Column/Interview

リスナーは今後、homarelankaの名前を否が応でも覚えることになる。激烈な体験を経て制作された初音源 “riot.”以降、名古屋の新鋭は最短の打ち手でシーンの階段を駆け上がりつつある。初の自身名義の配信リリース曲となった”III MY SELF”では客演のCampanellaに並び立ち、同時期に発表されたC.O.S.A.のEP『FRIENDS & ME』収録曲”Stay Gold”でも堂々たる客演仕事をやってのけた。この2曲で、既に多くのリスナーが感じ取ったはずだ、「規格外な奴が出てきた」と。傑出した存在感を放つ若手の根差すルーツとは何か。そこには怒りを転嫁する手段として手元にあったHIPHOP、そして既に導火線に火のついた名古屋シーンの存在があった。

登場する主なアーティスト(順不同):
NEI, Ryo Kobayakawa, C.O.S.A., Campanella, XXXTentacion, クロスジヒトリ, Ramza, ONI, M.O.S.A.D.

プライドは宝石 ── 拉致で始まるキャリア


─本日はよろしくお願いします。

homarelanka:
homarelankaです、よろしくお願いします。22歳で、出身は名古屋市南区です。

─まずはMC名の由来を教えて貰えますか?

homarelanka:
homarelankaって名前は本名です。「homare」が日本語の誉れ…自分の尊厳とかプライドって意味で、「lanka」は親父の国であるスリランカから。スリランカは別名宝石の国って呼ばれてるので、プライドは宝石って意味です。カッコ良い名前で気に入ってます、でも最初はコンプレックスでしたね。

南区で生まれ育って…小学校くらいのときに引っ越したりもしましたけど、それくらいの時期は結構差別もありました。幼稚園くらいまではスリランカと行ったり来たりしてたのもあって、小学校低学年の頃とかは日本語教室に通いながら小学校に行ってて。今はもう日本語しか話せないですけどね(笑)

─HIPHOPに出会うまではどのような音楽を聴いていたんでしょう?

homarelanka:
兄ちゃんの影響でJustin Bieberとか、普通のヒットソングを聴くくらいでしたね。音楽には別に興味なかったです。

─そこからHIPHOPに出会ったきっかけは?

homarelanka:
高校の終わり…2018年くらいに…友達から(名古屋市の)納谷橋にあるクラブに誘われて、バトルイベントを観に行ったのがきっかけです。別にバトルに興味があったとかじゃなくて、出てる奴らをからかってやろうぜくらいの感じで。当時は尖ってたというか、結構ひねくれてたので。

でもいざ行ってみたら逆に喰らわされちゃって。出てたのはそんなにシーンで有名とかって訳じゃないMC達ですけど、そんとき喰らった奴らといま一緒にいることが多いですね、D.R.Cとは別に。そこからそいつらと遊ぶようになって…イベントに通う中で一番喰らったのがC.O.S.A.とCampanellaでした。

─C.O.S.A.さんやCampanellaさんの何が刺さったんですか?

homarelanka:
完全にリリックですね。普通のことを言ってるだけなのに…あるいは普通じゃないことを言ってるんだけど、どっちもカッコ良く聴かせられるっていう。だから影響を受けたアーティストってなるとC.O.S.A.とCampanellaです、もう圧倒的です。ただのファンでしたし、毎週手挙げて盛り上がってた人と一緒にやることになるとは思ってなかったですね。そこから…あとでも経緯を話しますけど、D.R.Cに入ることになって。それである日Ryoくん(Ryo Kobayakawa)のスタジオに行ったら普通にC.O.S.A.がいて、「C.O.S.A.です」って挨拶されました、「いや、知ってます」っていう(笑) ビックリしましたね。

─喰らったアーティストで言うと、その2人の他にも色んなリリックでXXX TENTACIONの名前を出されてますよね。

homarelanka:
そうですね、Xはマジで影響を受けてます。俺の中では神です。Xが亡くなったその日のうちに、首の後ろにXと同じタトゥーを入れに行きました。

─HIPHOPに喰らって、すぐ自分でもラップ活動を始めたんですか?

homarelanka:
いや、最初はしばらく適当にフリースタイルするとかそれくらいでした。全然ちゃんとラップやるとか考えてなかったですね。それが変わったのが(自身初の作品である)”riot”のときです。当時つるんでた奴がなんかやらかしてたらしくて。女子大通りって道を歩いてたら後ろから外国人の集団が4-5人来て。いきなり車に拉致されて、駐車場に連れてかれてリンチされたんです。全然意味分かんなくて巻き添えでした。

それですげえ悔しくて。でもどうしようもないじゃないですか。そのとき宅レコの機材を持ってる友達がたまたまいて、それで録ったのが”riot”でした。だから曲を作ったきっかけは悔しさとか、苛立ちのぶつけどころとしてですね。結果としてこの曲をNEIが聴いてたらしくて…それをRyoくんに聴かせて「ヤバいじゃん」って思われたことで、D.R.Cのスタジオに遊びに来いよ、って話に繋がったんですけど。

─D.R.Cに入るきっかけはNEIさんだったと。どういう関係なんですか?

homarelanka:
幼馴染です。もう幼稚園の頃とかから一緒だったんですけど、ずっと会わない時期が続いてて。それからしばらくして…”riot”が出たあとくらいに、たまたま栄とかで出会ったんです。どっちもプレイヤーとしてのお互いを知らなくて、NEIも俺がラッパーだって知らなかったし、俺もNEIがラップやってるなんて知らなかった。でもそこで出会ったことで繋がって関係を取り戻した感じですね、本当に偶然でした。

結局”riot”が結構聴かれたりもして、みんなで曲作るって楽しいじゃんって思いも出てきたので曲作りをするようになってたんです。最初はYouTubeにあるビートとかを適当に使ってたんですけど、Ryoくんのスタジオに遊びに行って、Ryoくんのビートを聴かせてもらってからは「これかっけえな」ってなって。それからはRyoくんのところで作るようになりました。サンクラに残ってる”CHIDORI SASUKE”とかもRyoくんと作った曲ですね。そうやって一緒に遊んでるうちに、いつのまにかなんか自分もD.R.Cの一員、みたいな雰囲気になってました。

─いま話に出た”CHIDORI SASUKE”で言うと「調子どう?俺はいつも最悪の気分」というラインしかり、一種の怒りがhomarelankaさんの原動力なのかと感じました。

homarelanka:
ラップを書く原動力は怒りです、いつも何かにムカついてます。満たされることなんてないじゃないですか。その怒りは別にシーンがどうこうみたいな大きいものじゃなくて、もっと小さな…例えば、いま食ってるメシになんでこんなに金払うねんみたいな(笑) そんなしょうもない、小さな怒り、ムカつきです。そうした小さなムカつきを溜めに溜めて曲で発散させるってのがスタイルですね。”riot”の頃に限らず、それは今も変わってないです。まあみんなにも認められてきた中で少しは余裕も出てきて、前ほどはムカついてないかもですけど、基本のスタンスは変わってないですね。

「やっとhomarelankaっていうアーティストが生まれた」


─初期の曲では他にも”皆寂”でエモラップを志向してました。今のhomarelankaさんのイメージからすると少し意外な気もします。

homarelanka:
あの曲のスタイルは初めてトライしましたね、でもさっき言った通りXとか大好きなんで。それにアニメもめっちゃ好きで、あの曲はアニソン作ろうって意識だったんですよ。でも経緯としては自殺した友達に向けた曲で、俺は結構悲しい気持ちで歌ってます。聴いた人からは「いい曲だよね」って言って貰えるし、どういう捉え方をして貰っても大丈夫ですけど。

でも、エモラップ的な曲もまたやる可能性は全然ありますね。表に出してないだけで、そういう曲やふざけてる曲とかもいっぱい作ってるんで。

─そこからDRCを主宰するプロデューサー・Ryo Kobayakawaさんとのジョイントアルバム『19X8』(2019年)の制作に至る背景を教えて下さい。

元々Ryoくんのスタジオに行くようになって、いくつか曲を録っていて。その中に”BLUE”, “CUBICLE”, “CIGARETTE BUTTS”なんかの『19X8』に収録することになる曲がありました。そういう曲が溜まってきたからじゃあアルバムにしよっか、みたいな…流れで作ることになりましたね。このときはチルトラップが作りたいなと思っていて、だから全体としてのビートの雰囲気とかはそれで統一されてる感じです。

Ryoくんはもう自分にとって兄貴みたいな、兄弟だと思ってる存在なんで。一緒にこうして作れたのは嬉しかったですね。やっぱり『19X8』でひとつまとまった作品を出してみて、やっとhomarelankaっていうアーティストが生まれた感じもあって、このアルバムを出したのはデカかったです。自分がD.R.Cの一員なんだって認識出来て、仲間も出来た。配信ストアやCDで出すのは…やっぱり反響や認知度の上がり方って意味でも、ノリでサンクラに上げるのと違うなって思いました。

─『19X8』のリリースが2019年1月で、自身名義の作品としては今回出た”III MY SELF”まで約2年半の間が空きました。今回のシングルについて教えて下さい。

homarelanka:
まず、”III MY SELF”が出来たのが1年前なんです。そこからMV撮って出すまでの流れで今になったって感じで。だから俺自身はあんまり時間が空いたとは思ってなくて…諸々仕込んでたら今になったって感じですね。でももちろん、今回の曲が(自分の個人名義での)1発目になるってことはありますし、その意味で”III MY SELF”は『19X8』よりも俺らしい感じかなと思います。周りの奴らも今回のハードな”III MY SELF”がお前らしいよなって言ってくれて、自分でもそう思う。どっちかというとチルトラップだった『19X8』の方が、当時の気分で録ったイレギュラーなアルバムって感じですね。今はもうガンガン俺にやらせろってノリなので、そういう曲でやってます。

─その1発目の客演にCampanellaさんを呼んだ、この人選について教えて下さい。

homarelanka:
元々はNEIの『Words For Stars』(2018年)のリリパで俺がライブしたときに、(Campanellaが)それを見ててくれてたらしくて。そんでTwitterに「homarelankaかっけえ」みたいなことを書いてくれてたんですよ。俺もそれ見て「やべえ」ってなって、別のイベントで会ったときに「曲やりたいっす」って伝えて、良いよって言ってもらって。それからヴァースとHOOKを録って送ったら、1週間後くらいにラップ入りのが返ってきたんですよ。今回の”III MY SELF”では「俺の大好きなCampanella」って感じの姿を見せてくれたんで超上がりましたね。最高にカッコ良いです。

─同時期にC.O.S.A.さんに客演した”Stay Gold”も出ましたよね。

homarelanka:
あれは元々Ramzaくんからビートを貰って、俺の作品に入れるつもりで作ってたんですけど。Ramzaが「この曲C.O.S.A.にも乗って欲しいんだよね」って言ってて…そしたらRamzaくんがC.O.S.A.くんにその場で電話して、C.O.S.A.が入ることになって。「え、俺マジでC.O.S.A.と曲作んの?」って感じでした(笑) そのあと曲が完成したんですけどC.O.S.A.くんから「この曲俺のEPに入れて良い?」って聞かれたんで、どうぞどうぞって感じで(C.O.S.A.の)『FRIENDS & ME』から出ることになりました。その頃はもうスタジオで対面した後でしたけど、まだ自分じゃ知名度も足りなくて曲は作れないだろって思ってたので。いきなり実現して、本当にビックリしました。

─この短期間で一気にこうした面々の信頼を勝ち得てるのは流石です。それもこれも、最初にNEIさんが誘ってくれたから?

homarelanka:
そうです。それまで俺の周りには、ピースな奴がほんとにいなくて。人との間に壁を作らない奴に初めて会ったのがNEIです。その頃は友達の家に俺もみんなも勝手に住んでて…あんまりここで言えないような生活をしていて、周りの奴も逮捕されてくような環境で。NEIに会って、Ryoくんを紹介されたのはそんな時です。Ryoくんが「絶対にそこから抜け出せ、お前はスタジオでとりあえずラップしろ」って言って連れ出してくれた。Ryoくんたちに出会わず俺がそのままの場所に留まってたら…今とは違う人生だったのかもしれない。もう、そういう場所から抜け出すきっかけも、方法も当時は分かんなかった。音楽も適当にやってただけだったんで、「これで食えるようになる」なんて発想自体がなかった。今こうしてるのは、「マジになれよ、出来るから」ってRyoくんやNEIに言って貰えたからですね。だからめっちゃ感謝してるし、本人たちにもそう伝えてます。普通、こんなよれてる奴を誘わないじゃないですか。でもRyoくんは初対面で声を掛けてくれた。

NEIもずっと俺を気に掛けてくれて…俺はDJとか出来ないんですけど、「ブースで立ってるだけでいいから」ってRyoくんたちのイベントにバックDJとしてブッキングしてくれて、クラブで色んな人に出会うきっかけを作ってくれたり、知らないところで動いてくれてたりして。だいぶ会ってなかった奴の為にそこまでしてくれるってのがほんとに分かんなくて。”riot”に喰らってくれたからここまで繋がったってのは、ほんとに大きかったです。

「なんかジンクスがあるらしいんですよ、名古屋のシーンって」


─そこから音楽活動を本格化されて以降、homarelankaさんのラップが鋭敏になります。アグレッシブなフロウももちろん、「雨の音が好きって言う奴もイヤホンを持って出かけてる」(“CUBICLE”)など的確に突くリリックもhomarelankaさんの特徴ですが、ラップはどのように制作されるんでしょうか。

homarelanka:
自分は常にリリックを書き留めてます。別に机に向かって書くとかじゃなくて、何か思いついたフレーズとかがあればパッと書く感じです。今日のインタビューに向かう車の中でも書きましたし、このあとも何か思いついたら書く。それでビートを貰った時に、そのイメージと合うリリックを引っ張り出してきてラップする、みたいな感じです。

(その結果リリシズムが生まれていることについては)C.O.S.Aさんたちの影響もあると思います。やっぱり言葉で喰らわせないと誰も首振らねえだろって思うので。もちろんノリで書くリリックもあるし、フリースタイルで録ったりすることもありますけど、スタンスとしては誰かが喰らう歌詞をきっちり書くって方が俺は好きですね。

─多くの曲でHOOKを英語にしているのには何か意図的なものがあるのでしょうか。

homarelanka:
自分、英語全然話せないんですよ。学校でも英語の成績はずっと1だったし苦手教科で。だからカッコ付けて英語にしてるだけと言えばそうなんですけど…(D.R.Cの)ONIとかが英語すげえ得意で、そいつに「こういうこと言いたいんだけど表現として合ってる?」とかアドバイス貰って作ってるし、発音が少しでもおかしいとONIに直してもらう。だから”III MY SELF”とかも、150とか200テイクくらい録ってます。英語の発音が少しでもおかしいと「やり直し」って止められるんですよ。俺も、最終的には外国人にも喰らわせたいってのがあるので。外国人が聴いても「こいつの英語のラップやべえな」って思わせられるように、ここはこだわってますね。最終的にはもちろん世界を見据えてます。

─homarelankaさんやD.R.Cの皆さんはもちろん、クロスジヒトリに加入したhxpe trashさんなどの更に若い世代まで含め、名古屋のシーンが勢いを増してるように感じます。

homarelanka:
名古屋の時代が来ると思います、確実に。今は俺がピックアップされてるだけで、他にも俺よりヤバい奴も……いない、俺が一番だけど(笑)、ヤバい奴がいっぱいいるんで。特に俺と同い年の1998年生まれの世代は全員来ると思います。いま「名古屋の98年生まれ」をテーマにした曲を作ってるんですが、それに参加してる奴は全員ヤバいかな。ruby band, 5NBi, AKIRA, Contakeit, King Elizabeth, slush, HENELOSA…ってところかな。

今の名古屋はほんとにヤバいです、別に俺が名古屋だからそう言う訳じゃなくて。なんかジンクスがあるらしいんですよ、名古屋のシーンって10年ごとに爆発するんだっていう。まず(1978年生まれのTOKONA-XやEQUALLを擁する)M.O.S.A.Dみたいな人たちが出てきて、その後10年経ってC.O.S.A.くんやCampanellaくん(共に1987年生まれ)、Ryo Kobayakawaくん(1988年生まれ)の世代が出てきた。そこからちょうど10年後に出てきたのが俺たち98年世代です。だからそのジンクスも背負ってると思ってるんで、絶対にやってやらないとって思ってます。

─最後に、今後の予定について教えて下さい。

homarelanka:
今後はミニアルバムが控えてます、近いうちに出せるかなと。客演については”III MY SELF”のCampanellaだけのつもりですけど…もしかしたらちょっと他にも呼ぶかも、みたいな感じで。D.R.CやC.O.S.A.さん、Campanellaさんみたいな周りでも、これからもノリで色々やってくと思いますし、他にも後輩とかとも時期が来たらやるかも、みたいな。

─これからの動きも楽しみです。ありがとうございました。

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2021/06/24
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アーティスト情報:
homarelanka


名古屋市南区で幼少期を過ごしたスリランカと日本の血を継ぐラッパー。持って産まれた音楽センスとスキルで、19歳の時homare自身に降りかかった事件を詩に載せた“riot”がSoundCloudで話題となり、幼少期を共に過ごしたNEIとの再開を果たす。それを期にRyoKobayakawaと出会い、D.R.C.所属アーティストとなった翌年、共作『19X8』を発表し名古屋の若手として頭角を表す。その容姿からAcne StudiosやDUALISMなどのモデルを勤めるなど、ファッション関係者からも支持が多い。C.O.S.A.が2021年4月に発表した“FRENDS&ME”での1曲“Stay Gold(prod. Ramza)”への参加に加え、Campanellaを迎えたSINGLE“Ⅲ MY SLF feat. Campanella”を2021年4月にリリース。

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