そうして3曲目から始まるLiLia.のラップだが、まずは"Blue Heaven"から"BEAUTIFUL LIFE", "M E R M A I D"までの前半部が最高だ。
Emo Rapの流れもありつつ、あまりメロディアスになりすぎないよう気を配ったという3曲だが、とにかくボースティングなリリックと抜け感のあるビート、そしてLiLia.のメロディアスとハードな使い分け、どれもが完璧にバランスしている。
特に"BEUTIFUL LIFE"のHOOKや、WooRock製のビートの上で疾走する"M R E M A I D"での1st Verse後半の乗り方あたりの抜けの良さは何度聴いても心地良い。
即興でフロウしてから言葉をハメる作詞方法で作られた3曲は、なるほど本能的な聴き心地を最大限追求している。
冒頭のラップのない2曲が有効に機能しつつもリスナーを焦らしていた中で、その溜めからのこの解放感はかなり効く。
構成の妙が上手く出た箇所のひとつだろう。
一方で本作は、この開放的な前半部から、童謡のかごめかごめが怪しく歌われる"skit"を挟んで一気にダークサイドへ転じることとなる。
そう語る後半部は、リスナーを一気に路地裏に引きずり込み別の顔を見せる。
この辺りも構成の妙で、サブスク全盛の時代に13曲を通しで聴かせる工夫としてかなり効果を発揮している。
転調からの1発目を飾る"aLav tLihg"はMUNCHtheWORLDによる、まさかのメンフィス寄りの音作り。
LiLia.のリリックは前半部と同様にジュエリー、ドラッグ、を軸にしたボーストなのだが(その意味で軸はズレていない)、
料理を乗せる皿を変えたことで一気に雰囲気を変え、こちらの耳を惹き付けてしまう。
続く"6ock Fes"になるとBrooklyn Drillに転じて、フロウも変化しまた別の顔を覗かせる。
The Keythの援護射撃もダークで完璧だ。
他方でラストに近付くにつれてLiLia.は内省的な思いも見せ始める。
最後の"八緑"になるとこれまでの人生を見つめ、恐らく今後の横浜の生活も見据えたのであろう決意を、驚くほどリリカルなセンスで書き記す。
「無口なSkyに揺れて消える Smokeのような過去をここに記す」と始まるVerseは、シンプルな言葉選びが却って嘘のない思いとしてこちらの胸に届く。
そうして破天荒だったストーリーを最後にしんみり締めるような読後感を残して、本作はその旅路を終える。
全体を通して自分のやりたいことを本能のままスキルフルにやりきった、初作らしい勢いで走り切ったアルバムだ。
その感性の赴くままにEmo RapもギャングスタラップもDrillも食して自分のアウトプットとして吐き出す。
この無軌道さはともすれば「いっちょ噛み」な感じが出るリスクも伴うのだろうが、そこを有無を言わせないラップスキルとメロディセンスで捻じ伏せてしまう。
好きな時に好きなものを食べ、自分の色にして吐き出し、その出来に誰も文句を付けさせない。
スキルフルでしなやかなラップに裏打ちされつつ、そんな強者の論理で成立したパワー型の快作。
この無軌道さとラップ的な腕力を持って、横浜でどのようなキャリアを積み上げるのか、これからが楽しみだ。
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2020/11/28 Text by 遼 the CP
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