Column/Interview

有望な若手がこぞって集まる今の横浜シーンにおいても、とりわけ耳目を集めるのがこの2人だ。昨年Only Uや9for, 018, Fuma no KTR, XY Gene…総勢25名の若手を引き連れアルバム『ill world』を発表したプロデューサー・illrain。昨年”Bloon”のMVが即座に注目を集めると、シングル2枚を発表しただけながらそのライブの上手さ、規格外のスケール感で一気に若手筆頭株となったCarz。

illrainが「この才能は絶対に光る」と見込んで声を掛け、共作に至ったのは必然と言える。2021年1月にリリースされた3曲入りのジョイントEP『Project Island』には、同じくCarzの才能を見込んで百足, Fuma no KTR, lentが顔を揃えた。気鋭のプロデューサーと規格外の才能が目指すものは何か。「Carzとは今後20作くらい作りたい」と話す、2人の見据えるスケールを感じて欲しい。






登場する主なアーティスト(順不同):
BIG RON, サイプレス上野, Wheezy, Turbo, 2WIN, ORIGAMI, GNB AAluCarD, ₩,
Dumbperson, Fuma no KTR, 百足, lent, 9for, Oddy Lozzy


─本日はよろしくお願いします。

illrain:
よろしくお願いします。
illrainです、22歳で山口県出身です。
活動のために昨年から関東に引っ越して…最初は東京に住んでたんですけど、すぐに横浜に移りました。
色々あって最初は東京に行ったんですけど、元々横浜に来たかったんですよ。
山口にいるときから横浜のHIPHOPやカルチャーが好きだったので。
だから今は横浜にどっぷり漬かってる感じですね。

Carz:
Carzです、19歳です。
横浜の戸塚に生まれて、ずっと横浜で活動してます。
よろしくお願いします。


─ではまずCarzさんの背景を聞いていきましょう。
 元々はどのような音楽を聴いていたんでしょうか?

Carz:
自分は小さい頃からHIPHOPに馴染んでました。
叔父がDJや色んな形でHIPHOPをやっていて。
家にミラーボールとかがあるような環境で…ずっと聴いて育ちましたね。
でも叔母はコブクロとかが好きだったので、小学校の頃とかはそういうJ-POPの方を聴いてました。
HIPHOPも聴かされてはいたんですけど、自分でやろうとかそういう感じではなくて。
当時はBIGRONくんとかを聴いてましたね…でも曲名とか分かった上で熱心に聴いてたというよりは、家でずっと流れてたという感じです。




─幼少期で既に045の血筋が刻まれてたんですね笑
 そこから本格的にHIPHOPに興味を持ったきっかけは?

Carz:
HIPHOPにガッツリハマったきっかけはYoutubeで見たMCバトルです。
2014年くらいに高校生ラップ選手権をYoutubeで見て「これヤバいな」と思って。
でも自分の同世代の周りではラップをやってる人とかいなかったし、特に「自分もやるぞ」みたいな感じではなかったんですけど。

そこから高1くらい…2017年に横浜のゲーセンでいつも通り溜まってたときに、ふざけてフリースタイルをやってみたんですよ。
そしたらなんか…僕らのいたゲーセンから徒歩30秒のところにWhat’s GOODっていうバーがあるんですけど、そこの関係者の人がたまたま見てて声を掛けられて。
そのバーってサイプレス上野くんたちがやってるバーなんですよ。
それで関係者の人に「なにラップやってんの。ちょっと店おいでよ」って誘われたのが、自分がラップをやることになるきっかけですね。


─凄い偶然ですね。
 じゃあCarzさんのラップは、サイプレス上野さんやドリーム開発の人たちと磨き上げたもの?

Carz:
そうですね。

illrain:
始まりからそこと繋がるって、めちゃ恵まれてるよね笑

Carz:
ほんとに…サイプレス上野くんや皆さんにはほんとにお世話になって。
What’s GOODには(サイプレス上野らのレーベルである)ドリーム開発の人たちもよく出入りするので、毎日通っては色々教えて貰っていました。
だから特定の誰かというよりは、What’s GOODに出入りする皆さんからほんとに鍛えてもらった感じです。

閉店時間を過ぎてシャッターが閉まっても、店の中ではスピーカーでビート流してずっと朝までフリースタイルやらせてもらう、みたいな笑
そんなことをほんとにずっと、毎日やってました。


─なるほど、横浜の全てが注ぎ込まれてる感じがありますね…!
 illrainさんの音楽的な背景はいかがでしょうか?

illrain:
自分はずっとGReeeeNやファンモン、(元LGMonkeesの)山猿とかを聴いてましたね笑
まず、自分って小1から高3までずっとサッカー漬けの毎日で、音楽聴く時間ってなかったんですよ。
毎日朝6時から夜21時までサッカーする、みたいな感じで。
そんな中で…チャリ通学だったんですけど、練習に向かう中で、音楽でテンション上げようとするとそういう曲になるっていう。

自分のいた山口はHIPHOPのカルチャーがあんまりなくて。
もちろんBUPPONさんとかカッコ良い人はいるんですけど、MCバトルが流行り出した2013-2014年とかのときも山口には届いてなくて。
だから高校卒業するまでHIPHOPは聴いたことなかったんです。


─意外な経歴ですね。そこからHIPHOPに出会ったきっかけは?

illrain:
高校卒業してからだから2016-2017年くらいですね。
HIPHOPを聴く知り合いがいて、その人に福岡までイベントに連れてかれたんですよ。
自分は全然乗り気じゃなかったんですけど笑

そしたらそのイベントで唾奇がゲストで来てて…バックボーンも凄いし、それをみんなに伝える技量も凄いしで喰らいました。
そこから唾奇をきっかけに色々掘り下げていった感じですね。


─唾奇に出会って、そこからすぐ活動に繋がった?

illrain:
そうですね、最初はラップやってました笑
クルー組んで歌って…で、バックボーンが伝わる曲がやっぱり好きで、そういうのがやりたくて。
でも自分にはそんなバックボーンないなと思って、あまりやりたいことがラップでは出来なかった。

それで2018年くらいからビートを作り始めて、プロデューサーとして動き出した感じです。
楽器とか出来るわけじゃないので、ビートは全てDTMで、Logicで作ってます。


─ありがとうございます。
 お2人が特に影響を受けた、あるいは好きなアーティストなどはいますか?

illrain:
自分はWheezyとTurboです。
アトランタらへんのビートって、基本的にはどれも似たり寄ったりじゃないですか。
その中でどう違いを出せるかっていう話で。
その意味で…HIPHOPってドラムが基本だと思うんですけど、WheezyとTurboは上ネタにはあまりこだわらず、ドラムとしてビートをどう聴かせるかを凄く考えてる。

以前インタビューで見たのは、基本的に自分のビートはラップを乗せるためのものだから、あまり自分で考え過ぎないようにしてるって言ってて。
日本でも作家性を全面に出した結果、ラッパーがやりたいことが出来ないビートとかあったりすると思うんです。
でもこの2人については良くも悪くも、誰でもすぐ出来るようなビートになってる。
だからこそ好きなように言葉を嵌められるし、結果としてラップが映えるんですよね。
だからこの2人のビートって、HIPHOPの中でも幅広い人たちが乗れるようになってると思う。
それこそゴリゴリの奴も乗ればIan Diorも乗る、みたいな。




─じゃあillrainさんのスタンスとしても、自分の作家性を全面に押し出すよりは「ラッパーが乗る為のビートを作る」というスタンス?

illrain:
そうです、ただもちろんどっちの方向性のビートも作れるように心掛けてはいますけどね。
それこそ自分名義の作品とかでは自分の色を出すようにもしてますし。


─なるほど。
 ビートの組み方って大きく2種類あると思うんです。
 ひとつは自分で作り切ってから「このビートに乗れ」ってラッパーに渡す方法。
 もうひとつはドラムとベースだけの骨格を渡して、それにラップを乗せて貰った後で上ネタ等を追加していく方法。
 illrainさんはラップを大事にするって観点だと後者が多いんですかね?

illrain:
そこはどちらのパターンもありますね。
でもさっきCarzとも話してたんですけど、日本のラッパーって同じドラムで同じBPMでも、上ネタが何かを異様に気にして乗り方が変わっちゃったりするんですよ。
それって俺からすると同じBPMなんだから気にして欲しくなくて、同じフロウで乗って欲しい。
そういうときは骨格だけ渡して乗ってもらって、あとで上ネタ乗せたり組み替えることが多いですね。

やっぱりJ-Popを基準に聴いてるとストリングスやそのコード進行が気になるのかなと。
自分は上ネタとか割とどうでも良いと思ってるので、ビートを基準に嵌めて欲しいですね。


─それは面白いですね。
 90年代のBoom Bapだとどのネタを持ってくるか…すなわち、もちろんドラムもですが、どういうホーンやピアノが鳴ってる部分をサンプルするか、みたいなのがセンスの見せどころだった訳ですが、今の主流だとあまりそこは重要ではないと。

illrain:
もちろん自分が個人的に音数が少ないビートが好みだから、っていうことですけどね。
基本的に上ネタがガチャガチャ鳴ってて、上ネタを聴くだけで曲が成立しちゃうみたいなのは好きじゃないです。
だから自分はビートもミニマルですし…HIPHOPを聴いてる人もそっちの方がアガるんじゃないかと思います。
やっぱりずっと何か激しく鳴ってるよりは、基本はラップを楽しんで、肝心なときに上ネタで盛り上げるみたいな。
そっちの方が良いんじゃないかと思ってます。


─だからこそのWheezyとTurboリスペクトだと。
 Carzさんの好きなアーティストはどうですか?

Carz:
中学のときにめっちゃ喰らったのは2WINの”PAIN AWAY”で、そういう環境に育ってもそれを曲に出来るのは本当に凄いって思いました。
ただ自分自身はあんまり人の曲を聴いたりほんとにしなくて…自分らしくやりたいって感じです。




illrain:
それは自分もそうですね。
俺も新譜を一通り追ったりはするんですけど、熱心に詳しく聴いてる訳じゃなくて。
WheezyとTurboのビートは聴きますけど、他はあくまで良いドラムループを探す為って感じですね。

Carz:
そう…ほんとに聴かないんですよ。
Da Babyとかは好きなんですけど、それも自分から聴くって感じではなくて。
自分の友達に詳しい奴がいるんでそれで教えて貰ったりはするんですけど、自分で掘ったりはしない。
あくまで自分でやりたいようにやるだけって感じですね。

What’s GOODにいたときも「Boom Bapやれば?」とか色々言って貰って。
もちろんアドバイスはアドバイスとして頂くんですけど、それで自分が崩れるようなことがあるくらいなら、気にせず自分のしたいようにするのを大事にしてます。

illrain:
その意味で、Carzは自分がプロデュースしてきた中でも過去一でやりやすいっすね。
自分のやりたいことも遠慮なく全部言ってきてくれるし、こっちが言ったこともCarzは全部ノリで出来ちゃうので。


─そんなノリでいけるお2人ですが、最初に出会った経緯はなんだったんですか?

illrain:
自分は横浜に来たばかりの…去年の7月くらいにCarzのデビューシングルの”Bloon”を知り合いから教えて貰って。
「なんだこいつやべえな」って思って…そこから一度クラブで会ったんですよ。
でもそのときは紹介されてハンドシェイクしたくらいで…Carzもあんま覚えてないっしょ?笑




Carz:
そうですね…ほんと覚えてないです。
(横浜のクラブ)BRIDGEの時ですよね?

illrain:
そうそう。
そのときはそれで終わって、あとで「今のが”Bloon”出した奴だよ」って教えて貰ったんです。
それでマジかと思って家に帰って速攻でDMしました。

Carz:
自分も元々(横浜のMCである)翔chanから「illrainくんてトラックメイカーがお前に興味持ってるよ」とは聞いてたんですけど、実際にちゃんと認識したのはDMを貰ってからですね。
自分はそれまでType Beatを使ってたので、トラックメイカーの人と知り合うことってなくて。
声を掛けて貰ったので、そういう人と一緒にやるとどうなるんだろうって興味を持ってやらせて貰いました。


─そこから実際にお2人が組むまでの経緯は?

illrain:
まずは自分が(北海道のMCである)Dumbpersonと出したEP『Dr Gounn』(2020年)の”Fast”って曲でCarzに入って貰ったのが、2人でやった初めての作品ですね。

Carz:
あれも10分くらいで作りましたもんね。

illrain:
そう、元々Carzと曲作ろうって言って自分の家に呼んでたんですけど、そのときDumbpersonとEPのやり取りをしてて。
そこで「もう1曲作るか」ってなったときに横にCarzがいたので「このビートでやってみる?」って聞いたら…ほんと5分10分とかで蹴ったんですよ。


─凄いですね。
 少し話は逸れますが、CarzさんはどうやってVerseを作ってるんですか?

Carz:
自分はまず宇宙語(=鼻歌的に、英語でも日本語でもないふわっとした言葉でリズムだけ先に作る)でフロウします。
それでやべえなってメロディが出来たら具体的なトピックを設定して、そのフロウに言葉を当てはめていくみたいな。


─その録音風景を見てillrainさんも「やっぱこいつヤバいな」ってなった?

illrain:
なりましたね、マジで。
俺としては、今の若手でこんだけ縦ノリでラップが蹴れる奴っていないです、マジで凄い。

そのあとDumbpersonとのEPのリリパを北海道でやった際にCarzも連れてったんですけど、(Carzの2枚目のシングルとなる)『TOP』(2020年)のジャケは、その時泊まったホテルで俺が適当に作ったやつです。
このジャケはTOPって言葉のOの中に車の絵文字が入ってて…俺は適当にそうしたんで「このジャケはないな」と思ってたんですけど、Carzが「いやこれっすよ」って言いだしてそのまま決定になりました笑

Carz:
マジで全部ノリなんですよ。
その時のムードや気持ち的にアガってるときに出したものが良いと思ってるんで。


─Carzさんの2枚のシングル『START』と『TOP』もそういう勢いで作られたんですか?

Carz:
そうですね…元々自分って(横浜じゃなく)川崎の方にある別のクルーに所属してたんですよ。
でもなんか自分はどうしても横浜なノリが出ちゃって、ちょっと色が違っていて。
そんなこともあってクルーを離れて、ソロで横浜のノリをやってみようと思ったのがきっかけですね。


─Carzさんは曲中でも「045」というワードを出したりしてますが、Carzさんいとっての横浜のノリというのは、例えばDS455やOZROSAURUSから連綿と続くような、そういう流れでの横浜のシーンを背負う覚悟があるということ?

Carz:
そうですね、その覚悟を持ってやってます。
自分が聴いてきた音楽もそういうものだし、横浜って土地で生まれ育ってきたこともあるので。
もちろんこの土地で苦しいこととかもたくさん経験してきましたけど、自分の周りでも音楽も出来ない仲間がいたりするので。
音楽をやれてる自分は、この音楽という道で「こういう姿も見せられるよ」って示したい。
そういう思いはあります。




今回のジョイントEP『Project Island』に至る経緯を教えて下さい。

illrain:
2人でEPを作ろうって話自体はずっと前に決まってたんですよ。
ビートも2020年の10月くらいには送ってたし…そこからちょっと自分が忙しくなったりしたのでこの時期になりましたけど。
今回は全部完品のビートをCarzに送って蹴ってもらいました。

Carz:
ですね、ただレコーディングしたときに意見してビートを組み変えたりとかはしましたね。


─illrainさんからすると、超豪華な客演を呼んだ『ill world』(2020年)の次に出す作品がこれっていうのは大きな意味を持ちますよね。

illrain:
そうですね、そこはめちゃくちゃ考え抜きました。
あのアルバムの次に出す作品はどうしよう…っていう中でCarzとのEPを選んだ形で。
ちなみに『ill world』はいまREMIX盤を企画してますし、他のEPの企画も走ってます。
その中からCarzとのEPを次の作品に選んだっていうのは…やっぱCarzが凄いんですよ。

俺が、横浜に来てから…特にリリックを書くスピードが凄いと思ったラッパーっては2人で。
1人が018、もう1人がCarzです。
この2人はもう売れるの時間の問題やろって感じなんで、むしろこっちからやらせて下さいぐらいのノリですね。


─『Project Island』での、百足さん、Fuma no KTRさん、lentさんといった客演の人選について教えて下さい。
 例えばFuma no KTRさんなんかも今のillrainさんと同じく「Carzはヤバい」と以前Twitterに投稿していて、そこからの繋がりなのかなとも思ったんですが。



illrain:
まず、Fuma no KTRは北海道でやったDumbpersonとのリリパにCarzを連れてったときがきっかけで。
Carzがソロでライブして俺がバックDJしてたんですけど、ライブの最中にKTRが俺に寄ってきて「こいつヤバくない?」って言ってくれたのが最初ですね。
そこからはCarzがライブしてる後ろで2人で跳ねまくってました笑

Carz:
百足は…自分が横浜のBRIDGEでライブしたときがあって。
その時初対面だったんですけど、向こうは自分のことを前のクルーにいたときから知ってくれてたらしくて、「曲やろうよ」って声を掛けてくれた感じです。
それ以来ちょっと先延ばしになってたんですけど、illrainくんが言った北海道でのリリパのときにKTRと話して…「今度百足と曲やるんだよね」って言ったら「それ俺も入りたい」って言ってくれて、それが”High Level feat.百足, Fuma no KTR”が出来たきっかけです。



illrain:
とりあえずCarzはライブがマジで上手いんですよ。
声量も超あって、見た人はみんなそれで喰らうんですよね。

百足とFuma no KTRが1曲に揃うっていうのは”High Level”が初めてですし。
その理由も…KTRと自分は元々仲良かったりしましたけど、だからって自分がめっちゃ誘いまくって揃った訳じゃなく、2人とも「Carzヤバい」ってなって来てくれた感じですね。

Carz:
この曲はやっぱり00年世代と言われてる2人が初めて揃う曲で、それに自分の曲を選んでくれたのはありがたいです。
2人ともMCバトルでも凄く有名ですし。

illrain:
MCバトルに出てることをマイナスに言う人もいたりしますけど、俺は全然そんなことなくて。
ラップ上手い人は全然いますし、あくまで曲の聴かせ方の問題だと思うんですよね。
バトルでやってるときにウケる要素と曲にしたときにカッコ良い要素ってまた違うんで、曲でバトルと同じようにフロウを使い過ぎたりすると変な感じになるとかっていうのはあると思う。
そういう部分を今後どんどん変えていきたいと自分は思ってます。
だからKTRとはこれからも一緒に色々やってく予定ですし、良いものが出せると思います。


─”High Level feat. Fuma no KTR, 百足”のコンセプトもやっぱり、その同世代が集まったっていうところ?

Carz:
そうですね、やっぱり俺らの世代ってまだ(シーンの中では)年下って見られることが多くて。
そんな中でも、この曲は俺らガキが大人っぽさや高級感を示せるような曲にしようと思いました。
そのテーマを2人にも伝えた上で蹴ってもらった感じですね。

illrain:
だから曲調も、この3人が集まったにしてはSadな感じにしてるんですよ。
それも大人っぽさや高級感って意味で狙った部分ですし、実際にヘッズから「こんなの聴いたことない」って言って貰えたりしてるんで嬉しいですね。
この2人を呼んだら普通ポップな感じにしたりバズを狙いにいくと思うんですけど、あえてそうした曲調になってないのが良いと思います。

Carz:
その意味でも、今後の予兆を感じさせる作りになってると思います。
「もっとこの3人のラップ聴きたい」って思わせられれば嬉しいですね。
大人の余裕をガキなりに示した感じです。

illrain:
基本的に『Project Island』って、「Carzのソロはこんなにヤバい」って見せるためのものなので、ソロ曲が本領なんですよ。
だから客演が2人いるこの曲は、良い意味で余裕を持ってやってもらった感じです。
百足とKTRと曲やるぞって言ったらみんなガッチガチに固めて曲を書こうとすると思うんですけど、Carzはそこをシンプルにやってくれたので良かったですね。


─illrainさんの「Carzのソロ曲が本領」ってことで言うと、”Nintendo”がそうですよね。
 Carzさんのソロで、ガッチガチのボーストで。



Carz:
あの曲はビート貰った瞬間に「これだ」と思いました。
自分の生き方や曲の作り方もさっき言った通りノリで出来てるし、だったらそういう自分の遊んでる感じのノリをゲームに例えて表現しようとしたのがこの曲ですね。
特にマリオをモチーフに色々例えたりとかしていて、その辺りの表現とかは考えて作りました。

今の日本のHIPHOPシーンって、悪い奴やストリートな奴はガッチガチに固めてそういうラップをする人が多い一方、ちょっとふざけたりユーモアある感じでやる人がそんなにいないなと思ってて。
カッコ付けることを意識し過ぎてて楽しめてなさそうにも見えたりするし。

illrain:
間違いないね。

Carz:
だから俺は、そんな中であえてノリでラフにやるのがスタンスです。
そういう雰囲気を伝える為に作ったのが”Nintendo”でもあります。

illrain:
この曲をEPの1曲目に持ってきたのも、このソロ曲でCarzのヤバさを知って欲しいからです。
フィーチャリングの曲はあくまでおまけというか、ソロ曲を聴いて貰う為のフックです。
ぶっちゃけ百足とKTRとやった”High Level”なんて何に入れたって聴かれるじゃないですか。
だからそれを通った上でCarzのソロ曲を聴いて欲しいので入れたっていう。


─3曲目の”Minato”はその名の通り夜の港の情景が見える中で情緒的に歌う1曲ですね。
 客演のlentさんの人選など含め教えて下さい。



illrain:
この人選はCarzですね。

Carz:
自分が最初lentくんの”リット”って曲のMVを観たんですよ。



オートチューントラップなんですけどあまり聴いたことない感じで、MVの質もカッコ良いし。
横浜の仲間でも話題になってたんですよ。

そこから今回の『Project Island』で横浜を語る曲を作るってなったときに…やっぱり自分みたいな10代のガキが語るだけじゃ重みがないと思ったんです。
上の世代の人からすると「横浜レペゼンとか言う奴なんていくらでもいるよ」って感じだろうし。
そんなときにlentくんは…まだ若いですけど色んな過去やバックボーンを背負って前から横浜で活動してるし、こういう曲でやりたいと思って声を掛けさせてもらった感じです。

illrain:
lentくんは俺の1個上とかです、確か。
この曲のビートはモロに夜の港町な雰囲気で作っていて。
最初は特に考えがあった訳じゃなく「こういうのもあっていいかな」程度だったんですけど。
ただこの曲はドラムも複雑で多層的だし、Carzの曲でブリッジを入れるっていう初めての試みもやったりして、音楽性を突き詰めた作品にしました。
それは自分がプロデュースしてる以上、きちんとプロデュース能力を示すって意味合いもありましたし。
結果的に曲のテーマとかもあって、予想以上に良い曲になりました。

Carz:
だからこの曲は音楽性も高いと思うし、リリックを聴いて欲しいんですよね。
lentくんとか凄く歌詞を考えて書いてくれてて…今は暗い所にいる仲間の分まで自分が歌うみたいな、そういう思いが滲んでる内容になってます。


─なるほど、3曲それぞれでコンセプトが綺麗に纏まってるんですね。
 ボーストして暴れる”Nintendo”, ギアを絞って大人の魅力を示す”High Level”, 音楽性とメッセージ性を突き詰めた”Minato”と。

illrain:
Carzからは「もうちょっと曲入れた方が良いですか」って相談も受けたりしてたんですけど。
自分の中ではこれだけ濃い3曲が出来たことってなかったので、この他に曲を入れて無駄にスキップされたりするよりはこの3曲で閉じようってなりました。
ストックとしてはもう何曲かあるんですけどね。


─今回の3曲や過去作品を並べてみると、Carzさんのラップスタイルや声色が曲によってかなり違うことに驚かされるのですが、自分でも意識して色々なキャラクター・ラップスタイルを持っている?

Carz:
そうですね、曲調によってやっぱり伝えたいことは違ってくるので。
そのときの感情によって声色もフロウも変わってきます…でも意識して作ってるというよりは、RECになると自然と出るって感じです。

illrain:
やっぱ、Carzは何でも出来るんですよ。
何を投げてもパーフェクトに返ってくるんで、自分も一緒にやってて楽しいです。
最近ビートを作ったときに「これ誰に渡そうかな」って考えるんですけど、Carzが思い浮かぶことが多くて。
やっぱり何に対してもカマせる力があるし、かつその返ってくるレベルが全部高いので。

既に力はパーフェクトにあるんで、あとは知名度だけの問題だと思います。
知られれば知られるほどみんな喰らってくんじゃないかな。


─近年、横浜近辺で若手の台頭が著しいですが、お2人から見た今の横浜のシーンはどんな感じですか?
 例えばillrainさんは山口から横浜に拠点を移しましたが、それは横浜の盛り上がりを知ってのこと?

illrain:
そうです、横浜の盛り上がりはいま日本一じゃないですか、マジで。
人口が多い上にラッパーの質がめっちゃ高い。
HIPHOPイベントもBRIDGEなんて毎日のようにやってるし…。

Carz:
もう簡単にはBRIDGEのステージには立てない。
それくらいの盛り上がりになってきてますね…自分が活動を始めた頃とは全然違います。
色んなスタイルの人がいますし、ライブ見てると「こんな人もいるんだ」って発見がずっとあります。

illrain:
自分もやりたい人はたくさんいるんですけど、横浜はいすぎてマジで呼び切れないですね。
DJもビートメイカーもMCも豊富です。

ビートメイカーだとYamieZimmer, Oddy Lozy, (Classy Familyの)Akiっていう、今のシーンでよく名前を聞くビートメイカーがいますけど。
この3人…自分を含めて4人って全員同い年で、かつ横浜で活動してるんですよ。
(Aki Beatsは正確には横浜)
そういうのを考えてもやっぱ盛り上がってると思いますね。


─なるほど、この地でまだまだ化学反応が起きそうですね。
 最後に今後の予定について教えて下さい。


Carz:
今後まずMVが出ます。
とりあえず”High Level”と”Nintendo”は決定で、”Minato”も作るかも…って感じで。
2月中には出せると思います。

illrain:
そしてCarzとはジョイントでEPを作るのを定期化します。
今回のEPが『Project Island』って言ってる通り、これから色んなプロジェクトの島を作ってく感じで。
今後は聴いてて楽しい曲とかもやりたいし、色んなバラエティを見せられればと思ってます。

それから自分自身は他にもジョイントEPの制作が進んでます。
ひとつは(MCバトルでも名を馳せ、『illworld』にも参加した)Earth The KidとのEP。

そしてもうひとつがFuma no KTRとCarzとの3人でのジョイントEPですね。
これも今年中に2枚は出したいと思ってて…最終的にCarzとは20枚くらいまで作りたいっすね笑

あとは…同じ神奈川(&東京)のORIGAMIくん, GNB AAluCarDくん, ₩くんとは2月くらいに一度集まってもらってEP作りたいなって思ってます。
あそこまでハードな人たちはちょっと久しぶりに見ましたね、ヤバい。

加えて自分自身のEP・アルバムも作ってます。
客演はまだ伏せますけど…とりあえずチルとかエモい感じを排除して、完全にハードなトラップで攻めようかなと思ってます。

その上でさっき言った通り『ill world』のREMIX版も進んでます。
これはREMIXとは言ってますけど、客演が各曲に追加されるいわゆるデラックス版みたいな感じですね、まだいつ頃出せるかは見えてないんですけど。

Carz:
自分はillrainくんとやるのとは別に、自分自身のEPも用意してます。
これまでトラップメインでしたけど、チルい感じのとかもやろうかなって。

illrain:
Carzは歌も上手いんですよ、マジで。


─シングルで出た”Future”とかは歌寄りのフロウでしたもんね。



Carz:
だからそういう部分も見せれるような、そんな作品にしようかなと思ってます。
その上でノリでシングルもバンバン出してく感じですね。

シングルだと9forくんとの曲が2月くらいに出る予定です。
9forくんからやろうって声掛けてくれて、Geraldparmanさんのビートを送ってくれて。
あとはOddy Lozzyくんとも曲作ろうって話してますし。

しばらくはEPを重ねていって、自分の中で何かしっくりくるようになったらフルアルバムも作ろうとは思ってます。
今はまだ考えてないですけどね。

しかも俺、実はWeedも薬も一切やんないんすよ。
なんかやってるみたいな雰囲気で見られるんですけどマジでやらないんで、そこは好感度上げときたいです。
メディアの人とかは安心して使えるんで、よろしくお願いします笑


─メディアの皆さん、Carzさんを是非チェックして下さい笑
 ありがとうございました。


以上(2021/01/22)
───

作品情報:

(ジャケットクリックで配信先にジャンプ)

Artist:illrain & Carz
Title:Project Island
Label:illrain
2021年1月3日配信リリース



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