Column/Interview

Lilniinaはどこか儚げだ。救いの光を求めてバンドからHIPHOPに転向、その後2020年にヴァーチャルな世界観を描き出した1st EP『LOVEis0nline』を発表、そして「自分とは違う」と語る女の子像を描き出した”Gotcha!”でのスマッシュヒット…。そこにはいつも1枚、透明で薄い壁があったような気がする。

そしてそれは、同じく何か薄く透明な壁を抱えた…特にユース層に着実に浸透していく。言葉に出来ない葛藤、薄く重い壁があることを、Lilniinaが音楽として表現してくれる。そんな感覚からの彼女への支持は至極真っ当なものだろう。Lilniinaはそんな自身のヒーリングが最も届く層を正確に理解し、出来るだけ広い範囲に光を届けようとする。そこには性別も年代も、性的嗜好も関係なく、ただ彼らが自分を投影出来る物語が広がる。本稿でのLilniinaの真摯な姿勢・考えを通じ、彼女が誰に何を届けようとしてるのか。それを知る機会となれば幸いだ。

登場する主なアーティスト(順不同):
Nirvana, yingyangAaran, Bain, Lil Peep, XXXTentacion, Duke of Harajuku

─本日はよろしくお願いします。

Lilniina:
よろしくお願いします、ラッパーのLilniinaです。
愛知県出身で、最近はライブやMV撮影もあって、名古屋と東京を行き来しながら活動しています。

─HIPHOPに出会うまではどのような音楽を聴いていたんでしょう?

Lilniina:
元々小学生の時にNirvanaの”Smell Like A Teen Spirit”を聴いてロックに目覚めました。

小6くらいからはエレキギターを始めて…ギターの担当として、高校まで色んなロックバンドを組んだりしてました。
小学生の時のバンドは流石にコピーバンドで始めて、高校生くらいからは自分たちで曲も作るようになって。
自分1人より、当時はみんなで曲を作る、って感じでした。
バンドのときはエレキ担当で、歌うとかは考えてなかったですね。
その頃から今に至るまで、グランジやパンク、エモロックみたいな音楽はずっと聴いています。

─今のお話だと完全にロックの道に進みそうですが…そこからHIPHOPに出会ったきっかけは?

Lilniina:
そうですね、だから元々HIPHOPのことは全然知らなくて、ずっとバンドを聴いていて。
2年くらい前までほんとにHIPHOPを聴いたことはなかったんです。
たまに親や友達のプレイリストから流れてくるくらいで…そういうジャンルがあるのは分かるけど、曲や名前は全然知らないみたいな。
その頃はまだ偏見があって…やっぱりお金持ってて悪いのを自慢する、みたいなイメージを持ってたんですけど。

そんな中でいわゆるEmo Rapと言われるような…Lil PeepとかXXXTENTACIONを知りました。
HIPHOPにも根暗な部分や、暗いけど救いの光がある。
そんな空気感を感じて魅了されました。
やっぱりあの辺は、ロックを聴いていた自分にも感じる部分が凄くあります。

─そこからバンドではなく、ラップをやろうと思った経緯は?

Lilniina:
元々バンドでは、メンバーとの熱量の違いを凄く感じていて、ずっと自分1人で音楽をしたいなって思ってたんです。
自分は中学生くらいの頃から「自分が社会人になって就職してる未来が見えない」と思って、音楽で生きていく決意を固めていて。
自分ならいけるっていう…根拠のない自信がありました笑

そんな中でHIPHOPを知ったのが2019年頃とかで…Lil Peepとかを知ったんですけど、そういうのを教えてくれたのがよく一緒に曲を作るyingyangAranくんとBaindali(現Bain)くんでした。
Aranくんは自分の高校の2駅隣の高校に通っていて…同じ電車で通学するうちに、友達を通じて仲良くなって。
なんかインスタで共通の友達の投稿を見たりしてるうちに、「〇〇高校の〇〇って子なんだ」って顔は認識してたりするじゃないですか。
それで例えばハロウィンや学祭とかでちゃんと知り合うみたいな…そういう感じでまずはAranくんと繋がったんです。

そこから「Bainって奴もラップしてるから、今度3人でやろうよ」って声を掛けてもらって。
彼らと友達になってから、SoundCloudも含めて色んなアーティストを教えて貰いました。
Bainくんは当時から既に売れ始めてたのかもしれないですけど、自分はそんなこと知らずに出会って…まだ「ラッパーってこわ!」くらいのイメージでした笑

その時2人は既にラッパーとして活動していて。
話を聞く中で2人とも基本的に1人で制作しているって聞いて興味を持ったんです。
自分はバンド活動で録音したりする際に使う用に元々Logicを持っていたので、それを基に、まずはビートメイクを始めました。
それでいざ作ってみると「せっかく作ってみたし、声も乗せてみるか」ってなって…そこから歌うようになりました。
その初めて作ったビートがSoundCloudにある”Daydreamer feat. Aran, baindali”で。
2人に聴かせたら気に入ってくれて、歌ってくれることになりましたね。

─HIPHOPをそれまで知らなかった状態からビートメイクする…どうやって作っていったんですか?

Lilniina:
まず、Lil PeepやJoji…教えて貰って気に入っていたアーティストを聴き込んで、まずドラムパターンを理解しました。
「あ、こういう感じなんだ」って分かったら、最初はそれを真似して打ち込んで。
その上に自分で弾いたギターを乗っけたりして作っていきましたね。

─そういう意味だと、特に影響を受けたアーティストとなるとやはりLil PeepやXXXTENTACION?

Lilniina:
うーん…これまで自分が聴いてきた色んなアーティストから色んなものを受け取ってきてると思うので、特定のこの人、っていうのはいないというか、自分では分からないですね。
もちろんその時々で聴いていたアーティストの影響がその時期の曲には出てたりするのかもしれないですけど。
Lil Peepとかも、良い意味であくまで(HIPHOPへの)入口を作ってくれた、ってだけだと思います。

─そこから日本のHIPHOPコミュニティで輪を広げていったのはSoundCloud経由ですか?
 yingyangAranさんやBainさん以外にも、Yokai Jakiさんとも関わりがあったり、”BULLET”(『LOVEis0nline』(2020年)収録)ではクロスジヒトリのWon(現₩)さんが参加していたりしますよね。

Lilniina:
そうですね、サンクラ経由です。
私がサンクラを始めた頃が、きっとちょうど本格的に流行りだす直前くらいの時期で。
当時はまだアーティストの数とかも今ほど多くなくて、みんな今みたいに売れ出す前でした。
だからお互い知り合いやすかったし、繋がりやすかったですね。
ある程度閉じられた人たちの中で、カッコ良い人を見つけやすい環境だったと思います。
₩くんもBainくん繋がりで紹介してもらいました。

自分自身も色んな人と繋がりたいと思ってたので、サンクラでまずは色んな人を聴いて。
そこからカッコ良かった人はインスタとかも見に行って、フォローしたりDMしたりっていうのを続けてました。

─やはりSoundCloudには配信ストアにはない魅力がある?

Lilniina:
そうですね、サンクラには尖った人やまだまだ知名度のない人たちもたくさんいて。
でもその中に自分が気に入るような人も確かにいるので、コアな面白さがあると思います。

ただ…最近は「サンクララッパー」っていうカテゴリで括られるのは嫌だなって思います。

ちょっと自分とはスタンスが違うなって人も自称してたりするので…。
アーティストは憧れられる、真似したいって思って貰える存在だと思うので。
そういう存在がどういう立ち振る舞いをするべきなのか…。
自分自身はもっと良い影響を与える存在でありたい。
もちろん面白い人たちもサンクラにたくさんいるので、使い方、繋がり方だと思いますね。

─SoundCloudへの投稿当初…特に初作”Daydreamer feat.Aran, baindali”ではEmo Rapの流れなども感じさせつつ、Lilniinaさん自身はかなり歌寄りのアプローチを志向されていた気がします。

Lilniina:
そうですね…さっきお話しした通り、この曲が完全に初めて録った曲で、このときは「HOOKってなに?ヴァースってなに?」って2人に聴きながら作ったくらい、まだ何も知らなかったんですよ笑
だから作ったときは「自分がラップをする」ってマインドになってない…自分には出来んやろ、みたいな思いもあったので、まずは歌った感じです。
それから「韻を踏む」みたいな、少しずつラップとしてのアプローチに寄せていった感じで…まあ、今もそんなにラップラップした感じではないですけどね。

─元々のルーツのロック的な部分とのブレンド感がLilniinaさんの良さですしね。
 そういえば、初期の音源ではMC名もLilniinaではなく27名義でしたよね。

Lilniina:
そうですね、単純に読みにくいし覚えにくかったので止めました笑
Lilniinaって名前も「lilと名前の間にスペースがないのは変」とかよく言われるんですけど…これは自分の曲によく参加してくれるaoichrくんと考えた名前で。
まあ、LINEでノリで変えたんですけど、「やっぱ”lil”じゃね?」みたいな感じで笑
その中で色んなパターンを考えた中で選びました。

─Lilniinaさんのアートスタンスというか、伝えたいことについて教えて貰えますか?
 例えば初期の楽曲に特徴的ですが、「許して子供だし」(“mellow…mallow..”), 「まだ子供だからって言われるし」(“HIGH AND DRY”)など、かなり自分の子供として扱われることへの葛藤みたいなものが見える気がします。

Lilniina:
子供扱いへの葛藤みたいなものは…やっぱり自分も、自分を聴いてる主なリスナー層も大人と子供の狭間くらいの年齢層だと思うんです。
それくらいの頃ってやっぱり子供扱いされると反抗したくなるし、でも大人としての責任を負わされると逃げたくなるし…ちょっとズルいというか。
自分はそういう少年・少女の心を持ったまま不安定に揺れる葛藤や迷いを歌おうという意識はあります。
自分自身もずっとそういうことを考えちゃうし…根暗なので笑
そういう意識は今も続いてるので笑、今の曲に至るまで一貫してる部分ですね。

─いい感じに駄々をこねてるというか笑
 そこから1st EP『LOVEis0nline』の制作に至る背景を教えて下さい。

Lilniina:
これはラップを始めてから半年くらいで出した作品です。
“Daydreamer”以降、サンクラでいくつかシングルを出した中で、「ひとつのコンセプトに沿った曲を集めた作品を作ろう」って意識が出てきて。
だから全体のテーマを決めて、そこから各曲の個別のテーマを作り込んでいきました。
テーマは「画面越しの愛」で、例えば冒頭の”Love me thru the phone”では2次元の女の子に恋する話を描いています。
客演のaoichrくんもオタクなので、こういうテーマでやろうって誘わせてもらいました。

このEPはアートワークやMix, Masteringも自分でやりました。
ビートメイクはまだまだ拙いので他の人にお願いしたりもするんですけど、この辺の作業は自分でも勉強しようと思って、やるようにしています。

これが初めてのEPでしたが、結構みんな聴いてメンションが来たりして、嬉しかったです。
シングルじゃなく、4曲まとめて作る…客演や外部の人も交えて作るっていうのは大きな経験になりましたし、達成感のある作品でしたね。

─その後公開した”Gotcha!”のMVがスマッシュヒットしました。
 ここでコアなヘッズにも知名度が浸透した気がしますが、この曲の背景や、ヒット後への手ごたえについて教えて下さい。

Lilniina:
これはもう意識的に女の子らしい曲を作ろうと思って、「こういう女の子像にしよう」というのを決めて書きました。
この曲以前は今よりも知名度がなかったので、ひとつキャッチーでみんなが聴いてくれそうな、受けそうな曲を狙って作ろうと。
いざ出してみると予想以上に反響が大きくて驚きましたね…結構ノリで作ったんですけど笑
MVもラフで素朴な感じにして、「こういう女の子がいますよ」というのを(自分とは別に)示して見せた感じです。
だからMVの格好や歌詞も、意図的に入口を広くしてある感じで…
まずはみんなに知ってもらう、その為に作った曲ですね。
ゴリゴリに万人受けを狙ってます笑

─その後、3か月後には2nd EP『PricE of pAssioN』が出ました。
 この作品からも”I’m tryin :(“など、特に同世代から支持を受ける楽曲が生まれました。

Lilniina:
リリースのスパンについては特に意識していた訳ではなくて…曲に集中できる時と、何も手に付かない時とがある中でこの時期になっただけですね。
ただ、きっかけとしてはまず最初に”I’m tryin :(“が出来ました。
それをデモ版としてサンクラに上げたら好評だったので、じゃあこの曲を軸にしたEPを作るか、と思ったのが経緯です。
だからEPのコンセプトとしては、”I’m tryin :(“に代表的な通り、若い世代における葛藤…頑張ってるのに見て貰えない、認められない、そんな思いが描かれた内容になってます。

その意味でさっき言った自分のアーティストスタンスの地が出た作品でもありますし、それは”Gotcha!”で少し知名度が上がったことを受けて、こっちでは素の自分を出せると思ったからで。

─”I’m tryin :(“や”We wanna die together”に顕著ですが、ビートはハイテンポでノリでも聴ける一方、歌詞は破滅的なのがLilniinaさんの特徴な気がします。

Lilniina:
そうですね、自分は素が暗いので悩んだり苦しんだりみたいな歌詞が多くなるんだと思います。
自分は感情が強く動いた時に歌詞が浮かんだりするんですけど、それはやっぱりネガティブなことが多くて。
でもビートの好みはハイテンポなものなので、そのバランス感でこうなる感じですね。

自分はタバコもドラッグもしないですし、お酒とかもほとんど飲まないので、曲がある意味そういう悩みとかの吐き出す先になってるんだと思います。
曲にして公開して、みんなの感想やメンションが見れたら結構スッキリして…よく寝れますね笑

─”We wanna die together”にはDuke of Harajukuさんが参加してますね。

Lilniina:
そうですね、Dukeさんは元々インスタで繋がって…自分たちみたいな全然まだクソガキなアーティストのことも応援してくれていて。
元々音楽的な感性も近いと思っていた中で、この曲が出来た時にこれはDukeさんにぴったり合うと思ったので連絡して、客演に入って頂きました。

─”Saver”での「She love me when I worth it」というラインや、特に初期の楽曲での1人称が「僕」の視点から語られたりするなど、あえて男性目線に立ったり、曲によって性別を自由に行き来されているような印象があります。
 この辺りはリリックスタンスとして何か意識されているのでしょうか。

Lilniina:
これは結構昔…それこそバンド時代から意識していることで。
曲の中で1人称の性別をなるべく限定したくないと思っています。
聴いてる人が誰でもその曲の主人公になれるような歌詞を書きたいんです。
だから究極的には1人称自体が一切出てこないような歌詞に出来ればと思うんですけど、そこはまだ自分の力不足もあって出来てない部分です。
そうした中で…英語のmeや僕という単語は、1人称の中でも一番性別を問わない、ぼやけた呼び方だと思っていて。
だから1人称を使うときにはこうした単語にすることが多い、という感じですね。

もちろん曲によってはさっきの”Gotcha!”みたいにめちゃくちゃ女の子な曲も書いたりするんですけど、そうじゃないときはこういう意識がある感じです。

やっぱり聴いてる人には自分の曲に入り込んで欲しいし…入り込んでもらうにはその人が共感出来る、自分に置き換えることが出来るっていうのが大事な視点だと思います。
自分のリスナーにはきっと多様な性を持った方がいるだろうと思う中で、「誰が誰に重ねても良い曲」を作ろうと、こういう歌詞の書き方を意識しています。

─そして最新曲”Swipe 2 Connect”はマイナビとも組んで、既に企業案件をこなすまでになっています。

Lilniina:
企業テーマに沿って歌詞を書いて作曲までするって初めての経験でした。
いきなりお話を頂いてびっくりしたんですが、上手く出来た…のではないかと思っています。

卒業する高校生向けのキャンペーンでもあったので、曲調も意図的にコロコロしたかわいいポップス寄りにして、その上で元々のテーマに沿った単語を歌詞に入れていくように意識しました。
いま配信しているのはHOOKだけのショートバージョンですが、かなり評判も良かったので今後ロングバージョンも作ろうと思います。

─最後に、今後の予定について教えて下さい。

Lilniina:
このあと4月にひとつシングルリリースをして、それ以降は本格的にフルアルバムの制作に入ります。
その際にあるイラストレーターさんともコラボして、グッズも販売するような展開をしていこうと思っています。
夏頃には出せればと思っていて…その時に新型コロナウイルスがどうなっているか分かりませんけど、それに合わせてライブも回ろうかなと考えています。

─ありがとうございました。

以上(2021/03/28)
───
PRKS9へのインタビュー・コラム執筆依頼・寄稿などについてはHP問い合わせ欄、あるいは info@prks9.com からお申し込み下さい。

▶Lilniina
Instagram
/ Twitter






関連記事一覧

  • コメント ( 0 )

  • トラックバックは利用できません。

  1. この記事へのコメントはありません。