インタビュー:HIPHOPのサブジャンル・Phonkとは何か │ Fullmaticが『L.O.G. (1991TAPE)』で目指す地平





2020年10月、ひとつのアルバムが日本のHIPHOPファン、とりわけ好事家たちの心を捉えていた。
地下室の湿気で腐りかけたテープのようなボロボロの音質。
そのノイズや過剰に乗っかるSEでかき消されてろくに聴き取れないラップ。
Fullmatic『L.O.G. (1991 TAPE)』は、日本にPhonkの到来を暴力的に告げる、あまりに凶悪な1作だった。

2010年代中期より徐々にジャンルとして確立してきたPhonkだが、Fullmaticの本作の価値は「日本で初めてのPhonk作品」ということに留まらない。
そこには大阪でキャリアを積み上げるFullmaticならではの価値観に裏打ちされた、あくまでもオリジナルな音楽観が息づく。

本稿は、日本語の解説記事がこれまで全くなかったPhonkの解説も試みつつ、Fullmaticの練り上げた作品・音楽観について、その半生からも迫るものだ。
Fullmaticの作品に触れる機会となることはもちろん、この記事が日本におけるPhonk解説の資料としても機能することになれば幸いだ。



登場する主なアーティスト:
Raider Klan , SpaceGhostPurrp, Jin Dogg, Young Yujiro, FUJI TRILL, ILLNANDES, OMSB, hyun (Neibiss), TOO $HORT, アチャカ, TAQUILACCI (ART OF VIBES), D-SETO


 「めっちゃ低音出る音楽あるから聴けよ」と言われてHIPHOPに出会った


─本日はよろしくお願いします。

Fullmatic:

よろしくお願いします、Fullmaticです。
元々ラップやってみたりDJしてみたりビートメイクしたりとフラフラしてたんですけど…先輩が亡 くなったのをきっかけに「ちゃんとやろう」と思って活動を本格化させました。


─FullmaticさんがHIPHOPに出会ったきっかけはなんだったんでしょう?

Fullmatic:

自分が小中学生の頃ってバンドブームが来ていて、インディーズバンドとかを自分も普通に聴いていてテレビで見て たんですけど、その中でたまにHIPHOPも流れる、みたいな時期でした。
ただ最初はHIPHOPの存在も認識してたものの、自分で調べるみたいなとこまではいかなくて。
でも当時、2件隣に小学校くらいで出会った仲良い友達がいて。

そいつと一緒に車盗んだりして遊んでたんですけど…なんかそいつがやたら金持ってたんですよ。
で、そいつがオーディオに凝り出したんです。
小学生やのに、ミニコンポじゃなくてアンプもデッキもスピーカーも揃える、みたいな本格的なやつで…どっから金出てたか分からないんですけど笑
で、そんなオーディオなんで低音がめちゃ出るんですけど、ある日そいつから「めっちゃ低音出る音楽あるから聴けよ」って言われて…それで聴いたのが、当時出たばかりのTOO $HORT『SHORT BUT FUNKY』(1990年)でした。
そいつは頭リーゼントのただのヤンキーやったんですけど、単に「低音が出る」って理由でそのアルバムを買ったみたいで。
でも自分にとっては「これや、俺が探してた音楽は!」って衝撃があって、そっからハマってった感じです。




─最初の出会いが既にギャングスタラップの源流だったんですね。その後もずっと西・南のHIPHOPを 掘っていった?

Fullmatic:

そこからは英国産や東海岸が中心の時期が長く続きました。
やっぱり当時の日本だと「東が主流だ」みたいな雰囲気があった。
「Hieroglyphicsみたいに西にも聴ける奴はいるけど、NYがリアルだぜ」みたいな感じやったんで。

でもなんというか、「西も東もどっちも聴くぜ」みたいなのは良くないんちゃうか、どっちか一本に絞らなハードコ アじゃないんとちゃうか…みたいな葛藤も当時はありましたね。
当時は…まあ田舎やったから余計にかもしれませんけど、HIPHOPの東西抗争とかも出てきた時期やったんで、当時の先輩とかはその辺についてかなり厳しかったです。
でも自分はまだパンクロックのライブハウスにも出入りしてましたし、そもそも今みたいに音楽情報が多くなくて、キューティー、宝島、Fine、Dollとかの音楽紹介コーナーを読み漁ったり、誰かが録画したVHSをみんなで回し見するみたいな環境で。
要は「カッコ良い音楽」の情報が少なかったんで、自分はイケてる音楽は全部聴きたい!ってスタンスでした。
高1くらいまではそんな感じでジャンルレスにカッコ良い音楽を聴いていて、凄く刺激的な日々でしたね。


─そこから段々とHIPHOPに傾倒していった経緯は?

Fullmatic:

高1くらいからちょろっとパンクバンドでライブしたり、DJさせてもらったり、ちょっとラップしたりってやってたんですけど。
たまたま実家の近所のレコード屋さんに行ったときがあって…田舎なのでレコードがあれば全部チェックしてたんですけど、その中にLAFYETTE AFRO ROCK BANDの『Malik』(1972年)があったんです。
それが500円のシールドで売ってたんですけど、調べたら1-2万円もするレコードだったみたいで。
そこから、田舎でも都会で高くなってるレコードを買える、みたいなディグの楽しさにハマって、段々とDJ活動にシフトしていきました。


 AkaiのS1000とRolandのMC50を買ったけど、何言ってるんか分からなくてすぐ家のインテリアになった 


─そこから大阪に移って活動を本格化させた?

Fullmatic:

そうですね、高校を卒業してすぐ拠点をそっちに移しました。
当時何かの雑誌で「東京よりも大阪の方がレコード屋の数は多い」って記事を読んで。
大阪はそこまで遠くもないですし、何度も行ったりもしてたので。
その時の彼女や1個上の友達が大阪にいたり、神戸の方にいるDJとも仲良かったりとツテは少しあったので、ちょこちょこDJしたりしてました。
当時はLOW DAMAGE (DJ TANKOとDJ KENSAWによる大阪の伝説的グループ)が大きくて、外タレが来た時には大体 KENSAWさんが回してる、みたいな。
DJ KENSAWさんが"OWL NITE"(*)を出したかどうかくらいの時期で…それとももっと前か、記憶が曖昧ですが。
その曲にも参加してたオキくん(WORDSWINGAZのMISTA O.K.I)とかは年上ですけど仲良くさせて貰ったり…韻踏合組合も同世代でしたし、みんな何らか繋がりはありました。
自分自身はまたちょっと違うところにいて…ハードコアパンクバンドとかの場所に近かったかもなんですけど、仲は良かったですね。
(*)大阪の"証言"と称されるクラシック。参加メンバーはRYUZO, Oki(現MISTA O.K.I), Hero (現Heero da Joker), Shigechiyo(現茂千代), Baka-De-Guess?, RYW。詳細はこちらを参照


─DJはしていたけど、まだビートメイクは本格化していなかった?

Fullmatic:

そうですね。
16歳のときに…自分は結構交友関係が幅広くてオタクな友達がいて、彼から「サンプリング出来るシンセ買ったよ」って言われて、ビート作って遊んだりしてました。
そこから自分でもサンプラーとシーケンサーを…AkaiのS1000とRolandのMC50を買ったんですけど、説明書読んでも何言ってるんか分からなくて、すぐ家のインテリアになりました。
その後DJミックスをやったりするようになってからCubaseをPCにインストールしたんですけど、「石野卓球もこれでトラックメイクしてるらしい」って話を聞いて、「あ、これでも出来るんや」と思って。
それでもう一度作ろうと思い立ったのが2005, 6年で…だからかなり長い間ビート作ってなかったブランクがあった感じでした。


─そこから主にビートを外部提供するようになったと。

Fullmatic:

その当時で大人の年齢でしたから。
おっさんの渋さとかももちろんあると思うんですけど、基本的にHIPHOPは若い奴が正義やと思ってるんで、あんま前に出るのもちゃうなと思ってビートメイクを中心にしました。
当時はART OF VIBES(*)やそのメンバーのソロ作、韻シストのBASI, INSIDE WORKERSのZIMBACK, ABNORMAL BULUM@…あと韻踏合組合関連といったアーティストに提供してました。
当時からサウスに傾倒してて、クランクも盛り上がってた時期だったのでそういうタイプのビートを作ってましたね。
その時はシンセとか持ってなかったので、レコードをサンプルしつつ、大ネタをスクリュードすることでそれっぽい雰囲気に仕上げたりしてました。
そこの意図がどれだけリスナーに伝わってたのかは分かんないですけど、年を重ねて色々聴いていたぶん、自分にしか出せない(実験的な)カッコ良い音を出そうという意識でいました。
(*)MCのHAGA-KANE,KQ,RAW,TAQUILACCI, GEBO,トランペッターのCOVO,ビートボクサー/MPC奏者の啓からなる大阪の伝説的なエクスペリ メンタルHIPHOPグループ。特にFullmaticがプロデュース参加した『YEAH!!!』は知る人ぞ知る名盤。


─ART OF VIBESのメンバーソロ作でいうと、TAQUILACCIさん(2015年に逝去)の実験的傑作『うるさいシナプス』 にも参加されてましたね。

Fullmatic:

そうですね、TAQUILACCIとはいい感じでした。
あいつも亡くなる前の頃とかはGrimeとかの音楽性に寄ってて、自分もGrimeやダブステップみたいなところを掘ってた時期だったのでよく「こんなのどう?」ってビートを渡したりしてましたね。


 Phonkとは何か?


─そして今回遂に1stアルバム『L.O.G (1991 TAPE)』を発表されました。
 「日本初のPhonkアルバム」を謳っている作品でもある訳で、まずはこのPhonkというジャンルについて、日本語できちんと書かれた記事もないのでこの場で整理させて下さい。
 どのようなジャンルなのか、Fullmaticさんの定義として教えて頂けますか?

Fullmatic:

元々は南部のメンフィスやヒューストン、西海岸のギャングスタラップが起源なんですけど、そこに悪魔崇拝やスプラッタみたいな要素が追加されたりしたようなジャンルで。
そういう追加要素って実際のギャングじゃなく、いわゆるオタク的な人たちの持ち込んだ成分なんです。
ギャングたち自身は録られてるだけで、実際はどんな音に仕上げられてるのかも分かってない。

まあ作り手も中にはガチのギャングもいますけど、一方では色白の細いオタクの子が全然いたりする。
そういう中で、ある種ファンタジーに仕上げる音楽なんです。
基になっているのは実際のギャングたちのラップなんですけど、それに追加要素を勝手に付け足して音源にアウトプットするのはオタクたち、みたいな。
自分はヤンチャな人たちとオタクな人たちの間にいたいと思ってるんで、Phonkのスタンスはバシッと来ました。

音としてはスクリュードされたものをベースに、音質が極端に悪いことが特徴です。
それはエフェクトでそうしてる場合もありますが、どちらかと言うと粗悪なテープやVHSから直録りしてたりするのがルーツ的な背景ですかね。
実際今回の『L.O.G (1991 TAPE)』でも、一度音源をカセットに落とす作業を挟んでます。
基のデータの時点でも音質はだいぶ悪くしてるんですけど、そこからマスタリングをあえてやらず、テープに落としてテープコンプみたいに。

そこからまたPro Toolsに戻して少しだけEQ調整する、みたいな作り方をしました。
だから意外と手が込んでるんですよ、これ笑

Phonkの起源としては、言葉としての「Phonk」が定着したのはたぶんRaider Klan、とりわけリーダーの SpaceGhostPurrpの登場以降だと思います。



ただそれまでの南部HIPHOPの流れ…クランクやダーティサウスの潮流を見てると、こうなるのは自然だなと思いますね。
やっぱりHIPHOPのリスナーはアジアや白人層が多くなった中で、白人の子たちが好きなサタニックな部分、ロックな部分が特徴化されるのはそうなるかなと。
もう黒人やプエルトリカンだけの物じゃないしニューヨークの物でも当然ないし。
僕たちの物でもある。
ただまあ明確な定義がある訳じゃないので、既存のメンフィスやテキサスのビンテージとかとの違いはあくまで曖昧なものとして捉えた方が良いと思います。

Trapが最近ではオルタナと接近して混じり合ってるように、Phonkもその形を変えていってて、近年ではNY的なBoom Bapを下地にしたものも多く作られています。
実際にDj Akozaとかはもう最近上げてる曲はほとんどただのBoom Bapの音悪いだけちゃうのみたいなやつで、もうVaporwaveにも近いと思います。


─詳しくありがとうございます。それでこの度Phonkのアルバムを出そうと思ったきっかけは何だったのでしょう か。

Fullmatic:

ひとつはヤンキーとオタクの間にいるポジションにハマったっていうのはさっき言った通りで。
あと…僕は(FLEX UNITEのMCとしても知られる)勝の1stアルバム『I'm here』(2013年)をフルプロデュースした んですけど、その時に当時のTrapやクランクの音を持ち込んでました。



ちなみにこの作品のMVを撮るときに(『L.O.G (1991 TAPE)』にも参加している)Young Yujiro(当時はRadoo名義)にも出会いました。
その流れでこういう路線をやろうと思ったんですけど…でもRaider KlanやDoomshop Recordsみたいなボロボロの割れたビートって、聴くには面白いけど、人に商品としてビート提供するのはまあなしやろと。
人にも言われたし自分でもそうやなと…「ビート下さい」言うてボロボロの音が届いたら、なんやねんってなるじゃないですか、やっぱり笑
だから外に提供するのはしなかったんですけど、いざ自分のアルバムを作ろうって時に、どっかのレーベルから出す訳でもないし、いつ死ぬかも分からんのやし、好きなことやったろうと思いました。

そんでちょうどその頃にRaider KlanやDoomshop Recordsの音質が、なんか綺麗になってったんですよ。
「あいつらヒヨったな」と思って、やるなら今やったろうと笑


 日本における南部HIPHOPのコミュニティは…


─実際に制作に取り掛かってからはいかがでしたか?

Fullmatic:

一番最初に録ったのがジェイク(Jin Dogg)との"Wizard"だったんですけど、それが結構前で…制作には時間掛かりましたね。
ジェイクには別にハッキリと「Phonkの曲やろうぜ」って言った訳じゃなかったんですけど、取り合えずラフビート渡して1 Verse貰いました。
自分はそこからかなりいじるので、ビートも全とっかえしたりして、こういう粗い音質に仕上げました。
向こうからするとこんな仕上がりになるとは思ってなかったかもしれませんけど笑
ただまあジェイクとは普段から聴いてる音楽は近いので、出来上がりをみてやろうとしたことは分かってたかもとは思いますね。
「音が割れてんのやべえって言われましたよ!」って、周りの感想を聞かせてくれたりもしたんで。


─他のゲスト…OMSBさんやYoung Yujiroさん、ILLNANDESさんなどもPhonkをやろうとしてるって知ってて参加した訳ではない?

Fullmatic:

どうなんですかね、OMSBは分かってた気もしますけど。
ILLNANDESも…恐らく東海岸のホラーコアがメインだと思うんですけど、そういうホラー寄りのネタも掘ってるので今回の制作を話したら「面白そうですね」って乗ってくれて。
でもまあ、みんな「フルマチ(Fullmatic)くんがまたよく分からんこと言うてるわ、まあいいですよ」って感じもあったかもしれないですね、好きにして下さいみたいな笑
そこは先輩風吹かせて笑


─日本のPhonkシーンはどんなものなんでしょう?

Fullmatic:

自分は日本のシーンをちゃんと見てる訳ではなくて、周りの友達やたまたま知ったのを聴くくらいなので詳しくはないんですが…でも何人かはPhonkのビートを作ってる人がいるらしい、っていうのは耳に入ってきます。 
でもJin Doggの『3rd High』(2020年)や、D-SETOくんの作品など、Phonkというか現行サウスの流れを汲んでる音はありますよね。
あの辺は、Phonkそのものではなくとも理解した上で消化して曲にしてるとは思います。
あとはもっとインディーな、自主でPhonk作品を作ってる人たちもいるんだろうと思いますけど、それを売り物にして全国に出そうって感じではないかもしれませんね、これは推測ですけど。


─Phonkそのものというよりは、それを含めた現行サウスシーンを掘るコミュニティはあると。

Fullmatic:

そうですね、特にSNSでの繋がりが大きいと思います。
インスタやTwitterで互いにアップしたものをチェックしたり、みたいな。
中でもOGUSUくん(@ogusu_910_710), 汁くん(@Shirutaro_), アチャカさん(@MitchMitchelson),アボかどくん(@cplyosuke)とかはマニアックな掘り方してるので参考にしますね。

この界隈は情報共有して互いに参考にしてる感じじゃないかと思います。
Raider Klanもネットで出会って曲作って発表して…って感じだったので、SNSが果たす役割として共通する部分はあるかもしれません。
やっぱり古いものも含めて、US南部の地元でしか流通してないようなテープがみんなの知る存在になるって、SNSや Youtubeを介してしかあり得ないなって思うんです。
D-SETOくんなんかと繋がったり出来るのも、SNSありきの今だからこそだなと。
やっぱり南部のギャングスタラップって日本では周りに聴いてる人がいなかったりもするので、ネット上で繋がっていく感じは強いですね。


─そうしたゆるやかなコミュニティの中で、いまこの人と話してみたい、って人はいますか?

Fullmatic:

OKAMOTO'Sの人と、あとOVER KILLのFUJI TRILLさんですね。
どうしてそうなったか、めちゃくちゃ気になりま す。
ジェイク(Jin Dogg)とかYoung Yujiroも「たぶん話合うんで、紹介しますよ!」って言うてくれるんですけど…あんまりね、「じゃあ何月何日に○○で待ち合わせて…」みたいに決めるのもキモいじゃないですか笑
でもまあSNSでは繋がってるし、いつか自然に会えるかな、と。
その時に色々話してみたいですね。


 「ラップもビートもどう鳴ってるのかよく聞こえない」からこその面白さがある


─Phonkは南部ギャングスタラップサウンドを下地にサンプルすることが多いですが、本作ではあえて東海岸のネタ なども使っていますね。

Fullmatic:

ジャンルとしてのメンフィス、Hタウンラップみたいなものだとそこに他の土地の音も放り込むってNGだと思うんですけど、Phonkはもう少しその辺の間口が広いので。
だから自分のカッコ良いと思ったもの、好きなものは放り込むって形にしました。
例えば"Call Me Evil"とかではキミドリの「ざまあみろ!」ってラインをサンプルしてますし
これはキミドリの石黒さん(KURO-OVI)にも連絡して、一応許可を取った上で使ってます。


─Phonkではラップも既存のものを伸ばして使うことも多い印象ですが、本作の客演陣のラップは全て新録ですか? その場合、それをPhonkのノイジーなサウンドに引き直すにあたって、ラップに関してディレクションしたことなど はあるのでしょうか。

Fullmatic:

昔のリリックを引っ張ってきてるのも多々ありますが、ほとんど新録ですね。
ディレクションについては、曲の内容についてはざっくり伝えたりしましたけど、フロウやらラップの中身に関して はノータッチでNGテイクもなしにしてます。
もし合わなかったりしたらその部分は切るなり、エフェクトも掛けて音質もボロボロにするなりですし。
(ほぼ同じフレーズがループする)Young Yujiro, hyunとの"WAREWAREHA"も特にそういう構造にするとか言った訳じゃなくて、とりあえず曲の感じを伝えて1 Verse 1 HOOK録った中でああなった感じです。
ガッツリディレクションやって録るラップもカッコ良いですけど、ラフな感じでやってこういう仕上げにするカッコ良さもあると思います。


─各所で挟まれるミッキーやゴジラ、ヨッシーのSEがまた不穏さを増幅していますが、この意図や使い分けの基準などあれば教えて頂けますか?

Fullmatic:

使い分けの基準は特になくて、入れるタイミングやサンプルの長さを見てちょうど良いのを入れてる感じです。
ただ…そもそもSE入れすぎですよねこれ笑
ラップが聴こえへんくなるくらいSE入れてたりするんで。


─そういう過剰なSEの差し込みは意図的なもの?

Fullmatic:

そうです。
Stone LoveやKillamanjaroのサウンドシステムも好きですし、あと10年前くらいにフリーのMixtapeが全盛の時代があったじゃないですか(*)。
みんなLiveMixtapesやDatpiffを使って好きなミクステをアップロード/ダウンロードしてた時期。
あの頃ってSEやネームタグ入れまくったバージョンがまずミクステで出て、数週間後にNo DJ版が正式リリースされ るみたいな感じも多くて。
自分も一応No DJの正式版も買うんですけど、「なんか、SE入ってたバージョンの方が良くない?」って思うことも多かったんですよ。
SEがなくなるとクリーンにはなるんですけど、曲のダサい部分とかもモロに見えてしまう。
それがSEでかき消されてるバージョンだと、その部分が想像する楽しさみたいなものに変わるのが自分は好きで…だからクラブでDJするときも、自分はSEありのバージョンで掛けまくってました。
No DJ版も持ってたんですけど、「フリーのバージョンばっか掛けやがってセコい奴やな」って思われてたかもしんないですね笑

(*)2009-2014年頃に掛けて、若手が成り上がる手段のひとつとしてネット上にフリーのMixtape(=便宜上Mixtapeと呼んでいるが、普通のオリジナルアルバムであることも多い)を発表する文化が盛り上がった。日本ではtofubeatsやFla$hBackS, AKLO, MOMENT(現Moment Joon)らを始め、多くのアーティストがフリーミクステで名を上げ現在に至るまで活躍。既に知名度のあったANARCHYや韻踏合組合などもフリーのアルバム・EPを発表している。現在ではDLリンクが期限切れとなっている作品が多く、失われた文化となりつつある。

なので、今回のアルバムでSEの種類や数が異様に多いのはそういう背景からです。 
Phonkの魅力も、この話みたいな「ラップもビートもどう鳴ってるのかよく聞こえない」みたいなところの「分からない」からこその面白さだと思っていて。
自分は音の悪いテープやVHSをダビングしながら曲を聴いて育った世代ですけど、いざレコードを買って聴いてみたらクリーン過ぎて「あれ、テープの方が良かったな」みたいな、素敵な勘違いみたいな体験が多々あった。
今はネットで(音質を上げる為の)正解もすぐ見つかるからなおさらクリーンな方向になっていってますけど、今回のアルバムではカッコ良いラップほど聴こえにくく施してたりする、そんな面白さはあるかもしれません。

もちろん現行のハイファイな音質ならではのカッコ良さも好きですけど、ハイファイに仕上げていく作業って単純にお金も掛かるので。
せっかくハスリンして稼いだお金をほとんど全部マスタリングに使いました、みたいにして同じ仕上がりになるのもいいですけど、何もないから工夫してこういう仕上げにしても良いんじゃないかと思いました。


─Phonkを乱暴にカテゴライズすると、ダウナーで低速な側面が音楽的特徴になると思います。そう思うとMV化もされた"Ritual"あたりはBPMも速めで危機感を煽るような音構成になっていて、トリップミュージックな雰囲気とは少し違います。
 この辺の意図についてはいかがでしょうか。




Fullmatic:

さっきPhonkも多様化してるって話をしましたけど、その多様化のひとつにロシアのPhonkシーンがあります。
"Ritual"は当時聴いてたその辺からの影響がモロに出てますね。
ロシアのPhonkはもっとBPMも早くて、場合によっては四つ打ちのダンスミュージックみたいになって、その上でカウベルがガンガンなるみたいな感じなんです。
音もテープみたいなヴィンテージの割れ方じゃなくて、デジタル的にバッキバキに割ってるみたいな、凄い凶暴な シーンで。
"Ritual"のMVも大阪・御堂筋の大丸前で車停めて爆音でPhonk鳴らして撮ったやつなんですけど、そのときもロシアのPhonkを流しまくってました。


─ありがとうございます。最後に今後の予定を教えて下さい。

Fullmatic:

とりあえず『L.O.G (1991 TAPE)』のテープ版が、このインタビューが出る頃には各所のお店に並んでますので チェックして下さい。
意外と予約でだいぶ捌けてるらしいので、どんだけ通常販売で出るのか分かんないんですけど。
あとは今回『L.O.G (1991 TAPE)』のジャケを書いてくれた410Crewが神戸にお店を持ってるんですけど、そこで俺が過去に出した808を使ったスロウジャム中心で作った『SOSO808 Mixtape』のCDをクリスマスに売り出すことになってます。
あとは自分の次のアルバムにも取り掛かってます、現状は2021年の春には出したいなとは思ってますけど、まだハッキリとは見えないですね。

外部へのビート提供も続きます。
まあ外部提供は実際にどれだけ世に出るかは分からない部分ですけど、例えばJin Doggとかとは変わらずやってる感じです。
あと実は(神戸のHIPHOPクルーである)Neibissのhyunともやってこうかなと。
どこかで自分のDJを見てくれたらしくてPhonk大好きで、じゃあ一緒にやってみようかってなって2曲くらい作りました。
もう少しガッツリ組んで作品にしていきたいですね…ジョイントEPとかになるかもしれないし、自分の仕事が遅くて曲数が少なければ何かの作品にまとめて入れるかもですし。


─今作にもhyunさんは参加していたとはいえ、やはりお互いのスタイルが違うのでガッツリ絡む、というのは仕上がりが楽しみですね。
 ありがとうございました。


以上(2020/12/29)
───

作品情報:

Fullmatic『L.O.G (1991 TAPE)』


(ジャケットクリックで配信先にジャンプ)

Track List:
1.SCISSORHANDS PHONK
2.NINGENYAMENA
3.LUNATIC OLD GHOST feat. OMSB
4.USOGAUMAI
5.FREDDY KRUGER
6.ARIZONA feat. ILLNANDES
7.MURDER MURDER feat. JINDOGG
8.LOCALS ONLY feat. SUPERDUCK
9.WIZARD feat. JINDOGG
10.RITUAL
11.CALL ME EVIL feat. NITS aka N°22, SATUSSY & 勝
12.WAREWAREWA feat. YOUNG YUJIRO & HYUNIS1000
13.I FORGOT TO ERACE

Artist: Fullmatic
Title: L.O.G. (1991 TAPE)
Label: SCISSORHANDS ENT.
2020年10月25日リリース

アーティスト情報:
Fullmatic:
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