肌の色や育ちについて非常に自覚的で、それを触媒としたアート表現に積極的である点だろう。

それは曲名や曲中にあえて散在させたNワードにも象徴されるし、この課題に向き合う姿勢は、「よく考えりゃ日本嫌いじゃねえけど、まともに生きようと下郎並の扱い受けるけど…底の底の方からこんにちは」と始まる冒頭の“人間の証明”から、「コーカソイドすら黄金に化ける街の夕日は黄金色」と紡ぐラストの“In The L.A”に至るまで一貫している。

近年ではMoment Joonが移民ラッパーとして彼を「外」と位置付ける日本社会、日本のHIPHOPシーンを喝破した一連の活動が業界にドでかい風穴を空けた。その約10年前の時点で、自らを日本社会の一員と自覚しているのに相手がそう捉えないことの構造的問題・葛藤を(アルバム1枚使って)描くアプローチがこうして行われていたことは特筆すべきだろう。社会構造への怒りと諦念が入り混じった思いを、あえて何気ない日常感と共に丁寧にリリックに梱包したことで、リスナーに能動的なリスニング姿勢を求める作品ではある。その価値はある。

SIMI LAB『Page 1 : ANATOMY OF INSANE』


Artists : SIMI LAB
Title : “Page 1 : ANATOMY OF INSANE”
Price : ¥2,111 (tax in)
Release Date : 2011.11.11
Format : CD
No. : SMMT-11

Track List:
1. Intro Anatomy Of Insane
 Prod by QN
2. Show Off
 Prod by Hi’Spec
3. Natural Born
 Prod by OMSB
4. Uncommon
 Prod by WAH NAH MICHEAL
5. Twisted
 Prod by OMSB
6. The Blues
 Prod by OMSB
7. That’s What You Think
 Prod by WAH NAH MICHEAL
8. Red Bull / How Are You
 Prod by QN
9. Get Drowned
 Prod by OMSB
10. Moonbeam
 Prod by OMSB
11. Brave New World
 Prod by OMSB
12. Light / Spot Light
 Prod by QN

「巨大なシミが人の形になって君と握手」、SIMI LABが遂にごそりと動き出した1stアルバム。PSG, RAU DEFというSUMMITの他のレーベルメイトにあって飛びぬけて大集団だった彼ら。2009年にMVがバイラルヒットした”WALKMAN”, そこからQNがソロでリリースした『THE SHELL』, SUMMITではなくYUKICHI RECORDSから本作の翌月にリリースされることになる『Dead Man Walking 1.9.9.0』(超が4つくらい付く大傑作!)といった怒涛のSIMI LAB祭りのただ中にあって、本作はいよいよシーンのど真ん中に担ぎ込まれた2011年の目玉案件だった。

ほぼ全作のビートをQNとOMSB a.k.a. WAHAH MICHEALが手掛けた時点でもう絶好調。ぶっといBoom Bapの流れを引き継ぎつつ、エクスペリメンタルな弾きも見せる、サウンドプロデュース面でこの2人が揃っていれば当代無双だ。特に2010年代初頭に顕著なベースの鳴りが最高な”Uncommon”は白眉。「OMS封鎖出来ません」というパンチラインに象徴される勢いのまま、Nicki Minajオマージュで日本における自身のポジショニングを示して見せるMARIA、有名な「普通って何?常識って何?んなもんガソリンぶっかけ火点けちまえ」のHOOKと、彼らのエネルギーが凝縮された前半のハイライトだ。

“Show Off”から“Uncommon”までの暴力的な勢いで一気にアタッキングサードまで攻め込んでくる本作だが、ザックリしたグルーヴがやや感傷的な“The Blues”以降はこちらにも呼吸する権利を与えてくれる。イントロが印象的な“Brave New World”, ラストの“Light / Spot Light”に掛けてスロウダウンさせ、快適なランディングで終了。2011年のシーンは誰が主役なのか、きっちり示して見せた大作だ。

QN『New Country』


Artists:QN
Title:“New Country”
No.:SMMT-13
Release Date : 2012.6.15
Price : ¥2,200 (tax in)

Track List:
1. Will Be feat. Ras Al Guru
2. Cray Man feat. OMSB
3. Creature
4. Hands feat. DyyPRIDE
5. Freshness
6. Cheez Doggs feat. JUMA
7. Hill feat. KKD, DDR
8. Boom Boom
9. Ghost feat. Junk a.k.a. JuJu The Beats
10. DaRaDaRa
11. Better feat. RAU DEF, MARIA
12. 船出 ~New Country~ feat. 田我流
13. Flava

『THE SHELL』(2010年)、『Dead Man Walking 1.9.9.0』(2011年)に続くQNのソロ3rdアルバム。先述のSIMI LABのクルーアルバムはもちろん、ソロの前作『Dead Man Walking 1.9.9.0』がとにかく図抜けた世界観を持つ異質な作品だっただけに、続く3枚目にどのような打ち手があり得るのか、当時のリスナーが期待と不安を胸に迎えた作品だ。蓋を開けてみればこれまでの積み上げを軸にしつつ、「QNイズム」をひとさじのポップでコーティングして食べやすくした、キャリアでも屈指の傑作だった。

それは何かに迎合して変形することを意味しない。共に手弾き感の残るストリングスとドラムスが特異な“Cray Man”, “Hands”あたりを聴けば、前作のように衒った音構成・展開こそないものの、聴き易く、それでいて凝縮されたQN成分に気付くことだろう。他方でリードMVとして発表された“Better”“船出 -New Country-“あたりの、明確に支持層の拡大を狙うような作品でも少しもイズムを失っていない。逆にアルバム中屈指のハイライトに仕上げてくるあたり、このときのQNの恐るべきトータルプロデュース力が見えてくる。

結果的には本作のリリース直前に勃発したQNとOMSBのBeef(現在は和解)により、QNは本作を最後にレーベルを去ることになる。が、今回はそれについてどうこう言うことが企画の主旨ではない。SUMMITのディスコグラフィを振り返った時、本作がQNの到達点としても、今に通じるSUMMITらしい質感の原型としても、一種の完成形を示して見せた傑作であることは誰もが認めるだろう。

OMSB『Mr. “All Bad” Jordan』


Artist:OMSB
Title:“Mr. “All Bad” Jordan”
Release:2012.10.26
Label:SUMMIT
No.:SMMT-19
Price:¥2,400 (tax in)

Track List:
1. One Man Slang Band
2. Fix Talk
3. No Big Deal (F Zero)
4. Hmm… feat. USOWA & PUNPEE
5. Wussup (Skit)
6. Fuck That Fake Policia feat. DyyPRIDE
7. HULK 
8. Joke
9. Rapper Ain’t Cool feat. JUMA
10. I turned into a nervous wreck. (Skit)
11. FOG feat. MARIA & ISSUE
12. Mezon Naruse
13. Hoodless
14. Against Gangsta feat. DIRTY-D & JUMA
15. Perfect Vision feat. MARIA & DOMU YORK
16. Hutsle 2112 feat. DJ ZAI & YUU

SUMMITが誇るHIPHOPワンマンアーミー・OMSBの1stアルバムは、あらゆる外部への苛立ちを攻撃力に全振りした大傑作だ。前口上に近い冒頭の1ヴァースショット“One Man Slang Band”からして、「Wassup Yo, こんちわみなさま」と律儀に挨拶して入ってきたかと思ったら「ただじゃ済まさない、運命Too Late」と自分の運命も殴りつけるキレ具合。

一方で当然ながら、そのギアの振り切り具合で何かを欠いてしまうような作品ではない。音作りや構成、何よりラップそのものの推進力との合わせ技で、やはりこの作品もQN同様、OMSBが如何にHIPHOPの総合力で長けているかを示すプロデュースが為されている。自身の名前がシャウトアウトされてからのブーストが最高な“No Big Deal (F Zero)”やリードMVも公開された本作白眉の“HULK”など、単体でもC4みたいな火力の楽曲が並び立つ。

一方でSkit込みで怒りの根源を示す、あるいはユーモアを見せることでこちらにも一息つかせる“Hmmm…”“Fuck That Fake Policia”などが作品の奥行きを示す作りに。結果としてOMSBは、本作での怒りを次作『Think Good』(2015年)で非常に感動的に回収して見せることとなる。それでも、「怒り」を原動力に最高時速を叩き出した本作のラップタイムはやはり讃えられるべきものだろう。何を燃料に突っ込んでも速力に変換出来る、HIPHOPの特性を示して見せた傑作だ。

───
2021/05/24 Text by 遼 the CP

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