Column/Interview

「俺はこのアルバムで、人生変えたるつもりやねん!邪魔すんなや!」

“Getout”のパフォーム中、高らかにそう叫んだのは寝屋川の生んだ関西屈指のソウルマン・HARZEY UNI。2021年3月末、1stアルバム『Untitle』をリリースした彼だが、この場面は同年7月に大阪のクラブハウス・TRIANGLEにて行われたリリースパーティーにおいて、筆者の心が奮わされた瞬間だった。

現在も尚、ライヴハウスやミュージシャンが苦境に喘ぎ、音楽が鳴り止まないはずのライヴ現場はおろか、人と人が心を直に通わせることすら憚られる。そんな中で、確かな覚悟と熱量と共に彼はこの言葉を口にした。

そしてそれを合図に、その場にいたヘッズたちはグルーヴの坩露に酔いしれた。さて、その場にいた音楽好きたちをここまで盛り立てたHARZEY UNIとはいかなるMCなのか。この記事では、直近までの彼のキャリアや動向、そして最新作を通じて迫ってみたい。

登場する主なアーティスト(順不同):
JAB, TARO SOUL, SKRYU, Draw4, TERU

「大阪のはしっこ」でのキャリアとブロックパーティー



HARZEY UNIはアメリカでの武者修行を経て、アメ村等大阪のシーンを中心にそのキャリアを積み上げた。当初は寝屋川サイファーから端を発する地元寝屋川のクルー・SHR(Sleepy House River)の首謀として知られるHazime Shisikとして活動。SHR名義でコンピレーションアルバム『Still Lemon』『River Side Blend』, ソロ名義でブラックミュージックの影響が色濃いフリーEP『FOREWORD』を発表している。


また、2010年代後半に3人組で活動を始めた、大阪屈指のライヴアクト、UNIQON(現在活動休止)のフロントマンとしても知られている。UNIQONの1stアルバム『U to the N』ではHIPHOPを軸に、どのような現場にも対応できるようなグルーヴミュージックを見事に体現しているが、これを武器に様々な現場で爪痕を残し、後述するHRKTの面々をはじめ、若きMC達にも多大な影響を与えた。

彼のラップスタイルは揺れ動く低音フロウに熱量を帯びせながら、地元寝屋川で生活する彼の日常の匂いが目に浮かぶようなリリックを吐き出す点だ。そこには自分だけが吐き出せる生活のリアル、そして大阪の中心部から外れた「大阪のはしっこ=寝屋川」の立ち位置をレップする、彼の誇りが込められている。『U to the N』に歌われた”大阪のはしっこ」”からは、その熱量が容易に伺える。一方で、後述する『Untitle』で表現された音楽性に通じる、チルでスムースなラップが表現された”Like”も非常に気持ち良い作品だ。HARZEY UNI曰く「最終的にUNIQONはダンスミュージックを目指していた」とのことだが、そこには確かに、血肉の通った温もりのあるダンスグルーヴが表現されている。

現在、このUNIQONの一部「UNI」を加えたソロ名義・HARZEY UNIとして活躍している彼だが、その精力的な音楽活動は、2010年代前半に開催されていたフリースタイルラップ・生バンドの即興演奏を中心とした「Fleestyle Sunday」をはじめ、音楽を軸にした様々なパーティの企画・実行に結びついている。当時MCバトルイベントにも積極的に出場しており、大阪の各イベントにて好成績を残していた。中でも2017, 2018年に行政との連携で開催された「寝屋川ほとりの文化祭」は特筆すべきだろう。「大阪のはしっこ=寝屋川」のHIPHOPカルチャーをレップする、地元に根ざした大々的なブロックパーティーを開催にこぎつけた地元愛と熱量は計り知れない。

因みに、筆者はその出張版として行われた2019年の「心斎橋ほとりの文化祭」にて、HARZEY UNIを初めて知った。初めて観たライヴで感じたのは、ラップスキルや音楽性で決してカバーできない人間力のようなもの。パフォームしたのは”Untitle”。まさに今作のタイトル曲だ。HARZEY UNIの人生を吐き出したような圧巻の瞬間を体験して以来、身も心も躍らせるようなグルーヴを生み出す彼のライヴを何度も体験しながら、今作のリリースを楽しみにしていた。

『Untitle』のグルーヴと敷居


果たして生み出された彼のアルバム『Untitle』は、非常に多様な音楽性に満ちた内容となっている。勿論、UNIQONやソロ名義でも多様なフロウの使い分けにカラフルなビートチョイスが見られたが、今作はラップミュージックという音楽の枠組みを振り切ったものになっている。地元である寝屋川は勿論、大阪のHIPHOPカルチャーの中心である、アメリカ村のバイブスをふんだんに吸い込み、メロディアスでスムースに謳うようなフロウを軸にラップされている。

つまり、ラップミュージックを聴かないリスナー層にも敷居は低く、かつ気持ちよく身体を揺らすグルーヴに満ちているのだ。また、リリックに込められた地元寝屋川や北摂、すなわち「大阪のはしっこ」の日常、そこで音楽やカルチャーに関わりながら、彼に湧き上がる感情や葛藤、気づきや希望は、容易に聴く者の心に入り込んでくるだろう。そのバックで鳴るビートにも生演奏の感触が取り込まれていて、ライヴ感も取り入れられているのが感じられる。

客演陣も素晴らしい。同世代の高槻posseのJABにTARO SOUL, UNIQONを観て育ったHRKTのDraw4とTERU, そして同郷で苦楽を分かち合うSHRのmush。世代を超えた実力派のプレイヤーに愛される、HARZEY UNIの人間力がここにも表われている。

一方で、本作は内面的/外面的に人生の何かと孤独な戦いを続ける姿を描いており、そのリリシズムもまた魅力的だ。特に『Untitle』の前半4曲目までの流れはそれが顕著だ。だからこそ、タイトル曲”Untitle”のフック「ずっと1人で歩いていたと思っていたけど 気づかなかっただけ いつも誰かが側に居てる」というラインの重みが、心に響いてくる。それは同時に、彼の見る日常により焦点を当て、心象とオーバーラップしながら描かれる中盤から後半までの曲の流れを、より明確に映像として聴く者の心に浮かび上がらせる。MVもアップされている”最後のダンス”, “Be All Right”にも、それは顕著に表われているだろう。

つまり、彼は本作において、これまでの作品以上に日常の現実と喜怒哀楽を誠実に表現することで、同時に聴く者の過ごす日常にも寄り添った言霊を吐き出している。そのためクラブカルチャーに接したことのないリスナー層にとっても、寧ろ聴き馴染みのある現実や頷ける言葉が沢山見つけられるはずだ。ただ踊るだけではなく、生きるための活力が得られる時間を、このアルバムは与えてくれるに違いない。

コロナ禍でHIPHOPはどう生きるか


ところで、2020年から新型コロナウイルスが世界を蝕み続けている。現場でライヴする者たちにとって、それを披露しながら現場のリスナーの感触を確かめ、共にその喜びを分かち合いながら、より良いリリースの形に整える機会が、これにより随分と減らざるを得なくなった。しかし、ここで彼は攻めの手を緩めるどころか、更に打って出た。YoutubeにおけるSHRのチャンネル16にて、ライヴ動画配信企画「Burning 36℃(通称:バーサム)」を開始したのだ。

元々彼はキャリア初期からYouTubeを積極的に活用している鋭敏な感覚を備えたMCだが、その経験と感性が存分に生きた一手だ。ここで地元や繋がりの深いMC・DJ・アーティスト・ダンサーのライヴ配信を行うだけでなく、リスナーやヘッズに実際に撮影の場に来て貰い、生の現場のバイブスを体感しながら、共に動画を作り上げるイベント企画も行った。撮影イベントは大阪にとどまらず、東京でも豪華なゲストを沢山迎えて行っているので、是非SHRのチャンネルから観て欲しい。

その後、先述のTRIANGLEの配信企画「TRY-ANGLE」にも参加する一方、”Burning 36℃”の中で、同じ北摂の枚方を代表する気鋭のクルーであるHRKTからDraw 4, TERU, 関西の若きオーガナイザーである田中角栄, やくわりょうをフックアップする動画も撮影している。

また、この過程において、アルバムからの曲のライヴ映像も上がっており、MVを併せるとアルバムから9曲もの映像作品を観ることができる。新しいチャレンジを行いながら、着々とリリースの日に向け、更に熱量を高めていたのがよく伝わってくるムーヴだ。

こうした現場内外の活動が実を結び、アルバムリリース後各所でリリースパーティーも行う予定だったHARZEY UNIだったが、東京公演は緊急事態宣言で中止に。但し大阪編は万全を期した上で行われ、筆者も含め、世代を超えてプレイヤー・リスナーがグルーヴの渦に巻き込まれながら、終始素晴らしい時間を過ごすことができた。彼と交流深い辣腕ジャズバンド、WA YO SETとのセッション形式のライヴは特に圧巻だった。その上で、彼は”Citylight”にて、「圧倒的に満ち足りてないのさ」と、当日も感情のありったけを静かに込めながら歌った。冒頭で触れたように、コロナ禍の中でも、緊急事態宣言の中でも、尽きることのない向上心を叫んだ。それは、長年現場たたき上げで活動しながら磨き上げたHARZEY UNIの温かいグルーヴが、全国何処にでも通用しうることを確信しているからだろう。

なお9月、新たに参加するSKRYUを加えた上で、HARZEY UNIの延期されたリリースパーティーが行われる予定だ。大阪のHIPHOPシーンは現在、全国から注目を集める有数のプレイヤーを多数輩出し、非常に熱いエネルギーに満ちた磁場となりつつある。そこで「大阪のはしっこ」から常に爪痕を残し続ける彼が辿り着いた境地と自信を、アルバムで是非確認して欲しい。そして、各地の現場にて、そのエネルギーを直に感じて貰えると幸いだ。



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2021/09/09 Text by よう (Twitter)

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