Column/Interview

北海道の若手・HAKU FiFTYの1st EP。2020年11月6日発売。



Track List:
1.Flash Back
2.I’ll liven” everyday
3.Yips feat. S1GNAS Recommend
4.Mystery Trap
5.Ecstasy feat. ₩ Classic
6.Super Star Recommend
7.i just wanna






よく遊びに行っていたライブハウスでHIPHOPのイベントが行われていて、
先輩のライブを見た時に自分も出来るんじゃないかと思った


 
そう語って投じた今回の初作。
MCネームの一部をEPタイトルに冠した7曲は、まさしく自身の音楽背景を投影したようなジャンルレスな仕上がりだ。
意外にもEarth Wind & Fireが耳馴染みのある音楽だという19歳だが、なるほど歌とラップをシームレスにシフトするセンスは多様な音楽的ルーツを感じさせる。
 
曲が切り替わるたびに全く異なるタイプのビートが横殴りし、それに応じてHAKU FiFTYもその姿を変える。
曲を進める度に全く違う世界が登場する作りで、EPとして展開が非常にエンタメ性に富む。
しかし、だからと言って様々なジャンルを闇鍋式にブチ込んだ雑多な作品かと言われるとそうではない。

むしろEPとして一本筋が通っており、かつ非常に映像的、物語的と言える。
だからこそ、ジャンルレスな曲が並ぶにも関わらず、それが作品の纏まりのなさに直結していない。
それはこの7曲がゆるやかな、しかし確かに1本の物語に裏打ちされているからだろう。

 
このEPはひとつの映画だと思って制作を進めました。
1曲目の”Flash Back “で悪夢から目が覚めて、最後の”i just wanna”で主人公が自由を求めて旅立つまでを描いた、僕の脳内で生まれた映画のようなEPです。
 
 

そう語る神々しく壮大なオルタナティブ “Flash Back” は、冒頭曲としてその悪夢的な閉塞感を煮詰めることに成功している。



夢の中で自分は立方体の様な箱の中に閉じ込められていて。自分の大事なもの、大切な人が箱の外に行ってしまう感覚に陥る。
何も言えないまま全てが離れていくのは嫌だと思い、自殺を試みるところで夢から醒める内容です。
 


この“Flash Back”で悪夢を圧縮した「溜め」を作ることが、次の “I’ll liven” everyday” 以降、夢から醒めて 走り出すカタルシスを最大限に引き出している。
なんとなくの流しで聴いても“I’ll liven” everyday”“Yips feat. S1GNAS”  あたりの疾走感は非常に楽しい、本作のハイライトのひとつだろう。
 
特に “Yips feat. S1GNAS” は、HAKU FiFTY自身も特に気に入っている1曲。
普段から仲の良いS1GNASと共演したこの曲は、ほど良くポップなエレピとリズム展開がご機嫌で、裏でホーンも鳴ってるんじゃないかと錯覚するくらい陽気なビートがそのノリの良さを支える。
(ビートに80年代ファンク的な素地が見えるのも、先ほどのEW&Fの話に通ずるものがあるだろう)

その意味で悪夢を振りほどくべく走り抜けるテンションを保った曲なのだが、一方でリリックを読み解くと、アップテンポなビートに支えされているものの、その内面がかなり葛藤に溢れていることにも気付かされる。



今年の夏に色々あって自分に自信を持てなかったり、曲を作っても納得のいかなかったりとすごくネガティブな時期があったんですけど、その時期に作った曲です。
スポーツをしている方によくあるイップスと同じで、音楽をしているのが怖いくらいネガティブで、
ありのままでいるのが難しくなってしまった。
没曲もなんだかんだ20曲くらいあって…でもそんな時に唯一生まれた曲が”Yips”でした。
S1GNASに助けられたり、色んな葛藤があって、曲を作り終わったあと2人で何十分も聞き入るくらい自分の中では衝撃が強かった。
 


そんな形で生きていく中での葛藤に向き合ったのが “Yips” だとすれば、その対を成す超攻撃的な仕上がりなのが “Ecstacy feat. ₩” だ。

こちらについてはもうあまり言葉での説明が意味を為さないというか、とにかくパキパキな2人が特攻状態で殴り込むだけの最高な曲に仕上がっている。
HAKU FiFTYはもちろんのこと、溜めに溜めて最後に登場する₩が全てを破壊する強烈な仕上がり。
₩や彼の仲間たちが持つカリスマ性、スター性については先のPRKS9のインタビューでも窺い知ることが出来るが、短い仕事時間でこれだけのインパクトを残す若手はそういないだろう。
特に「飛びすぎ俺どこSiri」あたりのラインは、自身の成長速度を御しきれない彼の強烈なスピードを的確に言い表したパンチライン。
(もちろんダブルミーニングだろう)
改めて今後の躍進を確信させるアーティストと言える。
 
そしてその後、気持ち良く四つ打ちの “Superstar” で速度を上げたまま、冒頭の “Flash Back” と対を成すダウナーなギターが印象的な “i just wanna” でこのEPは幕を閉じる。
そしてラストでHAKU FiFTYはサナギから蝶になり、自由を求め葛藤にまみれたこの世界から羽ばたいていく。
 
初作でこの練度の世界観を持った作品を7曲でまとめ上げ、かつ高次のラップスキルで実現してしまう。
日本のHIPHOPの裾野がどこまで広がり、その水準がどこまで来たか知ることの出来る、2020年下半期で最重要な1作だろう。

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2020/11/20 Text by 遼 the CP




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