Column/Interview

誰でも気軽にDTMを始められるようになった昨今、特にインディーズではビートメイクやラップはもちろん、Mix & Masteringまで自身で行うアーティストも増えてきた。

誰でもDIYでそれなりのサウンドの曲を出せるようになってきた状況がある一方、一定の基礎知識に基づいてきちんと作業すれば、明確に楽曲のクオリティを底上げ出来るメソッドがあるのも確かだ。

しかしこうした知識・ノウハウは──とりわけ日本のHIPHOPに特化した視点からは、語られる機会がほとんどなかった。

今回PRKS9では、名古屋を拠点に置くスタジオ・路地裏LaboのAKILLYより、楽曲を技術論的に底上げするにはどのようなメソッドがあるのか、HIPHOPの観点から全3回に渡って解説してもらうこととした。
路地裏LaboはJ-Popなども手掛けつつ、主に名古屋のラッパーを手掛けるスタジオ。

AKILLYの解説を通して、手探りでDTMしながら「もう一段楽曲の質を上げたい」と思っているアーティスト達の、あと一歩の助けとなれば幸いだ。

名古屋の個人音楽studio・路地裏LaboにてエンジニアをしているAKILLYです。
ギタリストとのユニット・路地裏CatWalkでラップしたり、ビートも作っています。

この度PARKS9で、エンジニア目線での「楽曲のクオリティを上げるメソッド」を連載させて頂く事になりました。
内容は以下の3回を予定しています。


1. Recは掛け録りをするべき
2. TypeBeatへのMIXテクニック
3. 音圧はどこまで上げるべきか?


第1回のこの記事では、Recの掛け録りに使っているプラグインの話をしていきたいと思います。
掛け録りとは、ヴォーカルを録音する際に、生の声のままではなくエフェクターを通した状態で録音、もしくはプラグインを掛けた状態で録音すること。

今回はいくつか特定のプラグインを紹介しますが、必ずしもこれである必要性はありません。
同じ機能があるものであれば、お好きな他のプラグインでぜひお試しください!

 Recは掛け録りをするべき

皆さんはRecの時にプラグインを挿していますでしょうか?
AutoTuneを使いたい時は掛けながらRecする、という方は結構いると思います。

しかし、Recの時にコンプやEQ等を刺して良い声を作った方が、確実にモニター環境が良くなります。
このため完成形を意識しながら録音することができ、結果として完成品のクオリティが上がります。

また、しっかりMixされているビートの場合、掛け録りをしないと声が浮いて聞こえてRecに時間が掛かったり、実はOKだったのに没曲になったりする可能性もあります。

実際、大きなスタジオではアナログ機材を通してRecが行われていますが、僕はその代わりとして、以下に紹介するプラグイン達を挿してRecしています。
是非参考にして実践してみてください!


 1. waves Scheps Omni Channel

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WAVESから出ているチャンネルストリッププラグイン。
基本的な機能が全部揃っていて、かつ好きなwavesプラグインを1つ追加出来たりもします。
(*画像は実際に使用した際の設定ですが、声質や曲、MICによって変わります)

画像で使用した機能は次の通りです:

PRE:
最近のHIPHOPは声を格好良くするため、よく倍音が強められています。
このサチュレーションはその倍音を強める機能で、ここで声に味付けをして格好良くしていきます。

DS:
少し出過ぎてる帯域や耳に刺さる音/歯擦音などを抑える機能です。
やりすぎると歌う側が抜けが悪く感じてしまうため、適度にしましょう。

COMP:
ラップは割りと安定した音量で録れるので、軽くだけ潰して安定感を出しています。
目安として、強い時にリダクションが一瞬-6に行く程度が良いと思います。
僕は基本的に-3くらいを目安にしています。

EQ:
ここのEQはサチュレーションと同じく、声を格好良くする為に使っています。
使用したMICはヴィンテージな音なのでHIを上げて伸びを出し、倍音成分を良い感じに持ち上げるイメージ。
あまり下げすぎるのも良く無いので、僕は3db以上は上げないようにしています。

以上の機能を使うことで、まずは声を格好良く加工し安定感を出します。


 2. fabfilter Pro Q3

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続いては超有名かつ超優秀なプラグイン・fabfilter Pro Q3です。
まず何を買えば…と相談された時に必ずこれをおすすめしています。

このEQだけで1記事書けるほどに良いEQなので是非調べてみてください!

今回の画像で行った処理は以下の通りです:

Lowカット:
今回の曲では、Lowに音が結構居てスッキリさせたかったのでカットしています。

2400Hz & 4000Hz:
やや強い瞬間があったのでマルチバンドEQ機能で軽くだけ抑えています。

5000Hz:
若干の声抜けと、倍音の強化です。

注意したいのは、こうした数字感は全てケースバイケースであることです。
よく「◯Hzを上げると格好よくなるよ!」みたいな記事がありますが、これらはあまり参考にし過ぎず、実際の音を聞きましょう!

EQは基本的に引き算で考えるのが通説です。
上記の画像を見るとロウミッド辺りも抑えたくなりますが。
自分で声色が作れるアーティストはその声の成分を好きで出しています。
そのため削ると物足りなくなり、逆に過剰に出す場合もあったりするので、最終的にはアーティストを見て判断しています。

従って、この段階ではRecがしやすくなる程度の処理に抑え、MIXでしっかり吟味します。

他にはこのEQをアナライザー代わりに使用して、先述のScheps Omni Channelでのディエッサーをどの部分に掛けるか、EQでどこを強めるかなども参考にします。


 3. waves GW VoiceCentric

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wavesのワンノブ系プラグイン・GW VoiceCentric。
難しい設定をせずに1つのボタンで良い感じに仕上がります。

これはコンプやEQ機能等も内部で処理していて、本来はセンドで立ち上げないものかな?と思うのですが、僕はDelay&Reverb用として2つセンドBUSで立ち上げて使っています。

Delay用の方はMonoで立ち上げてReverb用の方はMono/Stereoで立ち上げて後段にステレオイメージャーを挿し、ステレオ幅を基本値が100なら30くらいまで減らします。
そうすることでDelay/Reverbをしっかりかけても浮く事なく、楽曲に馴染むヴォーカルに仕上がります。


 4. SLATE DIGITAL VMR

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最後に紹介するのはこちら。

最近「SLATE DIGITAL ML1」というMICを購入し、それを機にSLATE DIGITALのサブスクに入ってこのVMRというプラグインを使ったのですが、これもとても良かったので紹介させて下さい。

これはアナログ機材をシミュレートしたプリアンプやコンプ等を、スタジオラックのように自分でカスタマイズしながら複数挿せるプラグインになります。

もしかすると、Scheps Omni Channelは使わなくなる可能性も。
月額$9.99で入れますので気になる方は是非調べてみてください!
上記で紹介したfabfilter Pro Q3は是非買いましょう!損はしません。
(おすすめ理由を述べると本当に1記事分あるので割合します。この世に絶賛する記事は沢山あるので)


いかがでしたでしょうか?

つい最近掛け録りをしていなかった頃のプロジェクトを開いたのですがやはりMICは同じなのに、音は今より悪かったです。

今回紹介した内容と全く同じである必要は無いので、同じような意図を持ってみて、是非掛け録りにチャレンジしてみてください!

それではまた次回。
第2回の記事ではType BeatへのMIXのお話をさせて頂きます。

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2021/03/08 Text by AKILLY from 路地裏CatWalk ( Twitter )

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