Column/Interview

西東京に妖怪が出るという噂は以前からあった。KyonCee APartment (KCAP)。散発的に怪しいBoom BapをSoundCloudやYoutubeに投下しては去る。まともな痕跡もネット上にほとんど残っていない。しかし今回PRKS9から配信した”DaFlava4WAX”の破壊力を見ればその実力は分かるだろう。

職業、拠点、人数、全て不詳。今回もPRKS9はMVの配信とインタビューを行ったが、
インタビュー相手の顔出しはNG、名前も明かせないという条件付きだった。ハイセキュリティで臨んだインタビューで出てくる言葉の数々は、KCAPの謎を解き明かす鍵になったのか、それともその姿は却って有耶無耶になったのか。未だその全貌は見えない。

登場する主なアーティスト(順不同):
Coe-La-Canth, Derelect Camp, Aaliyah,
SSIO, MC BOODAH, Madteo

─まずは自己紹介をお願いします。

KCAP:
謎の男です、よろしくお願いします。
KyonCee APartmentとZulu Nationに所属してます。

─ちょっとすみません。
 Zulu Nationというのは、HIPHOPの総帥・Afrika Bambaataaが率いていた、あのZulu Nationですか?

KCAP:
そうですね、Universal Zulu Nationです。
UZNのChapter 16(*)に所属しています。
その一員として集会に参加したり、ボランティア活動を行ったりもしています。
(*)Universal Zulu Nationは地区ごとに区分けされており、Chapterはその地域に属する支部的な位置付け

─なるほど、そうだったんですね…予想外の情報でした。
 ではそんな謎の男さんが所属するもうひとつの組織・KyonCee APartmentについて、お話出来ることを教えて貰えますか?

KCAP:
いきなり申し訳ないんですが、全貌については誰も把握してないんですよ笑
一応2人以上の推薦があれば誰でも入れるHIPHOPコレクティブみたいな感じです。
KCAPのリーダーはデトロイトにいるんですけど、それも素性についてはメンバー間でも憶測が飛び交ってるみたいな状態で。
でも基本的にはビートメイクやってる人や、DJ、スケボー、絵を描くやつもいて…って自由な集まりです。
今のメンバーは20人前後くらいですかね。

始まった時期も不確かなんですけど、2014, 5年くらいに結成されました。
ある別々のクルーがひとつに纏まって出来上がったという感じです。

─聞けば聞くほど謎が深まりますが、クルーと言うよりはコレクティブって趣の集団なんですね。
 昔で言うとK.O.D.P(*)みたいな。
 (*)MUROが率いるKING OF DIGGIN’ PRODUCTIONの略称。K.O.D.Pのメンバーは背番号を与えられるが、単一のグループとして動く訳ではない。

KCAP:
そうですね、あるいはWu-Tang Clanが4軍くらいまで持ってるような感じとかに近いかなと。
だからKCAPの中にもいくつか小隊のクルーがある、って感じです。
Hieroglyphicsの中にSouls of Mischiefがいるみたいな。
KCAPについては本当に自然に成り立ったもので、メンバー全員が何か外的にも内的にも強制された動機じゃなくて、自然にHIPHOPをやっている感じですね。
もちろん、HIPHOPっていうフィルターだけではなく、様々なフィールドで活動しているメンバーやフレンズがいますが、皆それぞれの生き方や活動を尊敬しています。

─なるほど。そんな謎めく集団ですが、コレクティブとして影響を受けたアーティストはいるんでしょうか?

KCAP:
それは大阪のクルー・Coe-La-Canthですね。
もうCoe-La-Canthの曲がプレイされたらメンバーはDJブースの前に行くみたいな。
全作品を通して好きですが、『SWIM STANCE』(2006年)は特に衝撃を受けました。
あのK-MOONさん(現Gradis Nice)のビートで、シンプルで煙たくて(大阪の)アメ村的なHIPHOP…最高です。

─Coe-La-Canthは最高のHIPHOPグループのひとつですね、あの2005年前後の大阪式Boom Bapの完成形というか。
 KCAP結成のきっかけも、Coe-La-Canthみたいな音楽を作ろう、って感じだったんですか?

KCAP:
確実に影響はあると思いますけど、故意に寄せたりせず音楽は自分たちのスタイルでやっていきたいと思ってます。
ただ、KCAPが出来たのが立川のA.A CompanyでMC YOさんが主催していたイベントで2つのクルーが合流した時なんですけど。
そのとき、現メンバーのDJがCoe-La-Canthの”Change”(『Change』(2009年)収録)を流してて、それで意気投合したみたいなことはありました。
なのでCoe-La-Canthが、KCAP結成のきっかけみたいな役割を果たしてくれました。

─Coe-La-Canthが繋ぐHIPHOPの輪…!
 結成後、すぐに活発に動き始めた感じですか?

KCAP:
そうですね、西東京の方で活動を開始しました。
正式な1stアルバムは『Off the World』(2020年)なんですが、それ以前にも
KyonCee APartment名義でストリートアルバムを出したりしましたね…2015, 6年くらいかな。
ただそれは本当に内々でしか流通していないもので。

最近になってメンバーの都合が揃ってきたり、OGの方々も応援してくれたりして、
ようやくリスナーの耳に届いてきたかなって実感しています。
ライブは結構やってますね、ただメンバーが散らばってるので各々って感じです。

─なるほど…不規則、散発的に蠢く集団なんですね。
 Coe-La-Canth以外の好みはメンバーによって異なるとは思うんですが、謎の男さんが影響された、あるいは推したいアーティストはどういうところでしょう?

KCAP:
推したいアーティストはめちゃめちゃたくさんいますね。
本当にたくさんいるので今選ぶとって感じではあるんですが…
西東京のOG、ここで名前を出していいのかどうかわからないですが、都心、川崎、大阪、兵庫、茨城、東北、福岡、沖縄…とにかく日本にはたくさんいます。

海外だと最近、川崎の某先輩に教えて頂いてQueensのラップをまたよく聴くんですが、クルーモノだとDerelect Campとか大好きです。
レコード3枚くらい出して終わっちゃったんですけど。

あとは海外の企画の影響で昔のR&BやBlack Contemporaryも最近よく聴いてるんですが、Aaliyahは昔からずっと好きです。

アメリカ以外のラップだと、ドイツのSSIOとかも好きですね。

MIXもよく聴きますが、昔バイト先の先輩に教えていただいたNYで活動してるMadteoとかはここ6年くらい事あるごとに聴いてます。

何人かのメンバーで昔から教え合ったりしてるので、この辺はメンバーの一部は聞いてると思います。

─KCAPはそのトラックのクオリティが特徴のひとつでもありますが、どのようにして制作しているのでしょう。ハード?
 
ハードの奴も多いですが最終的にはみんなDAWで仕上げている感じだと思いますね。
自分自身も曲を作りますが、自分はAbeletonLiveですね…色々やりやすいです。

サンプリング主体のものが多くはなってますが、(MC勢は)みんなビートを貰えばキックする、みたいな感じなので、トラップや打ち込みの音でやったやつとかも全然あったりします。
なのでまあ、Boom Bapだけにこだわってる訳ではなくて、808を使って80年代後半風味に仕上げるときもあるし…基本はラップを楽しみたい集団って感じだと思います。

─Ra¥ & Zillah 『水月』(2019年)などのサイドプロジェクトもありつつ、やはり大きいのはクルーの1stとなる『Off the World』(2020年)の発表でしょうか。

KCAP:
そうですね、『Off the World』300枚を自主で売ったんですけど、もうほぼ売り切れかけです。
結構思わぬところまで届いてたり、ネット上でも評判が聴こえてきたりと、色々反響はあった感じで本当に嬉しかったです。

─そこから最新作となる”DaFlava4Wax”制作のきっかけは?

KCAP:
まずタイトルの意味は、自分たちのスタンスやFlavaを「WAX」(濃縮されたもの=ヒップホップの濃縮されたエレメンツ的なスラング)の為に捧げる、っていう意味を込めています。
次の2ndアルバムに向けて徐々に動き始めているので、そのリードシングルっていう位置付けですね。
色々ときっかけもあって、西東京にいるクルーメンバーで集まってやろう、となって作ることになりました。

ビートはMadallaVibeの13FRIDAY a.k.a Raikaくんなんですけど、あの方は普段から色んな音楽を滅茶苦茶インプットしてるので、今回も…なんかすごいのをくれましたね。
(MVを撮影した)BARI3BRANDの平川雅人さんを始め、西東京の方々には本当にお世話になりながら完成した曲になります。

─”DaFlava4WAX”でも「やっぱこれだぜReal HIPHOP Keep On」というラインが登場しますが、昨今のHIPHOPシーンに対するお考えはいかがですか?

KCAP:
自分個人としてはなんでもありだし、色んなスタイルも全然あり、というスタンスでいます。
HIPHOPは基本的にEntity(=ここでは概念的な主体物、のような意)だと思っていて。
究極的には本質がないというか、決まり切った固定的なものではないと思っています。
だからこそ、既存の固定観念や形骸化したスタンスを離れていつでもフレッシュでいられるんだと思います。

例えば、自分も公民権運動を調べたり、友人にも日本でBLMの活動をしているアメリカ人のMC BOODAHって先輩がいたりする中で、
過去に「黒人たちが白人層から”自分たちはイケていない”と思わされる洗脳(固定観念)から自らを解放する為のムーブメントのひとつ」なんだというのは大事にしていて。
その意味で、HIPHOPはすべてをフレッシュにする文化だと思います。
(参考:https://www.huffingtonpost.jp/entry/story_jp_5ee5f806c5b6ef5713a53244)

それが黎明期にブロックパーティーやホームパーティーの中で見られたもので、
DeeJaying、Bboying、エアゾールアート(便宜的にはGraffiti)、Emceeingが形成され…それらが後になってHIPHOPと総称されたと。
ちなみに、これらは所謂「HIPHOPの4大要素」ですが、近年、Knowledge(知識)も新たな要素として追加されています。
それは今の社会情勢下で、カウンターする為にはまさに知識が問われることを意味するからだと思います。

─つまり?

KCAP:
つまり、昔は一般的に社会では認められていない人達が、HIPHOPというカルチャーの中で独自のスタイル・ありのままでも認められるようになった。
このことが「HIPHOPはすべてを肯定する」という意味だと思います。

だからHIPHOPにおいては、出来上がったものやメジャーな価値観だけを見るのではなくて、
自分たちがイケてると思う価値観を大切にする、その部分は忘れないように活動しています。
そういう脱洗脳的スタンスが、アングラの価値観だとも思うので。

─マジョリティの価値観と異なることも追求する、カウンターカルチャーとしての側面を大事にされていると。

KCAP:
そうですね。
オーバーグラウンドに露出が増えることで間口が広がり、HIPHOPの関係者がプロやアーティスト、
あるいはアスリートなどとしての出口も出来たことはもちろん良いことだと思っています。
ただ、カウンターカルチャーがメジャーなものの中に収斂するという、これに対する注意は常に持っておくべきかなと思っています。
その点を踏まえた上で、メジャーに台頭する人たちが出てきたら本当に最高ですね。

別にめんどくさい奴じゃないんでHIPHOP原理主義的な生き方をしてる訳じゃ全然ないんですけど笑
こうした既存の価値観から脱洗脳する為にカウンターする、みたいなHIPHOPの良い所は大事に持っていたいな、ということです。

まあ、その意味ではKCAPも今はBoom Bapになってるので、
もっと色々と面白いやり方でカウンターしても良いかもな、とは思っています。
現場ではトラップでもやってたりするんですけどね。

─その意味では、クルーのアルバム『Off the World』のタイトルも、一度既存の価値観をオフにしない?的なニュアンスも込められてたりするんでしょうか。

KCAP:
そうですね。
東洋的な価値観に基づいて、この世界の価値基準やあらゆるレッテルを一度Offにして、何かを正しいとせずに色んなものを映してみない?
という意味合いも入ってると思います。
世界中に既に貼られた価値観を外して、自分たちが新しくお札を貼り付けるラップをする感じですね。
ここは「HIPHOPはEntityでしかない」というさっきのスタンスの話ですね。

もちろん、キョンシーなので「お札」と”Off the”を掛けてる、ネタの側面もあります笑

─なるほど。今後も様々な価値観を映し込みながら活動を続けられるんでしょうね。
 今後の動きについて、予定しているものがあれば教えて下さい。

KCAP:
今後はメンバーのリリースが結構続きます。
KyonCee APartmentの2ndアルバムに向けても動いてますし、
『Off the World』のリリースパーティもコロナで飛んでしまったのでリベンジしたいですね。
メンバー個人のアルバムと他のクルーとのタイアップ音源も進んでいます。

直近で発表された作品だと、Zillahが参加しているJuce & Zillah『Word Is Bond.ep #009』(2020年)。また、Muhamadが客演で参加しているJ. Rick『GUM TAPE』(2020年)。この辺が最近リリースされました。どちらも最高にカッコイイので是非聴いて欲しいです。

また、人化イルミネーションプレゼンツのMIXに何曲か参加させていただく予定です。
他にはボルチモアやカナダなどの90sアングラのマッシュアップ音源なんかも何かしらの形でラフに出せればと思っています。
過去の先人も含めて、自分たちの尊敬する人達と上がっていけたら嬉しいですね。

─ありがとうございました。

以上 (2020/10/25)
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