Column/Interview

e5のことを筆者(遼 the CP)が知ったのは、まさに今回PRKS9でMVを公開した”TwoHundredFifty feat. HAKU FiFTY”がきっかけだった。

SoundCloudのレコメンド機能・More of what you likeで偶然サジェストされたことだった。その特異でダークな世界観は、気鋭の集団・クロスジヒトリの中で最もトリッキーなHAKU FiFTYのラップもその一部に組み込んでしまう、圧倒的な構築力を持っていた。この曲の一種超越したムードは、個人的に2021年のHIPHOPシーンでも稀有なものであろうと思う。

他方でその衝撃のままe5, そして所属する女性3人組のクルー・Dr. Anonの他の音源も聴いてみると、そこには”TwoHundredFifty”とは全く違う顔を見せる世界が転がっていた。未だ明確な姿を掴ませない彼女、そして彼女たちの目指すものは何か。これはSoundCloudで注目され、まさにいま配信ストアや各種の現場といった「表舞台」に顔を出しつつある、彼女の姿を捉えた貴重な資料となるはずだ。




登場する主なアーティスト(順不同):
HAKU FiFTY, Akifloat, Dr. Anon, ₩, yingyangaran, 4s4ki, Swervy


最初はHIPHOPが苦手だった

─今日はよろしくお願いします。

e5:
よろしくお願いします、e5(えご)って名前でラッパーをしています。出身は千葉県で、今も千葉に住んでいます。2003年生まれの17歳で、2021年の9月に18歳になります。高2のときに学校を辞めていて、今はバイト以外の空いた時間は全て音楽してる感じです。

e5ってMC名はこれまで色々あった中で「わがままな女の子が可愛い。人から自己中とか言われても私はそれでいい。だって私はエゴだから」って思って、そこから取ってます。ただエゴにするとひねりがないんで、少しもじってe5にしました。



─e5さんはバックグラウンドの音楽が中々推測しづらいですが、元々どのような音楽を聴いていたんでしょう?

e5:
昔からボーカロイドが好きで、ずっとそういう音楽を聴いてました。HIPHOPは聴かないというか、むしろ苦手でしたね。ボーカロイドとかが好きな…そういう文化圏からすると、単純に見た目や服装もあまりカッコ良いと最初は思ってなくて。ブレイズとかも最初は良さが分かんなかったりして…今はもうカッコ良いと思いますけどね。

それで最初はボーカロイドから入って、邦ロックを聴き始めたので学校でバンドを組むようになって…その時期に仲良くなったネットの友達が韓国のHIPHOPが好きで色々教えて貰ったんです。そうやって韓国や海外のHIPHOPを聴くと、USの曲でボーカロイドの曲をサンプリングしたものとかもあったりして。それでHIPHOPも「面白い文化だな」って思うようになりました。そこからスマホのGaragebandでビートを作るようになりました。でもそのビートに自分でラップを乗せようと思うと、色んなフロウとかを勉強しなきゃいけないじゃないですか。そのために色んな人の曲を聴いてたら、いつの間にかハマってた感じですね。

ボーカロイドにハマりだしたのが小4から小6で、その頃は厨二病全開でした。そのあと中学校の頃はファッションメンヘラな感じで…完全に黒歴史です(笑) でもその辺が自分のバックグラウンドや個性にはなってるんだろうなって思います。サンクラにある”Sea of memory”は自分でビートから作ったんですけど、出来上がってみたらなぜかボカロ曲っぽい感じになってた。でも友達からは「それがえごちゃんの個性なんだよ」って言われて、自分でもそうなのかなって。





─HIPHOPにハマるきっかけになった、韓国のHIPHOPアーティストって誰だったんですか?

e5:
最初はJvcki Waiから入って、Kid MilliやJay Parkとかめっちゃ聴いてました。最初はTrapとかよりもメロディがメインな曲の方が分かりやすかったので、R&B寄りな…K-Popのラップシーンとかをメインに。だからフロウや雰囲気とか、韓国のHIPHOPをメインに影響を受けてると思います。韓国のラップはハングルも聴き心地が良いし、MVもスケール感があったりして凄いと思います。今でもよく聴きますね。





─そこから日本の音楽にも触れた際、どの辺りのアーティストが刺さりましたか?

e5:
日本の音楽シーンになると、Alternative寄りの方面が…まだ未知ですけど凄くハマって。例えばyingyangaranくんのEP『stairs of yingyang』(2020年)とかは凄くカッコ良いなって思いました。あとは4s4kiさんとかも好きですし…その意味で「ラッパー」ということにこだわりがある訳ではなくて、オルタナロックがしたければそういう曲もすると思いますし、ハイパーポップもだし、(HIPHOPと)近いけど別、みたいなジャンルとの垣根は感じてないです。



だから自分のいるクルー・Dr. Anonではハイパーポップをやってますけど、それぞれのソロ活動だと自由に色んなジャンルをやってるっていう…みんなクルーとソロでやってること全然違うじゃないですか(笑) 自分だけでやってたら、ハイパーポップはやってなかったと思う…自分のソロとかだと、やっぱそれこそHAKUくん(HAKU FiFTY)とかの雰囲気が合うので。

ただ、日本のHIPHOPはまだまだ詳しくなくて。MCバトルの知識とかもゼロなので…よくインスタライブで「〇〇ってMC知ってますか?」って聞かれて「分かんないです…」ってなる感じなんで、これから勉強ですね。



「音楽は初めて自分で自分に賭けたもの」

─色んなジャンルを吸収しつつ軸足はHIPHOPに置いてるわけで、HIPHOPのどの辺りがe5さんの肌に合ってたんですか?

e5:
やっぱり自分自身の生き様が凄く求められる、キャラクターを固めることの重要性がある部分ですね。「ちゃんと自分を確立する」ってところには惹かれるものがありました。

例えばクロスジヒトリの₩(うぉん)くんはキャラクターもカリスマ性もあって凄いなって思います。カッコ良いし、(ラップスタイル的に)怖いイメージもありますけど実際は凄く優しい。周りのラッパーたちの間でも「₩はリスペクトしてる」って人はすごく多いです。カリスマ性あるというか…₩くんだけじゃなくてクロスジヒトリ自体、めちゃくちゃオーラあると思います。こないだRAVENってイベントにokudakunが出演したとき、私も”oeoe”で客演してるので出演したんですけど。そのライブにHAKUくんもクロスジヒトリのみんなを連れて出てきてて、登場からしてもう雰囲気が全然違いました。HIPHOPのそういう、自分を確立する中で付いてくるキャラクター性には惹かれます。

ちなみに₩くんは元々HAKUくんよりも先に知り合ってて、“TwoHundredFifty”も₩くんと作る予定だったんですよ。ちょっと₩くんが忙しくなって時間が経っちゃった中で、タイミングが合ってHAKUくんが「入りたい!」ってなってくれて。結果的に₩くんも「あれはHAKUで正解だったよ」って言ってました。





─そうしてHIPHOP沼にハマってから、プレイヤーとして本腰を入れるまでのスパンがかなり短いですよね?

e5:
そうですね、ちゃんとHIPHOPを聴き出したのが高1の初め頃で、そこからすぐガレバンで曲を作り始めて、高2の途中…2020年で学校を辞めて「音楽に専念しよう」って決意しました。元々ボカロPやSSWになりたい、って夢は持っていたので、それがHIPHOPに形を変えて歩み出した感じです。辛いこともありますけど、自分の夢の為なら頑張れる。自分で選んだ道なので。私は正直、習い事も部活も全然続いたことなくて…すぐ投げ出しちゃいます(笑) でも音楽は自分で自分に賭けたものなので。

とは言え、他の人も自分みたいにすべきとは別に思わないですけどね。私の場合は人が出来ることが自分には出来ないので…自分を追い込む為にも学校を辞めて、全て音楽を伸ばす為に使おうと思った感じです。普段はおバカキャラみたいに通してる奴が実は結構覚悟背負ってるんだぜってノリが好きなので、SNSとかでも普段はこんなこと語らないんですけどね(笑) この場を借りて語らせて貰えればなと思います。



─17歳からの人生、音楽に本気で賭けると。

e5:
私、お母さんが大好きなんですよ。学校を辞めるときも「いいよ」って味方になってくれて。「自分で選んだ道だから誰にも文句は言えないし、たぶん大人になるのに一番大変な道だよ」とも言ってくれて、その上で応援してくれたんです。「大人になるために、自分で選んだ道で辛いことにぶつかってはじめて気づくことがあるし、1番それがあなたの成長に必要だと思ったから学校を辞めることも理解したよ」って話してくれました。だから親に…お母さんを悲しませることはしないって決めてます。



─先ほどから、自分に対して嘘を付かないスタンスが印象的です。

e5:
そうですね。私は中学生の頃は躁鬱性の病気で学校に行けない時期もあったりして。そうやって精神的に安定してなかったりする中で、自分があんまり考えずに勢いでやったことをあとで凄く悔やんだりして…そういうのって、結局自分の首を締めちゃうことになるんですよね。だから自分に嘘をつくような、後悔するようなことはしないって決めてます。もちろんそれで完璧に出来る訳じゃないし小さな失敗をすることはありますけど…大きな失敗はしないようになったかなって。それは音楽についても同じですね。



─そうした軸を持った中で音楽をする上で、モチベーションになっていることは何でしょう。

e5:
曲によりますけど、多く登場するのはスピリチュアルな話な気がします。それはさっき言った自分に嘘はつかないって部分にも通じるところで…逆に自分の軸がない、ふらふらする人も多いじゃないですか。そういう人たちに対して、「他の人の都合の良いようにマインドコントロールされるなよ」って意図を込めて、精神的なことを歌うのが多いですね。Dr. Anonの”blast”でも「Slave」って単語を出してますけど、これも大人というか、他人の良いように支配下に置かれて使われるなよってことなので



2021年のパワーパフガールズ・Dr. Anon

─いま話に出てきた、自身の所属されるクルー・Dr. Anonはどのように出来たんでしょうか。

e5:
ドクアノは最初…メンバーの嚩(はく)ちゃんとは中学1-2年の時期にお互い繋がってちょっと仲良かったんです。当時は全然音楽も始めてない、ネットを始めたてのひよこだった頃で(笑) その後お互いネットを離れたりする時期があったりして、自然に縁は切れてたんですけど、私の方は嚩ちゃんの顔が好きだったのでずっとSNSは追ってて。

そんな中で、当時嚩ちゃんはLos An jewelsっていうHIPHOP系のアイドルグループに所属してて。私がその曲をTikTokで使ったら嚩ちゃんが反応してくれたんですよ。そこからサンクラやSNSを全部フォローしてくれて、「一緒に曲やりませんか」って連絡をくれて。そこから2人で”Lap top”って曲を作りました。



それで2人でやっていこうってなったんですけど、ユニットじゃなくて3人組がバランス良いかもねって話になったんです。2人でも…もちろんそれで上手くいくかもしれないんですけど、もう少し人数がいた方が動きやすそうだよねって。

それで…私が(もうひとりのメンバーとなる)ponikaちゃんの音源を前から追ってたんですけど。それこそponikaちゃんが前に組んでいたflip flop flyってユニットの曲もチェックしていて…それで「この子に声掛けたい」って嚩ちゃんに提案しました。それで声を掛けてみたら、ponikaちゃんも普段はあんまり知らない人とコミュニケーションしないらしいんですけど、直感で「いける」って思ってくれたらしくて(笑) そこからノリで録ってみたのが”Overture”でした。そしたら結構バズって、今に至ります(笑)



─Dr. Anonというクルー名は何が由来なんですか?

e5:
これは私が命名したんですけど、単純にDr. Martensみたいに「Dr.」って名前がカッコ良いよねっていうのがひとつです(笑) 「Anon」については…元は(アメリカ合衆国前大統領の)トランプの運動とかで「Qアノン」って単語を知って。そこから「Anon」に「匿名」って意味があることを知ってグループ名に使おうと思いました。だから匿名の医者が音楽を通じてみんなを治療する、いかれてる世界を救うぞってことですね。



─覚えてるのが、”Blast”のMVのコメント欄に「Dr. Anonってパワーパフガールズみたい」という主旨のコメントがあったことで。今の話を聞くと、ヒロイックに世界を救うというコンセプトからすると的を射ていたんですね。

e5:
そうですね、当たってると思います。私たちも自分で「私たちはパワーパフガールズ」って言ってたりするので。今後もそのつもりでやっていきます。

活動スタンスについても…曲とかはもうちょっとピッチを上げて出して欲しい、聴きたいって方もいると思うんですけど、今くらいのペースでちょうど良いのかなって思ってます。あんまり出し過ぎてもすぐに飽きられちゃうと思うので、ストックは作りつつ、何を公開して、どのイベントにいつ出るのか、MVもいつどれだけ出すのかとか、その辺りはかなり3人で話し合って決めてます。





─確かに、これまでに出している曲数が少ない割に、ユース層のファンベースが既に出来上がっていることに驚かされます。

e5:
それぞれの下積みがあるのは大きいと思います。ponikaちゃんはこれまでもしっかり音楽活動をしてきてたし、嚩ちゃんはSNSでの知名度もあったし…私もそれまでの間の音楽活動で付いたファンの方と、ちょっとTikTokしてた時期からの人が付いてきてくれて。3人を応援して下さってた人たちが、グループにも付いてきてくれた感じですね。

“Blast”のMVを出したときもこれまでにファンになってくださった人からのコメントが多くて、それは続けてて良かったなって思いました。一方で新規層を獲得していく上ではまだまだこれからだと思うので、3人で「ちょっと謙虚に頑張ってこうね」って話してます(笑)



クールで取っ付き辛いと思われがちなんですけど

─Dr. Anonのメンバーは、グループとそれぞれのソロで全く違うスタイルなのも特徴的ですよね。この辺りの戦略は?

e5:
Dr. Anonというか、私自身はグループとソロが同じスピード感で動いていくイメージです。Dr. Anonとしては”Blast”みたいなハイパーポップ路線が今のメインですけど、これも「ドクアノは絶対このスタンス」って訳ではなくて、今のトレンドと自分たちの声の相性、一発目で「かわいい」を印象付けることの出来るジャンル…って選んでいった中でこれを選んでいて。今後の活動で「かわいいだけじゃない」とか変化を付けて振り回していきたいなって思っています。

その上でソロでは各々好きなことをやってます。それもドクアノの動きともタイミングを取りながらで。ドクアノで気になってくれた方がソロでの違いで揺さぶられたり、ソロで入って下さった方がドクアノを聴いてこのスタイルや他のメンバーにも興味を持って下さったり…ドクアノとソロのどちらが優先というよりは、両方で回していきたいですね。



─その意味で今回MV化した”TwoHundredFifty”は、まさに”Blast”とは全く違うスタイルの1曲です。この曲について教えて下さい。

e5:
これはIC3PEAKタイプビートで、元々韓国のHIPHOPが好きだった中、₩くんが教えてくれたSwervyの”ART GANG MOENY”に凄く喰らったんですけど。こういうのがやりたいって思いも出てきた中、₩くんが「IC3PEAKタイプビートなら良いのがあるかも」って教えてくれたのがきっかけでした。



でも自分で曲を作る際には元の曲のコピーになるなんてことにならないように作って。だから結果的にリリックとかも全然元のSwervyの曲とは違うと思います。だからこの曲の原点を辿ると₩くんがきっかけになってます。



─そこから実際にはHAKU FiFTYさんが客演することになる訳ですが、かなりトリッキーなヴァースになってますね。

e5:
ですよね、なんかすごい(笑) その辺りはMixの処理とか、HAKUくんのヴァースが始まるところでトラックのメロディラインが1オクターブ上がったりすることや、直前の「No. 50」ってセリフ…これもHAKUくんが付け足したんですけど、そういうHAKUくんの作業の結果だと思います。

ちなみに曲名の”TwoHundredFifty”の由来は2人の名前から取ってます。e5の5とHAKU FiFTYの50を掛け合わせて250になるのでこの組み合わせの掛け算を表した曲名で、「それいいじゃん」って思って付けました。



─今回のMV撮影はいかがでしたか?

e5:
(MVを撮影&編集した)Akifloatさんが凄いですね。あんまりこういう雰囲気の曲のMVってないじゃないですか。恋愛ものだったりメロディアスな曲とかは他にもたくさん参考になるものがありますけど、”TwoHundredFifty”はダークな中でもまた雰囲気が特殊なので。私とHAKUくんも撮影前にどういうスタイルで臨めば良いのか決めかねてて…最終的に「じゃあノリで」ってなったんですけど(笑) とは言えHAKUくんは…普段のライブからして、立ち振る舞いや動きもプロで様になってるんですけど、私はまだまだこれからだなって思います。それでも撮ったものを見てみたらこんなにカッコ良い映像に仕上げてくれてたのでテンション爆上がりです。



─最後に伝えておきたいことがあれば。

e5:
結構音源のイメージなのかなんなのか分からないですけど、クールで取っ付き辛いイメージだと思ってたってよくリスナーの方から言われるんですけど、実際はそんなことないです。インスタライブとかでみんなと話すのも楽しいので気軽に絡んできてください。


─ありがとうございました。



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2021/08/12
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