Column/Interview

孤高のスキルを持つアーティスト・Jinmenusagi。その飛躍の歴史は2010年代の移り変わりと重なる。フリーDLでの音源投稿からの正式音源デビュー、各年代のHIPHOPメディアへの挑戦、Trill WaveやTrapとの邂逅…。時代の趨勢や潮流を読み、常に自分のスキルとして吸収してきた才能は、その時々で何を考えアルバムを生み出していたのか。
本稿はJinmenusagiが2010年代に制作した7枚のアルバム(+EP1枚)を本人と共に総ざらいし、セールス枚数まで含めてその軌跡を辿るものだ。そして今後公開する後編では、これらの作品を通じてJinmenusagiが得た「ラップが上手いとはどういうことか」、その上達の秘訣に迫る。





 2010年代とJinmenusagi(前編) ─ 全アルバム本人解説



『Self Ghost』(2012年)

1.Intro
2.Self Ghost
3.Jap Rap
4.ひそひそ
5.ぐちぐち
6.Umms
7.Dream
8.Chicken feat. Momose
9.Ezekiel
10.Rotten Soy feat. Kuroyagi
11.Paradoxxx
12.Xyz
13.Do It Big

─ではでは、早速始めていきましょう…まずは1stアルバムですね。
 元々はネット上でMixtapeを発表したり、一瞬だけミクスチャーバンドでラップをされていた訳ですが、そこからこの1stアルバムを出すことになった経緯を教えて下さい。

Jinmenusagi:
2011年の秋ぐらいにレーベル(=LOW HIGH WHO? PRODUCTION : 2011年から2015年まで在籍)に声掛けてもらったのがきっかけですね。
そこからリリースの話になったのですが、まだギリギリCDがメインの時代だったんで、今みたいなスピード感で配信とはいかなくて。
2011年12月の半ばにマスターを完成させて、プレス工場の正月休みを挟んで2012年2月リリースという流れでした。

─制作においてもレーベルの影響は大きかったですか?

Jinmenusagi:
製作していた時にちょうど20歳になったのですが、その頃は発想に身を任せて製作をしていました。
ちょうどUSではOdd Futureが台頭してきた時期で、セオリーにとらわれない自由な音作りに影響を受けました。
90’sっぽい音も自作していたのですが、レーベルのParanelさんから「この音は君がリアルタイムで体感している世代じゃないから、自分の新しい音を開拓してみてもいいんじゃない?」と言われたのは今でも印象に残っています。
Paraneさんには常にディレクションからジャケットまで手掛けてもらっていて、LHW?在籍時代ほぼ全ての作品のジャケットを作ってもらいました。

─Self Ghostのジャケットは印象的ですね。

Jinmenusagi:
ジャケットのサンドイッチもParanelさんの自宅でジャケ用に作ってくれました。
美味しさも追及していたらしいですが、トマトとマヨネーズが甘さを邪魔していてまずかったと言っていたのを覚えています笑

─2011年の秋に声を掛けられて、12月にマスター完成…製作時間として短くないですか?

Jinmenusagi:
1カ月で曲作って、1カ月でミックスして…後から気になることも出てくるから、直したりして。
マスタリングもバタバタで、あと10時間くらいしかないけどやれる?みたいな、そういう世界でした。
本当に衝動のままに作ったという感じです。

─セールス的な手応えはいかかでしたか?

Jinmenusagi:
手応えは全然なかったんですよ。
当時何枚作ったか覚えてないですけど、売れたのは300~400枚ぐらいだったと思います。

ライブで稼げれば良かったのですが、リリースしたからといってデビュー間も無いアーティストがすぐゲストライブに呼ばれるわけでもないですし。
それまでネットが活動の中心だったのもあると思います。
とりあえず衝動で作って急いで出したけど、煮え切らない部分は多かったです。

─ラップの手法的には当時どう考えられて制作されていたんでしょう。

Jinmenusagi:
LOW HIGH WHO? にEeMuさんという方がいて、EeMuさんのラップが僕やLOW HIGH WHO?のKuroyagiさんのフロウの原点になっています。
最初Kuroyagiさんのラップがカッコいいなと思っていて、よくよく調べていたらEeMuさんもそのグルーヴを持っていることに気付いたんです。
日本語をいい意味で緩く、滑らかに発音するというか。

あとはYAMANEさんの影響も大きいです。
YAMANEさんはヤバすぎます。
音作りもめちゃくちゃうまくて。
細かい話ですが、レコーディングの時にテイクを何本用意するかとか。

─LOW HIGH WHO?のアーティストの影響はかなり大きいですね。

Jinmenusagi:
並々ならぬ影響がありますね。
音を重ねるのもそうですし、ラップのフロウもEeMuさん、YAMANEさん、Kuroyagiさんの影響が大きいです。

『ME2!』(2013年)

1.ME2!
2.Nothin But A Fuckin Fuck
3.Silence Of The Goatz feat.DOTAMA
4.Fun
5.カジュアルデス feat.MINT
6.Interlude:01
7.Ai Ga Tarinai
8.Turn It Off
9.Interlude:02
10.またたく
11.Crazy Kotoba
12.Doubt The Mo Fo feat.ELOQ
13.Kodomogokoro
14.Interlude:03
15.City Of Rot feat.TAKUMA THE GREAT
16.Koi feat.カリソ
17.Seaweed

─この2ndアルバムでは自分のトラックではなく、外部プロデューサーの音にシフトしましたよね。

Jinmenusagi:
製作は意外と苦労しました。
ビートは他に任せても、ミキシングは変わらず自分でやっています。
ミキシングに関してはこだわりがあって、自分にしか出せない細かいバランスがあります。
アルバムの1曲だけ別の人がミキシングしているって場合もありますけど、基本的には今に至るまでのすべての作品は自分でミキシングしています。

─自分でミキシングするメリットはどんな部分でしょう。

Jinmenusagi:
自分でミキシングしていると結果上手くなって、音源も良くなりますね。
自分の声でバランスいい波形を分かっているんですよね。
それはデカいと思います。
自分の声を可視化して、一日中いじっていると分かってきます。
細かい話、波形のバランスを上下しても良くないなと思っていて。
そういう詰み重ねがよく分かるのが2枚目ですね。

─他のアーティストやラッパーもミキシングは自分でするべき?

Jinmenusagi:
うーんどうでしょう…自分はそういうチクチクやっているのが好きなので。
ミキシングって案外肉体労働的なので、あまりオススメはしないかもです。

─セールス的な手応えはいかかでしたか。

Jinmenusagi:
1000枚ぐらいいっていたと思います。
客演もちゃんと入れていたのと、他との交流もあったのは大きいと思います。
自分でもよく聞き返すんですけど、DOTAMAさんと作った曲が面白かったです。
サラリーマン時代の一番キレている時のDOTAMAさんですね。

─前作と比較して変わっていないのはどういう部分でしょう。

Jinmenusagi:
3枚目に至るまで変わっていないのはメジャーシーンに対するコンプレックスです。
当時よく分かってなかったんですけど、音楽業界のトレンドも動くし、人気になるものは常に違うし、お金の有無もその時々によって違って。
フラストレーションは溜まっていました。
そういう意味でも下積み時代だと思っています。

『胎内』(2013年)

1.胎内
2.Jinmenusagi feat. Jinmenusagi, Jinmenusagi & Jinmenusagi
3.Supa Dupa Mutha Fucka
4.胎内02
5.Oh Oh
6.おっかねえ feat. NOBY
7.ペガサスと猿
8.Legal Herb Pt.2 feat. オロカモノポテチ
9.かがみ feat. daoko
10.胎内03
11.InterNETlude
12.Turn It Off pt.2 feat. ハシシ
13.Never Mind(Outro)

─まずは何と言っても、今作よりDubbyMapleさんが参加されていますね。

Jinmenusagi:
DubbyMapleはジャンル関係なく、流行りのもの好きなものをランダムに取り込んでインプットしたあと、DubbyMapleって物にアウトプットできる人なんですね。
当時お互いの共通の趣味だった音楽に圧倒的に日本語成分が不足しているので、俺らで作ってしまおうというのが『胎内』でした。

─それはアウトプットを日本語ラップらしくしようという意図?

Jinmenusagi:
日本語ラップらしくとは考えていないですが、例えばデビューしたてのA$AP Rockyって今よりちょっと音が黒いんですよ。
いい意味で音の粒が荒いというか。
若干不協和音に聞こえるようなパーカスだったり、ものすごいピッチを極端に下げたサンプルだったり。
それを再現しようとしてましたね。

─2人でそういう作品にしようと話していた?

Jinmenusagi:
そうですね。
当時難しかったのは、この作品で使っている系統の音って今でこそスタンダードになってきたんですけど、当時の日本だと馬鹿にされることもあったので、敢えてそういうのを持ち込んでみようと。
ただ、セールス的には初動は700で…いま1000枚いってればいいぐらいですかね。
あんまりストレートに評価に繋がった作品ではないです。
これは後々のファンが語り継いで支えてくれた作品ですね。
いまだにその曲が好きって言ってくれる人もいますし、7年先に好きって言ってもらえる曲を作れるとは思っていなかったので、それは良いことだと思います。

─ラップの意識の変化はありましたか。
 例えばTrillwaveの影響などはあったんでしょうか。

Jinmenusagi:
そうですね。
いい加減、それまでの2作のようにラップの発音を崩すことで言葉を濁し&潰すことには飽きたっていうのがあります。
自分の中で当時の日本で馴染みのない音でラップをやる、みたいなことをするといいかげん(セールス的にも)ヤバいんじゃないと思って、歌詞だけでも分かりやすく届けようと思った覚えはあります。
だからどちらかと言えば、技法的にというよりもリリックをどう届けるのかという挑戦でした。
ここでの挑戦が4枚目に繋がっていると思います。

『LXVE – 業放草』(2014年)

1.俺俺俺
2.They Know I’m Animal feat.Moment
3.Tokyo
4.Go Kill ‘em All
5.H.I.M.A.
6.ミスター情緒不安定
7.のかな
8.やれ
9.Enough is enough feat.ハシシ
10.バイバイ
11.おいで feat.Paranel
12.死んでくれよ feat.Twoface
13.La Fleur feat.Bonjour Suzuki
14.The Sun Coming Up feat.Itto

─本作は更に各曲のメッセージ性や作り込み方を高めた印象を持っています。
 冒頭の”俺”や”They Know I’m Animal”だけでも設定や言い回しが凄くスムーズに理解出来て楽しめるというか。
 作曲・作詞の方法なのかラップの聴かせ方の部分なのか、ご自身では何か変えようとした部分はあったのでしょうか?

Jinmenusagi:
まず、前作からの間に大学を卒業していて、生活的な逼迫感がかなり上がりました笑
それまでのリリースの中で思うような反応を得られてなくて…そんな自分に対する葛藤もあったりしましたし、加えて当時はプータロー状態っていうのもあって。
そういう状態を人に咎められたりすることもあって、よりリアルな切実性がありましたね。

─ビート面でも自作の”TOKYO”のような、かなりまっすぐなHIPHOPビートが出てきたりします。
 音選びへの意識はどのようなものだったのでしょう?

Jinmenusagi:
そうですね、ビートは全編オールドファッションなサンプリングスタイルでやっています。
単純に『Self Ghost』のときにやろうとして出来なかったこともあって、こういう音で乗ったことがなかったので。
その上で、アルバム構成としてもずっとやりたかったこと…ひとつのストーリーを作ってドラマにするってことに挑戦しました。

ただ、大変だったのでこういう作品作りはもう2度とやりたくないですね笑
やっぱり物語を書いてるので、この話を、曲をどう着地させるのか、みたいなところに滅茶苦茶気を使いました。

─どういう風に物語を練っていったんですか?
 こういうコンセプトアルバムは人によって先にシナリオを全部書き上げてから作ったり、手法はいくつかあると思いますが。

Jinmenusagi:
先にシナリオを書き上げとけば良かったなと思いました笑
俺は箇条書き程度のものを書いて、曲単位で仕上げていきましたね…大変でした。
“Enough is enough feat.ハシシ”とかも、ハシシさんに「こういう脚本の物語だからこういう風に歌って欲しい」ってひとつひとつお願いして。
他にも、物語上必要な音の素材集めとかも凄く大変でしたし、(全編に渡り登場する)女性役にはちゃんとした女優さんを起用して、演出上本気でビンタしてもらいました。
作家精神としても、こういう作品を書くと物語の中に没入して吞まれちゃうタイプなんであんまりやりたくないんですけど、でもまあ…みんなが求めるならやります笑

ラップに対する意識としては、ピュアに「物語としてどう書き始めてどう終わらせるか、それによって聴き手にどんな印象を与えたいか」を念頭に書く、その繰り返しです。
自己紹介、東京の描写、回想シーンなど…なんでこんな思いをしてるのか、問題提起は何なのか、明確にして詩にするっていう。
その中で作詞も練られて、削ぎ落とされていく感じはありました。
例えば接続詞の使い方、置き方ひとつで詩に対する印象って全然変わってきて。

だからこれ以降は完全に物書きの視点になっています…の割にリリックの練り込みはあまり気付いて貰えないんですけど笑

─そうですか?結構その視点でヤバい!って言ってるリスナーも多い印象ですが…。

Jinmenusagi:
だと良いんですけど、やっぱり自分がひとつ極める前に他のことに手を出しちゃうタイプだからなのかな。
結果的に(次作の)『ジメサギ』は全編Trapになりますし。

自分の尊敬するアーティストにBeastie Boysがいるんですけど、あの人たちって7枚くらいアルバムを出してる中で、それぞれの作品でやってることが全部違うんですよ。
デビューから1stはヘヴィメタル的、2ndはDJ中心のラップアルバム、3rdはバンドサウンドに回帰してジャズとロック、4thはオルタナティブを取り入れつつ…みたいな感じで、やることが変わっていく。
そういった自由なクリエイティヴィティに影響を受けて、自分もそうしてるところはあって…でもこのアルバムは大変だったな笑
でもこの作品を通して、作詞能力は極めてきた感じはありましたね。

─制作期間も結構掛かったんですか?

Jinmenusagi:
7-8か月くらい掛けたと思います。
やっぱり売り物として練り上げたものですし、『Self Ghost』のときのようにとにかく書いて発散する、というときからは姿勢が変化してますね。

このアルバムの売上はどうだったかなー…最後に聞いた時で1,500枚だったと思うので今だと2,000枚くらいいってるのかな。

『ジメサギ』(2015年)

1.業放キープローリン
2.TokyoTown feat.Y’S
3.Voodoo
4.ガウチョはダサい
5.Vans Ninja
6.Nanana feat.MOMENT BASTET
7.Su My Di
8.ペットの象 (Album Ver.)
9.BABEL feat.Mato
10.Uganda Tiger feat.ANPYO
11.このままで feat.サトウユウヤ
12.IT’S ALL RIGHT feat.GOKU GREEN,OMSB,SEEDA

─遂にセルフタイトルとした1作。
 このアルバムはご自身の中でどんな位置付けですか?

Jinmenusagi:
やっぱりこのアルバムから自分のことを知ってくれる人が増えてきた感じはありますね。
前作『LXVE』、この『ジメサギ』、そして次の『はやいEP』
この3枚でドカンと知ってる人が増えた実感はあります。
2014年ごろ、DJのYANATAKEさんが自分に注目してくれて。わざわざライブを見にきてくれて、物販で自分が売っていたCDを全部まとめて買ってくれたり。
それだけじゃなく色んなメディアに自分のことを紹介してくれたり、YANATAKEさんが司会を務める番組にゲストとして呼んでくれたりとかも。
やっぱりメディアによって客層は違うんで、自分に興味を持った人がドカンと入ってきてくれたりしました。
加えて自分と同世代の人たちも実力を付けていって、全体への注目度も増えたりした時期で…嬉しいことにファンの母数がかなり増えましたね。

─メディアの種類が変わったっていうのは…例えばどんなところに取り上げられたんでしょう?

Jinmenusagi:
わかりやすいところだと、当時のAmebreakですね、日本のHIPHOPの中核。
今はもうURLも変わってAbema HIPHOP TIMESに吸収されましたけど。

─ そういうメディア的な変遷とは別に、客演陣で話題になった面も部分もありますよね。
 ”IT’S ALL RIGHT”とか、凄い陣容になってます。

Jinmenusagi:
これは前々から関わりのあった人を集めるとこうなって。
例えばOMSBさんはSIMI LABのイベントにゲストに呼ばれた時に知り合って。
結局バトルに一緒に出るまでになりましたね。
(2015年開催のブレス式Presets. “AsONE” -RAP TAG MATCH-)
まあ、めっちゃゆるい感じで出て優勝しちゃいましたけど笑

─確かに、Disられたら「そんな酷いこと言わないでよ」って返すみたいなノリで優勝したんですよね笑
 少し脱線してしまいますが、バトルもちょこちょこ出てますよね?

Jinmenusagi:
そうですね、バトルは…必要があるときは出てますね。
それはプロモーションかもしれないし他の理由のときもあるし。
Youtubeに上がったりしたら見返しますけど、小さい音でですね…自分のバトルはダメです、とても聴けたもんじゃないです。
バトルも全体のレベルは上がってきてますしね。

─話が逸れましたが、”IT’S ALL RIGHT”の他の客演陣については?

Jinmenusagi:
SEEDAさんはその年の夏に知り合って。CONCRETE GREENシリーズ最新作に参加させてもらったり。
GOKU GREENくんはDMで軽くやりとりをしてたくらいでしたが、思い切って誘ったら参加してくれました。
そのときふわっと頭に浮かんだ人たちを誘わせてもらった感じです。

─そういうこともあってか、前作までのアルバム単位で通底させてたストーリーみたいな部分は薄めて、本作は曲単位のテーマ設定にシフトしてますよね。

Jinmenusagi:
そうですね、このアルバムは全曲シングルカット出来ると思います。
だからこれまでの『LXVE』みたいな連作的な雰囲気は全くないですね…やっぱ『LXVE』が大変だったので、こっちでは好きにしてやろうと。
セールス的にも1,200-300枚くらいは売れて…この時期からですかね、あんまり生活には困らなくなりました

─ビートの面でも、”Voodoo”, “Vans Ninja”みたいなドラムレスなものを起点に歌を交えたり16分音符で切っていたりしますし、さっきも話にあった通りTrapの影響がモロに出てきた部分もあります。
 この辺りの音への意識や、ラップスタイルの合わせ方も変化があったでしょうか。

Jinmenusagi:
そうですね、やっぱりサウンドのトレンドが変わったこともあったので、乗り方は勉強した部分もありました。
例えば…日本で言うとKOHHさんの“結局地元”に特徴的な、Trapだからこその乗り方があるんですけど、これが実は結構難しくて。

それを日本で初めてやったのってKOHHさんだと思うんですけど、2番目に習得したのが俺だと…思いたいですね。
その流れがこのアルバムであったり、次の『はやいEP』まで乗り方として続いている部分はあります。
“結局地元”ほど分かりやすくなく、マジで細かいとこなんですけど…例えば次の『はやいEP』の曲にはなるんですけど“どうだあかるくなつたろう”の「Dubby Mapleのビートで跳ねる 2時半頃が1番頭冴える時間帯だIt G Ma」とか。
これとKOHHさんの「薬物とかよく見るけど落ち着くのは結局地元」のラインとかは、乗り方としては同じリズムなんですよ。

ただもちろん文字の入れ方で印象や聴かせ方は変わります。
こういう乗り方を『ジメサギ』で始めて、次の『はやいEP』では完全に会得した、って感じですね。

『はやいEP』(2016年)

1.はやい (prod by DubbyMaple)
2.転校生 (prod by DubbyMaple)
3.どうだあかるくなつたろう (prod by DubbyMaple)
4.BUDDY BYE (prod by TIGAONE)
5.きっとこの夜も feat.ハシシ from 電波少女 (prod by RhymeTube)
6.はやい (Benzzo Remix)
7.はやい (Karaoke)
8.はやい (Acappella)

─このEPも代表作として挙げられることが多い作品です。

Jinmenusagi:
この作品自体は、単にその時点で出来てた曲を詰め込んでベストアルバム『2K11-2K15 JINMENUSAGI ANTHOLOGY』(2016年)と一緒に出しただけだったんですよ。
だから、EP作品と言うよりは「曲単位でやりたいことやった」という作品の集合体なんですよね。

例えば“きっとこの夜も”とかは客演のハシシさんと「絶対に売れる曲を作ろう」って制作した曲ですし笑
結果的に自分の代表曲もこのEPから挙げられることが多いですが、元々そんな力を入れて作った作品ではなかったんですよね。
あくまでDubby Mapleと、いつも通りペースが合うときにバーッと曲を作り上げる、ってノリでやってた結果で。
結果としてバズったと思いますが、この辺からストリーミングでの聴き方が主流になってきたりしたこともあって、売れ行きとかがよく見えなくなりましたね。
まあ、単純に自分が把握してないってのもあるんですけど。

─なるほど。
 代表作のひとつとなる”はやい”ですが、Jinmenusagiさんのラップの乗り方は8分音符であって、3連符や6連符みたいな、速度的なファストラップをしてる訳ではないんですよね。
 あくまで曲のテーマとしての「はやい」であるという。

Jinmenusagi:
そこに気付いて貰えたのは嬉しいです、そんな早い乗り方はしてないんですよね。
総合的に速く感じられるっていうだけで。

まず、この曲は実はEPに入ってる“はやい Benzzo REMIX”, こっちがオリジナルなんですよ。
DubbyMapleの方がREMIX。
でもあまりにDubbyMapleのビートが”はやい”というテーマの解釈が良かったのでメインになったという。
自分としてもほんと1時間くらいで録って、全然テイクも重ねてないみたいな曲でMixもサラッとやってとりあえずDubbyMapleに渡しただけだったんですけどね。
(上記の話からも分かる通り)そんなに変な意味で力を入れてなかったので…「岩手でMV撮りたいから何か作る」とかって感じだったんですよ。

─その他の”転校生”や”どうだあかるくなつたろう”も8分音符の乗せ方がメインで、あとは局所的な緩急の付け方でフロウのダイナミズムを感じさせるという。
 一方でファストラップをするなら”BUDDY BYE”のように16分音符で統一してやり切る、みたいな。
 この辺の早く乗るなら乗る、しないならしない(技巧の部分で早く聴かせる)、という乗り方のスイッチの切り変え方がまさに「巧さ」な気がします。

Jinmenusagi:
どうなんだろう…申し訳ないんですけど、ほんとに何も浮かばないほど、何も考えずに作ってたんですよ笑
ただ、このEPの時期になると、そういう風に頭で考え過ぎなくてもちゃんとカッコ良い乗り方が出来る、という感じにはなってきました。
だからラップとしての土台が固まった感じはありましたね、そこからまた進んで、歌モノとかが気になってくるのが次の段階です。

─きっと、それがまさに次作『ETERNAL TIMER』でのメロディアスなアプローチですよね。
 

『ETERNAL TIMER』(2017年)

1.これから
2.ズッコーンッ
3.常夏のSunshine
4.今日も
5.クォーターペーパー
6.DOKOMADE
7.Cosmic Flow
8.うちゅじん feat.Savvy Williams
9.ABC
10.飛んでくよ feat.MOMENT
11.だいじょうぶ feat.唾奇
12.空の上

─プロデュースも互いに半分ずつ手掛けたジョイントアルバムですが、まず作品の位置付けとして非常に緩めなスタンスを取っていますよね?
 ”これから”でのやり取りもそうですし、”ズッコーンッ”のファンキーながら力を抜いた仕上げ方であったり。

Jinmenusagi:
まず制作経緯として、Ittoとは出会ってからよく遊んでたので、自然な流れで作品を作ろう、ってなりました。
そこから遊ぶたびに曲を作っていって、その積み重なったものを出した感じです。
あの人はやっぱりミキシングも凄く上手いし、自分がストーリーで語ろうとしてるものを音で表現する技量がある。
ミュージカルとかにも造詣が深くて、要所でコーラスを乗せてきたりだとか。

自分はIttoの『Music Soul Journey』(2015年)が一番好きなんですけど、そういうところでもめっちゃ良い勉強をさせて貰ってます。
アーティストとしてのレベルが本当に高いです。
この作品を作る中でも今までにない発想だったり、良い肩の力の抜き方だったり、色々教えて貰いました。

─今作でそんなIttoさんの力量をもっとも実感した…という曲はなんでしょう?

Jinmenusagi:
“ABC”ですね。
ハウスっぽい音を持ってったんですけど、その上で(Ittoさんが)ふざけてABC~って歌ってるのを面白がって録音してたらそれがOKテイクになっちゃって。
それがなんか宇宙の人がABC~って歌ってるような雰囲気になって、曲もどこかコズミック感が出てくる、あれは凄いなと思いました。

─その意味ではラップも良い意味で曲ごとにあまり難しいこと抜きにやりたい乗り方をした、重たくハードな『ジメサギ』からのリフレッシュ的な1作なのかなとも思いました。
 ラップにおける意識は実際どのようなものだったのでしょうか。

Jinmenusagi:
そうですね、このアルバムはかなりリフレッシュして、肩の力を抜いて作っています。
ラップ技術については先に言った通り土台が出来上がってる感じはあったので。
そこでどう乗せるかというよりは、コーラス的な入れ方だったり、発声の仕方のような、より深い部分に入っていこうとしてました。
小手先の技術的なところはあまり考えなかったですね。

『la blanka』(2018年)

1.it’s me
2.cheat
3.yale
4.so goo
5.opium feat. Jin Dogg
6.classic slice
7.energy equal
8.朝を待つ
9.energy equal(WONK Remix)

─まずはSWさんとの共演ということで、純度の高いHIPHOPビートが多く配置されています。
 ビートコンセプト的には『LXVE』も純HIPHOP的でしたが、あちらが割とバウンシーなものも多かった中でこちらはSW印のメロウ。
 まずは本作の制作経緯について伺えますか?

Jinmenusagi:
これはもう、2人とも出会った時からやりたいと思っていたことで。
そんでやった結果、周りからの反応が一番良かった作品でもありますね。
いつも「こんな曲出来たんだよね」って友達に聴かせるんですけど、その評判が凄く良い…例えば“so goo”“cheat”なんかがそうでしたね。
そうしてるうちに「じゃあウチから流通出そう」って声を掛けてくれたのがレーベル・EPISTROPHの人たちで、世に出ることになりました。

ただ、メロウで肩の力を抜いてる感じなんですけど、この作品俺はめちゃくちゃ真剣に作ったんですよ。
自分は普段から結構ビートの細かいところまでディレクションしたりするんですけど…例えば「ここのハイハットのチキチキ鳴ってる、『チ』のとこを消してくれ」とか、「ここのスネアを一発抜いてくれ」とか、そういうレベルで。
そういうお願いをSweet Williamにしながら、交互にミックスしてく、みたいなやり方で作りました。
自分は前からそういう作業方法なんですけど、Sweet Williamはお互いの画面を見ながら作業する、みたいなのは初めてだったらしくて、面白かったって言ってましたね。

─Sweet Williamさんのメロウな音に乗る上で、ラップのアプローチとして意識したことはありますか?
 個人的に、メロウなビートに寄り添うためにあまりラップが跳ね過ぎることなく、ビートと混じり合う形になっている印象を受けます。

Jinmenusagi:
結果としてそういう仕上がりになっているかもしれませんね。
ただ前述の通りこの頃になると、貰ったビートに対してある程度正解がポンと出せるようなラップスキルの土台が出来てきたので、あまり意識的にどうこう、というのはなかったと思います。
今聴き返してみると「よく歌ってんな~」って感じですね笑

─そう、そうした歌うようなフロウの引き出しが前作『ETERNAL TIMER』から顕著ですよね。
 今作でも”energy equal”や”朝を待つ”のような完全にチルな曲では歌うようなフロウに変化したりします。

Jinmenusagi:
この辺りの引き出しは『ETERNAL TIMER』がなければ確実になかったものですね。
そういうメロディのセンスとかは『EMO TAPE』(2020年)とかでも受け継がれてます、リスナーからは「もっとガツガツラップして欲しい」とかって言われたりもしますけど。

─みんな悪意なく言ってるんでしょうけどね。
 自分も”意識ハ、冴エテ”(KID NATHAN, 2016年)のJinmenusagiさんのガツガツしたラップに喰らったりしましたし。

Jinmenusagi:
あの曲はライブで再現するのほんと難しいんですよ。
RECの妙として成立している部分もあるので、生で再現する難易度が凄い。
やり切ったこともありますけど、正直やれなかったこともある感じですね。
でも…今は歌謡曲作りたいんですよね、完全な歌モノの笑
それでなければ滅茶苦茶ラップするみたいな、今後はどちらかに振り切った曲にしようかなと思います。

─今後はこれまで獲得してきたスキルを、どちらかに振り切りながら作ると。楽しみにしています。
 
 今回は過去の作品の振り返りを通じて、Jinmenusagiさんが作詞やラップにどう取り組んできたのか伺いました。
 後編では、Jinmenusagiさんが語る「ラップが上手くなるとは何か」、その秘訣を収めた「ラップ五輪書」をお届けします。


後編はこちら

以上(2021/01/09)
───

最新シングル:

(ジャケットクリックで配信先にジャンプ)

Artist:Jinmenusagi
Title:Not Just A Game
Label:インディペンデント業放つ

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