インタビュー:Jinmenusagiと2010年代(後編): スキルを磨くために必要なことは何か





孤高のスキルを持つアーティスト・Jinmenusagi。
その飛躍の歴史は2010年代の移り変わりと重なる。
フリーDLでの音源投稿からの正式音源デビュー、各年代のHIPHOPメディアへの挑戦、Trill WaveやTrapとの邂逅…。

時代の趨勢や潮流を読み、常に自分のスキルとして吸収してきた才能。
前編では発表してきた7枚のアルバムを本人解説した。
今回はそれらの作品を通じてJinmenusagiが得た「ラップが上手いとはどういうことか」、その秘訣を聞く。

これは技法や練習方法よりももっと根源的な、マインドセットの置き方を語るものだ。

前編:全アルバム本人解説はこちら

 「ラップが上手くなる」とはどういうことなのか


─前編では、Jinmenusagiさんの全アルバム7作を通じてその時々の背景、コンセプト、セールスまで教えて頂きました。
 Jinmenusagiさんはこれら7枚のアルバムに加えてEPやフリーミックステープなど膨大な作品をリリースされ、「天才的なスキル」と称されることも多い。
 後編ではそんなスキルに到達するための極意を伺おうと思います。
 ズバリ、ラップスキルを鍛え上げるには何が必要になってくるのでしょう?

Jinmenusagi:
これは誰かに聞かれる度に答えてることなんですけど、やっぱり場数を踏むに尽きると思います。
ここでの場数っていうのはライブ経験であり、REC経験であり、リリース経験であり。
こうした場数を積まずに技法的なスキルだけ伸びていっても仕方ないと思います。
すべてを重ねて重ねて、初めて味が出るものです。


─例えばネットに音源を投稿する、ライブする、サイファーでフリースタイルする…それぞれ「それだけする」人たちもいる訳ですが、それだとここで言うラップスキルは身につかないということ?

Jinmenusagi:
そうですね、ネットに音源あげるだけ、サイファーだけ、それじゃ絶対ダメです。
まあ、もちろん何になりたいかにもよりますけど。
例えばバトルだけ出来れば良いというならサイファーだけやるのもありかもしれませんけど、アーティストとして全体のレベルを上げていきたいのであれば、偏食は絶対にダメです。

これは駆け出しの頃の自分にも当てはまることでした。
自分は恵まれていたのでまだ若い頃から正式に作品をリリースする機会とかを貰えてましたけど。
その中で色んなラップをしてきましたけど、そうした自分の語る内容に人間的な説得力が伴ってきたのは、良くてここ数年、なんならまだ未来の話じゃないかと思ってます。
説得力がないとラップの良さも出ないし、ファンもついてきませんから。

だからこそがむしゃらに場数は踏むべきです。
人間的な厚みがなくて、「偉そうに言いやがって」みたいに思われても、言いたいこと、伝えたいことがあるなら言うべきだし、それを作品の形にし続けるべき。


─そうやって場数を踏んでいくと見えてくるものがあるということ?

Jinmenusagi:
そういう積み上げの中で自分の強みが見えることもありますし…大体2作くらい出せば、そういう強味とか、リリースまでに必要なことの成り行きとか、市場のことが分かるようになってきます。
自分はそういう(今回何が出来て、何が出来なかったかという)分析はずっと続けてきました。
アートはアートなんですけど、ちゃんと課題点を見つける為にちょっと作って、見つけたら直してレベルを底上げしていく。

俺が言っているのは、非常にシンプルな反復的学習法です。
技術論的なことであれば、歌詞をメモして色んなリズムを試してみたり、海外のラップの譜割りを分解して分析してみたりって出来ますし、実際やってる人もいると思います。

でも自分がいつも言ってるのはもっと根本的な姿勢の話なんですよね。
ちゃんと自分自身を分析して、見えてきた自分を恐れずに出す。
それがどんな自分であっても、分析して改善していく…究極的にはそういうことだと思います。


 Jinmenusagiの記す「ラップの五輪書」

ラップスキルの上達に必要なのは音楽活動全体として場数を踏むこと。
Jinmenusagiが語る本質は非常にシンプルかつ根源的なものだ。
この本質を理解した上で研鑽を積むことが、アーティストとしてのレベルの底上げに繋がる。

この際具体的に何に注意してスキルを磨けば良いのか、今回PRKS9ではJinmenusagiが直々に記したノートを入手。
この中にはJinmenusagiが考える「ラップにおける大切なこと」が凝縮されている。

これは宮本武蔵が記した兵法書のラップ版…いわば「ラップの五輪書」だ。
Jinmenusagiが記すそのままの言葉を受け取って欲しい。


①ラップのフローにはギアが存在する
ラッパーたちは意識的、または無意識のうちに俳優・声優にも似た方法を用いて己を表現する。
その表現方法はラップ文化において「フロー」と呼ばれ、要するに発声のことではあるのだが、単に声色や声量だけでなくビートのキーに対してきちんと倍音の「フロー」を発せられるか否かという音楽的な技術面の話もここに含まれる。

そしてそのフローの選択肢、また後述のアイデンティティーなどが化学変化を起こすのがラップという音楽の一番の魅力だろう。
ここでいうフローの選択肢は「ギア」と呼ぶにまさに相応しく、まるで本物の乗用車のようにさまざまなギアが存在する。
ラッパーはこの「ギア」を意識し、適切なギアを選んでラップ出来るかが大切となる。


②明確な練習方法は存在しない
ラップという音楽は、例えて言うならばアイデンティティーの展覧会である。
後天的な学習よりも、先天的・もしくは人格の根幹を育てる幼児期(0〜5歳)までの音楽的環境に大きく由来する。
ここでギアの基礎となる部分が生まれる。
そこに学童期で経験した事柄や、のちの人生においての社会経験が加えられラップする者の語彙を形成する。
鍛錬によって磨かれる技術とはまた別に、こうした環境によって作られる技術(才能)も存在する。


③まとめ
上記のように形成された人格と語彙によって、ラッパーのリリックとフローの基礎が出来上がる。
曲単位でそれらの引き出しからランダムに紡がれる物語こそがラップの真髄であり、上手くなろうとして身につける技術は誰でも辿り着ける境地だとも言える。

しかし一方で、ラッパーの文脈とはかけ離れたバックボーン/フローの持ち主がバズを起こしたり、そういったアーティストがチャート入りしている昨今の音楽事情がある。
イカしたラップの定義はいつもリスナーの手によって書き換えられる。
ラッパーに求められるのは、常に更新されるリスナーのニーズに応えつつも自分のアイデンティティーを見失わず物語を届ける、そんな稀有な才能だ。


以上(2021/01/16)
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最新シングル:


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Artist:Jinmenusagi
Title:Not Just A Game
Label:インディペンデント業放つ
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