Column/Interview

BLAISEやS TILL I DIEらを擁するコレクティブ・BSTA。全貌を明かさず、作品を出せば高い打率を誇るこの集団の中でも、須田修矢の作品を高く評する声は多い。元はラッパーとして活動を始め、現在はシンガーとしてのスタイルをメインに据える彼の楽曲は常に聴いたヘッズから熱い支持を受けてきた。「聴けば分かる」良さを持ったアーティストでありながら、これまでシーンが十分に彼とリスナーのタッチポイントを設けてきたとは言いがたい。本稿を通じて、ヘッズがこのアンダーレイテッドな才能に触れ、その作品に光が当たることを願う。

登場する主なアーティスト:
BSTA, BLAISE, S TILL I DIE, $AINT STØNE, kiLLa, Kendrick Lamar

インタビュアー:hzm
─本日はよろしくお願いします。まずプロフィールから伺っていこうかと思います。出身はどのあたりでしょうか。

須田修矢:
よろしくお願いします。1997年生まれで、地元は埼玉県の浦和ってところです。生活的にずっとそこにいる訳じゃないけど、住所的にはそうなってるって感じで。一時は三軒茶屋に住んだりもしてたんですけど、いまはまた戻ってきてます。

─なるほど。どんな感じの子供時代だったのでしょう。

須田修矢:
幼稚園時代は明るい子でした。で、小学校のときにめちゃくちゃ勉強する学校に行かされて、自分は小3くらいで「絶対に勉強したくない」って態勢を取ったんですよ。そのタイミングでお父さんがいなくなったりもして、その頃からはもう、自分の世界を守る、要は自分のやりたいことを最優先にしてやってく子供になってった感じですね。逆に中学校はフリースクール的な、「なんにもしなくていいよ」みたいな校風のところに行かせてもらえて、高校は通信制なんだけど全日制みたいに制服もあって基本は毎日通うみたいな感じなところに行きました。

中学から部活じゃないけどバスケしてて、高1でやっとバスケ部入れると思ったら、なんかバスケ部はあるけど体育館とか運動する場所がどこにもない、なんか柄悪い人が3人くらいいるだけの部で、月1でどこか借りて練習出来れば良いみたいな感じで(笑) それで自分は近くのリングがある公園で毎日バスケするって感じでした。でもつまんねーなって思ってたら、高2になって後輩が入ってきたとき、なんかひとりだけアイバーソンみたいな奴がいたんですよ。それが(のちにBSTAメンバーとなる)$AINT STØNE。で、バスケもちゃんとやってる奴が遂に来たと思って仲良くなりました。どこでバスケしてるのか聞いたら、代々木公園でやってるって言うんで、行ってみたら今のBSTAのメンバーと出会いました。そうしてBLAISEやS TILL I DIEを始めとする、BSTAのみんなと仲良くなった感じです。

─確かに、代々木公園はkiLLaのメンバーやkZmさんなんかもバスケしてたイメージがあります。続いて音楽的なルーツについて伺いたいです。幼少期に聴いてた音楽とか、ブラックミュージックへの出会いなどは。

須田修矢:
中学とかまでは、ほんと普通でしたよ。広く浅くドラマの主題歌とかを聴いてるみたいな。元々普通にEMINEMとかは聴いてたんですけど、音楽に本格的に興味を持ったのはBLAISEたちと出会ってからです。見たきっかけがなんだったかは分からないですけど、Kendrick LamarとImagine Dragonsのグラミー賞でのライブを見て「なんてカッコ良いんだ」って思ったことは覚えてます。でもそれが最初というより、いつの間にか好きになってた感じかな。

─影響を受けたアーティストなどはいらっしゃいますか?

須田修矢:
たくさんありますね。Kendrickに関しては、それこそ彼を通じて「音楽で何を伝えられるのか」ってことも分かりました。他にもKendrick繋がりでZacariとか…でも具体的に誰というよりほんとにいっぱいいるんです。最初は海外のものばかり聴いてたんですけど、次第に山下達郎や尾崎豊、矢沢永吉とか、そういう日本のアーティストのやろうとしてたこと、そのカッコ良さも分かるようになって好きになりました。

─そこから自分で音楽をするようになった流れはどんなものだったんですか?

須田修矢:
18, 19歳くらいの頃には音楽に対する積極的な興味が芽生えていました。そのときはもうBLAISEがkiLLaとして活動してて、曲の録り方とかを横で見てたので、自分も試しにやってみようとしたのが最初です。ちょうど自分のPCが手元に来るタイミングだったのもあってちょうど良くて。その時は純粋な探求心と言うか、興味で初めてみた感じですね。

─ここまでの話でもBLAISEさん、ひいてはBSTAの話が度々出てきましたが、このBSTAについてどういう集団か、どうスタートしたのか改めて教えて貰えますか?

須田修矢:
音楽面では、ラッパーとしてBLAISEやS TILL I DIE, $AINT STØNEがいて、ビートメイカーのSlim Slimeがいます。メンバーはほんとに友達が集まってる集団なんで、音楽だけじゃなく、絵を描いてる人もいれば、その他のクリエイトをしてる人もいて。年齢は自分が一番上で、BLAISEと$AINT STØNE,Slim Slimeは1個下,S Till I Dieは2個下ですけど、歳の違いは関係なく仲が良い感じですね。

代々木公園でバスケをする中で知り合って遊ぶようになって、BLAISEやS TILL I DIEに試しに作ってみた曲を聴いて貰ったりしてたんですよ、いま聴くと全然恥ずかしい曲なんですけど。で、その頃になんかみんな同時に「俺も曲作ってみよう」みたいになってて、「だったらみんな一緒にやろうよ」ってなった感じですね。

BSTAの名前自体はS TILL I DIEとBLAISEが話して付けてました、俺はそのときぼーっとしててあんま覚えてないんですけど(笑) そこからBSTAとしてはSoundCloudに上げたミックステープ『BRAT』(2018年)が最初です。

この頃は結構ゴリゴリしたラップもしてたりして…いまは恥ずかしいんですけど(笑) だから始めはこういうラップの割合が8で、歌が2くらいだったんです。でも段々…やりたいことの筋は変わってないんですけど、こういうラップがやりたかったんだっけ?とも思って…それで今のスタイルに至ってます。

─BSTAのメンバーの曲を聴いてると、みなさんラップと歌を境目なくこなすような印象もあります。メンバー間で影響を与え合うみたいなことはあるんですか?

須田修矢:
いや、みんな自分のセンスがある奴らだし、互いの曲に互いの影響を取り入れよう、みたいなのはないんじゃないかなと。どっちかって言うと、「やっぱあいつの曲はヤバいな」と思わされて、自分の活動への刺激になるみたいな、音楽そのものより、「負けないぞ」っていう姿勢の部分にエネルギーを貰うことが多いと思いますね。

─kiLLaの皆さんとの繋がりはどんなものなんですか?

須田修矢:
元々$AINT STØNEと代々木公園に行ってBLAISEと出会った訳ですけど、kiLLaはそこにいたBLAISEと仲良かった先輩たちって感じですね。メンバーのおうちにお邪魔させて貰ったりとかもちょくちょくあったりとかします。

─結果的にはBSTAとしてのまとまった音源はストリーミングサイトなどでは出ておらず、各メンバーがソロで活動するようになっていますね。

須田修矢:
そうですね…まあ音楽性の違いとかまではいかないんですけど、まずは自分の力量を試してみたいっていう思いがあった。これはまあ推測というか、自分自身はそうだったってことなんですけど。それで各々自分のことをやり始めるタイミングがあったんじゃないかなと。

─ソロの音楽活動について伺っていきます。須田修矢さんは元々SAD WEEKENDという名前で活動されていましたが、改名した理由は?

須田修矢:
そんなに深くは考えてないんですけど、ふと「なんでSAD WEEKENDって名前なんだろう?」って思うタイミングがあって。それならもう本名でやろうって思った感じですね。

─そこから2019年のクリスマスに1st EP『YOU』が出た訳ですが、これはどのような形で制作されたんでしょう。

須田修矢:
BSTAのときとかはただ楽しいからやる、ってふわふわした感じだったんですけど、9月くらいにライブの誘いがあって、その時期ってちょうど自分の力量を試したくなっていた頃だったし、「やらせてください」って言って、ちゃんと作り始めました。曲制作はやってたんですが、表に出てる自分のソロの曲はまだひとつもなかったんで。ライブが確かクリスマス近くだったので、それに近い日にちを目標に制作しました。

ただ『YOU』の内容自体は特別なことをしてるわけじゃないです。ほんとにあんま考えずに自分の思ってることをいつも通り歌うというか、自分にとっては普段のセラピーみたいなものなんで。自然に曲を作りたい気持ちのまま作ったらできてた、よしライブにも間に合った、って感じなんですよね。だからそんなに考えて作ってた作品ではないですね、気持ちのままに動いてたというか、今思うと。

制作環境的には…当時、表参道とか六本木のあたりで働いてたんですけど、実家が埼玉で遠かったんで、職場の事務所に寝泊まりさせてもらってたんです。で、そこにPCが置いてあったんで、そのPCを借りて夜な夜な作ってましたね。beatsのマイク付きのヘッドホンでプリプロ録って、今も使ってる駒沢のMay Daishi(Lil May)さんのスタジオに行ってまとめて本録りする、みたいな。

─僕はあれがリリースされたとき、「なんかいきなりヤバいのが出た」って衝撃を受けたんですけど、当時の反響はいかがでしたか?

須田修矢:
当時の反響は凄くよく覚えてます。色んな方から声が届いてあったかい気持ちになりました。BSTAの仲間からも「これは半端じゃない」って言ってもらえて、やっと覚悟がついたというか。それで生活が変わったとかのレベルではないにせよ、それこそhzmさんや色んな方がTwitterとかで支持してくれていて、「ちゃんと伝わる人には伝わるんだ」って。

─翌2020年のクリスマスには2nd EP『ME:』をリリースしましたが、この作品について教えて下さい。ビートの感じも前作とは変わって多様になっていますね。

須田修矢:
この2020年は色々あった年で…『YOU』を出した頃くらいが一番大変な時期で、家のガスと電気が止まった状態で3ヶ月くらい生活してたりとか、それで近くに住んでた人の家に居候したりとかしてたんです。そんな中で音楽は自分にとってセラピーだったんで、音楽を作らなきゃって衝動に駆られて。『YOU』の制作のときにPCを使っていた職場を辞めていたのですが、なんとかPCを使える環境を探して作ったのが『ME:』です。

『YOU』が染み入る感じだったのに対してノリノリな感じで、体にはアッパーに訴えかけるけど、心に寄り添えるように意識して作りました。その意味で結構”Rainbow”とか、これまでにはないノリがあったり、自分の中でも賛否両論ある感じなんですけど、好きな曲は好きだし、試行錯誤の作品ですね。それも含めて色々試してみた作品です。

─2021年もまず12月頭にシングル”still”のリリースがありました。本作にはS TILL I DIEさんを客演に迎えていますね。そのあとにはクリスマスに”sing.”もリリースされています。

須田修矢:
今ちょっとちゃんとした制作環境がない状態でして、その頃S TILL I DIEの家に泊まり込んで遊んだりしてたんですけど、ちょっと自分で自分を追い詰めてしまうようなこともあって。でも、そういうときに曲を作りたい衝動が出てくるんです。それでYouTubeでビートを流したりしてたら自然とHOOKができました。自分って普段曲作るのにめちゃくちゃ時間掛かるんですけど、このときは秒で出来た。

“sing.”は、元々は今年もクリスマスにEPをリリースしようとしてたんです。でも曲制作にも時間掛かるタイプだし、私生活もちょっと不安定で。自分はいつもタイプビートで作るんですけど、それって他の人が(Exclusiveで)権利を買っちゃうと自分は権利的に発表できなくなる。実はそれで1曲作ってたのがダメになっちゃって。それにリリース予定の1-2週間前くらいに気付いて、そこから奇跡的に良いビートを見つけて作ったのが”sing.”ですね。

─タイプビートの難しいところですね。誰かプロデューサーから「一緒にやろう」みたいな話はないんですか?

須田修矢:
うーん、実は仲間から紹介された件がひとつあるんでそれは動いてますが、それ以外に直接の話とかはないですね。

─レーベルやプロデューサーにオーガナイザー、他のアーティストも、もっと修矢さんのことに気づいて欲しいですね。確実にヤバいものを作っているし、もっと知られて欲しいです。

須田修矢:
ありがとうございます。自分は色んな形で新しいことをやってみたいと思ってるんで、是非色んな人とやってみたいです。

─これを見たプロデューサーさんがいたら、ぜひ。今後のライブ活動や、今後のリリース、BSTAでの動きについてはどうですか?

須田修矢:
ライブはいまのところそんなに頻繁にやってる訳ではないですが、ブッキングはぜひよろしくお願いします。自分がめちゃくちゃ盛り上げるとかそういうタイプでもないので、どういう形でやるのが良いか、スタイルを模索してるところです。リリースも、まだ明確な日付がある訳ではないですが作り続けています。2022年はクリスマス以外にもリリースしていこうと思ってるので、期待しててください。BSTAとしては全員そろってBSTA名義でとかってのは正直あるか分かんないですけど、メンバー間での曲とかはどんどん出てくると思います。

―最後に、一言で「自分はこういうアーティスト」というようなものはなにかありますか?

須田修矢:
良い曲しか作らない…これは違うかな(笑) でも、誰かに寄り添えるような歌を作り続けたいです。

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2022/02/07
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