Column/Interview

その年史が積み上がるほど歴史の記述はシンプルになる。

何十年分の歴史を決まった分量に収められるよう、歴史の背骨を構成する要素以外はこそぎ落とされていく。

HIPHOPも同様だ。黎明期にして黄金期とも言われる1990年代、まだ「近世」と言える2010年代の発掘・アーカイブ作業を横目に、2000年代における日本のHIPHOP史はその半端な時間的距離から、ほとんど誰の手にも触れられてこなかったのではないか。

日本のHIPHOPには2000年代があり、そこには確かに数多くの名作があった。

これは新たにこの10年間の遺構を保存し口伝する、終わらない歴史保存作業だ。2000年代のこれまであまり触れられることのなかった名作たちを、いま一度紐解いていく。

TOKONA-X, AKIRAと共に名古屋を代表するクルー・M.O.S.A.D.の一員として、またM.O.S.A.D.やENDLESSFILE, SYGNALらからなる大型コレクティブ・BALLERSのリーダーとしても活動したEQUAL。本作は彼が活躍の場をメジャーに移し、2005年3月25日にコロムビアミュージックからリリースしたEPだ。

ここまでの肩書でも分かる通り、2000年代中期の名古屋を引っ張った中核がEQUALだった。M.O.S.A.D.の活動はもちろん、1stアルバム『GET BIG “THE BALLERS”』(2004年)の幅広い音楽センスが高い評価を受け、本作からメジャーに進出したEQUALは、以降コロンビア傘下では最後の作品となる『KING&QUEEN』(2007年)に至るまでの時期に、シーンからとりわけ熱い支持を得た(*)。

(*)『KING&QUEEN』以降もAVEXに席を移し、2011年にM.O.S.A.D.の作品などをリリースしてきた古巣・MS Entertainmentに戻るまで8枚のEP/アルバムをリリースした

そして当時の事情として、この時期にEQUALが活躍したことの意義は大きかった。なぜなら『ごうだつゲーム』リリース当時…2005年始めの名古屋、ひいては日本のシーンにおける喫緊の課題は「TOKONA-X亡き今どうすべきか」だったからだ。この偉大なMCが2004年11月22日に急逝したいま、誰が名古屋のシーンを背負って立つのか。『ごうだつゲーム』はこんなリスナー/シーンの不安に対し、「EQUALがいる」ことを雄弁に答えてみせた、そんな1作だった。

冒頭の“T-X”はTOKONA-Xのライブ音源。ここでのTOKONA-Xの「俺はメジャー行ってもこんな風」という言葉を引き取って、続く勇猛な“Intro”でEQUALが「メジャーにストリート持ち込むまで」と紡ぐ。盟友のストラグルを引き継ぐ、この流れだけで文脈としてくるものがある。TOKONA-Xの急逝から4か月後にリリースされたことからも、実際にはTOKONA-Xの急逝前に出来上がっていた曲も多いのだろうが、図らずも全編に通じるこの勇猛さが、ダウナーになっていたシーンの血気を上げたことは間違いない。

そしてこうした背景を離れて語ったとしても、各曲の持つエネルギーは一切減衰しない。前作『GET BIG “THE BALLERS”』から本作に至るまで、ほとんどの曲で客演を迎えてきたEQUALだが、表題曲“ごうだつゲーム”はソロでも満点出ることを示した1作。そのほかにもレゲエ畑からRude Boy Faceと、今やラップスタア誕生のプロデューサーとしても名を馳せるRYUZO(MAGUMA MC’S)を呼び込んだ“ターミネーター”, M.O.S.A.D.と同様に名古屋シーンの重鎮・Mr. OZを迎えた“Strong Style”は共に裏打ちのブレイクダウン寄りなビートが特徴的。前者が陽、後者が陰としてのストリートフレイヴァを見事に伝える名曲になっている。これら3曲とMACCHOを迎えセンチメンタルに語る“I WANNA REAL”, 少なくとも4曲が仕上がり切った出来。EPとして驚異の打率であり、EQUALが名古屋を背負って立つ、その説得力を裏付ける作品となった。

この後AK-69が『THE CARTEL FROM STREETS』(2009年), そして『THE RED MAGIC』(2011年)で人気を決定付け、DJ RYOWも2009年頃まで掛けてアルバム『PROJECT DREAMS』シリーズを出す中でブランドを確立。両者が今に至るまで名古屋のOGとして活躍を続ける訳だが、TOKONA-X不在の2005年からの数年間、名古屋シーンの推進力が今に至るまで落ちることなく続いたのはEQUALの功績に他ならない。EQUALは2019年に引退を発表してしまったが、今の名古屋のシーンを繋いだ、その偉業をいま改めて記しておきたい。

2021/12/20
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作品情報:

Tracklist:
1.T-X feat.TOKONA-X (Prod. by “E”qual)
2.Intro feat. D’Nessa, Jack Herer (Prod. by DJ Ryow)
3.ごうだつゲーム (Prod. By DJ HIROnyc)
4.I Wanna Real feat. MACCHO (Prod. By DJ Core, Seiz Young)
5.Skit(Push Your Sh*t Back!) (Prod by “E”qual)
6.ターミネーター feat. Rude Boy Face, Ryuzo (Prod by “E”qual)
7.Bigman Beat Box (Prod. By “E”qual)
8.Strong Style feat. Mr.OZ (Prod by “E”qual)

Artist: EQUAL
Title: ごうだつゲーム
Label: 日本コロムビア
2005年3月25日リリース
Purchase: https://www.amazon.co.jp/dp/B00077DAG2/ref=cm_sw_r_tw_dp_FK4EM7CQ7E2P514M0QSM 

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