D.L a.k.a. DEV-LARGE, 変名作品特集 by @VinylDealerBB
DEV-LARGEことD.L氏が他界して、早いものでもう6年が経つ。
故人の未発表ヴァースを含むGO(aka 男澤魔術)”大峠”が2019年、同年には更にまさかのBUDDHA BRANDの2ndアルバム『これがブッダブランド!』がリリースされ、さらに翌年にはLP化までされるなど、DEV-LARGEの埋蔵曲はこの2021年現在、ほぼ掘り尽くされたと言っていいだろう。
だが、その上で、である。
もし未発表ビート、未発表ヴァースがもう存在せずとも、氏がシーンに遺した功績はあまりにも偉大で、今もって一切風化していないと断言出来る。
今回は生前から常に高く評価されてきたサウンドプロデューサー/トラックメイカーとしての側面ではなく、氏のMCとしての魅力を掘り下げてみたい。
特に彼の場合、DEV-LARGE/D.Lの他にも(氏のアイドルだったKool Keithバリに)多数の通り名で様々なオルターエゴを投影したアーティストであったことから、今回はこの変名での参加曲に焦点を当ててみたい。
「鬼才D.Lのソロだぞ、起きろ!」
大峠雷音 名義
大神 “大怪我” (1996)
DEV-LARGEことD.Lの数ある通り名でも最も有名なものが、この「大峠雷音(おおとうげらいおん)」だろう。
“大怪我”のオリジナル・バージョンではイントロのECDに続いてヴァースとしては1番手で登場し、百獣の王さながらのサッカーMCスタイルをキック。
決して長いヴァースではないものの、「盗みの美学」や「エボラ出血熱の如く」など、耳に残るパンチラインを多数残した名演だ。
後年、FLICKのGOがリリースしたDEV-LARGEの追悼曲のタイトル”大峠”は、言うまでもなくこちらから。
HUSTLER BOSE 名義
“カモ狩り(Comin’ At Cha Baby Pt.2)” (1997)
ミックステープのみの非公式音源(DJ HAZIME『MIXTAPE Vol.2』)ながら、現存する氏のディスコグラフィにも掲載されているため紹介。
当時、OZROSAURUS “狩人の唄” に客演したZEEBRAのヴァースを深読みし、ディスられたと勘違いしたDEV-LARGEがHUSTLER BOSEとしてZEEBRAを口撃した1曲。
まだデビュー前だったSUIKENを引き連れ、EL DORADO RECORDSのプロモーションの側面もあったと思われる。
その後、ZEEBRAが誤解を解いたことで両者が和解したことも追記しておく。
PUNCH LINE BB 名義
NIPPS “Partners In Crime” (2002)
客演陣に紛れて3番手で登場。
他の客演MCが日本語強めの堅いラップでヴァースを繋ぐも、英語混りでギアチェンジし、トリのNIPPSヴァースをお膳立て。
正にタイトル通り、”Partners In Crime”を地でいく共犯者振りを見せつけるような佇まい。
後述の”鋼鉄のBLACK”と共に、フックがDEV-LARGEとNIPPSの共同作業になっているところも実に興味深い。
“鋼鉄のBLACK” (2006)
自身のソロ作『THE ALBUM(ADMONITIONS)』からの1stシングルという、キャリアにおいても大事な勝負所でも盟友、NIPPSと揃って変名で登場。
ブッダ印のサウンド面が取り沙汰されがちながら、ふと思い出したかのように(?)”Partners In Crime”で使った名義を再び蔵出ししたPUNCH LINE BBは、普段のDEV-LARGEよりも英語の多めのオルターエゴで、英語主体の中に日本語が差し込まれるバランス感覚。
知らないで聴くと、ヴァースはとても日本人MCのラップとは思えないほど。
DEV MOB X 名義
NIPPS “God Bird” (2002)
恐らくは故・MF DoomのKMD時代のMCネーム、Zev Love Xをモジッたであろうオルターエゴ。
名手、SOUTHPAW CHOP作の抑揚の無い不穏な雰囲気が立ち込めるビートに乗って、NIPPS直前でKBことK-BOMBに続く2番手で登場。
DEV MOB Xを名乗りつつも、リリックではDEV-LARGE, HUSTLER BOSEといった名前も読み込んでいるのはご愛嬌。
フードを深く被り表情を見せないMVでの怪しげな佇まいは、MF Doomのそれを意識した?
“Back To Burn” (2006)
NIPPS “God Bird”以来となる、思い出したかのように久々の降臨。
ソロ作『THE ALBUM(ADMONITIONS)』では一度きりの登場ながら、CQ, TWINKLEに続いてアグレッシブなラップをトリで披露している。
シングルのみのオールドスクール仕立てなREMIX共々、掛け値無しの格好良さだ。
ちなみに、フックの「ジャンキーの耳の救世主」なるワードは、キャリア初期にBUDDHA BRANDで出演したラジオでのフリースタイル内で、NIPPSが考案したものをリサイクルしている。
MONEV MILS 名義
NIPPS “Venom 2002” (2002)
Pt.1とPt.2を合わせて10分弱にも及ぶ長編マイクリレーだが、MONEV MILSとして登場するDEV-LARGEは、トリのNIPPS前の5番手。
いつになく攻撃的なヴァースを蹴っているが、時期的にみれば、ここではまだ特定の相手をロックオンしているわけでは無さげ。
ただ、以降のK DUB SHINEの口撃曲でも使われた名義であることを考えると、MC殺しのオルターエゴだったと言えるだろう。
I-DeA “Ultimate Love Song (Letter)” (2004)
元々はTha Dogg Pound ”New York, New York”のビートジャックで、3分弱の語りのイントロが付いたテイクがネット上に出回った。
K DUB SHINEを名指しで攻撃した、日本語ラップ史上に残るディス曲だ。
だがのちのフィジカル・リリースの際には、イントロを省き、オリジナル・ビートに漢の援護射撃(フックのみ)を加えた別テイクがI-DeA名義の『self-experssion』に収録された。
DEV-LARGEのオルターエゴの中でもHUSTLER BOSEと並んで、特に攻撃的な存在であることは言うまでもない。
“God Mouth”(God Bird Pt.2)” (2006)
ソロアルバム『THE ALBUM(ADMONITIONS)』内でも、NIPPS ”God Bird”の続編となる本作で、この攻撃的なMONEV MILS名義を使用。
総勢9名にも及ぶマイクリレーの2番手としての登場は、正直そこまで際立ってはいないが、名指しでこそなくてもK DUB SHINEをディスったであろう攻撃的なリリックには耳を惹かれる。
シンプルで、ともすれば短調にも聴こえるような低温のビートで熱めにスピットしている。
SICK KING 名義
KAMIRARI-KAZOKU “Soul Brotha” (2004)
雷家族に混じって参戦+大人数のマイクリレーというと、やはりLAMP EYEのクラシック”証言”がオーバーラップするものの、DEV-LARGE自身が手掛けた疾走感溢れるビートに乗れば、一聴してまったくの別物であることが分かるだろう。
他メンバーと共に披露する、切れ味の鋭いファストラップがタイトだ。
バージョン違い(?)の”Brotha Soul”(『えん突つサンプラーvol.2』(2003年)収録)もお忘れなく。
MELLOW TONGUE NICE 名義
“Must Be The Music” (2005)
“Music”のシングルのみのB面曲”Must Be The Music”(Secret Weaponの同名曲のカヴァー)で、生バンドの上で英詩のヴォーカルを披露した際に使用した名義。
ラップではないながら、全編でエロ渋な喉を聴かせている。
D MOTHER FUCKIN’ L 名義
“Take You Home (Back To The Hip Hop)” (2006)
ソロ作『THE ALBUM(ADMONITIONS)』の幕開けを告げる冒頭の1曲目から、DEV-LARGE=D.Lをよりアグレッシブに改変した(?)名義で登場。
自身のカムバック宣言と共に、ヒップホップを「あの頃」に戻すと、いきなり畳み掛けてくる威勢の良さで目が覚めるよう。
「本気、本気の老舗も老舗」なんてパワーワードも飛び出す。
SON GOD 1 名義
“Keepin’ It Up!!” (2006)
リスナーに「ベストを尽くせ」とエールを送るようなリリックは、”盲目時代”辺りにも通じる路線。
そんな中、2ヴァース目には当時ビーフの真っ只中だったK DUB SHINEを、ここでも名指しこそしないが明らかに標的にしたであろうディスを薄らと仕込む策士振り。
振り返ってみれば、いくつもの名義で多方面からディスり倒していて事実を受け、改めて当時のDEV-LARGEの怒り具合が窺い知れよう(が、2013年にDJ MAKI THE MAGICの追悼イベントを機に、生前に両者が和解していたことがRHYMESTERの宇多丸によって明かされている)。
LOW VOICE 名義
“Life Check”” (2006)
リラックスしたビートに乗ってLUNCH TIME SPEAXのTad’s ACと絡んだ本作は、いつもとは声色を少し変えてLOW VOICEの名義よろしく、名が体を表す、低めの声で落ち着いた調子のラップを披露。
Tad’s AC共々、ド直球のストレートでタイトル通りのリリックは”盲目時代”のそれを思わせるような。
DEADLY LION 名義
“Minifest (粉骨砕身)” (2006)
氏曰く、「自分が死んで魂が残っても肉体が滅びた後、CDは残り続けるから響き続けるはずだ、ということを歌いたかった」。
そもそも、そんな楽曲のコンセプト自体が本稿とシンクロしているわけだけど、恐らくはDEADLY LION名義も「大峠雷音の死後」という意味合いのはず。
氏も特に気に入っていたというメロウで幻想的なビートに、気合の籠もった聴かせるラップを披露している。
MR. ANALOG 名義
“Crates Juggler” (2006)
DEV-LARGE自身がかつて立ち上げた黄金郷、EL DORADO RECORDSの立ち上げ時(おそらく97年頃)、局地的に配布された非売品サンプラーテープに、すでにDEV-LARGE”It’s My Turn(カリ)”として収録されていた音源ながら、MR. ANALOG名義で公式に『THE ALBUM(ADMONITIONS)』で蔵出し。
自身の堀りの美学を歌った、ディガーのディガーによるディガーのための一曲だ。
DANGEROUS MOUTH 名義
“Kikite (Lefty)” (2006)
ここでのみ登場したオルターエゴは、楽曲のタイトル通り、DEV-LARGEの左手=右脳の化身?客演のK-BOMBに合わせたかのような感覚的なラップ/リリックは、例えば『THE ALBUM(ADMONITIONS)』に収録されたD.L名義での楽曲とは違ったアプローチと言えよう。
「左利きの同志の悪巧み」とはよく言ったもの。
千目多移嘆 名義
TOJIN BATTLE ROYAL “五獣塔 D.O.H.C.” (2012)
新人を装った覆面ソロマイカー、千目多移嘆 (せんめたいたん、と読む)名義は、TOJIN BATTLE ROYALの2ndアルバム『D.O.H.C』(2012年)のラスト曲。
TOJINの前作アルバムに収録の”五重塔”の続編的な1曲で、TOJINメンバーを差し置いてオーラスに登場し、当時かなり久々のラップ披露だったはずだが、アイドリング無し、ヴァース頭からフルスロットルでキック。
ブランクを感じさせないイキの良いヴァースだが、恐らくは本作が氏の生前最後の録音物ということに。
と考えると、やはりもっと長くラップしてほしかった…!
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2021/05/04 Text by Vinyl Dealer for vinyldealer.net (Twitter)
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