Column/Interview

week dudusがGUNHEADとのジョイントEP『MASH IT!』をリリースした。予期しない両者による4曲タッグマッチはその内容も多彩。レゲエダブまで飛び出す中でスムースに乗りこなすweek dudusを見ていると、サプライズな飛び道具を繰り出すにしても、その裏側でプロのアーティストとして研鑽を怠らないことがいかに重要か実感させられる。

話題を呼んだ50曲入りのアルバム『VEGA』にしてもビートのジャンルは多種多様であり、すなわちあれは各ジャンルに対する真摯な理解が(やはりプロとして)必要になる作品だった。今回のGUNHEADとのタッグに至るまで、常にこちらの予想とは別のフィールドから打ち込んでくるその意識はどのようなものなのか。奔放なラップスタイルと、真摯な自意識のバランスを感じて頂きたい。

登場する主なアーティスト(順不同):
Dr. Dre, Shabba Ranks, AKLO, SIMON, 井上三太, BACH LOGIC, HLGB Studio

「Dr.Dreの存在はデカい」

─他のインタビューでも多少語られていますが、まずはHIPHOPの原体験を教えて下さい。1歳からN.W.Aを聴いて、Shabba Ranksなどのレゲエも聴く環境だったとか。

week dudus:
生まれは高知で、育ったのが神戸・姫路でした。おばあちゃんの代から凄く音楽が好きな家で…両親もずっと音楽を掛けてました。その中で自分はHIPHOPにハマってった感じですね。最初から当たり前にHIPHOPやレゲエが流れてたので、J-Popとかは通って来てなくて、直でこっちの音楽を聴いてる感じでした。Shabba RanksやShineheadが親の着信音だったり、車で掛けてるのとかを聴いて育つうちに、自然と「俺はこういう音楽が好きだな」って思うようになったというか。

─そこから意識的に「このアーティストが好きだ」ってなったのは誰が最初だったんですか?

week dudus:
Dr. Dreです。ビートも作ってラップも出来る人がおるんやって教えられて、「すげえ」って思って。そこでN.W.Aのこともちゃんと認識して、Dr. Dreも好きになりました。自分の中でDreの存在はデカいです。

─出てくるアーティストの名前を聞いていると、自分と同時代のアーティストよりも、90-00年代から活躍する人の名前が多いですね。

week dudus:
そうですね、もちろん今の流行りのラッパーも好きだし聴くんですけど、影響されるっていうことではなくて。やっぱり親の世代が聴いていたこれくらいの年代のものが…自分が幼いころから聴いてたこともあって耳に馴染むし、同時にフレッシュだったりします。

─そこから自分自身がプレイヤーになるまでの経緯は?

week dudus:
Dre以降色んなラッパーを聴くようになって…それこそ日本の作品とかも聴くようになってたんですけど、段々「俺ならもっとやれるんじゃないか」くらいに思うようになって。それで自分でラップするようになって、今に至ります。

当時は特にAKLOさんとかSIMONさんをよく聴いていて、特にSIMONさんのラップはめちゃくちゃ上手いなと思います。一時期参考にさせてもらったりもしてました。それが中3とか高1のときくらいですね。この頃は特にシーンの前に出ようとかっていう感じではなくて、とにかく自分の中で音源作ってみたくて、制作するって感じでした。

そこから作品を外に出すようになったのが…高1の終わりか、高2あたりって感じです。(ソロ1stアルバムである)『XD』を出したのが18歳のときでした。この時までには(バイラルヒットした)”Skip To Ma Luuuu”のMVが出てたこともあって、色んな地方に客演で呼ばれるようになってて。そこで出会ったラッパーとリンクしていく中で、『XD』の客演陣が揃ってった感じです。

自分をセールスする、音楽をインプットするということ

─そこから活躍を続けられて、最近では50曲入りのアルバム『VEGA』をリリースしました。あの位置付けは?

week dudus:
あれは完全に自己満です、曲数として最大を攻めたくて作りました。「50曲も聴けない」みたいな人もいるかもしんないですけど、言った通りこれは自分の自己満なので。付いてこれる人は全部聴いてくれたら良い、って感じですね。元々は100曲とか80曲入りを考えてたんですけど、自分がDSPで使ってるTuneCoreの最大曲数が50曲だったのでそれに収めたって感じです。もう普段から作りまくってるので、全然これくらいの曲数でもいけます。家にいるときは必ず1日1曲は書くって感じなので。

─速いですね(笑) 普段の曲作りはどんな風に進められるんですか?

week dudus:
自分はビート選びから始めます。ビートを一通り聴いて、イメージが出来たらリリックを書くっていう。ビートをずっと流してるっていうよりかは、ひとつのビートをちゃんと聴いて書くって感じです。ビートは厳選した上で書きますね。リリックはもうその上で思い付いたことをそのまま書く感じです。

─思えばMinchanbabyさん、viomoonさんとの『Threesome』であったり、1stアルバム『XD』シリーズがいきなり2枚組であったり、今に至るまでweek dudusさんのリリース形態は常にひとさじ趣向を凝らしている気がします。

week dudus:
そうですね、仲間ともずっと「どうやってセールスしていくのか、どうやれば面白いんか」っていうのはずっと話してて。多少変わったりひねくれてたりしてても、面白いやり方でセールするってのは意識してます。人と違うようなことをするっていうのは…特に出てきた頃は強かったですね。今はこの頃から少しマインドも変わって、こういう部分に気を使うよりは、とりあえず制作に集中したいと思ってますけど。

─今回の『MASH IT!』にもこの点に言及する曲がありますが、自己プロデュースすることに対して鋭敏ですよね。一気にシーンに名乗りを上げた頃、こういうことを意識して自己プロデュースしたのは良かったな、と思うことはありますか?

week dudus:
とにかく背伸びをしないことですね。自分の思ってもないことを背伸びして歌詞に書いたりすることは止めようと思ってて、それは良かったかなって。音源以外の部分でも…それこそリリース形態とかも、自分の気に入ってないやり方を曲げて合わせるとかはしないよう意識してました。

─そこから今回の『MASH IT!』の制作に至る背景を教えて下さい。まずはGUNHEADさんとの繋がりはどこから?

week dudus:
制作チームと次の音源の話をしていて…最初は別のプロデューサーさんとやってみるかって話になってたんです。でもその方とはもうやったことあったんで、じゃあ初めての人で…ってことでGUNHEADさんの名前が出てきました。

そのときは(GUNHEADがHABANERO POSSEとしてプロデュースした)ANARCHYさんの”Shake Dat Ass”とかで名前を知ってるくらいやったんですけど、自分でも聴いてみて。そこからGUNHEADさんのスタジオで初めて会いました。でもそのときは別に一緒にやるとか決まってた訳じゃなくて…まずはお互いの好きなものを共有しようってことで、好きな音楽を掛け合ったんです。お互いにUKのSLとか、アフリカの音楽とか色々流して…GUNHEADさんからは「これ知ってる?」ってどんどんディープで知らない曲とか出てきましたね。それで自分の好きな雰囲気や、そのとき聴いてた曲と通じるものがあるなと思って、それでちょっとやってみるかって。

─week dudusさんのビートに対する意識を教えて貰えますか?GUNHEADさんみたいに音のキャラクターがハッキリした方とフィールするのは凄く分かるというか、dudusさんも”I’M ME”でオールドスクールBoom Bap, “Bend Over Wess”でG-Funkと多彩なサウンドに挑戦してきていますよね。

week dudus:
形のハッキリしてないビートが嫌いです。ハッキリしてないっていうのは言葉で言い表すのは難しいんですけど…いつもビートを聴くときは、自分の中でビートに色や匂いを感じるというか、想像するんです。それが上手くイメージ出来ないビートはもう聴かないですね。その意味でGUNさん(GUNHEAD)のビートはキャラが立っててすごいやりやすかったです。

─ラップも自分を縛りませんよね。『XG』ではラップどころかスキャットをしていたりもして、インプット量の多さを感じさせます。

week dudus:
そうですね、めっちゃTrapなラップをするみたいな意識は全くなくて、自分のラップスタイルは縛らないようにしてます。自分の中でビートを聴いて出てきたラップが出来ればそれで良いです。だからビートに対して引き出しを多く持てるように…昔から色んな曲を聴いてきたのが影響してるのかもしれません。

今も家ではずっと色んな曲を掛けるようにしてます。自分が「いいな」って思った曲をとにかく入れてる自分のプレイリストがあって、それを流してます。そこには別にラップだけじゃなくてアフリカや色んな地域の音楽とかも入ってたりして。こうやって色んな曲を聴いてインプットしておくのはめっちゃ大事だと思います。最初は自分もそんなにディグするタイプじゃなかったんですけど。でも周りの友達のアーティストとか超ヤバいんですけど、「なんで全然評価されてへんねん」って思ったりして。逆にそれって「自分が知らんだけでヤバい人はめっちゃおるんちゃうん」って思うようになって…そこからですね、ジャンルを限らずに色んな曲をディグするようになりました。そうすると…色んな音楽を聴くことで、曲の想像がしやすくなるなって思います。フロウや乗せ方とか、色んなイメージが湧くようになる。

BACH LOGIC, 井上三太との繋がりで得るもの

─なるほど。話を『MASH IT!』に戻すと、GUNHEADさんとフィールしてすぐに「EPを作ろう」という話になったんですか?

week dudus:
いや、最初は特にそういう感じじゃなくて。まずGUNさんが20曲くらいデモビートを送って来てくれて、そこから自分が書きたいものを選んで書いた感じです。スタジオに入って声入れしたのは10曲くらいあって、そこから選んだのが今回の4曲でした。ある程度「こういうのやりたいね」って2人で話してて…はっきりとは決めてなかったですけど。それでイメージを擦り合わせた上でビートを貰ってました。

─その中で一番ビートの雰囲気を擦り合わせて作ったものだと何になるんですか?

week dudus:
“BANANA JUICE”です。自分自身レゲエが好きなのもあって…元々はもっとラガHIPHOPみたいな雰囲気にしようって話してたんですけど、結果的にめっちゃレゲエに寄せた感じになりました。自分みたいな世代からこういうのが出てくるのはめっちゃ新鮮じゃないかなって…フロウも自然とレゲエに近いものになりました。ちょっとメロウな部分とかは、あとからGUNさんがビートをちょっといじって合わせてくれたりして。

─”BANANA JUICE”は特徴的ですよね。自身のレゲエルーツは今日も伺った通りですが、曲でやってみたのはこれが初めて?

week dudus:
これが初めてですね、なんでもっと早くやっとかんかったんやろって思いました。でも…いざこういうビートに乗せるとなると、やっぱり今このタイミングが初めてで良かったなとも思います。やっぱり今は自分のラップが出来上がってる状態なので、想像しやすいし乗りやすかった。これより前にやってたら…もちろんカマす自信はあるんですけど、今回みたいなクオリティにはなってなかったと思います。下手なフロウするくらいならみんなレゲエDeejay聴くやろって思うんで、GUNさんと組んだこのタイミングだから出来たし、それで良かったなって思います。

─制作周りの話として、まずはBACH LOGICさんがMix&Masteringで参加しています。この辺りの背景を教えて下さい。

week dudus:
これはGUNHEADさんの紹介ですね。誰にやってもらおうかって時にGUNさんから名前が挙がって、BACH LOGICさんのセンスでやって頂きました。”ALL EYES ON ME”だけは自分もガヤにめっちゃこだわって言わせてもらって。

自分はいつもお世話になってる(姫路の有名スタジオである)HLGB Studio以外、他の人にMixをしてもらったことはなくて。今回どうなるんか分からなかったんですけど、かなり攻めたMixにして頂いてて、やって貰って良かったです。HLGBのDa.Iさんとはもう長いので、自分の声がどれくらい通るのかとか全部分かってビートとの間や音を作ってくれるんですけど。BACH LOGICさんは自分の声自体も加工したりして曲の雰囲気を揺さぶってきたりして…フラットに自分の声を聴いて処理してもらうとこうなるんだみたいな違いというか、発見がありました。

─アートワークが井上三太さんのTOKYO TRIBE2なのも意外なところで。どういう繋がりだったんですか?

week dudus:
これは自分のリクエストです。自分が腕にSARUのタトゥー入れてるんですけど(*)、この繋がりで井上三太さんに頼めたら熱いなと思ってお願いさせてもらいました。TOKYO TRIBE 2は親の影響でめっちゃ好きで、井上三太さんと仕事するのはひとつの夢だったんです。井上さん側も「なんで二十歳の子からこんなオファーが来たんだ?」って思ってたらしいんですけど。めっちゃファンだったんです、小学校のときは「応援してます、フィギュア欲しいです」みたいなハガキ送るくらい(笑) 漫画も揃えて、DVDも見てました。あの作品からは色んな影響を受けてると思います。
(*)井上三太の作品・TOKYO TRIBE 2に出てくる中心となるグループの名前がムサシノSARU

─冒頭の”But OK”について教えて下さい。後ろ指を指されても前を向いてブランディングしていく内容ですが。

week dudus:
これはもうそのまま…何言われても、それが自分やからOKっていう。他の人にもそう思って欲しくて書いた曲ですね。このときは「自己中」って言われるとか…そういうのが周りからちょっとあったりして、その鬱憤を晴らす為に書いた曲ですね。HOOKはキャッチーにして、言いたいことをぶちまけるっていう。

曲を作ること自体はいつも楽しいんですけど、やっぱりそこで吐き出す感情は怒りや苛立ちのときもあって…これはその怒りの部分が出た曲ですね。でも毎回曲を作るとデトックスされます。

「遊んでるだけで貯まる金」のためにプロとしてすべきこと

─続く”行っとけ”はまさにGUNHEADさんらしいブレイクが印象的な一曲です。この曲には「ダッサいラッパーの人口」「一生自分との戦いだろ」など色んな思惑が見て取れますが、曲を書くにあたって考えていたことを教えてもらえますか?

week dudus:
これは”But OK”を作った翌日くらいに作った曲で、自分の中でこの2曲は兄弟みたいな感じです。”But OK”が自分の評価を気にしてる人に対しての曲で、”行っとけ”は他人の目が気になる人への曲。そのまま、他人の目を気にせず行っとけっていう。

「ダッサいラッパーの人口」がどうこうみたいな部分は…最近地元でも1-2個違いでラップ始める人とか増えてきたんですけど。結構簡単に「一緒に曲やろう」みたいに言われることが多々あって…それに対して思うことで。踏み台にされてる感が凄いので、ちょっとって感じですね。

─”ALL EYES ON ME”もアフリカンダブなビートで凄いです。内容もこれまでから更に一段上がったことを示すボースティングになっています。

week dudus:
これはEPで唯一、スタジオじゃなく家で書き上げてから録った曲ですね。ビートを聴いたときにすごく大自然な…ジャングルみたいな情景がイメージ出来て。そんな中でも俺にフォーカスしろって曲です。ビートも凄いし、ラップも遊び心ある乗り方が出来たかなって思います。

─この曲にはハッキリと「日の出る国日本じゃBEST」というリリックもあります。自分の中でそうハッキリ自負出来る段階に来た?

week dudus:
そうですね。別に上とか下とかじゃないとは思いますけど、こんな乗せ方出来る人他にはおらんやろっていう…ビートも新鮮ですし。

─week dudusさんはかねてより「世界で戦う」ことを公言していますが、『MASH IT!』でジャンル横断的に活躍するGUNHEADさんと組んだのもその一環?

week dudus:
そうですね。長い目で見ればまだまだ通過点なので。もちろんこの作品についてはベストを尽くせたと思うので、これを糧に更に次、更に次って進めていきたいですね。

だからもっともっと制作に時間を掛けたいです。1曲に掛ける時間ってことじゃなくて、もっと多くの時間を確保して、多くの曲を作る時間。自分がどこまで出来るのかを知りたいです。もっと音楽を追求したいから…色んな音楽のインプットもだし、音源も作って出したいし。音源制作はやればやるだけ返ってくる。最初からそう実感してます。

自分はプロなので、ちゃんと作ってちゃんと出したい。「遊んでるだけで貯まる金」的なリリックを書く時もありますし、実際そうしたりしてますけど、そうなるためにはやっぱりちゃんと作り続けなきゃいけないので。ちゃんとやるべきことはやって、オンオフをハッキリさせるってことっす。だから今後も止まらないですね。

─ありがとうございました。

2021/12/27
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作品情報:

Tracklist:
1. But OK
2. 行っとけ
3. ALL EYES ON ME
4. BANANA JUICE

Artist: week dudus × GUNHEAD
Title: MASH IT!
Release Date:2021.12.22 (Wed.)
Label:Scratch Records
Stream: https://lnk.to/_mashit 

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