Column/Interview

2021年でめでたく設立10周年を迎えたシーンきっての名門レーベル・SUMMIT。ディスコグラフィを振り返れば名盤だらけのこのレーベルの歴史を讃えるべく、PRKS9では今回、SUMMITの全アルバム作品をレビューする(無謀な?)試みを実施。

今回は2015-16年に発表された4作品を紹介。どれも素晴らしい作品である中、筆者にとってはSUMMITを代表する傑作が生まれた時期でもあった。まだ聴いていない作品があれば、是非この機会に手に取って欲しい。

2011-2012年編はこちら
2013-2014年編はこちら

OMSB 『Think Good』


Artist:OMSB
Title:“Think Good”
Release Date:2015/05/02
Label:SUMMIT
No.:SMMT-55
Price:¥2,500 + Tax

Track List:
1. 宜候
2. ActNBaby
3. Storm
4. Gami Holla Bullshit
5. Shaolin Training Day (Interlude)
6. 黒帯 (Black Belt Remix)
7. Goin’ Crazy
8. Touch The Sky
9. Ride Or Die
10. Scream
11. Words from Hi’Spec
12. Memento Mori
13. Think Good
14. Zone 8
15. Orange Way
16. Lose Myself
17. World Tour

SUMMIT作品の中でも屈指の名作のひとつ。前作で全てに中指を突き立てたOMSBが、よりディープに内面に潜っていくうち、“Think Good”で自分の怒りへの対処法を見つけ出す、非常に美しい作品だ。

そう書くとなんだかセンチメタルに響くが、本作が凄いのはそうした心情の機微、いつも通り流れていく日々を100%タフネスを維持したまま描き切った点にある。怒りに任せた前作『Mr. “All Bad” Jordan』の延長戦とも言えるブチ切れシットは、本作にも布石として散在している。そうした楽曲が圧倒的な鳴りの強さを持っていることは非常に合点がいくが、前作の怒りを回収し前を向く、感動的な名曲“Think Good”で逆にビートの鳴りが暴力的なレベルに達する。アルバムとしてのテンションを一切落とさずにキーメッセージを落とし込む、日本のHIPHOP史上でも稀有の構成力でないかと思う。

アルバム構成としての頂点が“Think Good”に置かれる一方、その他の楽曲も粒揃い。“Scream”“Orange Way”など、他の感傷的な楽曲もハイレベルであることはもちろん、ブチ切れシットの延長としてMUJO情が用意した無茶苦茶なノリの“Gami Halla Bullshit” (ラストには”Straight Outta Compton”まで飛び出し爆走する)、AB$ Da Butcha製のトラックがハイテンションな“Goin’ Crazy”など、単純にアガる曲も多い。17曲詰め込んだ中で、無粋に解剖していくと色んな分析・批評が出てくる作品ではあるのだが、総体的に振り返るとやはりパワフルでタフなアルバムとして結実している。それがOMSBの作家性なのだろう。

THE OTOGIBANASHI’S 『BUSINESS CLASS』


Artist:THE OTOGIBANASHI’S
Title:“BUSINESS CLASS”
Release Date:2015年8月5日(水)
Label:SUMMIT
No.:SMMT-59
Price:¥2,500 + Tax

Track List:
1. 機内モード
2. Department
3. Year 1993 feat. MC S.MTN
4. 逆走
5. ミッドナイト冷蔵庫
6. ピザ・プラネット
7. 極東のシャーク
8. 大脱出 *MV
9. Thank you for flying with us.
10. PINK UNICORN
11. エコノミークラス
12. FISH EYE
13. 出口はこちら
14. Department 霊幻商场MIX

THE OTOGIBANASHI’Sの2作目は、前作『TOY BOX』に漂う洒脱な六畳間のイメージを、そのままハイレベルな視点に持ち上げたことで更にパワーアップさせた快作。前作では1日の風景を幻想空間を交えて描くことで、いわゆる「日常ラップ」でありながらなんともオシャレな1作だった訳だが、今回は舞台を飛行機+旅情感に設定することで、デフォルトがオシャレな空間にセットされている。そう書くと鼻に付くラグジュアリー感が漂う、バブリーなHIPHOP作品となりそうなものだが、そこはさすがTHE OTOGIBANASHI’S。今度は前作と逆に、シャレオツ感が行き過ぎる手前で元来の日常感を差し込むことで作品の目線を落ち着けている。このバランス感覚こそが彼らの最大の強みだと思う。

それは例えば煌めくようなエレクトロビートの上でカッコ付けまくる“PINK UNICORN”の次に「このアルバムを出しても乗るのはたぶんエコノミー」と開き直る“エコノミークラス”の流れであり、「冷蔵庫の中を開けるのが怖い」という地に足の着いたトピックから、要所要所でDr. Dreやフィンランドなんて固有名詞がドロップされることで世界の広がりを感じさせる“ミッドナイト冷蔵庫”の力加減しかりだ。このバランス感は現在に至るまでのBIMの活躍に通じているのだろうし、あるいはもっと拡大して、SUMMITのレーベルカラーにも通底するものがあるように思う。そう考えると、最も勢いに乗るレーベルであるSUMMITの稼ぎ頭(?)のひとりがBIMである現状はレーベルとアーティストのシナジーとして必然なのかもしれない。

最後に、ラストの“Department 霊幻商场MIX”はPUNPEEが全てのリミッターを外したようなNew Jack Swingをカマしていて良い。「アルバムの流れ」なんてお作法を全無視する勢いで前曲までの世界からブッ飛んでいる。

Hi’Spec 『Zama City Making 35』


Artist:Hi’Spec
Title:“Zama City Making 35”
Release Date:2016年6月2日(水)
Label:SUMMIT
No.:SMMT-70(XQMV-1003)
Price:¥2,500 + Tax

Track List:
1. Down
2. Stomp feat. KOJOE, OMSB
3. O.D. feat. B.I.G. JOE
4. BUG feat. ABC (AIR BOURYOKU CLUB)
5. Dialogue
6. Senseマニアック feat. RITTO
7. Surviving feat. RIKKI, 田我流
8. D.F.TH. feat. Campanella
9. Ming Wang Interlude
10. Phantom Band *MV
11. Goin Back To Zama City feat. OMSB
12. タコナスボケ feat. RIKKI
13. Don’t Do
14. Amigos feat. C.O.S.A.
15. やくそくのうた feat. K-BOMB

Produced by Hi’Spec
Recorded & Mixed by The Anticipation Illicit Tsuboi @ RDS Toritsudai

SIMI LABのDJ / ビートメイカーとして活動するHi’Spec初のプロデュースアルバム。元々ビートメイクを始めたのがSIMI LAB加入後、初のビートが世に出たのがSIMI LABの初作『Page 1: ANATOMY OF INSANE』の”Show off”。その後SIMI LABでのビート提供を続けるも、クルー外の人員を呼んでの制作は今回のアルバムが初めて、という経歴の持ち主。要は異能集団・SIMI LABの世界で純粋培養された才能であり、頭の中ででヤバいものが育っていない訳がない。本作はいざそんな脳内を開いてみると、ベルセルクの蝕のポジティブバージョンみたいな世界が詰まっていた、そんな内容だ。

そんな世界観がBLACK SMOKERS的なそれと親和性が高いのは確かにというところで、K-BOMBとの“やくそくのうた”は両者が溶け合うように気持ち良くフィールした仕上がり。クレジットを見た段階では一番の意外どころである両者の噛み合わせだが、聴き進めていくうちにその必然性が理解出来る。他にも全編においてポリリズムで多層的に楽器が鳴り響く音世界にあって、これに対抗出来るのはパワーヒッターなMCであると見切った人選も的確だ。SIMI LAB随一の強打者・OMSBがクルーを代表して2曲に出張ってきたのはもはや必然。パワフルなティンパニに逆切れするかの勢いでスピットし返しているABCの2人や、RIKKIの代表曲となったその名も“タコナスボケ”など、カラフルな世界と無軌道なラップの組み合わせが特に楽しい。元々はインストメインでのアルバム構成を考えていたという本作だが、賑やかにシナジーする人選で揃えたからこその面白味溢れる作品に仕上がっている。

C.O.S.A. × KID FRESINO 『Somewhere』


Artist:C.O.S.A. × KID FRESINO
Title:“Somewhere”
Release Date:2016/07/20
Label:SUMMIT
No.:SMMT-75(XQMV-1004)
Price:¥2,222 + Tax

Track List:
1. deal (Prod by KID FRESINO)
2. LOVE (Prod by jjj) 
3. Route (Prod by RAMZA)
4. Swing at somewhere feat. コトリンゴ (Prod by jjj)
5. KDFS × COSA (Prod by OMSB)
6. Callin’ (Prod by DJ GQ)
7. Hey Poobs (Prod by Gradis Nice)
8. Time Lost (Prod by VDon)
9. We On (Prod by jjj)
10. Close to you feat. PUNPEE (Prod by C.O.S.A.)

Mixed by The Anticipation Illicit Tsuboi @ RDS Toritsudai

SUMMIT屈指の名作Part 2がこちら。SUMMITの盛り上がりはもちろんのこと、前年にC.O.S.A.がリリースした『Chiryu-Yonkers』が確かな名盤としてヘッズに刺さったことや、“LOVE”のラフミックスを事前公開するSUMMITのマーケティングも相まり、シーンの注目を一手に集めた上でのリリースとなった。そして結論から言えば、その期待を120%の力で打ち返した作品だろう。

共に朴訥なワードセンスをもってハッとする表現を生み出すリリシストだけあって、音のフォーマットに合わせて姿を変えるリリック表現がとにかく楽しい。中でもそれが分かりやすい形で結実した代表作が、共にMV化された“LOVE”“Swing at somewhere”だろう。前者はKID FRESINOの愛を見つける朝方の風景の描写がとにかく美しく、また後者も、C.O.S.A.が一夜を描写するさまがとにかく洒脱だ(「加勢するときこのリングは外していく」なんて、ファイトシーンなのになんて煌めいた表現なのだろう)。

そんな形で、やはりメロウで華やかなビート上で彼らの表現が最大限発揮されるのはもちろんだが、その他のテイストの曲もやはり秀逸だ。ヘヴィでロカビリーなRAMZAビートが完全にC.O.S.A.仕様な“Route”や(C.O.S.A.贔屓の反則が疑われる)、ユニティが基調の本作にあって、OMSBが完全に両者のデュエルに仕立てた“KDFS x COSA”などハードな楽曲もすんなりと全体の中に納まる。チョップの具合が完全にFla$hBackSのノリなJJJ製の“We On”や、PUNPEEがHOOKで自分色に染め上げる“Close to you”など、プロデューサーや客演陣もリスナーが期待している音を100%届けてくれる、フルコースの逸品だ。余談だが、本作から翌年の唾奇 x Sweet William 『JASMINE』の流れは、明確に2016-17年頃のHIPHOPシーンの色彩を象徴するものになっていたと思う。後年、この年代の代表的な音像と言えばこの2作が筆頭に挙がるのかもしれない。

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2021/06/10 Text by 遼 the CP

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▶参考: SUMMIT HP

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