Column/Interview

近年日英で2Stepをベースとしたラップミュージック/HIPHOPがリバイバルしている。2000年代初頭に産声を上げたこのジャンルは、同時代的にはm-floなどの功績により主にJ-Pop寄りのフィールドで当時のポップスをアップグレードする役目を果たしたのち、本国UKでの衰退と時を同じくして推進力を失っていった。また当時の日本のアンダーグラウンドな、あるいはハードコアなHIPHOPシーンへの影響も限定的だったと言って良い(これは多分に「ポップス側との線引き」がリアルである為の重要な指標であった同時代性を反映したものとも言えるだろう)。

しかしその後、20年の月日を経た2020年代に入り、この音楽はHIPHOPシーンの中で確かな存在感を放ちつつある。空気感まで見事に蘇らせたJUBEE “Joyride”は言わずもがな、今になってアーティストを惹き付けるこのジャンルの魅力はどこにあるのか。また、今になってなぜ再興の兆しが高まっているのか。

今回PRKS9ではSpotifyでコアな人気を博すプレイリスト「出勤!2STEP警察!」をキュレートし、The LASTTRAKのメンバーとしても活躍するTakachenCo.に、2Stepの定義からその歴史、リバイバルの要因までを寄稿して貰った。


そもそも2Stepとは何か


「ハウスのようで4つ打ちじゃない」、「R&Bのような歌ものが多い」、「昔流行ったよね?」みたいなボンヤリしたイメージを持ってる人が多いと思うが、元々はUKアンダーグランドミュージックのひとつ、UK Garageのサブジャンル。90年代後半にUSハウスの中の4つ打ち以外のトラックからUKのDJがヒントを得つつ、ジャングル/ドラムンベースを生み出したUKレイブカルチャーの魂が乗り移ったような音楽でもある。

トラックメイカー目線で説明すると、「4つ打ち」だったUK Garageに対してキックが2つ、または3つ。例えば1拍目と3拍目の裏にキックが入るような打ち込み方が多く、ハイハットやシェイカーなど高音の鳴り物を複数使用するほか、スネアのゴーストノートも多用される。それらのスウィング(揺らぎ)を強くすることであの独特のグルーブ感が出てくるジャンルだ。既にUK本国でもリバイバルしていることに加え、日本ではtofubeats, Carpainterの活躍で過去の音楽というイメージは払拭されてきている感もある。とは言え日本のHIPHOPシーンでも2Stepを起用するアーティストが増えてきているのは非常に興味深い現象だ。

これまでの日英での2Stepの盛衰


私は渡英したこともないのでリアルタイムな現地の雰囲気がどうだったのかは体験してはない。従い1999~2003年あたりの日本からの視点での話になるが、元々はアシッドジャズから始まり、90年代中盤からはアブストラクトHIPHOP, ドラムンベースなど新しい音楽を紹介してきたGilles Petersonのレーベル・Talkin’ Loudが2000年にMJ Cole “Sincere”をリリースしたことの印象が強い。当時は「次の音楽は2stepだ!」みたいな触れ込みで雑誌や販売店でも展開されていた。現在も2Step=MJ Coleというイメージを持っている人たちは多いのだが、恐らくはこの辺の影響があるのではないだろうか。

なお、それに先駆けて1999年にはArtful DodgerとCraig Davidによる”Re-Rewind”がUK総合チャートで上位をマークし、2000年にはそれぞれがアルバムをリリースしている。キングオブ2Stepと言われるようになったCraig Davidはクラブミュージックシーンを越え洋楽チャートでヒット。当時強気な発言でも注目されたサッカー選手・中田英寿がフェイバリットにあげたことも話題になった。

これらの合わせ技で、当時のFMラジオ局やタワーレコード、HMV, ヴァージンのような輸入盤を扱うショップのプロモーションでも「2Stepが来てる!」と喧伝され、そうした雰囲気がこの2000年に作られていった。日本のクラブミュージックのプロデューサーもこの流れに反応した。まずは2000年5月にリリースされヒットしたMondo Grosso ”Life feat.bird”のカップリングに大沢伸一自らが手掛けた2Stepヴァージョンが収録された。同年6月にはTEI TOWAがクラムボンの原田郁子を起用し”火星”を、10月にはm-floによる平井堅 ”TABOO [a tip of M-FLO remix]」(Vocal: LISA from m-flo)”がリリースされる。そして年の明けた2001年1月には、いよいよJ-POP史的にも超重要曲となるm-flo ”come again”が世に出て大ヒットを記録することになる。その後も平井堅 ”KISS OF LIFE”などがリリースされており、この流れをもって日本の音楽業界でも「今は2Stepがトレンド」という認識が芽生えた、そんな時期だったと思われる。

(こちらはオリジナル版)

ただ、遅かれ早かれトレンドの風向きは変わるもの。2Stepもその例に漏れず、2003年には一気に盛り下がってしまう。2001年にはUKチャート上位をマークしていた人気グループ・So Solid Crewがクラブでの暴力事件などを連発、「2Stepシーンは危険」というイメージが流布されてしまい、クラブやレコード各社がサっと引いてしまうことに。UK Garage自体は4つ打ち回帰へシフトし、MJ Coleの2003年の2ndアルバム『Cut To The Chase』もUK Garage本来のサウンドへと戻ったかのような内容だった。2Stepから派生したグライムやダブステップがそれぞれ盛り上がっていったこともこの流れでの2Step離れを促す一要因だっただろう。グライムシーンの盛り上がりを世界に伝えることとなったDizzee Rascal『Boys in da corner』も2003年に出ていることから、このわずか2-3年の間でトレンドの風向きが変わってきたことを表している。



20年越しの2Stepリバイバルへ:近年の日本のHIPHOP×2Step


前段が長くなったが、そろそろ本題である、近年の日本のHIPHOPで2Stepの楽曲が目立ってきている件について考えていこう。まずは具体駅にどのような楽曲があったのか、代表的なところを取り上げていきたい。

JUBEE “Joyride” (2020年)

90年代中期~00年代初頭にかけての音楽ムーブメントへのリスペクトでも注目されているアーティストなので、2Stepも取り上げてくれたのは非常に嬉しかった。JUBEEがトラックを制作しフックのボーカルとしてSARA-Jを客演に招いたこの曲は、2000年代当時の2Stepマナーを見事に踏襲している。

▶同曲についてや、2Step, ミクスチャーなどへの考えについても語ったJUBEEのインタビューはこちら

Daichi Yamamoto “Let It Be feat.KID FRESINO” (2019年)

Daichi Yamamotoは2018年にもトラックメイカー・QUNIMUNEの”Foolish feat. Daichi Yamamoto”で2Stepビートでキックしており、2Stepコラボとしては第2弾と思われる。QUNIMUNEは音楽性の幅の広さを感じさせるトラックメイカーではあるが、2021年にも”Kill Me”でも三度Daichi Yamamotoとタッグを組み2Step楽曲を発表している。Daichi Yamamotoの歌っぽくなるヴァースも2Stepっぽさをより強くしている要素だろう。

DJ YEN,15MUS Production “City feat.ASOBOiSM” (2020年)

4曲それぞれ違う音楽性というカラフルな作品集『Tokyo Vocalist』に収録された2Step楽曲。ASOBOiSMの歌と2Stepのリズムが絶妙だ。

SAM “Drama” (2021年)

MCバトルで名を上げた栃木出身のラッパー・SAMは2Step楽曲が複数あるアーティストだ。「2Step警察」である筆者としては注目しているアーティストの1人でもある。聞きやすいリズミカルなライミングが2StepのBPM, リズム感と見事に噛み合っている。

ralph / Back Seat (2020年)

ドズの効いた低音ボイスに時に恐怖さえ感じるRalphはUK Garageサウンドを積極的に取り上げているラッパーでもある。この”Back Seat”は日本を代表するグライムプロデューサーチーム・Double Clapperzによるもの。ベースの配置、低さが凄く、ベースミュージック度が高い。2021年にリリースしたアルバム『24oz』ではCarpainterによる2Stepチューンもある。

HEDWING, SatoCobain “No Problem” (2021年)

HIPHOPヘッズのK.EG君から教えてもらった曲。いきなり「神様居ないだろ~」という強烈なインパクトで幕を開ける2Step楽曲。ソングライターとして記載されているSippy BluはYouTubeにてType Beat(トラックの直売)も行っており、UK Garageものを数多くアップしてる。

Gucci Prince “Bacon Ⅱ feat. Kick a Show&鎮座Dopeness” (2021年)

Normcore Boyzを脱退したGucci Princeの8曲入りEP『HERO』に収録されいる2Step楽曲。90年代テクノのようなシンセフレーズが印象的だ。客演参加している鎮座DOPNESSのラップが2Stepに乗っているのが非常に新鮮。

他にもAwich, TAEYOなど人気アーティストにも2Step楽曲は多々ある。2StepではないがUK garageテイストを引き継ぐBass Houseのようなどんぐりず “NO WAY”, Bloom Vase “Bluma to Lunch”などもTikTokを中心にバイラルヒットしていることを思うと、UK Garage的なグルーヴは若い世代にも馴染みがあるものとして届いているのかもしれない。



なぜいま2Stepリバイバルなのか


いまになって2003年以来にUK Garageモノがリバイバルしている流れを見ていると、ある程度何らかの要因に根差したものであることが窺える。ある1点に集約されるものではないだろうが、ここではいくつか理由を考えてみた。

Trapの派生系としての受容:

2Stepはビートのプリセット的にも、TR808系のサンプルでビートの応用が利く。その上でBPM130のTrapからは2Stepに移行しやすいビート上のシフト性がある。トラックメイカーの立場から見れば、バリエーションの1つとして考えられている可能性はある。

Typebeatの隆盛:
BeatStars, YouTubeなどでビートを直売するTypebeatが世界的に一般化されてきた。これは日本でも同様だ。トラックメイカーは特定のアーティストのようなトラックを作り、〇〇Type Beatとしてアップ。あとは直接交渉となる。BeatStarsなど仲介サービスもあるので従来のように知り合ったトラックメイカーのストックを聞かせてもらったり制作を依頼するというよりはラッパー主導でトラックをどんどん選んでいくという時代になってきた。YouTubeでTypebeatを検索するとTrap以外にもいろいろなサウンドがヒットする。その中にUK Garage, 2Stepが含まれることもままあるので、カッコ良いと思えば2Stepだろうがなんだろうが、サブジャンル名に拘らず使う、という傾向は強くなっているだろう。

様々な音楽に潜む2step:
K-POPには実際にUKのGarageシーンで活躍していたプロデューサーが手がけていた楽曲もありUK Garage, 2Sstepテイストの楽曲は数多ある。元々ボーカル楽曲とも相性が良いということもあるし上記のようなTrapからのスイッチ、または4つ打ちのハウスからのスイッチというアクセントとして用いられる場合もある。BPM140~150台と早くはなるが、Future Bass系楽曲でもビルドに2Stepぽいパートが採用になることもあり、昨今乱発されているJust The Two Of Usコード進行との相性が抜群だったりする。このあたりのシフト性、それによる登場頻度の高さ、そこからのリスナーへの浸透度はあるかもしれない。

親世代からの影響:
筆者が新世代アーティスト・Misaki Hinataとも共作するトラックメイカー・FelineTeckとDMをやり取りしていた際、彼の両親が平井堅のファンで、”Taboo”のm-flo REMIXにも彼自身かなり食らったとのエピソードを教えてもらったことがある。今の10-20代前半のユース層は、その両親が2000年代初頭に20-30代だった層の子供だ。子供の頃から親の影響でm-floや平井堅、CHEMISTRYの2Step楽曲を素直に聞いている可能性も高く、従って耳馴染みもあるスタイルではあるかもしれない。ある意味普段からよく効くHIPHOP/R&Bのひとつのサブスタイルとして受容されている可能性もあるだろうい。

Carpainterが若手トラックメイカーへ与えた多大な影響:
20代半ばのトラックメイカーと話す機会があると、必ずと言って良いほど名前が挙がるのがCarpainterだ。三浦大知 “EXCITE”を手掛けたことで有名だが、TREKKIE TRAX, Maltine Recordsでのリリースやtofubeats “ディスコの神様feat藤井隆(Carpainter Remix)”で2Stepを知ったというリスナーは多かったのではないか。こうした大きな存在感ある2Stepのトラックメイカーがいること、そこを震源地とした今のユース層への影響は大きいのかもしれない。

以上、近年の日本のHIPHOPで2Step楽曲が増えてきている要因について考えてみた。どうしても推測の域を出ない部分はあるが、こうした楽曲は今後も増える気がしてならない。それは筆者にとっても嬉しいことであり、これからも2Step楽曲には注目していきたいと思う。Spotifyのプレイリスト『出動!2step警察!』ではそうした楽曲を取り纏めているので、是非Spotifyユーザーはフォローしてみて欲しい。

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2021/12/05
PRKS9へのインタビュー・コラム執筆依頼・寄稿などについてはHP問い合わせ欄、あるいは info@prks9.com からお申し込み下さい。

TakachenCo.:
盛岡在住のTakachenCo.と東京在住のC.Sayidによる兄弟リミキサーユニット・The LASTTRAKの一員。インターネットに投稿したブートリミックスの数々やmaltine recordsからリリースしたMINTとのコラボEP『だぶすてEP』により注目を集める。これらの活動がきっかけにアニソンからヒップホップ、アイドル、ボカロなど様々な公式リミックスを手掛けるようになる。
これまでのREMIXワークとして三森すずこ、MIDICRONICA, GRANRODEO, Cherry Brown, Deco*27, チームしゃちほこ、fhana, 高田梢枝ら。楽曲制作/楽曲提供としてCharisma.com, 韻踏合組合、Nirgilis, somunia, 星宮ととなど。

Twitter: https://twitter.com/takachenco 
Spotify: https://open.spotify.com/artist/27tedpw5lwTFuWL8i8xVqT?si=ckmSVlOpSjKfLEfOG37Vnw&nd=1 

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