PRKS9 レビュー:LiLia.『八緑』(本人解説あり)





新潟出身の若手・LiLia.の1stアルバム。
2020年11月25日発売。


Track List:
1.369
2.intro
3.Blue Heaven
4.BEAUTIFUL LIFE Recommend
5.M E R M A I D Recommend
6.skit
7.aLav tLihg Recommend
8.6ock Fes feat. The Keyth Recommend
9.blazing lie feat. The Keyth
10.yokubari
11.Love it
12.L.O.B.B.E.R.
13.八緑 Recommend





 
 全部から吹っ切れて、全て音楽に注いでみたくなった
 仕事も知り合いもしがらみも、女や友達も全て無くして、新しい所で仲間と音楽がしたかった



そう語る23歳は、2021年3月より活動拠点を横浜に移す。
本作は横浜に移る前の、地元で培った半生の集大成となる1作だ。

元々HIPHOPを特別熱心に聴いていた訳ではなく「ノリで始めたら意外と出来た」というLiLia.が、様々なバックグラウンドを強味に仕上げた13曲。
Dominic FikeらオルタナティブなHIPHOPもよく聴く中で練り上げられた本作は、そのアウトプットとして多面的な楽曲が並び立つ。
にも関わらずアルバムの全体構成がかなり個性的かつ綺麗に纏まっているのは、緻密な計算というより本能的な感覚の為せる業だ。
後述する中盤でのアルバムの転調ぶり、それを支えるスキルなど、「退屈を無くすための趣味を探して」HIPHOPに出合ってから突き進んだ、そのセンスが発揮されたものとなっている。



 自分が気に入っている曲は、Kaito Matsumotoが作った"369"です。
 この曲は最初先輩が作ってくれる予定だったんですけど、理由があって連絡取れなくなっちゃって。
 その人の弟子がKaitoで、その時未完成だったのが"369"だけだった。
 だからアルバムが完成したのは間違いなくKaitoのおかげでした。



そう語るチリつくインスト"369"には自身ではなくビートを手掛けたKaito Matsumotoの名義を与え、本作は幕を開ける。
とは言え、次の2曲目はひたすら友達とネタの話をしながらふざける"intro"で、次の3曲目"Blue Heaven"からようやくLiLia.本人のラップが始まる、少し変わった構成となっている。
とは言えこれが展開として冗長でないのは、最初の2曲が、LiLia.のKaito Matsumotoに対する感謝の意や、友達とのライフスタイルを伺わせる、彼の人間性を知る手掛かりとして機能しているからだ。
HIPHOPとは究極的には「自分語り」の物語の積み重ねだ。
この2曲でLiLia.の価値観が伺えるあたり、これから全国区に打って出るラッパーの導入として効果的に機能したと言える。



 始めた頃から今も、ずっと頭の中の理想の自分に影響を受けてる。
 それ以上にカッコ良いものは存在しなくて、イメージは出来てるんですけどまだ形にはなってないんです。



そうして3曲目から始まるLiLia.のラップだが、まずは"Blue Heaven"から"BEAUTIFUL LIFE", "M E R M A I D"までの前半部が最高だ。
Emo Rapの流れもありつつ、あまりメロディアスになりすぎないよう気を配ったという3曲だが、とにかくボースティングなリリックと抜け感のあるビート、そしてLiLia.のメロディアスとハードな使い分け、どれもが完璧にバランスしている。
特に"BEUTIFUL LIFE"のHOOKや、WooRock製のビートの上で疾走する"M R E M A I D"での1st Verse後半の乗り方あたりの抜けの良さは何度聴いても心地良い。

即興でフロウしてから言葉をハメる作詞方法で作られた3曲は、なるほど本能的な聴き心地を最大限追求している。
冒頭のラップのない2曲が有効に機能しつつもリスナーを焦らしていた中で、その溜めからのこの解放感はかなり効く。
構成の妙が上手く出た箇所のひとつだろう。

一方で本作は、この開放的な前半部から、童謡のかごめかごめが怪しく歌われる"skit"を挟んで一気にダークサイドへ転じることとなる。


 今まで攻めてる曲も作れたけどあえてやってなくて。
 アルバムで聴かせたいって想いが強かったんですけど、雰囲気的にこの"skit"から一気に変えるのもFreshで面白いと思いました。


そう語る後半部は、リスナーを一気に路地裏に引きずり込み別の顔を見せる。
この辺りも構成の妙で、サブスク全盛の時代に13曲を通しで聴かせる工夫としてかなり効果を発揮している。

転調からの1発目を飾る"aLav tLihg"はMUNCHtheWORLDによる、まさかのメンフィス寄りの音作り。
LiLia.のリリックは前半部と同様にジュエリー、ドラッグ、を軸にしたボーストなのだが(その意味で軸はズレていない)、
料理を乗せる皿を変えたことで一気に雰囲気を変え、こちらの耳を惹き付けてしまう。
続く"6ock Fes"になるとBrooklyn Drillに転じて、フロウも変化しまた別の顔を覗かせる。
The Keythの援護射撃もダークで完璧だ。

他方でラストに近付くにつれてLiLia.は内省的な思いも見せ始める。
最後の"八緑"になるとこれまでの人生を見つめ、恐らく今後の横浜の生活も見据えたのであろう決意を、驚くほどリリカルなセンスで書き記す。
「無口なSkyに揺れて消える Smokeのような過去をここに記す」と始まるVerseは、シンプルな言葉選びが却って嘘のない思いとしてこちらの胸に届く。
そうして破天荒だったストーリーを最後にしんみり締めるような読後感を残して、本作はその旅路を終える。


全体を通して自分のやりたいことを本能のままスキルフルにやりきった、初作らしい勢いで走り切ったアルバムだ。
その感性の赴くままにEmo RapもギャングスタラップもDrillも食して自分のアウトプットとして吐き出す。
この無軌道さはともすれば「いっちょ噛み」な感じが出るリスクも伴うのだろうが、そこを有無を言わせないラップスキルとメロディセンスで捻じ伏せてしまう。
好きな時に好きなものを食べ、自分の色にして吐き出し、その出来に誰も文句を付けさせない。
スキルフルでしなやかなラップに裏打ちされつつ、そんな強者の論理で成立したパワー型の快作。


 今後の予定は……金と時間をクソほどかけてもクソなことしかついてこない音楽シーンで、仲間とバカ遊ぶくらいですね。


この無軌道さとラップ的な腕力を持って、横浜でどのようなキャリアを積み上げるのか、これからが楽しみだ。



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2020/11/28 Text by 遼 the CP

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