Who’s The Man?(Moment Joonという男):全作品解説(前編) by @VinylDealerBB





フィジカル盤が無料配布という特殊な1枚だったにせよ、控えめに言って2020年の最重要作品の一つだったのは間違いないMoment Joon(以降、"Moment")の『Passport & Garcon』。
新曲追加+既発の数曲で客演陣が新たに参戦したデラックス盤(フィジカル盤)のリリースに先駆け、クラウド・ファウンディングで支援を募っていたのが、去る1/31をもって無事に目標金額をクリアしたことで、改めてその注目度の高さを実証した。

筆者にとっても、先日のECD追悼記事を執筆するきっかけの一つに、同作収録の"TENO HIRA"があったことは拙稿で触れた通りだ。

そんなMomentの躍進を2021年も確信したところで、彼のこれまでのキャリアをフリーで公開されたミックステープも含め、改めて振り返ってみたい。
なお、下記で紹介するフリーミックステープは、いまだに全てダウンロード可能につき、『Passport & Garcon』でMomentを知った向きには彼のバックグラウンドをより深く知る意味でも、ぜひ遡って聴いてみることをお薦めする。

『Joon Is Not My Name.』(2011年)

(ジャケットクリックでDL先にジャンプ)

フリーミックステープが日本でも隆盛を極めた2011年に発表された、Moment初のフリーミックステープ。
全27曲という大ボリュームは、これまで単発でネットにアップしていた音源を後からコンパイルしたもの。
その内容はビートジャックが大半で、初期衝動のままに撮り切ったフリースタイルを集めたような、正に初期の作品集という感じ。

中でも、自身のバックグラウンドもチラ見せするサッカーMCモノ"GAIJIN Flow", Asher Roth "I Love College"をジャックしてタイトル通り、自身が通う阪大讃歌に仕立てた"I LOVE HANDAI"辺りは、すでにフロウ巧者振りを聴かせているだけでなく、トピックとビート選びの遊び心も含めて楽しめる佳曲だ。

余談になるが、今にして改めて振り返れば、本作より一寸早く発表されたjprap.com発のフリーV.A.『#Nibiru』(2011年)で、早くもECDとMomentの楽曲が(前者はREMIX音源だが)同作品にコンパイルされるというニアミスを起こしていた事実に驚かされる。





『Up Down』(2012年)

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前作の翌年、2012年早々の発表となった初の有料作品。
Moment自身も楽曲を提供したV.A.『#Nibiru』を発表したjprap.comのレーベル、#rev3.11からのリリースとなった。
5曲入りのコンパクトなEPサイズながら全てオリジナル楽曲で、際立つフロウ巧者振りに気合いの入り様が窺えよう。
本作では全編で英語のラインが多めだが、中でも日本語、英語に韓国語も加えた流暢な3ヶ国語ラップを披露するバイリンガルMCならではの"Errthing"や、Lil'諭吉が会心のビートを提供した"Eternity Rock"辺りが聴きどころだ。





『Season Of Fever』『Season Of Love』(2012年)

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徴兵のため、韓国に一時帰国する前の置き土産として、オリジナル楽曲集の『Up Down』から間髪入れず2枚同時に発表されたフリーミックステープ。
梅田サイファー/高槻ポッセからPEKOを呼び込んだ"Ghetto Dreams", 自身をJay-Zに、客演をKanye Westに見立てて(?)"Niggz In Paris"をジャックした"Fellaz In KANSAI", フィメールコーラスと絡んでポップに躍動する"The Fear"など、アッパーな楽曲を集めた『Fever』
そしてタイトル通り、仲間や日本への愛と感謝をテーマに歌い切った"SAIKOU""Celebrate", メジャー/マイナーを問わず、UGK "Int'l Players Anthem"のビートの上で関西圏のアーティストや裏方も含めて次々とネームドロップする"Love"など、感動的なまでに美しい『Love』は、さながらMomentの動と静。
どちらも甲乙付け難い力作だ。





『Bars From Behind Bars』(2013年)

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2年間の徴兵に旅立ったMomentロス期間中、その空白を埋めるがごとく阪大のサークル仲間、DJ Kazzmaが手掛けた、Momentのビートジャックに客演仕事、初出のREMIX、さらに新録まで搭載したフリーのDJミックス音源。
単発でネットにアップされたビートジャックもしっかりと拾い上げた上、客演仕事までフォローする大盤振る舞い(提供アーティストは承認済みだそう)でベストワークス的な様相すらある全25曲。

特に、AKLOやKEN THE 390ら、国内アーティストのビート・ジャックは、単に出来が良いというだけでなく、翌年に多くのラッパーの名前をDrop & Disしたことで話題を攫った"Fight Club (Control Remix)"で標的になったメンツであることも合わせて考えると、なかなかに興味深い。
DJミックスではあるが、他のミックステープ作品と並列に語る価値のある一枚。





『The Game Waits Me Vol.1』(2013年)

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『Season Of Love』のトリを飾った"Celebrate"のラストを「2年後もよろしく」と締め括りながら、待ちきれず1年ちょっとでのカムバック作となったフリーミックステープ。
兵役の休日合間に撮り溜めたという楽曲の数々で、ビートの上を泳ぐようにラップするMomentの様子は、正に水を得た魚の如し。
(Momentの当時のa.k.a.はSwag Catなので、猫を魚の様にというのも何だか可笑しいけれど)

猛々しくカムバックの狼煙を上げる"Fighter's Theme"から"Straight Outta Coffin"への冒頭の流れは、今聴いても身震いするような格好良さだ。
アイドルのグループ名をもじった"A.K.B"や、ビートもジャックしたKendrick Lamarの話題からMOE=萌えに言及する"Yeah I Know I'm MOE"辺りでも、日本の当時のエンタメや空気感にしっかりアジャストしている。





『The Game Waits Me Vol.2』(2013年)

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前作から3ヶ月間という短いスパンで発表された、まだ兵役途中からのカムバック作第2弾。
当初から2部作を意識していたのだろうが、全編アグレッシブで前ノメリな印象だった前作に比べれば、収録曲も客演メンツも増やし、もっとバラエティーに富んだ彩り豊かな全13曲。
変わらぬ自らのハングリーさを歌う"KURE"に始まり、Travis ScottやA-Trak, Joey Bada$$, M.I.A.といったところから、AKLOやISH-ONE, KID FRESINOら日本人MCのビートも拝借しつつ、次々と自らの楽曲へと昇華させていく手腕は、すでに安定感すら漂わせる。

本編での構成や緩急の付け方は、フリーミックステープでありながら、後に控えるオリジナル・アルバムを見据えた作りと言えるかもしれない。


後編はこちら


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2021/02/18 Text by Vinyl Dealer for vinyldealer.net (Twitter)

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