レビュー:₩ 『Christ EP』(本人解説あり)
勢いを増すコレクティブ・クロスジヒトリの一員である₩(ウォン)の1st EP。2021年1月24日SoundCloud上でリリース。
Track List:
1.2minute
2.ATTACK Pt.2 Recommend
3. Crucify Thy Infant, Son of Whore rmx feat. Shaun Pxlly
2020年にラップを始め、同年1/24に初の楽曲“ATTACK”をSoundCloudに発表。圧倒的なスキルと佇まいであっという間に全国各地のライブや楽曲制作に呼ばれるようになり、若手の中でも急速に存在感を増す₩(ウォン)が初のEPをリリースした。これまで彼を知らなかった方でも、例えば盟友ORIGAMIとの“2WIN”やShaun Pxllyに招かれた“Riot Life”, 関西のrirugiliyangugiliと組んだ“CoD”あたりでのヴァースを聴きさえすれば同じ思いを抱くはずだ。
「ヤバい奴が出てきた」と。
以前インタビューで「俺っていうアーティストを表してるのは『攻撃』だから」と語っていた通り、₩のラップは常に発火状態だ。今回のEPに仕込まれた全3曲もまた、その炎でHIPHOPの全てを殲滅する為に用意されたシロモノとなっている。
(ORIGAMI『折神』のレビューはこちら)
自分はこのシーンの破壊の救世主だと思っているのでこのタイトルにしました。
だからEPのコンセプトは「破壊」です。
それだけです。
あまりにも₩らしく明快なコンセプト。だがその実、各曲での「壊し方」のアプローチは3曲とも異なっている。破滅的な作風が貫徹される一方、その辺りに多面的な才能を持つからこそ出来るアルバム構成であることを感じさせる。
例えば冒頭の“2minute”は、スクラッチが入りドラムとベース(そしてカウベル)が主導する驚くほど純正なHIPHOPビート。これまでTrap Metal寄りの楽曲を発表してきた₩にしては、やや意外な攻め手だろう。
ライブで自分の前の演者の最後の曲の2分後、自分のライブでは大虐殺が起きるので。
もう上記のコメントからして口うるさい奴らを殴り付けて黙らせるような勢いがあって最高だ。そして言葉通り、₩は前半部分でエネルギーを抑え込むラップを見せるが、最後には溜め込んだ熱量をHOOKで全て解放する。後半に進むにつれ、Boom Bapなのにシャウトしまくるラップが鳴り響く、耳に新鮮な体験が出来るユニークな構成だ。この曲が進むにつれて尻上がりに勢いを増していくのが₩の魅力のひとつ。
そして本曲のそれは、アルバム構成上大切な役割を果たしている──臨界点の設定だ。あるいはジェットコースターの頂点を決めた、と言い換えても良い。“2minutes”のHOOKまで溜めに溜めて、HOOKでこのアルバムは頂点を乗り超える。そのあとは加速した速力で爆走するだけ──₩の破壊力に揺さぶられる暴力的な音楽体験が待っている。その体験の「核」に当たるのが、文字通り3曲をつなぐ中核に位置する“ATTACK PT.2”だ。
今回のEPを2021/1/24にドロップしたのも、前回の”ATTACK”をドロップしたのが2020/1/24だったからです。
ちなみに曲の冒頭の音声は自分の友人が送ってきた動画が面白かったので曲に取り入れました…内容は言えないんですが。
デビュー曲の続編にしてアルバムの中核となるこの曲は、まさしく「₩が何であるか」を象徴する1曲だ。冒頭から抜けの良いシャウトが爽快な中、曲が進むにつれて叩き潰されたかのように歪んでいくミックス。そしてHOOKの「破壊と神の子供」という本作を象徴するフレーズ・迫力…。ラップスキルとそれを取り巻くミックスの仕上げ、そしてアーティストとしての本質的なスタンス。これらが三位一体となった、まさに「₩の基本姿勢は攻撃」を示す1曲と言える。
年末に新しい機材(マイクやコンプ等)を新調したんですけど、今回のEPは1年間使ってきたボロボロの機材をあえて使ってGaragebandで編集しました。
いつも感覚でミックス作業中に思いついたことをとにかくやるようにしてます。
この曲で「自分が誰か」を圧倒的に示したのち、ボルテージを振り切った₩は最後に突き抜ける─Shaun Pxllyを迎えた“Crucify Thy Infant, Son of Whore rmx”だ。
原曲は最後の最後にスクリームが入る以外はずっとmetal soundのインストなんですよね、そこにバースを蹴った曲です。
初めて原曲を聴いた時に受けた衝撃を感じ取れる人はショーンくんだなと思ったので、声を掛けさせて頂きました。
元の”Crucify Thy Infant~”もChristについての曲なので、そこにも運命性を感じていて、僕はEPでこの曲が一番気に入っています。
この曲についてはもはや完全にメタルだ。ジャンルの壁など微塵も気にしていない、自身のアイデンティティをそのまま投入した初作ならではの勢いとも言える。原曲のビートジャックの上で繰り広げられるシャウト合戦には「ラップとしてどうか」という尺度はもはや機能しないのだが、逆に「₩とは何か」を知る上では逆に最も根源に近い曲だろう。ここで繰り広げられるのは₩の初期衝動に基づく熱量の解放だ。(ここまでにも既に2-3度解放していた気がするが、この3曲で合わせて180%くらいの熱を放出している)その意味で₩がこの曲を最も気に入っているというのは得心がいく。自身にとって大切な曲をビートジャックし全力でスクリームする。SoundCloudでのリリースだからこそ出来た力業で本作を締めて、₩は今後は次のステップ──配信ストアでの正式リリースに軸足を移すようだ。
(₩の所属するコレクティブである)クロスジヒトリでの活動・制作、ソロアルバム、MV…。
2021年は去年の倍は動くつもりなので、期待してもらえれば幸いです。
まだ1年のキャリアにして圧倒的なスキルとカリスマ性を携え、細かいジャンル分けなどそこのけで全てを蹂躙する₩。2021年に彼が踏み潰し、その後に芽吹かせるものは何か。日本のHIPHOPは救われるのかもしれない。
アーティスト情報:
₩(ウォン)
東京出身の19歳。
2020年1月より活動開始。
神奈川、東京、北海道を跨ぐジャンル横断的なコレクティブ・クロスジヒトリのメンバーでもある。
クロスジヒトリは東京出身の₩(ウォン), 横須賀出身のORIGAMI, 横浜出身のGNB AAlucarD, yuoto, JUDASの5人で結成。
2021年1月には北海道よりHAKU FiFTYとYvng Patra, そしてHxpetrashが加入した。
Trap Metal, Emo Rap, Electronica/Technoなど多様な音楽性のメンバーが集まることで、多面的な楽曲を制作している。
メンバーのうちORIGAMIは2020年11月に初のEP『祈神』をリリース。
₩も1st EPを2021/1/24リリース。
GNB AAlucarDもソロEPのリリースを控える。
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2021/02/04 Text by 遼 the CP
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