Column/Interview

LIBROの最新作『なおらい』は、またひとつLIBROが新たなスタンスを示して見せた1作だ。2014年に『COMPLETED TUNING』でHIPHOPシーンにカムバックして以降、LIBROらしさを常に保ちつつ新たな試みを続けてきたLIBRO。PRKS9ではLIBROの全過去作レビュー企画も進行している中、今回のインタビューは『なおらい』や近作での試みはもちろん、そのキャリアの始まりから休止の理由、復活に至るまで、そのキャリアを今一度整理するものとなった。

「最初はビートメイカーになりたかったんです。誰かラップ乗せてくれないかなって感じだったけど中々いなくて…じゃあ自分でラップしてみるかって」

今一度、「LIBRO」をBack to the Basicする。


登場するアーティスト(順不同):
ARK, 漢, 鎮座DOPENESS, DJ TOZAONE, DEV-LARGE, MURO, J Dilla, Pete Rock, 矢野顕子




ARKと出会いHIPHOPを知るまではハードロックを聴いていた

─今日は最新作『なおらい』はもちろん、今一度そのキャリアの始まりから整理出来ればと思っています。まずはどのようにHIPHOPに出会ったのか伺えますか?

LIBRO:
元々HIPHOPに出会うまではギターとかしてたんですよ。子供の頃にギターってカッコ良いなって思って、中学生の…1991-2年とかに始めて。で、そのときは音楽に詳しくはないじゃないですか。それでギターが使われていて当時流行っているものってことで、洋楽のハードロックとかをよく聴いてました。今になればギターを使うのでも色んなジャンルがあるってのは分かるんですけど、当時はギターがフィーチャーされてて手に入りやすいものとして、その辺に手が伸びて。

で、そのままギターをしてたんですけど、高校に入って、高1の同じクラスにARK(*)がいたんですよ。彼は音楽をかじってるやつに興味があったみたいで、最初に会ったときに「どんな音楽聴いてるの?俺はこれなんだけど」って。それで紹介されたのがHIPHOPでした。

(*のちにラッパ我リヤ率いるポッセ・走馬党に所属。GINRHYME DA VIBERATER, DJ TANAKENとのクルー・BACKGAMMONとして90-00年代半ばを中心に活躍した)


─のちに何度も共演することになるARKさんとは、高校の教室での出会いだったんですね。どんなHIPHOPを紹介されたんですか?

LIBRO:
なんか凄いギャングスタなやつでしたよ(笑) 『カラーズ 天使の消えた街』(1988年)っていうストリートギャングの映画や、それに出演していたICE-Tのアルバムとか。お互い音楽の話がしたかったんで、そこから一緒に色々話したりするようになりました。それで高校を卒業してすぐ、19歳のときにリリースしたのが『軌跡』(1997年, 客演にARKも参加)でした。



─ARKさんに紹介されて出会ったHIPHOPだと。何がLIBROさんに刺さったんですかね。

LIBRO:
音作りの作業が楽しかったんです。最初はビートを作る人間としてやっていきたかった。カセットのMTRをセットして、ドラムマシンを打ち込んでみたいな作業に没頭する時間が好きだったんです。元々ギターをやってた訳ですけど、やっぱりそっちだとバンドメンバーが集まらないと曲らしい感じになっていかないじゃないですか。それがHIPHOPだと自分の手元で出来る。しかもサンプラーっていうのがあって、どうやら自分で好きな音を取ってきて使えるらしい、これは面白いぞ、みたいな。手法が自分に合ってたんだと思います。

だから最初はビートメイカーになりたかったんで、誰かラップ乗せてくれないかなって感じだったんですよ。でも中々すぐにラップを乗せてもらえるわけでもないし、自分で早く曲を形にしたいし…っていうのがあって、それでじゃあ自分でラップしてみるかって。元々はビートを作ってるときの没入感が好きで、それを突き詰めたかった感じです。



─ラッパーになるぞって感じではなかったんですね。そこから『軌跡』をリリースして、キャリアが本格化すると。

LIBRO:
そうですね、高校を卒業してから俺もARKもお互い活動するようになっていって。ARKは走馬党に入ったんで、その繋がりでスタジオに遊びに行かせてもらって、そこで曲作りの工程がどういうものなのか学ばせてもらいました。俺も曲作りをする上でこうしたら良いんだ、とか勉強させてもらいました。それで俺も同じスタジオを使わせて貰ったりして。



─そうしてキャリアを積み上げていく中で、影響を受けたアーティストなどはいたんですか?

LIBRO:
影響というか、好きだな、凄いって思ったのはPete RockさんとかJ Dillaさんとかです。日本においてはビートとラップを両立してる人は凄いなって…DEV LARGEさんとかMUROさんとか、凄くレコードの知識もあって、洋楽へのアンテナも高い。これは自分にはないものだ、本流っぽいなって思ってました。俺自身は彼らとはまた違うスタイルだと思うんです。これはイメージでしかないですけど、彼らのベースになってるのは、きっとお父さんの部屋にあったソウルやファンクのレコードを聴いて、それがルーツになってビートメイクする…みたいなことだと勝手に思ってて。

そう思って自分の家を漁ってみるとフォークとかのレコードばっかりで…いや全然良いんですけど(笑) その中に矢野顕子さんの1stアルバムのレコードがあって、それが唯一変わった、ちょっとレアなものだった記憶があります。それで矢野顕子さんを聴いて「凄いな」と思って…色々掘り進める中で、”対話”とかの音が生まれたりしました。

そういうのがベースになっています。欲しい音源はもちろん買ったりするんですけど、あんまりディグしまくるとかっていう感じではないです。偶然の出会いで何か生まれる、それが必然だと思ってました(笑)





活動休止から復活までの軌跡

─そうしたビート観を確立し、キャリアも積み上げていった中、『三昧』(2003年)を最後に実質的な休止期間に入りましたよね。そこからラップ音源として復活するのは2014年だった訳ですが、ラップを手控えることにした理由など聞かせて下さい。

LIBRO:
なんか単純に…己のマインドが上がって行かなかったですね。周りはずっと「またやろうよ」って言ってくれてたんで心苦しかったですけど。自分の中では『三昧』で結構良いのが出来たなって感じてた中、あまり周囲の反応というか…平たく言うと「あんまウケてないのかな」って感じて。別にちゃんと確かめた訳じゃないんですけど、なんとなくそう感じてた。

実は『三昧』を作った後に書いてた曲が”ハーベストタイム”っていう、今回『なおらい』に収録してる曲の元になった曲だったんです、『なおらい』では結構原型から変えてますけど。それで『三昧』が良い感じだったらこの曲を出そうと準備してたんですけど、そういう状況だった中で「まだ分かってもらえてないのかな、このまま出すとみんな離れていくのかな」みたいな…自分の心持ちの弱い部分が当時は見えていませんでした。



─確かに『胎動』のあと、『音楽三昧』(2000年)からはサウンドの質が変化していて、リスナーが少し驚いた部分はあったのかもしれません。

LIBRO:
そうですね…自分はやっぱりHIPHOPに出会った時の「なんだこの最新なサウンドは!」ってところに刺激を受けたので、今度は自分が次の最新型のサウンドを示したい、って思ってた。そうするにはどうしたら良いかっていう試行錯誤の中で出来たもので、自分では気に入ってました。

でも反応が良くないように感じた中で、これ以上のものを作るにはどうしたら良いかとも思いつつ…でも周りはみんな「もっとやれる、もっと聴きたい」って言ってくれる。その狭間でいるのが結構大変になってきたんで、それで「一旦今はやりません」ってことでした。空白期間の理由は、言っちゃえばそれだけです。



─そこからラップ音源としての復活まで、結果的に11年掛かりました。

LIBRO:
音楽はもちろん続けていたけれど、やっぱり一度休むと、そこから自然にモチベーションが湧き上がってくることってないんですよ。一旦休むとなんだかふわふわしたまま、そのままでいちゃう。

そこからBLACK SWAN, ひいては9sari GROUPと出会う中で、『COMPLETED TUNING』(2014年)を準備してたんですけど。これも元々は客演を呼んで自分はプロデュースに徹するアルバムにするつもりで、ラップする気はなかった。でも”マイクロフォンコントローラー feat. 漢, MEGA-G”を録ったときに…実は漢さんは「ちょっとLIBROにラップさせようぜ」って思惑があったらしくて。漢さんが自分の2Verseを録り終えたあと、当たり前のように「じゃ、あとLIBROのラップも入れといて」って言い残して帰って行ったんですよ。それでとりあえず音源を聴きなおしてみたら、かなり漢さんのリリックが刺さって。勝手に「これは全編俺のことを歌ってくれたんだ」って読み替えて、ラップしてみたら、声が出た。

そのときはまだリハビリっぽい感じだったし、丸々自分でラップするようになるかは分からなかったけど。まあ、漢さんに背中を押されるなんてラップする理由としては十分すぎる。やってやるぞって決意表明を吹き込んだのが”マイクロフォンコントローラー”です。




『なおらい』は「みんなに語り掛ける」ことを意識した

─今回の『なおらい』は前作から3年ぶりのリリースとなりました。2014年以降、毎年自己名義の作品をリリースしていた中で初めて少し間が空きましたが、このあたりの背景を教えて下さい。

LIBRO:
まず復帰してからは、待ってくれてたリスナーさんや、シーンを繋いで温めてくれてた人たちにちゃんと報いたいなと思って頑張ってました。あとは俺も立ち止まるとそのまま手が止まっちゃうタイプなので、モチベーションが下がる前に作れる限りのペースで、全部さらけ出そうと。以前は1曲完成度の高い曲が出来ればそれで良いんだと思ってたんですけど、今はそれを達成する為にもある程度ストック的に作り続ける必要があるなって考えに変わった。

だからほんとは年1作くらいのペースで作り続けられればっていうマインドなんですけど。『SOUND SPIRIT』(2018年)を出したあとも、さあ次のを作るかと思って取り掛かってて。でもそこから今回間が空いたのは…その中で新型コロナウイルスが出てきた。それでちょっと待って、世間がどうなっていくのかをきちんと見てからでも良いなって思ったんです。要は、(コロナ禍の世界と)メッセージや表現方法がズレたら嫌じゃないですか。あんまり誤解されたくない、自分として丁寧に伝えたかったから時間が掛かった感じです。ほんとはそうして待ってればこれ(コロナ禍)も終わってるかなと思ってたんですけど、未だに終わってなくて…そんな中で、だからこそ余計に言いたいことが出てきた部分もあって。



─コロナ禍での世相に感じるところも出てきたと。

LIBRO:
俺はまあ、色々あった中で1人でこもって作業する、みたいなことには耐性があったんですけど、世間はそうじゃない。そんな中でみんなどこか焦り始めてるのかなっていう思いも出てきた。もちろん色々大変なことはあると思うんですけど、「大丈夫だから」って言いたかった。「ちゃんと乗り越えて、みんなで収穫祭を迎えられるから」って。

俺はあんまり嫌いなものやネガティブなもので共感を得るよりは、好きなもので繋がりたいので。この状況をなるべくネガティブな方法では表現したくなかった。自分としてはこの表現方法を自信を持って打ち出せたかなと思います。



─「みんなに語り掛ける」メッセージ性が表面に出てきたのは『なおらい』の特徴だなと感じます。

LIBRO:
これまでは自分の内なる思いをどう曲に表現するかってことを考えていて、その意味で自分との対話だったんです。でもそこから、みんなにきちんと伝えることも大切だなって、こういう状況の中で思えた。



─「なおらい」は「祭事が終わっての宴会」を意味するようですが、このタイトルにした理由は?

LIBRO:
アルバム全体のテーマ的なものとしては、みんなで集まっての収穫祭をイメージしてるんですけど。「なおらい」はそうした祀りごとのあとに、神様へのお供え物なんかをみんなで分け合って…平たく言えば打ち上げすることなんですよ。それっていま、この情勢で一番出来ないことじゃないですか。

日本人の文化的な情緒って四季や各土地の祭事によって形作られてると思うんです。でも、今はそれが(コロナ禍で)奪われている。そんな中で自分たちの文化的な情緒を無くして、ただ生きているだけになってしまう。だから「なおらい」って今一番出来ないけど、今一番みんなで思い出したいことだなって。

アルバムタイトルを「なおらい」にしたのは、あとは単純にこういう言葉があるよってことをみんなにも知って欲しかったからでもあります。アルバムのアートワークは自分の友達の苦虫くんが書いてくれたんですけど、猫に何かささやいている絵で。あれは「なおらい」の意味を口伝してるところなんです。そんな風に、昔から培われてきた文化を口伝していきたいって思いもありました…ラップ自体も口伝するツールだし。



─その意味だと、冒頭の曲が「時は来た」「物語には続きがあった」と語る”ハーベストタイム”であるのはまさしく、ということですね。

LIBRO:
ですね。みんなこの情勢下で色々自分なりに頑張ってると思うんですよ。ちゃんとそれに「大丈夫だよ、ちゃんと収穫祭を迎えられるよ」って言いたい。年によっては豊作も凶作もあるだろうけど、めげないでって。

逆にアルバムの最後が”プレイリスト”なのは、「朝を待って」「夢を待って」次に備えよう、また次の収穫が来るからって意味合いも含んでます。あの曲こそ「みんないきり立たないでさ」って思いが出てる曲でもありますね。凄く言いたいのは、白黒付けたがる世界ですけど、みんなやっぱりグレーな存在じゃないですか。そのグレーの濃淡の具合は人によって違うはずで、お互いその濃淡が違う人たちで穏やかに繋がれば良いと思ってます。みんなグレーなんだから、そこの細かい濃淡の違いを指さし合ったってしょうがないよって。でもこういう言葉をそのまま言うのは相手の否定にも聞こえちゃうし良くないなと思っていて。だから自分なりにそれを、音楽の中でリラックスして、楽しい時間を提供する中で伝えられないかなと思ってやってます。



─その流れで言うと、鎮座DOPENESSさんとの”ヤッホー”にしたって、こういう情勢下で疎遠になった友人への視線が入っている気もします。

LIBRO:
そういう部分もあると思います。鎮さんはマインドも近いところがあると思ってるし…やっぱ鎮さんは凄い人ですよ。ライブとかも少なくなってる状況ですけど、ちょっとやってるところに行くと鎮さんがいて音楽を奏でてたりして。閉塞感を忘れさせてくれて解放させてくれる、尊敬する音楽家の一人です。共通の知人を介して繋がったんですけど、そこから遠隔でやり取りをして、最後に直接会って録って、ってして。



LIBROのビートとラップのつくりかた

─ビートメイクの面では、本作ならではとして意識されたことはありますか?

LIBRO:
そこまで特別なことはないですけど、やっぱり基本はサンプリングがベースにありますね。ただ、サンプリングしてから音を抜いてったりとか、自分で弾いたりとか、あるいは途中で展開を変えたりだとか、そういうことも増えてきました。これまではサンプリングはどれだけ音を重ねられるかの勝負、くらいに思ってましたけど、そこは変わりましたね。



─ビートは普段どのように制作されてるんですか?

LIBRO:
何かインスピレーションを待って…ってすると自分の場合は何もしなくなるので(笑)、あえて事務的に作り始めています。日常的に、当たり前に作っていく。どちらかと言うと、リリックとかの方が何か噛み締めたり、感動したりすることがあったときに書き上げますね。だからオケだけは作り溜めていてそこにリリックを乗せるんですけど、音と合わせて初めて「あ、俺こういうことが言いたかったんだ」って気付いたりします。おぼろげにテーマがある、くらいで作るものについては半分くらいこうした気付きを得ながら曲が出来ていきますね。



─LIBROさんの音はBoom Bapが基軸ですが、他のHIPHOPのサウンドについてはどう感じてるんですか?

LIBRO:
音自体はやっぱり好きですよ。Trap以降の軸になってる808の音とかも、楽器としてやっぱり良いなって思います。自分のマインド的にあんまりダーク過ぎるものとかは聴かないんですけど。チルなものとか、ひんやりしたシンセが入ってるような音とか、結構日常の中で流してますね。

でも自分で作るかって言うとそれはなくて…単純に、自分のラップをTrapとかの音でやると乗せ方が変わってくるじゃないですか。以前からのスタイルでラップしてる人がTrapのリズムに乗ると結構テクニカルというか、カツカツな乗り方になりがちだと思うんですけど、それは自分のラップとは違うと思うので。だから自分が作るときにはそういうスタイルにはしないですけど、(現行のサウンドにも)影響は受けてるんじゃないかと思います。

ラップについても、自分の声にオートチューンを使ったりしてますしね。結構あの、声の強弱が均される感じが好きで。あんまりケロった感じというよりは本来的な音程補正に使ってる感じですけど、自分のラップも元々メロディがあるタイプなので、結構使ってます。今回もいくつか使ってますしね。



─今回の曲名は”気が散るもの遠ざけてチル”や”DJは縁結びの神さま”など、曲名に述語があって長いものが多いのも印象的です。何かこのあたりは意識されたのでしょうか。

LIBRO:
めちゃくちゃ意識して作ったってものではないんですけど、聴く人それぞれが、好きな情景をなるべく具体的に思い浮かべられるようにって考えて付けたものですね。元々は…それこそ『胎動』みたいな2文字でドン、みたいなのが、聴き手の意識を限定せずに良いかなと思っていて。とは言えこれじゃ説明不足かもな、と思った時に、もう少し具体的な曲名にした感じです。今回の「聴き手に何か伝える」ってテーマの中で、色々試してる手段のひとつですね。

その流れで言うと”DJは縁結びの神さま”なんかは、昔俺のバックDJをしてくれてたDJ TOZAONEくんに向けて書いた曲なんです。実は彼がいま闘病中なので、そんな中で「頑張れ」とは言いにくいけど、これまで彼から受けた恩や感動なんかを感謝してる内容です。でもそれすら、リリックとして直接的にはそう書いてない。聴き手に伝える為のアルバムなので、みんなは好きにそこから自分がクラブで救われた経験や、DJとの出会いなんかを思い出してくれれば良いかなと。



─そうした本意を曲の裏側に隠すのはLIBROさんのリリシズムに通底する部分ですが、作詩作業はどのように進めるんですか?

LIBRO:
まず曲のテーマ、核となる単語を選びます。これは結構念入りに、どういう言葉が肝になるのか選ぶ。それが決まったら、次に核となる単語より強い言葉、弱い言葉を選び出してきて。そこで使う言葉の土台が出来て、そこから韻の踏み方だったり言い回しみたいな、「カッコ付け方」の作業が始まります(笑)



─言葉の使い方で印象的な曲として、”4つの力”は発しているメッセージも哲学的な思索をLIBROさんらしい朴訥とした言葉遣いで表現されていてじんわり染み入ります。

LIBRO:
これは自分が「人はどういうときに曲に惹かれるんだろう?」って疑問を持って、そこから考えて言った曲ですね。まず物理的な影響を及ぼす力としての引力だとかがあって、そことは別の心的な部分に求心力なんかがあって…って。俺たちも何かとギスギスし合ったり、逆に何かを好きになったりする世の中で、その元となる力を理解出来ればもっとこういう感情を上手く扱えるのかなって、そう思って書いた曲です。言葉が人に伝わる、感情に影響を与えるシステムを、例えば「脳のこの部分が刺激されて…」って言っても分かり辛いので。もう少し捉えやすい形で書いてみた曲です。



フィーリングの合う仲間と共に、次の作品へ

─そうした思索も経て、タイトル曲でもある”なおらい”があえて「俺らならなんにでもなれる」とストレートなメッセージを打ち出していることが効果的になっている気がします。

LIBRO:
そうですね、この曲に関しては「俺ですらこうなればここまで直接的なこと言っちゃうよ」ってことだと思います。今こんな時期だからこそ、自分にそういうものを予想していなかった人にも届くかなって。このアルバム自体が「なおらい」(=打ち上げ)として作ってるので、9曲目くらいになってくるとそろそろお酒も回って朗らかになってくる時間帯なんですよ。気も大きくなって、みんな「俺だってやれるぞ」って気になってくるような…そんな流れを9曲目までに高めることで作ってる。それは第三者から見ると「なに気が大きくなってんだよ、お前はちっぽけなままだよ」って言いたくなるようなことかもしれない。でもそんなの関係ないよって、大丈夫だぞって、意志を押してあげるものにしたかった。

その前の”小道を行けば”にしたって、ほろよい気分で帰ってる、次の”なおらい”に繋がる曲と思ってもらっても良い。あるいは自分だけがこの道を進んでるような不安感を、「大丈夫だよ」って後押ししてあげる、そういう位置付けでもある。そのあと”プレイリスト”で次の日を待ちながら床について、また次の収穫祭を待つ。そうした流れは考えました。





─なるほど、どういうマインドセットを備えて次の収穫祭を迎えるのか、全体を通して練り上げていると。その中で異彩を放つのが”シナプス”でしょうか。句潤さんとMU-TONさんを割とハードなマイクリレーへ抜擢していますね。



LIBRO:
そうですね、この2人はMCバトルを見ている中でもやっぱり凄いなと思って…俺もKOKとかにビートを提供したりする中で結構見るんですよ。自分とは違うフィールド、スキルの人たちだと思いつつ、自分のいる現場で繋がった2人として声を掛けました。2人ともフロウがメロディアスなところが自分ともリンクするなと思ったし、何より現場でバトルを見ていて「頭の回転どうなってんだろう」って。その回転を曲に落として欲しい、俺も横で参加するからさ、みたいな曲です(笑)

その意味でも…『COMPLETED TUNING』の頃とかは自分が気になってた人にとりあえず声を掛けてやってみるって感じで、それはそれで良かったんですけど。最近は、そうした自分の身の回りにいて、共に過ごしてきた人を客演に呼ぼうって思いが強くなってきてます。



─身の回りの人を見て、彼らとのマインドを大事にしている。

LIBRO:
そう、だから復活した直後よりは穏やかにりましたね。きちんと同じフィーリングの人たちでいることの大切さを知ったというか。この時勢もあって俺がみんなに「焦らずに落ち着いて」って言えるようになったのもその環境が大きいのかなと。そしてそう思えるようになったのは家族がずっとサポートしてくれることが大きいです。そのおかげで自分も力を抜くことが出来て、そのマインドをみんなにも発することが出来るようになったと思う。

もしかすると、みんなに言おうとしてるのは「落ち着いて」というよりも、「大丈夫だから元気出して」ってことかもしれません。今回の「なおらいや収穫祭を見据えて」って話はこの情勢下はもちろん、コロナ禍が終わったあとでも通じる話だと思うので、その次のメッセージを届けられるような、また違った作品を届けたいですね。なんならもうすぐ次に取り掛かりたいと思ってるので。


───
2021/09/30
PRKS9へのインタビュー・コラム執筆依頼・寄稿などについてはHP問い合わせ欄、あるいは info@prks9.com からお申し込み下さい。


作品情報:

(ジャケットクリックで配信先へジャンプ)

Tracklist:
1. ハーベストタイム
2. シグナル (光の当て方次第影の形) feat. 元晴
3. シナプス feat. 句潤, MU-TON
4. DJは縁結びの神さま
5. 4つの力 (The Four Fundamental Forces)
6. ヤッホー feat. 鎮座DOPENESS
7. 気が散るもの遠ざけてチル
8. 小道を行けば
9. なおらい
10. プレイリスト
11. ハーベストタイム Remix

Artist : LIBRO (リブロ)
Title : なおらい (ナオライ)
Label : AMPED MUSIC
Release Date : 2021年09月08日(水)
Format : CD/DIGITAL
Price: 2,500YEN + TAX(CD)


アーティスト情報:


日本のヒップホップ・シーン黎明期から活動をスタート。97年にラップ、トラックメイク双方を手がけるスタイルでデビュー。98年にリリースしたミニ・アルバム「胎動」は、様々なアーティストが自分のスタイル確立に切磋琢磨するヒップホップ・シーンの中において、全く新しい風を吹き込むオリジナリティ性を提示、大きな話題を呼ぶこととなった。03年の「三昧」以降は、トラックメイカーとしてあらゆるジャンルの匂いを取り入れつつも、何にも偏ることなく自らのジャンルに昇華してしまう突出したセンスでラッパーやシンガーにトラックを提供。06年にはLIBRO、シンガーKEYCO、映像作家の大月壮によるユニット、FUURI名義でフルアルバム&DVDをリリース。全曲のサウンドプロデュースを担当。09年には自身のレーベル「AMPED MUSIC」を立ち上げ、LIBRO名義で初のインストアルバム「night canoe」をリリース。以降、リリースをコンスタントに続け、最新作は2018年末発表の「SOUND SPIRIT」。デビューから20年を経ても、なおフレッシュでオリジナリティを進化させ続けるアーティスト。

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